第26話 取り戻したい笑顔

エルヴィン「いやー、とうとう26話目だね。2クールものアニメだと最終回を迎えてなきゃいけない話数だよ」

和也「えっまさかこのタイミングで茶番入れるんですか!?」

桜「長かったですねえ、途中で失踪するかと思ってましたけど」

和也「いやいや、まるで今回が最終回みたいな言い回しはやめましょう」

エルヴィン「えっ違うの?」

イライザ「順調にいけば30話前後で終わるんじゃないかと」

桜「30話まではいかないでしょとか言ってませんでした?」

和也「さあ、割と彼テキトーに生きてるから……」


————————


エルヴィン「ところでさぁ」

和也「長いな茶番!?」

エルヴィン「桜ちゃんに文句あるんだけど」

桜「幸平くんに取っ捕まった事ですか?」

エルヴィン「城戸桜なんてヒロインみたいな名前して、散々外道な働きをしてそれを悪びれもしないような振る舞いはまぁ……良しとして」

イライザ「桜さんのの構想はルグニカ戦の時点であったみたいですね〜眼鏡が似合う美少女で年齢を誤魔化していて救いようのない外道と」

桜「ストーリー的に役割果たしてるなら良いじゃないですか」

エルヴィン「桜ちゃんって特殊な治療で18歳の肉体と体力、美貌を維持してるじゃない?」

桜「まぁ、その方が何かと都合がいいので。男は存外コロッと騙されてくれるので取り入りやすいんですよ」

和也「男性諸君は審美眼をしっかりと働かせようね」

イライザ「悪さしてきたんでしょうねえ」

エルヴィン「まぁ、処女厨が爆発したところで」

和也「言っても実年齢はアラサーですし、それに処女を求めるのも酷な話ですよ」

エルヴィン「いや、僕としては地味ながらも可愛らしい女の子が実は経験豊富で男をガンガンリードするっていうのエロいし良いと思うけどな」

桜(誘ったら断ったくせに……)

イライザ「ギャップ萌えですね〜」

エルヴィン「あ、でも問題はそこじゃなくてさ」

桜「はぁ……」

エルヴィン「私の肉体そのものが私の最高傑作なのだー!とかいって変身したりしないの!?科学者でしょ!!」

イライザ「回避した例を見たことがない死亡フラグ……」

和也「ベルトに自分の人格を入れて他人を乗っ取るとかそんな例もありますね」

桜「それ実の息子にベルト破壊されて死ぬやつじゃないですか!」

エルヴィン「桜ちゃんには科学者としての派手さが足りないよ!!」

桜「だって……嫌じゃないですか!!人の形失って化け物になったらもう、お洒落とか出来ないし外を出歩けないし男だって寄り付かなくなりますよ!!リスキー過ぎます、それにイライザさんの言うように回避不可能の死亡フラグだしRPGのラスボスはどいつもこいつも後先考えなさ過ぎです!!」

和也「言われてみれば確かに……買い物とかも出来ないですね」

エルヴィン「じゃあ、巨大ロボに乗りなよ」

桜「予算くれる?」

エルヴィン「時既に遅しだけど、相談してくれたら予算沢山あげたのに」

桜「うあー!!そうなんすか!?早めに相談すれば良かった!!」

和也(子供だなこの人達……)


