第27話 俺たちの決着

ラングレイさんは誰かと戦闘を行なっていた、それもかなり強烈な相手と

俺と飯島さんは急いでラングレイさんのクリアス反応を辿って走る……のだが

「このクリアス反応、イライザちゃんのものだね」

「イライザ……!?」

「そうそう、15〜6くらいで銀髪と空色の瞳が綺麗な子」

「あの、イライザなのか……それにしてもむせ返るくらいの魔力だけど」

「トーゼン、彼女はあらゆる魔導分野の天才だし」

メルドニア陥落の時に見当たらなかったし、エルネーベにも来てないから戦闘に巻き込まれて……などと考えていたけれど裏切っていただなんて

「急ごう!」

「うん!」


———————


イライザは俺の身体の火傷を治すために治癒魔法をかけ続けている、全身を焼き尽くしてしまうような熱も痛みも少しずつだが和らいできている

「なぁ、イライザ……まだルファードやシアを生き返らせたいと思うか?」

「そんなの、当たり前じゃないですか」

「俺も、出来ることならまた会いたい……いいや、本当は生き返ってほしいと思っている」

「じゃあ……!!」

「だけど、例え悪人だろうとなんだろうと結局は命だ。それを踏みにじった上で生き返らせて俺たちは本当に真正面向いてあいつらと話せるのかな」

「……そうですね」

「それに、命の管理なんかが出来るシステムがあるのも本当は良くない……と思う。こんな理不尽な世界で言うなよなんて怒るかもしれないけど、たったひとつの命、たったひとつの人生だから命って尊いものなんだよ」

「じゃあ、私の胸にぽっかり開いた穴はどうすればいいんですか?私、このままずっとシアにもルファードにも会えないなんて……」

「なあ、イライザ。お前は俺たちと出会う前、すごく苦しい思いをしていたんじゃないか?」

「……思い出したくもないです」

イライザの表情が曇る、幼かったイライザの身体には無数の消えない傷痕があった

子供には似つかわしくない火傷や骨折の痕も

それに、初めて会った時に感じたイライザの年齢不相応の大人っぽさ……想像を絶するような過去なのだろう

「でも、シアやルファード……俺に出会う事が出来た」

「あ……」

「全ての人間は救済されなければならない、俺の部下が一番最初に教会で教わる教義だそうだ。イライザ、俺にもお前にも未来がある。これから先、色んな人間に出会うだろう。楽しみだな」

