球技大会 1

 新学期の混乱が少し落ち着いてきた頃、梅雨が本格的に始まる前のこの季節、我が校では球技大会がある。


 球技大会といえば、野球、ソフトボール、サッカー、バスケットなどが思い当たる。

 小学生が他にやりそうなものといえば、他にドッチボールが考えられるだろう。

 しかしうちの学校の球技大会はそれらメジャーな種目ではなかった。名前を聞いても思い出せないようなマイナーな種目、ポートボールであった。



 ポートボールというものは、バスケットボールとハンドボールを合わせたような競技で、テニスコートを一回り大きくしたほどのコートで行う。

 バスケットボールだと、あのかごのような輪っかにボールを通せば得点となるが、ポートボールにはそれがない、そのかわりに高さ40cmほどの台の上に人が立ち、その人がゴールの換わりを努める。

 ゴール役の人ににパスをだしてボールをキャッチすることができれば、それだけで得点となるというものだ。


 ただ、これだけだと得点は簡単に入ってしまうので、ゴール役の人の前に妨害役のキーパーのような人を配置してパスの阻止に当たる。

 ちなみにゴール周りは半径2.5mの半円のペナルティーエリアがあり、この中はハンドボールの様にゴール役の人と妨害役の人以外は進入禁止となっている。


 ボールを受け取る際にゴール役の人は台の上に乗っているので、高さで有利な点がある反面、台に乗っているので動き回る事はできない。

 そのまま何も考えずにゴール役の人にパスを出すと、けっこうな確率で妨害役の人に阻止されるので、すばやくパス回しをして、妨害役を撹乱かくらんし、隙をついてゴール役の人にパスを渡して得点を取る。


 少しゴール周りに関しては変則的だが、基本的にはバスケットボールのルールが適用され、試合の流れもバスケットボールと大差はない。


 ざっくりとしたルールは以上のような競技らしい。

 私も子供の頃に経験したハズだが、すっかりとこの競技の存在自体を忘れていた。



 球技大会を10日前に控えたホームルームの時間。

 大会に備えてチーム分けと役割を決める事となった。


 まあ、決めるといってもチーム分けは体育のときの紅白で構わないと思うので、実質的に決める事といえば ゴール役の人と妨害役の人くらいだろう。


 まず、妨害役の子を決める。これは俊敏な子がなった方が良い。

 うちのクラスで運動神経の良い、せいりゅうくんと、そうすけくんが選ばれた。

 特に反対する者は無く、あっさりと決まった。


 続いてゴール役の子を決める。これは背の高い子がなった方が有利だ。

 どれくらい有利かと言えば、例えば私がこの役を引き受けて40cmほどの台の上に乗れば、妨害役の子がいくらジャンプしても届かないだろう。ただ高めの位置にパスを出すだけで得点に結びつく。

 結果として試合には簡単に勝てるだろうが、それはあまりにも大人げないというものだ。



 美和子みわこ先生が生徒達に問う。

「それでは皆さん、ゴール役の子は誰がいいでしょうか?

 このゲームでは知っていると思いますが、背の高い人の方が有利です。誰がいいでしょう?」

 この発言は、なにやら意図的な誘導尋問ゆうどうじんもんに限りなく近い。


鈴萱すずがやくんが良いと思います」

 すぐに生徒の中から声があがる。

 先生という立場だと、これは止めないと行けないだろう。


 だが、美和子先生は恐ろしい事に、

「では、鈴萱さんが良いと思う人は手を上げて下さい」

 強行採決に踏み切る。


「はい」「はいっ」「はーい」

 生徒達から手が上がり、議会は多数派によって採決された。


 美和子先生はさらに生徒達を焚き付ける。

「昨年は一組の人達にぼろ負けしましたからね、今年は見返してやりましょう」


 生徒達からときの声が上がる。

「おー」



 こうして私はゴール役の子供としての役になってしまった。

 美和子先生は意外と大人げなかった。

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