ご来光 2

 日付は年をまたいで、既に元日を迎えている。

 深夜3時の真夜中に、小学生達が集まり、1時間半程の隣町の山の頂上をめざす。



 年明けの騒がしい日のはずだが、さすがにこの時間は静寂に包まれている。

 暗闇の中、我々は歩き始めた。


 冬は寒い、もちろんそれは当たり前だが、この時間は格別に寒い。

 日の当っている時間帯とはまるで違う。

 厚着をしているにもかかわらず、寒さが染み込んでくる。


 試しに息を吐くと、白く濃く濁り、それは長いこと留まる。

 風が吹いていないのは幸いだ。これで強風でも吹かれたら中止せざる終えない。凍傷にはならないが、おそらく体調を崩して風邪を引き、正月休みの後半を寝て過ごす事になるだろう。


 この寒さは子供達にとっても想定外だったようだ。肩を狭め、首をすぼめて窮屈そうに歩いている。

 普段は寒さを気にしない子供達が、かなり寒そうに目に映る。



 ひたすら夜道を歩くこと、20分あまり、目の前に煌々こうこうと輝くコンビニが現れた。

 すると美和子先生が、その光に吸い寄せられるように近づいていく。


「少しコンビニで買いたい物があるのですが、よろしいですか?」


「はい、どうぞ、我々は特に買う物は無いので、外で待っています」

 私がそう答えると、美和子先生はコンビニの中へと消えていった。


 歩みを止めると、更に寒さが増す。

 我々は寒さに耐えかねて、その場で足踏みを開始した。

 手足を軽く振る様に動かし、全身から熱を絞り出す。


 2分くらい待ったのだろうか、すぐ美和子先生が出てきた

 そして、その手には肉まんとあんまんが握られていた。


「僕も食べたい」

 ようたくんがわざわざ私に聞こえるようにつぶやいた。


「私も食べたい」

 キリンちゃんもそれに釣られる。


「僕も」「私も」「俺様も」


 結局、みんな食べたいようだ。たいした金額でもないので私がおごる事とする。

 肉まんとあんまん、どちらが好みか聞いてから、それらを振る舞った。


 栄養補給を終え、体温が上がった我々は足取りが軽くなった気がする。

 見通しの良くない夜道を、グングンと進んでいく。



 コンビニから30分あまり、周りの景色は更に暗くなり、森がうっそうと生い茂る。

 人里と山の境目に、少しさびれた2件目のコンビニが現れた。


「買いたい物があるのですが、少しよろしいですか?」

 美和子先生は、まだ何か買い物があるようだ。


「はい、どうぞどうぞ」

 私がそう言うと再びコンビニの中へ消えていく。

 そして一分ぐらいで出てきたのだが、その手にはソフトクリームが握られていた。


「看板をみてたら食べたくなっちゃって……」


「まあ、そういう事もありますよ」


 私は作り笑いを浮かべ、愛想返事をする。

 アイスクリームは子供達の大好物だろう。

 しかしこの時ばかりは、ようたくんを初め子供達全員がこの食べ物を欲しがらなかった。


 息を吐くと、ただただ白く変わる。美和子先生がアイスクリームを食べ終わるまで我々はその場で待った。

 美和子先生は美味しそうに食べているが、見ているこちら側が寒くなってくる。


 アイスクリームを食べ終わると我々は前に再び歩き出す。心身共にこれ以上体温を下げる訳にはいかないだろう。


 コンビニを通り過ぎるとアスファルトの道が終り、いよいよ山道へと入る。

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