———————


幸平と飯島さんのクリアスを感じた、もうあの2人は戦闘に突入しているという事だ

魔物の数こそ多いが、兵士の姿が見当たらない

それに……先程の映像を見るにエルヴィン・ユークリッドが前線に出てきている可能性がある

この状況はピンチだが、逆にエルヴィンを討つ最大のチャンスでもある

しかし、民間人でありながらエルヴィンにターゲットとして狙われている飯島さんと幸平

そして貴族の血筋としてミラちゃんもまたエルヴィンに狙われている

まずは彼らの安全を最優先としなければいけない

「相手は知性を持たない魔物だ!!速攻で道を切り開け!!」

「おおおおおおおおおお!!」

「ですが、ここは通しませんよ〜」

よく聴きなれた声がどこからともなく聞こえてきた

地水火風、4属性のクリアスエネルギーを感じ取らた……それも最上級魔法クラスのエネルギーだ

「総員、対魔法攻撃、防御体制!!」

「えっ……!?」

クリアスの奔流、結合、爆風……まるで天変地異が起こったかのような衝撃が襲いかかる

ノーチャージのクリアスシールドでは防ぎきれないか

率いていた兵士達の肉体が崩壊していく、流石に他人の分までシールドを展開出来なかった

「ぐ……うぅ……!!」

「おっと、流石に頑丈ですねラングレイ」

人間の肉が焼ける匂い、俺が最も嫌いな戦場の匂いだ

そして、その戦場にはあまりにも不似合いな褐色肌に銀髪で空色の眼の美少女

「イライザ……!!やはり……!!」

「ラングレイ、あなたも随分タフですね」

「何故だ……何故……!!」

「安心してください、ラングレイ。貴方は一度死ぬ……ですが、新しい世界で貴方は新しい命を授かる」

「話を聞け!!イライザ!!」

シアの後ろでおどおどしていた幼い少女の面影は残っていない、あの子はここまで冷たい眼をするようになってしまったのか


———————


シアが「スラム」の仲間になったのは、シアが10歳の時だった

美しい銀髪に、空色の瞳、褐色の肌

銀髪にエメラルドの瞳、白寄りのシアはここ、メルドニアでもたまにみかけるような容姿だが彼女は複雑な血縁を思わせる容姿をしていた

「この子、お人形みたいでとっても綺麗だと思わない?」

「ああ、うん……」

どことどこの国のハーフなんだろうかと一瞬考えたが、きっと深く考えない方がいいのだろう

「君、名前は?」

「…………」

初対面とはいえ、思いきり怯えられるのは少し傷つく

まぁ、少し歳が離れているというのもあるし肌の色も瞳の色も違う

「イライザっていうのよね!」

「イライザ?」

イライザという少女は静かに頷く

「ファミリーネームは?」

「……わから、ない」

「そうか、よろしく。イライザ」


———————


イライザはシアと同居する事になった、ルファードはシア1人で生活するよりずっと安心だと語っていた

というか、内心ルファードもかわいい妹がまた1人出来たと思っているかもしれない

イライザは長い事まともにシャワーも浴びていない様子だったので、取り敢えず使い方を教えて身体を洗わせる事にした

シアは料理の食材を買いに行っているのだが、こういうのは普通シアがやるべきだと思うのだが……

「服はあまりかわいいのが無いけど、勘弁してくれよ」

「大丈夫、着られれば」

「というか、基本的にはシアのお下がりだ。今度、給料が出たら新しいのを買ってあげる」

「本当?」

シャワー室の扉が開く、どうやらイライザが勝手に開けてしまったらしい

「ちょ、ちょっとイライザ!裸で……えっ?」

イライザの肌は白く、子供らしくきめ細やかで綺麗なものだが身体には無数の傷が刻まれていた

ところどころ内出血を起こした跡もある

「どうか、したの?」


