土地面積の難問 3

 面積を求める問題で少し難しい文章問題が出てきた。

 小学生にはこの問題は難しいようで、美和子先生は答えを私に聞いてきた。



「鈴萱さん、答えの土地の面積をお願いします」


「答えは20㎡です」


「正解です」


「おおー」という声が生徒達からあがり、軽い拍手が起こる。

 つづいて「建築業やってたからが分るんだよね?」という質問が来た。


 その質問に対して、私は正直に答えてしまう。

「いや、設計図には面積が書いてない、なんて事はないよ。高さや幅などの長さはすべて記載されているよ」


 授業を少し妨害するような答えをしたので、美和子先生はやや渋い顔をして。

「すいません、これはさんすうの問題なので……」


「えぇ、分っております、高さは計算で出しています」

 私は慌ててフォローをする。

 これは建築業界の話しではなく、さんすうの中の世界なので、こういった答えが出せる欠陥は許されている。


「どのように答えを導き出しました?」

 美和子先生が答えより肝心の、問題の解き方を聞いてきた。私はいちばん手っ取り早く簡単な方法を答える。


「左下の角度をはかり『sinサイン』をだして、左側の長さを掛けて高さを求めました」


「ええと、正解なのですが、ほかの方法の出し方はないでしょうか?」


「他には、左下の角度をはかり『tanタンジェント』を使って高さを求める方法ですかね?」


 すると生徒達から質問が来る。

「『サイン』とか『タンジェント』ってなに?」


「ああ、三角関数っていって、角度と一辺の長さが分れば距離が分るんだ。

 よく道端で黄色い望遠鏡みたいなものをのぞいている人と、棒をもって立っている人を見かけた事あるでしょう?」


 すると生徒達から

「見たことある」「この間見た」「あれってなにしてるの?」

 そんな声が上がった


「あれは距離と角度を測っています。この方法を使えば、1キロや2キロといった、メジャーでは届かないような距離も簡単に測れます」


「おおー」「すげー」

 そんな感嘆の声が上がる。


 もっとも最近はレーザーやGPSなどを使った測量機器が増え、むかしながらの三角測量は廃れつつあるのだが、ここでは伏せておこう。



 得意げになっている私に、美和子先生が申し訳なさそうに言う。

「鈴萱さん、三角関数はまだ早いです、あの公式がでてくるのは高校ぐらいですよ」


「えっ、そうでしたっけ?」


「ほかにもっと簡単な方法がありますよ」


「なにかありましたっけ?」

 頭が真っ白になった、他に何か解き方などあっただろうか?


 しばらく待ってくれたが、正解が出そうにも無いので美和子先生はネタばらしする。

「ピタゴラスの定理というモノがあります。ではこれからその公式を教えますね」


 そういって、本来の授業の目的である『ピタゴラスの定理』の解説を始める。



 『ピタゴラスの定理』とはいずれかの角が90°である『直角三角形』の場合。

 直角をはさむ辺aと辺bの二乗して足すと、斜めの辺cの二乗と等しい。という定理だ。


 今回の例だと高さYm、幅3m、斜めの部分は5mの場合。

   YXY+3X3=5X5

   YXY=5X5-3X3

   YXY=25-9

   YXY=16

   YXY=4X4

   Y=4

 たかさは4という訳だ。


 解説されて思い出した。あれは建築業界ではまったく役に立たない公式だ。

 角から辺に直角に交わる線をわざわざ引いて計測するよりも、他の辺の長さと角度を計った方が早いし正確だが……


 まあ、答えの出し方はささいな問題で、今回の最大の問題点は20㎡という狭い土地にマイホームを建てるという事であり。建てられる建物の面積は『建ぺい率』によって更に狭くなるという事なのだが、さんすうの授業には関係無いので、この場所での発言は控える事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る