タイムリープは始まらない 1
反省文の署名をした翌日の朝。その日は携帯電話の呼び出し音で起こされた。
しらない電話番号からだったが、起きて間もない頭ではそこまで思考がまわらない。気にもとめずに電話に出た。
「もしもし、
「こちら文部科学省の
電話から性格のきつそうな女性の声が漏れてきて、少しだけ目がさめた。
「あっ大丈夫です、なんでしょうか?」
とっさに返事をしたものの、電話をかけてきた先が『文部科学省』だという。
これが厚生労働省とか税務署とかならまだ関係がありそうな気がするが、文部科学省となるとまったく心当たりがない。なんの用なのだろう?
「あなたは『
聞き覚えのまったく無い単語が飛び込んできた。頭の中では複数の疑問符が浮かぶ。
「なんです? その『教育再生法』っていうのは」
「簡単に言うと、再び教育をうけてもらうというプロジェクトですね」
「どなたかと間違えてませんか?」
「
「ええ、合ってます」
「間違いありませんね、では文部科学省の再生教育課までおこしください、説明をいたします。それでは失礼します」
それだけ言うと電話が切れてしまった。
「あっちょっとまって下さい」
慌てて止めようとしたが、すでに電話は切れていた。
これはいたずらだろうか? 詐欺という事も考えられるが、詐欺にしては目的が見えない。
もしこれが本当に役所からの電話だというのなら、役人というのはまことに身勝手な職業だと言わざるおえない。
するとまた電話がかかってくる、今日はなんなのだろう?
携帯を見ると、こんどは電話帳に登録してある番号からだった。
「派遣センターのものですが鈴萱さんでしょうか?」
私の所属している派遣会社からだ、いったいどうなっているんだ?
「はい、そうですが」
「文部科学省の方から連絡を受けました、転職をご希望とのことなのでそのように処理をさせていただきます」
「えっ、どのような事ですか?」
「退職の件です、こちら
「えっちょっとまってくださ……」
もう電話は切れていた。
いたずらか? いや派遣元の会社の番号だったし…… なんだこれは?
しかしこれからどうしようか。とりあえず派遣先の会社に確認を取ろう。
この時間だとまだ会社はやっていないので、課長の携帯に電話をかけてみる。
携帯の呼び出し音がなるが、なかなか出てこない。
課長はなにか事情を知っているのだろうか。
しばらくして、電話番号がつながる。
「もしもし鈴萱ですが」
「おつかれさま、ああ昨日の見積もりの件かな、ありがとう助かったよ」
すこし寝ぼけた課長の声が聞こえた。
「そうではなくて、文部科学省の方から電話がかかってきて、
なんだか私が辞めることになってしまっているようなのですが……」
「あれ、電話がいった? 本気だったんだな冗談かと思ってたんだが……」
「えっ、どういうことです? なにか心当たりがあるんですか!」
「いや、すまんすまん、へんなことになってしまったらしい
あの謝罪文を昨日の夕方に文部科学省にもっていってな、担当の人と飲んだんだが、
なんか『これは逸材をみつけた』とか言っていたが君のことだったか」
「なんなんです、なんとかしてくださいよ」
「まあまあ、『再教育』がどうとか言っていたから受けてくればいいんじゃない」
「そんな無責任な……」
「こうなった以上、さすがに私も責任を感じている。
大丈夫だちゃんと席をあけて待っている、正社員の席をね。
だから試しに受けてみると良いよ」
なにやら魅惑的なエサがでてきたが、そんな事で私は流されない。
「いやいや、まってくださいよ」
「まあまあ、先方の顔を立てて話しだけでも聞いてやって、嫌なら断ればいいわけだし」
「そうですか、話を聞くぐらいなら……」
「もし受けることになっても、先ほどいったように席は空けておくから安心して」
「……はい、わかりました。では失礼します」
そう言って電話を切る。
うまく言いくるめられてしまった…… しかしどうなってるんだ。
まずは文部科学省に行ってみるか、たしか再教育課とか言っていたな。
私は背広に着替えると、電車に乗り込み霞ヶ関へと向かう。
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