———————


取り敢えず、下着を着せてから消せそうな傷を消す事にした

こういう傷は後々、イライザ自信を苦しめる事になりかねない

大きく、時間が経ってしまったものもありそれは流石に消すまでは出来ないが新しく小さなものはなんとか消せる

「何を、しているの?」

「こんなに傷だらけで、痛くなかったのか?」

「最初は痛かった、けど今は平気」

どうしてこんなに傷がついているのか、もし誰かにやられたのならなんて聞く気力は起きなかった

大体想像がつく、きっと彼女は外国からやってきた奴隷の娘なのだろう

そして、貴族に飽きられて捨てられてしまったというところか

「あなたは……」

「ラングレイだよ」

「ラングレイ、さん。は、どうして私に優しくしてくれるの?」

「分からない、けど優しくしないで傷つけるよりも優しくして喜ばれた方がずっといい」


———————


イライザと生活を始めて分かったことは、イライザには不思議な力がある事、そしてまともな教育を受けられなかった故に言葉は拙いけれど頭がいい事

イライザに少し治癒魔法を教えたらすぐに習得したし、本の読み聞かせをしたらどんどん言葉遣いが上達していったし文字を読む行為にも慣れていった

オルディウス王に相談したところ、国立の魔導研究機関で本格的な教育を受けられるようになった

しかし、本人は占い師として副業を始めてしまった

何か未来を見る力とやらを活かした商売がしたいらしく、的中する時は的中するが完全に的外れ何か時もある

本人曰く、ふとした小さな出来事がきっかけで運命のレールがズレる……らしい

「お疲れ様、イライザ」

「お疲れ様です、ラングレイ。今日は家に帰れそうですか?」

「ああ、ようやく任務が終わったからね」

「シアさんが今日はシチューにすると言っていました」

「そうか、じゃあ食べていこうかな」

「20Gになります」

「妙にリアルな金額出すなよ……」

少しでも暇があれば俺とルファード、そしてイライザは家に帰り、シアと食事を取った

何気ない仕事の話から、最近起こった出来事まで語った

ルファードは少々シスコン気味の男で、長期任務明けや週に1度の休みの日には必ず兄妹水入らずの1日を過ごすらしい

イライザはその日に限り、俺の家で過ごす事になるのだがシアはいつも複雑そうな顔をする

「いつもすいません、ラングレイさん」

「なんの話だい?」

「シアと、付き合っているんでしょう?」

「……知っていたのか」

「シアの様子を見れば分かりますよ」

「ああ」

「シアの事、幸せにしてやってもらえませんか。あいつはまだ子供なところがあるけど、優しい女の子だ」

「言われなくても、そのつもりだよ」


———————


悲劇が起こったのは、それからしばらく経ってからだった

俺とルファード、イライザが1週間に及ぶ魔物討伐遠征の任務に出ている間にシアが胸にナイフを突き刺し自害をしていたのだ

シアは「スラム」でも屈指の美少女だった、だからこそ注意をするべきだった

スラム生まれの人間は特別な職にでも就かない限りは人権が無いも同然という社会、家を焼かれようが輪姦されようがその加害者が罪に問われる事は少ない

一応、裁判を起こす事が出来るが訴えるにはそれなりの資金が必要で俺たちにそんな金は無かった

それに、シア自身がその犯人の名前を遺書に残さなかった

「シア……何故だ!?何故、お前のような優しい子がこんな目に遭わなければならない……!?」

「ルファード……」

「やはりこの世界は間違っている!!正しく生きた人間が報われない世界など、あっていい筈がない!!」

それからしばらくして、ルファードは姿を消した