「ラングレイ……でも、私は罪を……」

「お前はエルヴィンに洗脳された!そうだろう?」

「……貴方って相変わらず都合がいい人ね」


———————


随分長い事走っているが、ようやくラングレイさんの位置を正確に感じ取ることが出来たが戦闘状態が変化したのかかなり微弱になっている

「勝ったん……だよな?」

「まだ分からない、急ごう!夏樹くん、そろそろ交代お願い!」

桜を一旦降ろして俺が桜を背負う、桜は女子ではあるがやはり人間である事には変わりないのでそれなりに重い

「あの、私ふつーに走れるんで……」

「ダメだ、お前は何をしてかすか分からない」

「それに、なんか恥ずかしいし……」

「お前にそんな羞恥心があるとは思えない」

「酷いっすよ!これでも花も恥じらう16歳なのに!!」

「お前は実年齢20代後半だろ!!」

「うぐ……」

「それに、今時の女子高生は自分の事JKって呼ぶんだよ」

「召喚されたのが結構前だから今時のJKが分からない……辛い」

「ほら、走るぞ。黙らないと舌噛からな!」

「なーんか、幸平くんは根っこが善人だなあ……同じ人間とは思えない」

「夏樹くんは嶋村くんがモテる事に僻んでいたけど、夏樹くん自身が大真面目に恋をして誰かに告白したら悪いリアクションする女子は結構少ないと思うんだよね」

「ほーん、恵ちゃんは幸平くんの事はどう思ってるんすか?」

「私は嶋村くん一筋だから」

「今の和也くんは敵で世界をハチャメチャにしようとしてますよ?」

「アンタが言うか……勿論、嶋村くんはしっかり叩きのめすよ!でも、最後はきっと分かり合えると思うんだよね。夏樹くんも嶋村くんも根っこは優しくて、他人思いだし」

「ロマンチストだなあ……」

「これでも乙女だし!」

「ババアには若者の事は分かりません」

「いたよ、飯島さん!!ラングレイさんだ!!」

「っていうか、真隣でこういう会話してるのに一切動じないんすね」

「仕方ないよ、多分夏樹くんは私みたいな女子ってタイプじゃないと思うし……って、あれ!?」

遠くに見えるはラングレイさん、とそれを治療するイライザの姿があった

大火傷を負っているのだろうかラングレイさんは……しかし、イライザは的確な治療でどんどんラングレイさんを癒していく

「ラングレイさん!!」

まだ少し距離があるが、遠くから声をかけてみる

「こ、幸平……」

「イライザ!!何故、ラングレイさんの治療をする!?目的はなんだ!!」

「心配はいらない……確かにさっきまで俺とイライザは戦っていたが、彼女は我々に投降することを決めた」

「投降……?」

「状況から察するに、投降ってより和解したって感じじゃないすか?」

「幸平、彼女は?」

「城戸桜、俺たちと同じ日本……地球の人間で、エルヴィン一派の人間です。今は捕虜ですけど」

そう紹介すると、桜はつまらなさそうな顔をしている

「捕虜……相当派手にやったな幸平、彼女の顔は血塗れな上に歯が2〜3本折れている」

確かに、今の桜は顔がボロボロだ

顔には青アザ、口の周りは殴った時に口の中を切ったのか血が溢れておりラングレイさんの言うように歯が折れている

「大丈夫です、やったのは捕虜にする『前』ですから」

「なるほどな……しかし、のんびり話している暇はないな。イライザ、もう大丈夫だ」

「はい」

治療を終えるイライザ、彼女は以前よりも表情は暗いがどことなく吹っ切れたような顔をしている……ように見える

「イライザ……さん」

「どうしました?」

「何があったか知らないけど、もう大丈夫なんですよね?」

「はい〜。それにしても、幸平くんは随分強くなりましたね……以前は何の力も感じなかった第2のスキルからかなり力を感じます」

「第2のスキル?」

そういえば、初めてイライザさんに初めてアナライズをされた時に俺には集中力の他にもスキルがあるとか言われたような気がする

すっかり忘れていたけど、どういうスキルなんだろうか?

「ええ、でも私も見た事がないスキルなのでどういったものか分かりませんが発現の時はかなり近いかと思います〜でも、もう集中力は使ってはダメですよぉ?あれを使えば、まず間違いなく死んでしまいます」

「分かってます」

「それから、恵さんは凄いですね〜近接戦だけならとっくにラングレイを追い越しています。なのでやはり〜」

「幸平は後方に下がり、飯島さんと俺のサポートを。飯島さんは幸平からの支援魔法やエンチャントを受けて前衛。俺は魔法・剣で中衛……イライザ、すまないが軍規により君を戦闘させる事は出来ない」

