図画工作の時間 延長戦 2
のりとくんに建物の描き方のコツを教えてから、ふたたび写生の時間がやってきた。
本日の授業は先週の続きを行う。途中まで描いた絵が再び配られて、それをもってみんなでわいわいと校庭に出る。
今日は澄み渡った青空ではなく、所々に雲があり日差しが見え隠れしている。冬がすこし近くなったせいでなにやら肌寒い。風もかなり強く感じられる。
そんな
建物が美しく見えるポイントに再び座り、私たちは絵の続きを描きはじめる。
自分の絵を描かなければいけないのだが、私はのりとくんの方が気になってしかたがない。
様子をのぞいていると、先週描いた絵はどうやらおかしいと感じたようで、いままで描いていた校舎の絵をごっそりと消して書き直している。
そのまましばらく見入っていると、教えたとおりの基本に忠実な建物の図が出来上がっていく。
うまく教える事ができていたのか心配な面もあったのだが、どうやら大丈夫のようだ。
しかし、やはり今日は風が強い。日の光が差しこんだと思うと、またすぐに雲の影に入り暗くなる。
空を見上げると、まばらな雲がとんでもない速度で流れていた。それは想像以上のスピードでまるで映画かなにかの早送りを眺めているようだ。
雲があんなに早く動くものだとは思いもしなかった。なにやら感慨深いものがある。
今までもこのような日もあったのだろうが、仕事に追われ、雲など見ている余裕などなかったのだろう。
そうしているうちにあっというまに授業が終り、絵が
しかしここで問題が発生する。
のりとくんの絵を回収したときだった、美和子先生が少し苦い顔をした。
「のりとくん、これ自分で描いたの?」
「うん、そうだけど」
その絵は小学生にしては上手すぎたらしい。どうやら私が手を貸したと思われている節があった。
せいりゅうくんがフォローをしてくれる。
「のりとくんがちゃんと描いてたよ、おっさんが休み時間に描き方をおしえてたけど」
「うん、ししょうから教えてもらった」
美和子先生はのりとくんに聞き返す、
「ししょうって
「うん、そうだよ」
美和子先生はしばらく絵を見た後で、私の方へ確認をした。
「この絵は、のりとくん本人が描いたものですよね?」
「そうです私は一切、手を出していませんよ」
「なるほど…… もしよろしければ次の図画工作の授業の時に、他の子たちにも教えては頂けないでしょうか?」
おっと、変な提案がやって来てしまった。
困惑している中で、私はなんとか返事をする。
「基本的な事でよろしければ、少しだけ教えることはできます」
「では、よろしくお願いしますね」
私は次の授業でちょっとした講義をした。
すると、いままでは平面的だった子供達の絵が、急に奥行きと秩序を持ち始める。
その時は講義は成功したと思った。
その後、何回かの授業を経て写生が完成した。
そして完成した全ての作品は廊下に張り出され展示される事となる。
作品の展示はどうやら全校的なもので、全ての学年のクラスで行われていて、廊下を歩くたびに様々な作品の風景が飛び込んで来た。
大人では考えつかないような絵がなかなか面白く、いろいろなクラスの前を回ってみる。
ほかのクラスの子供達の絵は個性に富んでおり、非常に自由な独創的とも言える絵が並んでいた。
一方、うちのクラスは、整っていて落ち着いた絵が並んでいる。
しかし
はたして教えたことは正解だったのだろうか?
しかし私が今回おしえたことは、おそらく中学か高校あたりで再び習う事になるだろう。
すこし罪悪感のようなものも感じたが、そう考えると楽になれた。
後日、私個人の感想などではなく、公式の機関からある評価が下されるのだが、この時の私にそれを知るよしも無い。
廊下の展示がひととおり終わって、しばらく立ってからの事であった。
放課後、美和子先生から職員室へと呼び出される。
なんの用だろうか? そう思いながら職員室へうかがうと、美和子先生がなにやら照れくさい感じで話しを切り出した。
「あまり言いにくい事なんですが、2週間ほど前に文科省の
あの人か、正直に言うとあまり良い印象は無いのだが……
美和子先生は話しを続けた。
「日頃の様子を聞きに来たのですが、その時に図画の話になりまして。
そして、その、うちのクラスの作品を一通りもっていったんですよね……」
「はぁ、それで何かあったのですか?」
「結果から言うと、鈴萱さんの作品が文部科学大臣賞の絵画部門で銀賞を取りました」
「あの人、勝手に応募してしまったのか……」
あきれてしまったが……
だが、そうか、私の作品は賞を受賞できたのか。照れくさい反面、心のどこかでは認められたようで嬉しく思う。
すこし得意げになっていると、申し訳なさそうに美和子先生が話をしてくる。
「実はひとつだけ複雑とも言えるお話がありまして」
「なんでしょう?」
「……のりとくんの作品が金賞をとりました」
「……凄いじゃないですか、のりとくん」
そう言って精一杯の愛想笑いを浮かべたものの、その笑いはどこかしら引きつっていた。
どうやら
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