俺とイライザはルファードの姿を探したものの、彼を見つけたのは数年後……俺とルファードがぶつかり合ったゴルニス・アルダイン防衛任務の時だ

結局、俺の手でルファードを殺す事になってしまった

しかし……


———————


「イライザ、お前もルファードと同じ道を辿るのか!?」

「……ラングレイ、貴方はまだ分からないんですか?」

「分かっていないのはお前だ!!目的の為に命を踏み躙れば俺たちが憎んできた貴族と何も変わらない!!」

「でも、世界を変えなければ命は踏み躪られるだけ」

「やり方がある!!」

「やり方を選んで、ずっと優しいやり方で、誰の恨みも晴らさないで……それでラングレイ、いつ貴方は笑顔になるの?」

「笑顔……!?」

「貴方は、幸せになれるの?」

「誰かの幸せを奪ってまで、幸せになるつもりなど!!」

「二度と、シアに会えなくても……ルファードに会えなくてもいいの?」

「……!! イライザ、お前の根っこはそこか!!」


———————


イライザは魔法に関するセンスは天才的だ

多重チャージ、最上級魔法のノーチャージ発動

クリアスを結びつける速度もかなりもので、コントロールも完璧そのもの

また、未来予知を使った攻撃の対策も可能で数秒後の未来を予測する事でそれを戦闘にフィードバックさせる事も出来る

近接戦に持ち込む事が出来ればまだ勝機はあるが、イライザはそれを簡単にさせてはくれない

イライザは完全魔法特化型であり、サンダースピアなど魔法力を格闘用武器に変換して戦う事は出来ても俺に勝つのはほぼ不可能だからだ

「信念のためなら、信念のために貴方はルファードを殺したように……信念のためなら、シアだって見殺しに出来たんだ」

「それは違う!!シアの事も、ルファードの事も今でも夢に見る!!」

「貴方に、心は無いッ!!シアの事だって、本気で愛していなかったから理想論だけ並べて動かなかったんだ!!」

「違うッ!!」

「城戸桜が作った魔王の核さえあれば、シアもルファードも生き返らせる事が出来るのに!!また、あの日に帰る事が出来るのに!!どうして貴方は、否定ばかりするの!!」

「魔王が生まれた日、魔王は大勢の人間を食らったと聞いた……貴族の完全な抹殺、特定の人間の蘇生には条件があるんだろう!?」

「魔王ゼクシオンの核を使い、命を生成するには大量のコア・クリアスを必要とする。でも、罪人達のそれで賄えば……」

「やはり、生贄が必要という事か!!」

「何故、手段を選ぶの?」

「手段を選ばずに掴み取った幸せなんか、本当の幸せじゃない!!」

「幸せに本当も嘘も無い!!」

「いいや、ある!!間違ったやり方で得た幸せは必ずいつかどこかで綻びが出る、どこかで歪み始める。シアもルファードも、そんなやり方で再会できたって喜ぶはずがない!!」

「じゃあ、貴方は幸せなの?あの時から、心の底から笑えた日はあったの?ラングレイ、貴方は全然幸せそうじゃない。そのくせに、綺麗事ばかり並べて自分から幸せを遠ざけて……復讐すら果たそうともしないで!!」

「あの時から、俺は人が人らしく正しく生きられる世界を模索してきた!!オルディウス王と共に、陛下は常に民を思い貴族社会の変革を目指してきた。それをお前達が……」

「エルヴィンのやり方が確実だった。貴族達が自ら利権を失う道を選ぶはずがない、どこかのタイミングで粛清をする必要があった!!」

「だが、そんな乱暴なやり方では平民と貴族の立場が逆転するだけだ!!」

「だから、命の管理をやるの!!正しいと認められた人間が生きられる社会を作ればいい!!」

「人間をふるいにかけるだなんて……その正しい正しくないは誰が決める? 人間は平面的な存在じゃない!! そんな極端な発想から生まれたルールで人間を選んでいてはそれでは人類自体が破綻するぞ!!」