「はい、私は桜のお目付け役ですね」

「捕虜が捕虜のお目付け役ってのもちょっとヤバいんじゃない?と、捕虜が申します」

「信用の差だよ、イライザは俺の家族だからな」

「……男女の仲じゃないんだ」

「ラングレイは私の裸を隅から隅まで見た事がありますけどね〜」

「なん年前の話をしてるんだイライザ……」


「飯島さん、頼んだよ」

「任せて!」

「それから……スピリッツが少ない時は攻撃しちゃダメだからね。弾かれるよ」

「……なんの話?」


———————


桜は取り敢えず、イライザが見張りつつ同行する事になった

「手足縛られておぶられるより遥かに楽」との事だが、今回はイライザの呪縛系の魔法により身体機能に大きく制限をかけられている

血行や内臓に負担をかけないので安全なシロモノだが、拷問なんかに使われるらしい

身体が痛い、重いと嘆いていたが知ったことではない

そして、中央広場に到着すると想定していた通り俺たちを足止めするために「彼」が立っていた

「和也……」

「夏樹くん、本当に生きていたんだね」

「君を止めるまで死ぬなってね、あの世から追い返されたんだ」

「イライザ、桜……君たちは敵の手に落ちたみたいだね」

「そ、そうなんですよ!助けてください和也くん!!私、酷い目に遭って……!!」

「……お前は、喋るな!!」

ビリっと空気が張り詰める感覚、凄まじい剣気が和也の剣に収束されていく

「……!!守護防壁!!」

ラングレイさんは咄嗟に抜刀し、守護防壁を発動し俺たち全員を護ろうとした……が

和也の斬撃な飛んではこなかった、超高速で桜の目の前に移動し桜の身体を和也の剣が両断していた

「な……んで……?」

和也の表情は少しずつ険しくなっていく、だんだんと鬼の形相へと変わっていく

「生産性のない人間は無価値だと言ったな?一部の天才、秀才だけが生きている価値があると……お前の見る世界に、僕の家族や友達にいるのか?深雪は笑顔でいられるのか?」

「深雪……って、確か恋人の……」

「痛いだろう?苦しいだろう?生半可に肉体を改造して生命力を強めたのが仇になったな!!」

腕、脚、背中、尻と何度も何度も執拗に和也は桜の身体を刺していく

「精一杯生きた人達や、ハルデルクの兵士達の生き様を間近で見ながら否定したな? 深雪の人生を、否定したな!? 生きる価値が無いのは、痛みを知らない愚か者達だ!!お前は、死ねッ!!」

全身を刺されても、尻から下が斬り落とされてももがき苦しみウネウネと動いている桜

「……が………あ……ど……に…………」

何か言葉を発しているが、もはや何を言っているのかも分からない

誰も彼の行動を止めなかった、いや……止められなかった

彼の怒りに圧倒されてしまっていて、目の前で行われている私刑に目を奪われてしまっていた

だけど、これもまた間違っている

「もうやめよう、和也」

「君はリリアの姿を見たよね?夏樹くん……そういう女なんだ。こういう奴を野放しにしないための僕たちなんだよ」

「でも……!!」

「じゃあどうする? 法の名の下に私刑を行うべきなのか?」

「ああ、これは私刑だよ」

「クロンザム一家強姦・惨殺事件の犯人は、僕が担当して始末した」

「えっ……?」

「身体を縛り上げられ、目の前で最愛の娘と妻が致死量の薬物を飲まされて強姦されそのまま放置され衰弱死……旦那のアルバート・クロンザムさんは朽ちていく娘と妻を見ながら餓死した事件だ。君もよく知っているはずだね」

「ああ……それがどうした?」

「ヘラヘラ笑っていたよ、葉巻を吸って酒を飲んで……遊んでいた。名前を変えて貴族である事を隠して」

「…………」

「許せないよね? そういう奴らはこの世界で生きているべきじゃない。 快楽のために人を殺めて平然としている人間なんて、存在している事それ自体が間違っている」

「存在自体が間違っているなんて……」

「仮に、貴族と庶民や下民との格差が無くなって公正な裁判が行われたとしよう……薬物注入による安楽死で、アルバートさんや家族は浮かばれるのかな」

「でも……それでも……!!」

「優しい人達が一方的に踏みにじられる世界なんて間違っている!! 僕は、それを変えるために……!!」



「納得がいかないんだろう?幸平」

「今のお前は命を感じ取る心を持っている、だから和也のやる事に納得がいかない」

「叫べ、お前の気持ちを!!伝わらなくても、和也が納得しなくても!!」



ああ、そうだ

納得がいかない

城戸桜がやった事は許されることではない

でも、だからといって個人の感情で誰かを裁けばそれは殺人にしかならない

和也の純粋な想いが穢されていってしまう、元の優しい嶋村和也ではなくなってしまう

「和也、それは違うよ。君は個人の感情で誰かを殺している」

「何……?」

「それじゃダメだよ、それじゃ罪を犯しているのと変わらない」

「でもこのままじゃ、正しい人が生きられる世界を作る事は出来ない!!」

「和也、君の言う通りかもしれない」

「なら止めてくれるな夏樹くん!!」

「地球もこの世界も英雄と呼ばれた人間はそうやって大勢の人間を殺してきたかもしれない、和也がその器じゃないだなんて言わない。だけど……深雪さんを生き返らせるため、この世界の在り方を変えるために罪を犯し続けるなんて、俺は……認めないッ!!」

