頻繁に釣りでもいかが? 2

 プール帰りに職員室へと立ち寄る。

 校則で『小学生だけでは川遊びをしない、必ず保護者同伴で遊ぶこと』という項目があり、私が大人として保護者の権利を持っているのか、確認をする為だ。


 職員室の扉を開けると、たまたま美和子先生が当直らしく、相談をする事となった。



「今度、川で釣りをしようと思います。我が校の校則では保護者が必要となりますが、私は保護者としての権限を持ち合わせていますかね?」


 すると美和子先生から以外な答えが返ってきた。


「たぶん大丈夫だと思いますが、念の為に私が保護者として同伴しましょうか?」


「良いんですか? せっかくの休暇ですよ?」


「構いませんよ。週に2~3ぐらいですよね?」


「ええ、そのくらいだと思います」


「連絡を下されば、お付き合いさせてもらいます」


「そうですか、それではお願いします」


 普通の企業では夏休みは盆周りの3~4日程度しか休みはもらえない。

 美和子先生はこの時期、周りの友人と遊ぶにしろ休みが合わせられないのだろう。

 もしかしたら先生という職業は、夏は意外と暇を持て余すものなのかもしれない。



 さてここで、ひとつ重要な事を確認しておかねばならない。


「ところで美和子先生は、釣りのご経験はありますか?」


「ありません。 私は見ているだけで構いませんよ」


「いえいえ、せっかくですからやってみてはどうでしょう? 道具はこちらで用意します」


「そうですか。ではよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」



 こうして意外な参加者が加わった。

 私は色々と準備をしなければならない。



 その日の帰り道、さっそく地元の小さな個人経営の釣具屋へと寄る。

 うちの市には川沿いの町だけに、いくつか専門店が点在している。こういった釣具屋は古くから存在しており、細々と経営を続けているようだ。

 まあ、他の娯楽と呼べるようなものがないので、まだ存在できているのかもしれない……


 お世辞にも広いとは言えない釣具屋へと入る。店の中は乱雑にいくつもの竿が立てかけており、子供の頃からおなじみの浮きや釣り針といったものから、なにやら使い方がまったく分らないデジタルソナーといった物まで揃っていた。もしかしたら最近の釣りはかなり進化しているのかもしれない。


 さて、ここでは自分だけではなく、美和子先生の物も買わなければならない。

 店内を舐めるようにみていたら、店主から声を掛けられた。


「なにかお探しでしょうか?」


「ええと、川釣りを考えているんですが、初心者向けなのはありますか?」


「ここら辺で釣りをなさるんですよね?」


「ええ、そうですね」


「それでは扱いやすいこれならどうでしょう?」


 そういって3千円から5千円前後の釣り道具セットを進められる。

 相場はしらないが、お買い得っぽいので私が言われるがまま2本ほど購入した。

 すると、予備の針や糸などをサービスでいくつかつけてもらった。


 だが、釣りに必要なモノはこれだけではなかった。

 店主が私に質問をしてきた。


「ところで、ここら辺の川は釣りをするのに『入漁券』が必要なのを知っていますか?」


「いえ、知りません、どのくらいかかりますか?」


「釣り上げる魚の種類によって変わりますが、一日のもので400円から2100円まで、年間の券は2600円から7500円となっています」


 そういって一覧表を見せてくれる。意外と高い気がするが……

 しかしどういった区分けの仕方なのだろう?


「どういった種類で分かれるんですかね?」


「おおざっぱに言うと、食べられる魚が持ち帰れるかどうかで分けられますね。

 実は漁業組合がありまして、この辺りの川には鮎やイワナなどを定期的に放流しています。

 ただ、鮎などの育成には、お金がかかるみたいで『入漁券』のグレードの高いものでしか持ち帰る事ができません。

 金額が一番や安いものだと、フナやクチボソといった雑魚しかもちかえる許可がないですね」


「ところで小学生はお金はかかりますか?」


「いえ、小学生は無料ですね」


 さて、どうしたものか。

 鮎やイワナなどは普段は滅多に釣れないだろうが、放流をしているとなると以外と釣れるかも知れない。もし釣れれば良い酒の肴になるだろう。そうなるとこの金額も納得がいくものだと言える。


 実はこのところ、貯金が増えてきている。

 理由はお金の使いどころが無いからだ。毎月の家賃と日々の食費は実家で一切かからない。

 飲みに行くにも外では飲めないし、日ごろお金を使うような施設は、せいぜい駅前のスーパぐらいしかない。

 質素な暮らしをしているうちに小金こがねが貯まっていった。


 そういう訳でここでは少しくらいは散財しても良いだろう。

 ここまでいちいち券を買いにくるのは面倒くさし、年間券でも3回から4回ほど使えば元は取れる。

 おそらく夏休み期間だけでもおつりが来るだろう。


「では、年間券の一番高いグレードの7500円のヤツを二つ下さい」


「まいどありがとうございます」


 こうして竿の他にも入漁券を二枚買った。

 本来小学生である私はは、この『入漁券』は要らないのだが、漁業組合の方々に説明できる自信はない。

 仮に出向いて説明するという手も考えられるが、わざわざ時間を取らせるのも何かと億劫おっくうだ。



 こうして万全の準備を整えて、いよいよ釣りの当日となる。

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