パンやの娘さん 4

 ゆめちゃんのお父さんとガレージのリフォームを進め、あとは壁紙を貼り付けるだけとなった。

 しかしここに来てハプニングが起こる。



 パン屋の定休日は月曜と木曜日なのだが、私はもちろん学校に行かなくてはならない。

 今日に限らず、リフォームの作業は学校が終わってからおこなっていた。

 とはいっても午後の3時には授業は終わるので4時間ほどみっちりと作業をしても午後の7時には終わる。そんなのんびりとした作業だったのだが……

 完成目前という事で、ゆめちゃんのお父さんに焦りが出たらしい。私がリフォームの現場に到着したときには、すでに手遅れとなっていた。



 現場に到着すると、ゆめちゃんのお父さんが声を掛けてきた。

「壁紙を貼って、はやく完成させましょう」


「そうですね、ではまず、買い物に行きますか」


「じつは、もう待ちきれずに先に買い物に行ってきました」


「そうですか、では作業の方に掛りますか」


 そこには、私がメモをした通りの品々が揃っていたのだが……


「この壁紙は色が……」


 それはダークブルーの壁紙だった、ただでさえ薄暗いガレージの室内が、これでは更に暗く見えてしまう。


 ゆめちゃんのお父さんが弁解べんかいをする。


「指定された面積を埋める壁紙がその色しか無かったんですよ、私も明るい色が良かったんですが取り寄せには10日以上掛かると言われてしまって、その色にしてしまいました」


「そうですね、他に無いなら仕方ないです、張ってしまいましょう」


 まあ、買ってきてしまったものはしょうがない。こうして私たちは、この色の壁紙を貼る作業に移った。


 私は壁紙を貼る作業を経験したことがあるので、綺麗に張る事ができたのだが……



 やはり暗い。裸電球ひとつでは、どうしようもない暗さがそこにはあった。


「思った以上に暗いですね」


 ゆめちゃんのお父さんが少し残念そうにつぶやく。その意見には私も同意せざるを得ない。

 しかし、この暗くてさみしい空間を眺めていたら、アイデアが一つ思い浮かんだ。我が愛弟子まなでしの起用である。


「ゆめちゃんのお父さん、クラスメイトに文部科学大臣賞の絵画部門で金賞を受賞した子がいます。

どうなるか分りませんが、そこ子に絵を描いてもらうのはどうでしょう?」


「おもしろいですね、是非ともお願いします」


「わかりました、明日頼んでみます」




 翌日の昼休み、のりとくんにいきさつを説明する。すると、


「うん描きたい、描かせて」


 二つ返事でこころよく引き受けてもらえる事になった。



 その日の夕方、のりとくんを引き連れてパン屋へとうかがう。

 ガレージを見てもらって、空間を掴んでもらう為だ。

 何を描くのか、部屋を直接見てもらう事で何かイメージが沸くかもしれない。


 熱心に部屋の壁をにらむ、のりとくんに声を掛ける。


「どうかな、ちょっと暗いけど。何を描きたいのか決まった?」


「ししょう、こういうのはどうでしょう?」


 のりとくんは私に耳打ちをしてきた。

 その内容は…… なるほど、面白い。子供ならではの柔軟な発想だ。

 私はその計画を実行に移すことにする。



 こうして新たなプロジェクトが始動した。

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