「そのために法律というものがあるの!!」

「法の名の下であっても、人間を選別するためのシステムなんかあってはいけない!!」

話は平行線のまま、終わりが見えなかった

魔法を全力で行使するイライザに、それを躱し攻撃を続けようとする俺

いくら魔法のセンスが優れていようと、クリアスには限界が来るはずだ

もしも勝機があるとすれば、イライザのクリアス切れを狙うしかない

「お前達のやり方は認めない!!」

「それでも私は……また、ルファードとシアに会いたい!!」

その言葉と共に放たれたのは、地水火風の四属性同時攻撃

「ハイパー・アクセル!!」

「いつの間に、クリアスのチャージを……!?」

ハイパーアクセル、幸平が得意とするアクセルの上級魔法

チャージ時間が長く、クリアスの消費も激しいため正直使い勝手が悪い代物だがその分効果は絶大だ

まるで周囲一帯の時の流れが停滞したかと感じるほど、自身を加速させる強化魔法

どんな武術の達人だろうとその加速を見切る事は難しいと言われるのだが……

その分、まるで幸平の集中力をバカに出来ないほど身体に負荷をかけてしまう

しかし、これをフィニッシュブローにすれば……

「イライザアアァァァァァァァ!!」

「ラングレイ……!!」


———————


残っている一番古い記憶は、生ゴミと下水の臭いが入り混じったゴミ捨て場でみた……青空

「ごめんね、イライザ……ごめんなさい……」

お母さんは泣いていた、私をぎゅっと抱き締めて泣いていた

後から考えた事だけど、きっとお母さんもお金が無かったんだと思う

「イライザちゃんだね、おじさんのところへ行こう」

金髪でエメラルドの瞳をした中年のおじさんがすぐにやってきた

綺麗で立派な服を着ていたけれど、はっきり言ってそれ以外は小汚い

よく見たら首元や手首に綺麗だけど少し派手なアクセサリーを身につけている

このおじさん、身に付けるものは綺麗なのにそれ以外の部分は汚いなというのが第一印象だった

「金なら銀行に振り込んでおく、100万Gでいいな」

「は、はい!!ありがとうございます!!」

100万G、私が普段食べるおやつの何倍だろうか


———————


次に残っている記憶は、豪華絢爛なお屋敷

この中年のおじさんが持っているものはとても綺麗だった

「綺麗な服を着せてあげよう、どんなものがいいかな」

キラキラした装飾が沢山ついたもの、立派な生地が使われたもの、学生服に、キッズ用のスモック

とにかく服は沢山用意されていたけれど、私が選んだのは子供用のワンピースだ

白くてとても動きやすそうだったから

「綺麗な服は沢山用意してあるよ、それから美味しいものも沢山食べさせてあげる。面白いゲームに楽しい絵本も望めば何でもあげよう」

「でもね、イライザちゃん。世の中にはタダで手に入るものはないよ、手に入れるためにはキミも頑張らなきゃいけない」


———————


お屋敷には地下室があった、無骨でなにもない味気のない寂しい部屋

私は夜が来る度にそこに呼び出された

お気に入りのワンピースを着せられ、下着は脱がされる

おじさん曰く、その方が興奮するかららしい

「褐色の肌と対になっていてとても綺麗だ、銀色の髪に空色の瞳、白いワンピース……キミはとても芸術的だね」

おじさんは私の事をとても褒めてくれる、けれどあまり嬉しいとは感じない

どうしてそこがいいのか、私にとってもよく分からないから

「小さな唇だね……」

私は子供だから、唇が小さいのも胸が小さいのも股に隠毛が生えていないのも当たり前だ

だけど、おじさんはまるでそれがとても尊いかのように褒め称えていた

なんだか、とても異様に思えた


———————


「ああ、愛している……愛しているよイライザ……」

おじさんは私をどうしたいのか全く分からなかった

全身を隈なく舐め回し、耳をしゃぶったり、まだ全く発達していない胸を弄ったり

そうかと思えば私を罵倒して、殴ったり蹴ったり、剃刀の刃を突き立てたり、腹を思いきり蹴り飛ばして私を嘔吐させては喜んだり

後から知った事だけど、このおじさんはかなり地位の高い貴族でエルヴィン曰く

「筋金入りの児童性愛者」なのだという

事を終えたら毎晩、私の血と吐瀉物に汗と精液と愛液で部屋は汚れていた

部屋を出る時は全身に痛みが走り、骨が軋むような感覚でいつも気持ち悪かった

私が処女を失った時も痛かったけれど、私がおじさんとセックスに慣れてきた頃の方がずっと痛かった

私自身の吐瀉物やおじさんの汗、精液の臭いに満ちたあの部屋は今でも時々思い出す

ヨロヨロと地下室から1階の階段を上がるとメイドさんがいつも私の治療をしてくれた

曰く、治療をしてある程度治さないとご主人様がプレイをする時に萎えてしまうから……らしい

しかし、大きな傷は治してはくれなかった。何故なら完全に治すとそれはそれでご主人様が嫌がるかららしい


———————


それから2年ほど経過して、私はある日突然におじさんに捨てられた

