パソコン教育 1

 秋雨前線が居座り、辺り一面には冷たい雨が降っている。

 このところは晴れが続いていたが、こんな機嫌のよろしくない日もたまには悪くはないだろう。

 今日はこのやや暗い室内の中で、パソコン授業と言われるものが行われる。


 この授業は、パソコンになれ親しむために開催されるらしい。

 まだ試験段階的な授業のようで、参加は義務はなく、自由参加という形を取っている。


 私は仕事で連絡やら書類やらをパソコンを用いていたので、それなりには使いこなしている気でいた。

 特に参加しなくても良かったのだが、開催の数日前に美和子みわこ先生から


「パソコンはお詳しいのですか?」


 と聞かれたので、


「それなりには使えるつもりです」


 そこそこ自信のあるような答え方をしたら、美和子先生から、


「是非、参加して下さい。そうして頂ければ我々は非常に助かります」


 そう強めに言われたので、とくに考えずに『参加する』という返事をしてしまった。


 しかしあとでインターネットで調べてみると『プログラミング教育』なるものの記事が出てきて、その内容は小学生にプログラミングを教える授業を必修科目にしよう。などというとんでもないものだった。

 いちおうプログラミングについてもインターネットで調べてみたが、その内容については、まるで暗号のように訳がわからない。


『パソコンに詳しい』と美和子先生は何やら期待をしていたようだが、この様子だと期待には応えられないだろう。

 プログラミングというジャンルで私は完全に戦力外なので『この授業を辞退してしまおうか』とまで考えたが、よくよく考えてみれば私はただの生徒で、あちら側は教師という関係なのだから、余計なことはせず静かに授業を受けてみることにした。

 それに何も知らない私が、この授業を受けることで、もしかしたらプログラミングを出来るようになるかもしれない、という事も少し気になった。




 チャイムがなり先生方が入ってきた。いつものように教師は1人だけではなく、美和子先生と体育の楠田くすだ先生、それと教頭先生までやって来た。まさか3人体勢でくるとは思ってもみなかった。しかもおそらくこの授業はなれなていのだろう、先生方はどことなく緊張していて、それがこちらにも伝わってくる。かなり手強い授業なのかもしれない。


 それとは反対に生徒側はリラックスしており楽しそうだ『新しい遊び道具の使い方を教えてくれる』と、その程度の認識しかしていないのかもしれない。


「本日の授業をお渡しします」

 美和子先生からプリントが配られる。

 プリントをさらりと見たら、その内容は想像よりだいぶ簡単なものだった。



 その内容とは、超大手のマクロソフトで出しているワープロソフトのウードと表計算ソフトのエクーセルの使い方で、それぞれ『学校からのお知らせ』と『成績表のグラフ』をお手本どうりに作ってみよう、というやや気の抜けたものだった。


 パソコンの画面がプロジェクターに繋がれて、スクリーンに映し出される。

 美和子先生はプリントが行き渡るのを確認してから


「では皆さんもお手本どうりに動かして下さいね」


 と言って、ゆっくりと一つ一つの挙動を確認するように動かす。


 ていねいに順序立じゅんじょだてて教えるという極めて普通の授業だったが、小学生相手にこの方法には無理があった。

 先生方のもくろみは外れ、この後の授業は大混乱をきたす。

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