「夏樹くん……やっぱり君は僕の友達でいてくれるんだね」

嶋村くんは穏やかな表情を見せる、その顔は初めて会った時と……一緒に学校に通った時と全く変わらない

だけど、俺はその表情からも揺るぎない信念を感じ取った

「だけど夏樹くん、僕はそれでも止まらない。友達である君が僕にとって障害になるのなら……僕は君を殺す」

「……!!だったら、俺は君を止める!!」


———————


剣術、魔法、戦略、どれをとっても嶋村くんは俺の数段上を行っていた

だからこそ、飯島さんは必死に嶋村くんに張り付いた

「飯島さん!!邪魔をするな!!」

「私は諦めが悪い女なの!!」

飯島さんと嶋村くんが繰り広げるのは空中戦、叩き落とされれば終わりだが空中戦になってしまえば引き剥がす事は困難だ

「なら……!!」

至近距離での閃空、これを受ければひとたまりもないが飯島さんは剣気を感じ取り一瞬俺に視線を向ける

「アクセル!!」

飯島さんにノーチャージでアクセルをかける

飯島さんは自分の身体に魔法ブーストがかけられたのを確認すると即座に嶋村くんの背後に回る

しかし、それを見逃す嶋村くんではなかった

閃空を撃たずに自分の背後に剣を突き立てる……が

「甘い!!」

飯島さんのカンなのか、更に嶋村くんの前を取る

「烈風連脚……!!」

連続回し蹴りが決まり、嶋村くんが地面へと落下していく

「ラングレイさん!!」

「ああ!!」

合体魔法、グラビティプリズン

2人で地属性魔法を唱え、巨大な重力波で捕縛する

「これで終わりだ!!和也!!」

「……くそッ!!」


——————



「ねぇ、和也。もう終わりにしよう?」

「深雪……?」

「私ね、幸せだった。和也に会えて……一緒にあそびに行って……短い時間だったけど、あなたに会えて本当に……」

「嫌だ」

「えっ……?」

「僕は、嫌だ……まだ諦めたりしたくない……」

「私の声が聞こえないの?和也!!」

「優しい人達が正しく生きられる世界を……僕は!!」


———————


魔法、グラビティプリズンは主に敵の足止めに使う魔法だが威力はかなり大きい

ラングレイさんと同時に発動しているため、そう簡単に破れたりしない……のだが

「なんだ、この抵抗は!?」

「和也……!?」

グラビティプリズンの振動音により、音を聞き取るのが難しいが徐々にはっきりと聞こえてきた

「ぉぉぉぉぉ……ぉぉぉぉおおお……おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

和也の雄叫びだ、熱く激しくどこまでも響くような渇いた叫び

「だめだ!!術式を維持出来ない!!」

オーラと呼ぶべきか、純粋な闘気が俺とラングレイさんの魔法を打ち破ったというのか

「有り得ない、どうやって……」

「戦士としての扉を開いた……?ラングレイ、和也のスペックが先ほどまでとは比べ物になりません!!逃げてください!!」

「逃げる……?イライザ、馬鹿な事を言うな!!ここで引けば……」

「今の和也の力はエルヴィン・ユークリッドと同等かそれ以上です!!」

「エルヴィン……?」

その瞬間だった、コンマ数秒……風が流れたかのように和也はラングレイさんの剣『グランドスラム』を奪い取りラングレイさんの身体を蹴り飛ばす

「ごふっ……!!」

「これがグランドスラム……多少重みがあるけれど、悪くない!!」

和也は大地を走る斬撃、地走烈破を放つ

このままでは丸腰のラングレイさんがやられてしまう

「飯島さん!!アクセルッ!!」

「了解!!」

「避けて!!ラングレイ!!」

飯島さんが一瞬でラングレイの元へと割って入り、守護防壁を発動する

しかし、それを瞬時に判断してなのか野生の本能なのか嶋村くんが自身が放った地走烈破を追い越し守護防壁では相殺できない魔法を一瞬で放った

「ギガァ……フレイム・バーストオオオォォォォォ!!」

「それって反則……!!」

自身が放った飛び道具技を膂力を活かして飛び越えて、至近距離でノーチャージの『最上級』火属性魔法を撃つ

「間に合え……!!クリアスシールド!!」