オルディウス王が「奴隷禁止法」の制定し、奴隷の保有が全面的に禁止されたのだ

奴隷を解放する事でその奴隷は里親の元へ送られたり、職業紹介を受けたり、幼い子供は児童養護施設で保護を受ける事が出来たが

私は奴隷禁止法が制定されてすぐに捨てられたので、そのサポートを受ける事が出来なかったのだ

奴隷に一方的な暴力を振るう事や、性的行為を強要する事は既に犯罪とされているためその発見を恐れたのだと思う

私は首都メルドニアのスラム街へと流れ着いた

そしてそこで、ラングレイやルファード……シアと出会った


———————


イライザの魔法攻撃はまさに的確だったが、ハイパー・アクセルの力で身体能力を強化された俺の力を以ってすれば回避は可能だった

とんでもない速度でとんでくる魔法球もゆったりとした速さに感じるほどだ

至近距離で閃空を放てば、俺の勝ちだ

イライザという支柱を失えば、新生メルドニアは瓦解するだろう

しかし……


「それでも私は、ルファードやシアに会いたい!!」


貴族の連中を驚かせてやりたい、多くの人が平和に生きていける世界を作ってやりたい

この世界を歪な形にしているのは利権を貪り、他者を蔑ろにする貴族たちだという事が分かった

だからこそ騎士となってこの世界を正しい世界にしなければいけないと思ったから、だからこそ俺は一等騎士にまで登り詰めた

なのに——


「イライザアアァァァァァァァ!!」


俺は、何を斬り捨ててきたのだろう?

本当に護りたかったのは、この国そのものではなくて……

身近にあるかけがえのない存在と、大切な仲間だったはずなのに

どうして俺は、彼女と殺し合いをしているのだろう?


「ラングレイ、貴方は……!!」

「俺は……」


閃空を放とうとした、その刹那

俺は一瞬……そのほんの一瞬俺は躊躇ってしまった

イライザは反撃のために、ブレイズソードを発動し俺の腹部を刺し貫く

身体中に炎が巡り、俺の身体を焼き尽くしていく

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「ら、ラングレイ……?」

イライザはきっと、死を予感していただろう

俺が攻撃を躊躇うだなんて、そんな未来は恐らく視えてはいなかったと思う

イライザはブレイズソードの発動をキャンセルし、地面に倒れようとする俺の身体を抱える

「な、何故!?どうして!?」

「わ、分からない……俺は、話が通じないのなら、イライザ……お前を殺すつもりだった」

「なら、何故!?」

「考えてみれば、本当に単純な話だ……イライザ、お前まで失ったら……俺、ひとりぼっちじゃないか」

「待ってください、今すぐ治療を……!!」

イライザが俺の身体の治療を始める、本当はイライザだってそうなんだろう

きっと俺を殺してしまえば、独りぼっちだ

命の管理をしているといっても、エルヴィンに最後まで反抗し続けた俺をエルヴィンが許すとは思えない

だからこそ、俺とイライザは対話をしたんだ

「良かった、この程度なら治療が可能です〜」

「口調も、元に戻ったな……」


———————


「シアやルファードに会いたくない訳じゃない、だけど……嫌われたくなかったんだ」

「本当に、単純な話ですね」

「それに、ルファードには優しいやり方で革命を起こすと約束したからな」

「ルファードは……最後まで戦い抜いたと報告を受けています」

「憎しみの矛先を振るわずにはいられなかったんだ、ルファードのやり方は否定したい。だけど、その感情までは否定する事は出来ない。何故、シアが強姦した相手の名前を明かさなかったのか今なら分かる気がする」

「きっと、名前を明かせばラングレイやルファードが復讐の道を走るから……シアは、優しいラングレイが好きだったんですよね」

「俺は、エルヴィンを止める。エルヴィンを止めて、命の管理なんて必要のない社会を目指す」


———————


縄で縛った桜を背負いながら走る、俺と飯島さんで交代しつつだけど

リリアは取り敢えず教会で薬物を排除させる治療を受けている

桜は放置すると何をしでかすか分からないので、監視の意味を込めて連行している

「幸平くん、地味な見た目ですけど結構ゴリラですね」

「ゴリラ言うな、鍛錬の賜物だよ」

「私、もうちょっとインドアの方が好みだな〜」

「お前に好かれても嬉しくともなんともないよ」

「ねえ、夏樹くん?」

「何?飯島さん」

「ミラちゃんとリリアちゃんならどっちが好み?」

「今のタイミングで聞くかなそれ!?」

「今だからだよ」

「……同世代で、大人しいどちらかというとインドアな子が好きかな」

「なるほど〜2人に伝えるね」

「ねえ、何でこのタイミングで聞いたの?」

「うーん、最後かもしれないじゃない?こういう会話するの」

「不吉だからやめて!!」


続く

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