第22話 約束

魔物を入れないように人員を配置したものの、数の暴力でいずれは突破される

そうさせないためには、エルヴィンを討って無力化させる必要がある

しかし……

「こ、幸平!!恵……!!」

「無駄だよ、飯島さんはともかく集中力を解放して肉体に負荷をかけた状態での死亡は蘇生が難しい」

「アンタ……幸平の友達なんでしょ!?どうしてこんな事が!?」

「友達だからだよ、僕達には迷いを断つひつようがあったんだ。ミラ・エルオーサ……じきにエルヴィンさんによる粛清が始まる、それは君も対象だろう……今のうちに国外にでも逃げる事だ」

「ふざけないで!!」

「君は戦う力を持っていない、僕は女の子を殺すのは主義じゃない」

ミラちゃんと嶋村くんの話し声が聞こえてくる、一体何があったというのか

「待ちなさいよ!!……幸平……!!」

急いで駆け寄ると、そこには信じ難い光景が広がっていた

血溜まりに倒れる飯島さんと、胴体を両断された幸平……

「ミラちゃん……これは」

「和也が……和也がやったの」

「……!!難しいかもしれないが、緊急手術だ!!急がなければ、まずは胴体と脚部の結合だ!!クリアス糸、それから清潔な湯と布を!!」

「う、うん……」


———————


切断された胴体の結合には成功、経過を見ないと断言は出来ないが後遺症もあまり残らないだろう

しかし集中力を解放しきって衰弱状態での死亡は蘇生屋でもどうにもならない事が多い

そもそも集中力は肉体のポテンシャルをフルに発揮するオーソドックスなものだが、幸平の場合は一撃必殺の決め技となるようなイレギュラーなものだ

体内のクリアスエネルギーを大消費して肉体を活性化させるのだが、幸平の場合は恐らく消費量が違う上に肉体のポテンシャルの限界をゆうに突破している

身体を鍛え上げればそんな負荷も軽減されると思ったが、鍛え上げれば鍛え上げるほどにスキルは進化して負担もより重くなっていった

そして、見たところ身体への負担はこれまでのものに比べても非常に重い

「ミラちゃん、まずはスタミナを回復させよう。クリアスドリンクを点滴で落としてスタミナヒールだ。衰弱が非常に激しい」

「分かりました……!!」

「飯島恵さんの容体はどうだ?」

「大動脈の縫合に成功、人工血液の拒絶も見られません。スタミナヒールをしっかり行えば回復するかと」

「そうか、では油断せずに治療を続けて!」

「はい!」


———————


「……ラングレイが召喚された戦士達を治療してるのか、多彩だね彼」

「余計な事を……僕がラングレイを止めてきましょうか?」

「和也、君は立派に任務を果たした。それに、今やるべき事はドンパチじゃないよ」

「というと?」

「まずは状況を固める。戦闘を終了させて、民を選ぶ」

「民を選ぶ……?」

「ああ、支持者だけを残すんだ」


———————


「しかし、見れば見るほど幸平の身体はボロボロ……」

「戦闘によるダメージというよりは、戦闘でかかった身体への負荷が大きいんだろう……今は応急処置だけど、後からしっかりした処置を施さないと幸平はいつか身体を壊すだろうね」

「そんな……」

「ミラちゃんが毎日診てあげるんだよ、せっかくのチャンスなんだから」

「……はい!」

スタミナヒールをかけつつ、ミラちゃんには損傷した公平の身体を回復させる

そんな時、エルヴィンが動きを見せる

大空に映し出されるエルヴィンの姿、降伏命令を出した時と同じだ

「ラングレイ・アルカストロフ率いる反乱分子の諸君は即刻首都メルドニアから退去せよ、退去しない場合はメルドニア・フェニックス号による空爆を開始する。また、エルヴィン・ユークリッドには従えぬという者も自主的にメルドニアより退去せよ」

「な、何!?」

自国の街を空爆するというのか……いや、これは人質なのか

陣形を整えて再突入すれば敗北する可能性がある故か……しかし、幸平と飯島さんがこの状態でユーリ少将達とも連絡が取れない今は

「ラングレイ・アルカストロフ達反乱分子が退去すれば、攻撃は取りやめる……」

「……ミラちゃん、情報魔道士達に連絡だ。全員、正門より500m地点のメルドニア国立記念公園にて待機。合流後にエルネーベ王国首都グランティアロへ転移する」

「了解!!情報魔道士隊、聞こえますか!」


———————


「俺……は、俺は行けない」

「何言ってんだ!!オルディウス陛下を殺した犯罪者につくのか!!」

「だって俺……貴族に親を殺されて、その仇を取れるかも……!!」

「分かった、お前はここに残れ……次に会ったらお前を斬る」

「すまない……!!」

「この裏切り者めぇ!!」

地獄絵図、同じ勲章ををつけて同じ軍服を着た人間同士での斬り合いや訣別の言葉のぶつけ合い

罵り合い

「いい加減にしろ!!お前達!!」

「ですが、ラングレイさん……」

「我々はこれより、エルネーベ王国へと向かう!!装備や準備を整え王を名乗るエルヴィン・ユークリッドを討つためだ!!エルヴィンを支持する人間は、ここに残れ……かつて同じ釜の飯を食べた人間のよしみで今ここでは斬りはしない」

「反逆者を許すのですか!?」

「思想は人それぞれだ、心優しきオルディウス王を殺害したエルヴィン・ユークリッドは許せないが腐敗しきった貴族を排除するエルヴィンを支持したい人間もいるだろう。俺はエルヴィンを討つ道を選ぶ、貴族制……そして変質化した三等制を破壊する道を選びたい人間はここに残れ。時間は無いぞ、メルドニア・フェニックス号が発信すれば何もかもが終わりだ」

「……俺は、残ります」

「何があってもラングレイさんについていくって決めたんだ!!」

約6割の兵士がメルドニアに残り、約4割の人間が俺についてきた

全く人望が無いものだと笑いたいが、貴族制を徹底的に破壊し新たなる秩序の世界で生きたいと思うもの

革命によって王が変わったとしても祖国と戦いたくない者、家族を置いていきたくない者だっている

それでも4割も残ったのは上々だ

「幸平と飯島さんの意見も聞きたいところだな、まぁ……エルネーベに行かなきゃダメなんだけど」

「聞いてどうするんです?幸平のやつ、エルヴィンにブチギレてましたよ」

「いや……兵士って仕事を続けるのかどうかを」

「嶋村和也に叩き斬られたそうですが、そんなに悪いんですか?」

「もっと、別の問題だよ」


———————


暗い、何も見えない

星が出てない夜に、街道の巡回をしているような……何も見えない

身体が重い、身体中が痛い、そういえば俺はどうしてこんなところにいるんだっけ?

「幸平……幸平!!」

「恵ィ、しっかりしてよぉ!!」

「お、おい……幸平、メチャクチャ血が出てるぞ!!誰か先生呼んでこい!!」

「お、俺知らねえ!!俺はただ、突き飛ばしただけで!!」

聞き覚えのある声、そうだ。俺は確か、階段で不良に鞄を振り回されて階段から突き落とされて……あれ、じゃあ階段の下で倒れてる俺って……?うわぁ、メチャクチャ頭から血が出てるし

飯島さんも倒れたきり動かないし、大丈夫なのか?飯島さん、目が半開きっていうか糸が切れた人形みたいになってるし

あれ、俺と飯島さんってとっくに死んでるの?



「幸平……お前、パッとしない奴だけどいい奴だったよ。花なんて似合わないけど、取り敢えずな」

俺、葬式開かれてるし……しかし、飯島さんも合同で開かれるなんて浮かばれないだろうな

飯島さん、俺の事どう思ってるんだろう

異世界に飛ばされてからも、どんどん差をつけられて……魔法使ってもバフかけてもデバフかけても何しても斬られたり殴られて終わりだし

母さん……どうして車椅子なんか乗ってるの?健康だったでしょ

「これは誰のお葬式なの?誰が死んじゃったの?どうして、幸平の写真が飾られてるの?」

「母さん……幸平はもう死んじゃったんだよ」

「なんで?」

「事故だよ、事故で……幸平は階段から落ちちゃったんだよ」

父さんも、すっかりやつれきって……母さん、本当は分かってるはずなのに……事故って話してるのは怒りの矛先をあの不良に向けさせないためなのか

「ああ……ああああ……幸平、幸平……!!ああああああ!!」



「なぁ、幸平。お前は昔から目立たないけど、結構優しいところがあったよな。子猫を拾ってきたり、ケンカがてんで弱いのにいじめられっ子を庇っていじめっ子に立ち向かったり。最期は飯島さんを庇ったんだろ?変わらないなぁ、でも小さい頃に比べてお前はず〜っと強くなったよ。優しいいい子に育ってくれたなぁ。あと3年したら、お前も成人したんだけど……出来る事なら、お前と酒を飲んでみたかったなぁ」