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うああぁぁぁぁ!!」

ノーチャージで放ったのでかなり出力は減衰するが、それでも致命傷を避けることは出来たはずだ

しかし、さっきから最上級魔法をノーチャージで発動したり地走烈破を追い越したりチートを超えてギャグの領域に片足突っ込んでるけど

ぶっちゃけ、今の俺に勝ち目は無い……

飯島さんもラングレイさんも命には別状無いだろうが、気絶をしている以上もはや戦力にはならない

『幸平……?こんな時に魔導通信を……?』

『イライザ。覚悟を決めた、今から集中力を発動する。それでも届かない、だから最上級ブースト魔法アルティメット・フォースを頼む』

『貴方、何を言っているのか分かっているんですか?』

『分かっている……それでも俺は、嶋村くんを止めなきゃいけない』

『分かりました、多少チャージ時間がかかりますが耐えてください!』


———————



「これで終わりだ……ラングレイ・アルカストロフも飯島さんも倒れた今……僕に敵う人間はいない!!」

指先から四属性全てを束ねた究極魔法、オメガ・エレメントを放つ

「オメガ・エレメントって言ったら理論上それを超える攻撃魔法は無いっていう究極魔法だよ?それをノーチャージで……和也、君は人間辞めちゃうの?」

「夏樹くん……僕は人間を辞めてでも、成し遂げなければいけない事がある!!」

和也はオメガ・エレメントを発動する、直撃すれば俺は消し炭……だけど

「消えた……!?お得意の、瞬光斬か!!」

オメガ・エレメントを一回転させ、辺りを全て破壊し尽くす

「来い!!イライザアアァァァァァァァ!!」

「究極ブースト!!アルティメット・フォース!!」

「ごめんね、父さん……母さん……!!集中力、発動!!」


———————



「馬鹿のひとつ覚えだな、幸平」

「リン曹長……」

「リリアの事、託したのにこんなところで死んだら駄目だよ。お兄ちゃん」

「君は……シオ……」

「男だな、だけど……命は投げ捨てるもんじゃない」

「アルバートさん……」

「友達だから助けたい、友達だから殴ってでも止めなきゃいけない……ラングレイさんが俺にしたように」

「ルファード……」

「和也が……和也が……和也には、私の声が届かないの……」

「えぇと、夢で会った深雪さん?」

「夏樹幸平さん?」

「お嬢ちゃん。そんなところでメソメソ泣いてないでお前の彼氏に想いが届くように、お前の想いを幸平の剣に乗せてやろうぜ」

「想いを……」

「相手がどんな天才だろうが、1人じゃ勝てない相手だろうが力を合わせれば絶対に勝てる!!お前の中の力が、目覚めるみたいだぜ!!」

「俺の中の、力が……」

掌に暖かいものが集まっていく感覚、沢山の人の想いが俺の中へと流れ込んでいく

「幸平!!その力、絆を紡いだ人間と人間を結びつける、唯一無二のお前のスキル!!名付けて!!」



———————



「集中力、いいや違う……俺のもう一つのスキル……!!」

「もう一つのスキルだと!?」

「心の結束、スピリットバンド!!」

肉体が崩れていく感覚は無い、むしろ色んな人達に支えられているような感じだ

「集中力のオーラとは違う、虹色の……オーラか」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

これまでとはまるで違う、身体に大きな羽根がついたかのような感覚

初めて集中力を発動した時とは違う、身体のスピードに感覚がついていく

「だが、どんなに速くても見切りさえすれば!!」

「見切れるものか!!この攻撃はアトランダム、リン曹長のスキル……!!超・連牙槍撃!!」

四方八方からの連続攻撃、ほぼ全ての攻撃が見切られたが一撃腕に当てる事が出来た

「なんだよそれ!!」

「ノーチャージ発動!!インビジブル、そしてイリュージョン!!」

「……!!」

姿を消し、そして攻撃時に5〜6体もの幻影を出現させる

「わざわざ魔法名を言うなど……対策さえすれば!!」

俺がルグニカ001との戦いで苦戦した理由は……



