球技大会 2
球技大会に向けての特訓が始まる。
習い事などの無い生徒は、放課後に校庭に集まって練習をする事となった。
クラス対抗の練習試合が始まるとすぐに分るのだが、やはり私がゴール役だと点数は簡単に入るようだ。
すこし高めにパスを出すだけで、妨害役の子がいくら阻止しようとしても手は届かない。
これなら簡単に試合には勝てそうだ。
小一時間ほどの練習を終え、となりの6年1組の前を通りかかった時だ。
教室の中にはまだ人がいて、1組の
黒板には赤と白の丸い磁石が張り付いており、どうやら選手に見立てているようで、矢印やらなんやらが事細かに書いてある。
しばらくみていると、時には力強く、時には優しく、
どうやら1組は戦略と知略で球技大会を征するらしい。
運動による練習が勝つのか、戦略と知略が勝つのか、勝敗の行方は球技大会が実施されるまでは分らない。
そして、球技大会当日を迎える。
全校生徒が校庭に集まり生徒の代表が、
「スポーツマンシップに乗っ取り、正々堂々を試合を行います」
おきまりのような選手宣誓がなされた。
5年生と6年生は同じグループに分けられて、総当たりのリーグ戦が行われる。
まあ、総当たりといってもたいした試合数にはならないのだが。
ほどなくして試合が始まった。
まずは5年生相手に戦うのだが、結果として5年生は相手にならなかった。
技術的なこともあったが、1年ちがうだけで背が5センチから10センチほど違う、この差は球技においてかなり大きい。体格の差はパスの通しやすさ、球のスピードや守備の範囲など、全てにおいて反映された。
さらに私の存在も大きかったように思える。どうにもならない身長の違いに、相手チームの妨害役の子はあきらめて
そして、いよいよ宿敵とも言える6年1組との戦いが始まる。
試合が始まる前から、その違いは明らかになった。
うちのクラスの選手はコートに適当に散らばる。一方1組の選手は動きを見ているとおそらく指定された配置に付いているようだ。
ちなみに私はゴール役なので一切、動くことはできない。
それぞれ配置についた事を確認すると、審判の先生がスタートの笛を鳴らした。
まずは1組の攻撃となった。
相手のチームはボールを手に入れると、素早く流れるようにパスを回す。
うちのクラスの子がボールを受け取った子を追いかけて防ごうとしても、もうその頃には別の子に渡っている。
相手の選手ひとりひとりの動きを見ていると、必ず周りを確認してからボールを受け取っているようだ。どうやら次にパスを出す相手をある程度決めてから動いているように見える。これではうちのクラスはどうしても反応が遅くなってしまう。
また、ボールをもっていない時にでも足を止めずに、動き回り、うちのクラスの子供達の位置を見て、パスを出しやすい位置に動いている。
あっという間に1組は得点を取り、うちのクラスのボールになった。
ここからうちのクラスの攻撃となるのだが、攻撃になるとどうしてもボールだけを見てしまい、ボールの追いかけて団子状にあつまってしまう。しかしまあ、これが普通の小学生の動きだろう。
また、うちのクラスの子は一度ボールを手に取ると足を止めてしまう。
そして直ぐにはパスをせず、自分で長く抱えこんでてしまう。その時間が致命傷で、相手のチームがすぐ間を詰めてくる。しかも相手は常に2人以上でプレッシャーを掛けるように訓練しているようだ。
これは非常に分が悪かった。
高台から眺めていると、相手チームの動きは、さながらサッカーのプロの試合のようだ。
こちらがボールを持っていると詰め将棋のようにうちの選手を追い込み、ボールを奪っていく。
うちのクラスの有利な点は、背の高い私がゴール担当をしていることだろう。
しかし、私にボールが回ってこなければ意味はない。
私が司令塔になって、上手くうちのクラスを誘導できれば勝てるかもしれないが、この訓練の行き届いたチーム相手に通じるだろうか? 指揮の経験の無い私には、おそらく無理であろう。
こうして、うちのチームは追い詰められてミスをしたり、パスをカットされたりして失点が続く。
一方、相手のチームは落ち着いていて無謀なシュートや無茶なパスをせず、着実に得点を重ねていく。
得点は徐々に離されていき、結局その点差は詰まること無く、試合は終了となった。
こうして5年と6年の部では、となりの6年1組が優勝となる。
しかしひとつ気になった事があった。
机上の空論とまでは行かないが、戦略だけであそこまで戦えるものであろうか?
私は1組の子に聞いてみると、
「1時間くらい講義をやって、そのあと2時間くらいは練習していたと思う」
そんな答えが返ってきた。なんと練習量はうちのクラスの倍近かった。
私という規格外の選手をひとりだけ導入しても、チームの地道な努力には及ばないらしい。
授賞式が終わり、となりの1組の浦田は生徒達をありとあらゆる言葉で褒めたたえる。
その言葉を受けた生徒達は、満面の笑みを浮かべていた。
その様子を眺めていたら、ふとこんな考えが頭をよぎった。
もしかしたら負けた理由のひとつに、私という存在があるので、生徒達があまり熱心に練習をしなかったからかもしれない。
そんな事を考えついたが、ここでその事を言ってしまうと『負けた理由』の矛先が私に向いてしまいそうだ。
この仮説をクラスみんなに告白したとしたら、その後に私に批判がやって来るだろう。そうなると上手い言い逃れをしなければならないのだが、まったく思いつかなかった。
そこで、私は余計な事は言わずに沈黙をする事にした。
ことわざで『
黙っていて金が得られるなんて話しは聞いたことがないし、仮に黙っているだけで金が得られるのなら、今ごろ私は大金持ちだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます