第23話 俺と彼女が生きる道
「起きた……!?起きたの!?ねぇ、夏樹くん!!」
目を覚まして早々、グラグラと身体を揺さぶられる感覚
お腹が突っ張るような感じするのは、恐らく一度身体を切断された後に結合手術を受けたためだろう
和也との戦いで下半身と上半身が別れて、地面に落とされたような覚えがあるので間違いない
「ちょっ……ちょっと恵!!ダメだよ、幸平死にかけてようやく目を覚ましたところなんだから!!」
「でも、ここ1ヶ月くらいずっと寝てて……ようやく目を開けたんだよ!?」
「だからこそダメだよ!!傷が開いたらどうするの!!」
「あぁ、そっか……夏樹くん。ごめんね、おはよう。久しぶり?」
「……久しぶり」
「1ヶ月くらい寝てたんだよ、もう二度と目を覚まさないかも……なんて言われてたのに、凄いね」
「1ヶ月も……」
———————
ラングレイさんとミラちゃんによる処置が功を奏したらしく、日常的な生活を送る分には問題ないらしく剣も魔法もこれまでと変わらずに扱えるらしい
元々ラングレイさんは治癒魔道士から剣士へとジョブチェンジをして、騎士を目指したらしいから治癒魔法の腕も超一流なんだとか
担当医も「あれほど難しい手術を本職じゃない人間が成功させたという事例を見てしまうと、自信を失くす」とか語っていた
しかし、ただ一つだけ……俺にとっては致命的な問題があった
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「なぁ、幸平。君は今後、どうするつもりだ?」
「どうするって……メルドニアをエルヴィンから解放するための戦いをしているんでしょう?」
「ああ、そうだ」
「だったら俺だって、身体を動かせるようになったら……」
「やめておいた方がいい」
「えっ?」
「俺たちがやっているのはメルドニアを解放するための戦い……と言えば聞こえはいい。だけどな、世界は俺たちをなんと呼ぶか分かるか?」
「何って……」
「世界は俺たちを、テロリストと呼ぶんだ」
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メルドニア前国王、オルディウス・グラン・メルドニアによる呼びかけによりエルネーベ、フィルストン、オーセ・クルス、ハルデルク……そしてメルドニア、5つの国家は多海同盟を結んだ
相互補助、文明と文化の交換など親密な関係を結ぶ事により5つの国の文化は大きく花開いた
しかし、ハルデルク政府の実質崩壊やメルドニア国王の交代
同盟への参加が国力増大を狙ったものでしかないフィルストンとオーセ・クルス
メルドニアと最も親しいエルネーベもメルドニアに戦争で敗れ、復興途上で力も弱い
多海同盟は事実上崩壊したようなもので、フィルストンとオーセ・クルスもまた貴族による支配が続いている貴族主義の社会である
エルヴィンが率いる新生メルドニア王国は魔物を率いて一方的にフィルストン、オーセ・クルスの双方に侵攻を開始した
「我が名はエルヴィン・ユークリッド……もとい、エルヴィン・グラン・ユークリッド。国王ならびに貴族の諸君、僕は君たちを処刑する。何故だか分かるかい?君たちはね……僕が創り出す新しい世界には不要なんだ」
エルヴィン・ユークリッドは、メルドニア国民の支持を得て正式に国王に任命された
貴族主義の抹殺をマニフェストに掲げたのは伊達ではなく、五大貴族の血は彼を残して全て絶たれた……それはユークリッド家の当主も例外ではなく、ユークリッド家の本家及び分家の人間はエルヴィン自身が手にかけたのだ
フィルストン、そしてオーセ・クルスは魔物による物量攻撃に成す術なく敗れ去り新生メルドニア王国の属国となった
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「幸平、俺たちはじきにこの国を出る……新生メルドニア王国のやり方は一方的な虐殺だ、断じて許すなと……騎士としての俺が叫んでいるんだ」
「魔物だけでも半端じゃないのに、今は確かフィルストンにオーセ・クルスが属国となっているんでしょう?」
「ああ、だが狙いはただ一人……エルヴィン・ユークリッドだけだ」
「ユーリ少将はどうされたんです?」
「彼女が任されていた土地、アランシスは完全に掌握された。その時の戦いでユーリ少将は戦死されたそうだ……」
「そんな……」
