パソコン教育 2
小学生を対象としたパソコンの授業に参加する。
いつも先生は一人だけだが、今回は
授業の内容は、ワープロソフトと表計算ソフトの初歩的な使い方で、見本のプリントと同じものを作れば良いだけの簡単なものだ。
パソコンの画面をプロジェクターに映し出し、美和子先生は一つ一つの動作を丁寧に順をおって説明する。
どうやら子供達に、同じ動作をしてほしいらしくが、子供達は待ちきれずにそれぞれ自由にいじりはじめる。
すぐに、
「先生、変になっちゃった」
「動かない」
「なんかおかしい」
などの声があがり初め、あっという間に教室は大混乱におちいった。
美和子先生だけではなく、楠田先生、教頭先生が総動員で、それぞれの問題に対応しようと奮闘をするのだが、不慣れなようで的確とは言い難い的外れな対応しかできないようだ。
対応に手こずっている間にも、子供達は自由に振る舞い、さらに問題は増えていく。
「線も引けるぞ」
「へんな図形が追加できるぞ」
「本当だ、星を追加しよう」
すこし画面をのぞいてみると、見本とは既にかけ離れていてぐちゃぐちゃになっていた。
美和子先生は、「元に戻しましょうね」
と言う事を聞かせようとするが、子供達はどうやら図形の消し方が分らないらしく
「消えない」
「どうすればいいの」
ますます余計な作業が増えていく。
さらに、
「図形の色を変えたい」
「地図記号はどうすればいいの?」
と、見本とはまったく関係のない質問まででてきて、授業は完全にお手上げ状態となってしまった。
そんな状況を尻目に私は作業を淡々とこなして、配られたお手本のプリントと同じモノを完成させていた。
出来上がってから教室の様子をながめていると、あまりにも悲惨な様子だったので私が少し提案をして見る事にした。
「先生方、よろしければ私がすこし手伝いますか?」
美和子先生が即答で、「お願いします」と、答える。
ほかの楠田先生と教頭先生からも「よろしくお願いします」と頼まれてしまった。
さて、まずはこの大混乱の状態の教室をどうすればよいのだろう?
おそらく書類作成に似た、この作業がつまらないのだろう。しかし社会に出たらそうも言ってられない。
ここには仕事に対する責任というか、義務のようなものが無ければいけないのかもしれない。
しょうがないので、まずそれを作る事にした。
私が大声で生徒たちに言う、
「みなさん聞いて下さい、この配られたプリントの見本どうりのモノを提出しない限り、どうやら今日は家に帰れないそうです」
そう言うと、教室が騒がしくなった。
「まじか」
「どうするんだよ」
「はやく帰りたい」
さらに子供達を
「私はすでに出来ているので、いつでも帰って遊ぶことができます」
「いいなー」
「ずるい」
「ひきょうだ」
なにが卑怯かは分らないが、話を続けて授業へと誘導をする。
「美和子先生のお手本どうり進めればすぐにできあがって帰れますよ」
すると生徒達はすぐに乗ってくれる。
「美和子先生おしえて」
「お願い」
やはり人間というものは本質的に居残りやら、残業はしたくはないらしい。
ようやっと教室全体が先生の話を聞く体勢ができあがる。
「それでは最初から始めましょうね」
こうして授業はやり直され、それからは順調に進んでいく。
途中でいくつか先生方の分らない質問も飛んできたが、それらは私が知っていたので代わりに答えておいた。
授業終了のチャイムから15分ほど過ぎただろうか。最後の生徒が課題の提出する。
私と先生方は、なんとか授業を終えて、一息つく。
教頭先生からじきじきに
「本日は助かりました」
とお礼を言われてしまった。たいした事はしていないのだが、少しは力添えができたのかもしれない。
後日、文部科学省からメールが届く。
件名は『パソコン授業の補佐代のお支払い』とある。
内容を見ると、どうやらパソコン授業で手伝った事に関して、少々お金がでるようだ。それとは別に一言、
「次回もよろしくお願いします」
と添えてあった。
私もあまり居残りはしたくないのだが、他の先生方はあまりパソコンに詳しくないようなので、これは仕方がないかもしれない。
こうやって、なにかしらの義務感から自然と残業が増えていくものだ。
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