「暗殺の基本は殺気を隠しきる事だ」



「幻影瞬光斬!!」

「ぐぅ……!!」

今度はクリーンヒットだ

「イライザ!!」

「貴方の声、届きました!!地水火風、エンチャント!!」

「これで終わりだ!!和也アアァァァァァァァ!!」

「何故だ……何故、君は僕に追いついた……!?」

「天魔・閃空斬!!」

全ての属性を乗せた閃空、閃空はルファードの必殺技だ

イライザの魔法がエンチャントされているため、直撃すれば属性同士が反応しあい大規模な魔法爆発を起こす

「イライザ、飯島さんとラングレイさんを連れてワープだ!!」

「は、はい!!」

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

一旦退避だ!!」



———————


ゆっくりと眼を瞑ると、精神世界へと意識は飛んでいく

どうやらスピリットバンドを習得した事で、こんな芸当まで出来てしまうらしい

誰かにやり方を教わった訳でもない、だけどこうして出来てしまうからスキルというものは不思議だ

「……負けちゃった、なあ」

「嶋村くん、俺の勝ちだ。初めてだね、嶋村くんと勝負事をして勝つなんて」

「……そうだっけ」

「そうだよ」

「スピリットバンドだっけ?そのスキルのせいかな、こうして君と話す事が出来るのは」

「うん、だけど俺だけじゃないよ」

「和也!!和也!!聞こえる?私の声が、聞こえる!?」

「……深雪!!そうか、僕は……」

「ずっと話しかけてたの、幸平を通じて……だけどどんなに叫んでも声が届かなくて……」

「そう……なんだ……」

「僕は、君と一緒にいたかったんだ。色んな景色を見せてあげたかった……一緒に学校に通いたかった……それに、大勢の人が悲しい世界なんて僕は納得出来なくて……」



———————


ルファードの閃空、そしてオメガ・エレメントのエンチャントを受けた事で嶋村くんは致命傷を負ってしまった

それに、嶋村くんが戦士として開いた扉は肉体に大きな負荷を与えるものだったらしく

あと数分間戦闘を続ければ自滅していた可能性すらあったとイライザは語った

「夏樹くん、僕は……生きていてどこか虚しかったんだ」

「虚しさ?」

「勉強も運動も出来るし、芸術分野だって得意だ。僕には苦手が無かった……だけど、だから……誰かに嫉妬されたり、恨まれたり……誰かから受けた愛情だってどこか偽物のように感じて……」

「俺は逆に、嶋村くんが羨ましかったよ。俺って何をやっても平凡で、苦手な事も沢山あるのに得意な事なんて何一つとして無い……女の子からも憧れられて」

「バカ!!」

飯島さん、容赦の無い平手打ち

「バカ!!バカ!!これから先だってあったし、今だってこんなに苦しかったり嬉しかったりするんだから未来にはもっといい事も悪い事もあるよ!!だから……こんな無茶しなくても良かったんだよ……深雪さんだって、ずーっと待っててくれたよ。嶋村くんに会えるのを……」

「さっき、沢山叱られたよ……深雪にも」

「……深雪さん、私と友達になれそうかも」

「あはは……きっと気があうよ。友達になれる」

「ねえ。嶋村くん、何十年後か何十分後かは分からないけど……必ず会いにいく。だから、待ってて」

「うん、楽しみにしてる……」

それから間もなく、嶋村くんは静かに息を引き取った

俺は名前も分からないけど嶋村くんの剣を受け取り、腰から下げる

実際に使えるかどうかじゃなく、嶋村くんの形見……いや御守りとして持っていく

「ねえ、嶋村くん。この剣の名前は?」



「僕が好きなゲームの最終装備の名前をつけてるよ」



「ブレイブソードとかエターナルソードとか?アルテマウェポンとかラグナロク……うん、じゃあブレイブソードで」



「うん、正解!」



「さて、お待たせしました。ラングレイさん」

「ああ、行こう。幸平!」

「ラストバトルだよ、きっとこの先にエルヴィンはいる!」

残るはエルヴィン・ユークリッドのみ、俺たちは歩みを進めた


続く

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