「幸平、君には除隊を勧める。身体を傷つけ過ぎた今の君では……正直、部隊の後方につけてやるしかない」
「リハビリすれば……」
「リハビリ云々の問題じゃない!次に集中力を行使すれば、君は恐らく死ぬ」
「死ぬ!?」
「ああ、比喩ではない。君は間違いなく死ぬ、仮に助かったとしても良くて寝たきりの生活だ」
「そんな……」
「それに、命懸けでぶつかっても幸平と嶋村くんの実力は五分五分だったんだろう。集中力最大のメリットは一時的にでも相手の力を大きく上回れる事だ。今の幸平と嶋村くんの実力差で集中力を発動するなんて自殺行為にも等しい馬鹿げた行為だ」
「……!!」
「幸平、繰り返すが君には除隊を勧める」
———————
この世界の空には太陽がない、だけど不思議と「日が昇る、日が沈む」と言う
きっと似たようなニュアンスの言葉で訳されているんだろう、本当は何て言うのかな
空は時間によって色が異なり、早朝には幻想的なエメラルドグリーンの空を拝む事が出来て
夕方には紫色のような空になる
俺は、この紫色の空を眺めるのが好きだ
空を眺めるという趣味を見つけたのもこの世界に娯楽が少ないからなのだろう、この世界に来てから思いもよらぬ趣味が見つかったりする
「夏樹くん」
病院の屋上から紫色から藍色に変わっていく空を眺めていたら飯島さんに声をかけられた
「飯島さん……」
「メルドニア国軍、辞めちゃうんだって?」
「うん、元々向いてなかったし……今度ラングレイさんに付き添ってもらってエルネーベ国に籍を移すよ。剣士、魔道士、治癒魔道士に趣味で取得した鑑定のスキルを持った人間が来るなんてテリウス王が泣いて喜びそうだとか話してたよ」
「そっか……」
「なんか……内心、ホッとしてるんだよ」
「え?」
「嶋村くんにもう、剣を向けられないで済むんだと思って……俺ずっと、嶋村くんに嫉妬しててさぁ」
紫色から深い青へと変わっていく空、キラキラと星の輝きが空に現れ始める
「出会った頃、なんだこの根暗な奴とか思ってたんだけど……話してみると結構いい奴で、運動神経も良いし一緒に遊んでた筈なのにテストで良い点を取るし……不良相手でも物怖じしないし、他人の悪口とか言わないし、人が出来てて」
「漫画が好きなんだよね、嶋村くん。結構オタク的な部分あるよね?夏樹くんも嶋村くんも、魔法剣エーテルちゃぶ台返しってゲームが元ネタだったりするんでしょ?」
「うん、サイバ◯ターってロボットのウソ技」
「だから、ふと我に帰るとどうして俺たち友達なんかやってるんだろう?あんな奴の隣にいても苦しい思いするだけなのに〜とか考えちゃうし」
「でもね、一人でいると嶋村くん変な鼻歌を歌ってるし電車の乗り継ぎミスったりとんでもなくダサい財布使ったりしてて面白いんだよ」
「知ってる、アニメのマスコットキャラのガマ口取り出したりする」
「うんうん」
「だから……だから、剣を向けたくないって思いながらどこかで嶋村くんに勝ちたいってムキになってしまうんだ。勝ってどうにかなる話じゃない、勝ったから俺が嶋村くんより存在として優っている証明にはならないんだけど……それでも俺は……」
「嫉妬してるんだ」
「どんなに背伸びしたって勝てないのに、バカバカしいよね」
「ううん、でも……」
「でも?」
「自分自身には何もない、どこも嶋村くんに優ってないだなんて思ったら駄目だよ」
「じゃあ逆に聞くけど、俺が嶋村くんに優ってるところってどこ?」
「うーん……多分、ハートの強さ」
「また曖昧な……」
風が吹いてきた、昼から夜に移り変わったせいなのか少しずつ気温が落ちてきた
珍しく二人きりになったから、あれを伝えなきゃいけない気がした
ただの俺の夢かもしれないし、意味のない事かもしれない
「あのさ、俺……夢を見たんだ」
———————
「そうか……まさか〜なんて思ってたけど、そうだったんだ」
飯島さんがお茶を注ぎながら言う、なんとなく達観したようなリアクションだ
「お葬式か、どんな感じだった?」
「葬式は、葬式だよ。女子はワンワン泣いてるのがいたけど、男子はそうだな……居心地悪そうな」
「私の、お父さんとお母さんは?」
「えぇと……飯島さんのお父さんとお母さんは、一瞬しか見えなかったけど、参列者にお辞儀してた」
「……普通!!」
「仕方ないじゃん……どんどん場面が変わっていったような感じだったし」
「まぁ、中学の時に授業参観で一瞬見た程度だしね」
「夏樹くんのご両親は?」