そうか、俺……死んじゃったんだ

地球での俺も、この世界での俺も

「少年、まだやり残したことがあるんじゃないのか?」

「アルバートさん……?」

「こんなところで終わっていいのか?お前の剣は折れたかもしれないが、誇りはまだ捨てるな……俺のように動くだけの屍にはなるなよ」

「誇りを……?」

「夫を救ってくれてありがとうございました」

「ジャックに伝えてね!カノジョ作って結婚してもいいから、満足に生きてから会いにきてね!って」

「はい!」



「俺は憎しみに囚われた、優しいやり方でお前は戦え」

「ルファード……」

「あの、ラングレイに伝えてください!私は貴方に愛されて幸せだったと!!」

「貴女がシアさん、ですか?」

「なかなかの美人でしょ?」

「マァンマ……」

「赤ちゃん、でも顔が……無い?見えない?」

「私ね、勝手に絶望して勝手に自分に失望しちゃった。ラングレイがいればきっと幸せだったはずなのに、せめて……この子の顔を見てしっかりと抱きしめたかったなあ」

「幸せな人生だったと感じていたこと、伝える事が出来たらきっとラングレイさんも喜びます。絶対に伝えます!」



「幸平!」

「リン曹長……」

「昇進したんなら、お前も隊長やるんだろ?」

「まだ、リン曹長には及びません」

「なあ、お前……不安なのか?」

「えっ」

「本気になっても嶋村和也に叶わなかった。想いが届かなかった……それで凹んでるな?」

「……お見通しですね」

「……すぅ〜……」

「あっヤバイ、戟が来る」

「男はなああぁぁぁぁぁぁ!!折れなかった方が勝ちなんだよおおおおおおお!!つまり、お前が折れなきゃ嶋村和也に負けてねえってこったあぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぅ……」

「久々だと効くだろ?」

「はい」

「なあ、幸平。ここは退屈だ、メシが必要ねえんだもん。悪い奴もいればいいヤツもいるんだけどな、死んでるから生きてるって実感が湧くことがあんまりねえ……だから、楽しませてくれよ。お前の物語……お前が主人公の物語をさ」

「俺の物語?」

「ああ、最後の最後まで足掻いて天才の嶋村和也……そして裏切り者のラスボス!エルヴィン・ユークリッドをしばき倒すお前の物語だ」

「……俺一人じゃ無理ですよ」

「当たり前だバカヤロー!なんのためのナルコさんやラングレイさんに飯島さんだ!!お前一人じゃねえ、そんでお前達は束じゃねえ。力を合わせて和也やエルヴィンをブン殴るんだよ」

「はい!!」


「和也……」

「貴女は……あなたが、深雪さん?」

「誰?」

「俺、夏樹幸平って言います」

「和也がよく話す人……言っていた通り地味ですね」

「結構容赦ないな」

「和也、今すごくバカな事してるでしょ。命の管理だーとか、また私に会いたいとかさ」

「残念ながらね」

「でも私、愛されてるんだね〜。いやぁ、照れちゃうなあ」

「……リア充爆発しろ」

「いやいや、私もう死んでるから!!爆発出来ない!!」

「生きてる人間が爆発したところ見た事がある人間としては、物理爆発とかじゃなくて……程よく不幸な目に逢え的な、程よくないな。うーん……」

「私ね、和也に笑っていて欲しいの。和也に彼女とか出来たら嫉妬しちゃうけどさあ……友達殺しかけて仲間も裏切って酷い事して……きっと心から笑えないと思うんだ。私ね……和也に会えたら嬉しいけど、今の和也に会ったって苦しいだけだよ」

「俺、もう一回嶋村くんと話すよ。今度こそ殺されるかもしれない、だけど……嶋村くんを好きなのは俺も同じだから」

「……日本語って難しいね」

「ああ、うん。勿論LikeだよLike」

「頼んだよ幸平!いつかまた会おうね、5〜60年後くらいに!それより早かったらお説教だから!!」



———————


光に包まれる、ような感覚

高い高い空から落ちて、器の中に入る

きっと、もうすぐで俺は目覚めるんだろう

さようなら、母さん。きっと元気になってね、みんな心配してると思う

さようなら、父さん。俺も、父さんとお酒を飲んでみたかったし、色んな話を聞いてみたかった

アルバートさん、俺はどんなに悲しくてもどんなに悔しくても簡単に折れない男になります

ルファード、シアさん。優しいやり方で……俺らしいやり方で兵士を、戦士をやります

深雪さん、俺は和也の笑顔を取り戻してみせます

そのために今は、身体を治そう。

っていうかお腹が半端じゃなく痛い……和也、取り敢えず会ったら仕返ししてやろう


続く

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