卒業制作 2
卒業制作を決める会議で良い案がなかなか出てこない。
するとクラスメイト達は考える事に嫌気がさしたらしい、この難問に私に押しつけてきた。
私は一人、案件を持ち帰り考えを重ねて、ひとつのアイデアを思いついた。
翌日の放課後のホームルーム、昨日の会議の続きが始まる。
私はに卒業制作としては少し変わったものを提案する。
それは公園などではよく見かける『ベンチ』を作ってみようという提案だ。
うちの小学校の直ぐ前には川が流れており、土手の上には散歩道が存在する。それは荒れたアスファルトで、あまり良い道とはとても言えない。
自転車で走るとなれば、ガタガタとハンドルに震えが続き、かなり走りにくい。
散歩といえば、どこを歩いてもかまわないので、わざわざ荒れたこの河原沿いの道を歩く必要性もなさそうだ。
しかし、見通しの利く土手の上を歩くのは気持ちが良いものらしい。この道を散歩道として愛用している方々は意外に多く、なかなかの人気がある。
酷い路面状況だが、のんびりと散歩をするには全く問題がなさそうだ。
散歩を楽しんでいる方々は、やはり年配の方が多い。
そしてこの辺りには腰を落ち着けて休憩できるスペースが無いのである。
そこで私は気軽に休める『ベンチ』を提案してみた。
このタイプの椅子は作りやすく、工作の難度は実に低い。簡単なものであれば、小学生3~4年生でも作れる。小学生6年生ともなればおおよそ一日で作れるはずだろう。
この提案を受け、クラスのみんなは乗り気になったようだ。
提案書に描かれたベンチの見た目から、自分たちでも作れると考えたのだろう。多くの生徒達が賛成してくれた。
作る物はシンプルで簡単な物でも構わないが、出来ればこれは卒業制作なので少しだけ複雑な、彫刻などを入れて見栄えなどを工夫した方がよいだろう。
ベンチに何かデザインを取り入れるように提案すると、クラスメイト達はあれやこれやと相談を始めた。
クラスの雰囲気は『ベンチ案』一色に染まり、美和子先生が多数決を取ると、賛成多数でこの案に決まった。
卒業制作の品は決まったが、美和子先生は、「確認するので少しまって下さい」と言って、この提案を保留する。
この提案には生徒側だけでなく学校側にも利点があるのだが、実は面倒な問題点も含んでいる。
利点と言えるものは学校の外に置ける事で、設置場所に悩まなくても良い事だ。
すでに我が小学校では、およそ40年かけて作品群で埋め尽くされていて、これからの卒業生には
だが、学校の外となれば話しは変わってくる。都心では空いている場所は少ないだろうが、田舎と言えるうちの町ではいくらでも設置場所はあるだろう。
面倒な問題点とは、設置場所の許可を取らなければならない事だ。
小学校なら市役所の許可も簡単に取れそうだが、なかなかそうはいかないだろう。
建築業界に居た頃は、ちょっとした修繕や回収などの許可を取るのが大変だった。
3時間ほどで済む簡単な修繕であっても、難度も会議を重ねられ、1ヶ月以上も掛かることもザラにある。
役人達の腰は重い。ベンチを作っても許可が下りず、卒業までに設置できない可能性がある。
しかし私は幸いにして、行動力が異常に豊かな文部科学省所属の役人にツテがある。
彼女に『子供達の為にお願いします』とそそのかせば、即座に動いてくれるだろう。
この会議が終わった直後に、いつものように日報として再生教育課に『この事』を伝えた。
三日後には市役所の許可が得られ、外に設置できるとの返事が返ってきた。
役所としては異例の早さだ、市役所の役人はさぞや彼女に振り回された事であろう。
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