「父さんには沢山声をかけられたな。褒められたよ、飯島さんを庇って死んだんだなって……それから、大人になったらお酒を飲みたかったって」
「……そっか」
「母さんは……壊れてた、俺が死んだ事を理解してないような、受け止めきれなかったっていうか……」
「…………」
「優しい母さんだったよ、料理が上手で、いじめられるような事があったら俺の話を聞いてくれた。父さんの代わりによく俺を叱ったけど、叱った分だけ褒めてくれるような……そんな母さんだった」
だんだん風が冷たくなってきた、体を治さなきゃならんのに風邪をひいたなんてシャレにならないしそろそろ病室に戻ろうかな
「そろそろ風邪ひきそうだし、部屋に戻ろうかな。行こう」
「もう少し、私は夜風にあたっていくよ」
「そうか……」
「それに、一緒に帰って噂されたら恥ずかしいし……」
今更それかよ
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それから2週間ほどが経過し、治癒魔法とラングレイさんのスパルタじみたリハビリのお陰でなんとか身体のコンディションを元に戻していった
というか病み上がりの人間に剣術稽古をつけるのはあんまりだと思います
それから、俺はラングレイさんからの誘いを断った飯島さんと共にエルネーベ近郊の魔物狩りの仕事をする事になった
いわゆるバウンティハンターであり、人間相手に実害を及ぼす特殊な魔物をハンティングする仕事だ
ミラちゃんはミリーナ・ハウゼンを名乗り、教会で怪我人の治療をする手伝いをするらしい
本当はミリーナ・ナツキを名乗りたかったらしいがテリウス王に「結婚してから名乗りなさい」とお叱りを受けたそうな
そりゃそうだ……現状、ミラちゃんと結婚するつもりは毛頭無いけども
一応エルネーベの傭兵ギルドの一部門であり、魔物相手に戦い慣れた人間専門の仕事だ
グランス軍曹やナルコ曹長はやはりエルヴィン打倒の道を選ぶらしい、厳しい戦いになるだろうし生きてもう会う事は難しいだろうとナルコ曹長には言われてしまった
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「偵察部隊の報告によると、ラングレイ達に動きがあったみたいですよ〜」
「でも、今はラングレイ達よりも討たないといけないところがあるよね?」
「新生メルドニア王国に従う意思なし……いずれは危険分子となる危険がある。ですが、時期尚早なのでは?」
「和也〜、甘くなぁい?だってだってぇ、ラングレイ達を2ヶ月近く匿ってたんだよ!?引き渡すチャンスなんて山ほどあるでしょ!?それを黙ってたんだよ!?」
「っていうか〜知ってるならどうしてさっさと攻め落とさなかったんですか?」
「だって、もう強敵らしい強敵が残ってないのにエルネーベまでサクッと落としたらつまらなくない!?飯島さんと幸平、ラングレイが揃ってる時に歓楽させたいんだよねぇ」
「夏樹くんが……生きてる?」
「あっれ、言わなかったっけ?まぁ、偵察班も色んなところ駆けずり回ってようやく見つけたみたいだし」
「そう、そうなのか……フフッ!」
「えっ何、気持ち悪っいきなり笑わないでよ和也」
「不思議だな……武者震いが止まらないんですよ。僕よりもずっと格下の相手のはずなのに、戦うと心臓が高鳴って仕方ない」
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大型のトカゲモンスター、マスターリトルドラゴンを打ち倒す
マスターリトルドラゴンの身は固いし臭いし食べられたもんじゃないので取り敢えず、武器や家具などの素材になる頑丈な骨を身と引き剥がす
「うわぁ、手馴れてるなあ」
「まぁ、これでも狩り歴は結構長いんで……飯島さんは取り敢えず穴を掘ってリトルドラゴンを埋葬して。放っておくとゾンビ化する可能性あるから」
「はーい」
リトルドラゴンの骨を部位ごとに分けていくと、頬に何かが落ちてきた事に気付く
「えっ今何か頬に……」
「鳥のフンとかじゃなくて?」
「女の子がそんなはしたない発想しないの!多分、雨なんじゃ……」
「雨ぇ!?じゃあ、さっさと終わらせないと。雨だと魔物が凶暴化する可能性あるし」
「うん、さっさと撤収しよう……あれ?」
「どうしたの?夏樹くん」
「城から……いや、街から煙が出てない!?」
続く
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