第21話 それでも君に会いたかったんだ

「エルヴィン……まだ、玉座の間にいるなら!!」

オルディウス王の暗殺、そして五大貴族の生き残りであるエルヴィンが国王の座に就く事を許せばテロリズムによる革命を許してしまう事になる

どれだけ言い繕うとも暴力による国家転覆など許していいはずがない

あの男のためだけにどれほどの血が流れたのか、あんなふざけきった男が人の上に立っていいはずがない

「幸平!!」

ラングレイさんから通信が入る

「ラングレイさん、玉座の間に向かいます!!警備も手薄な今しかエルヴィンを討つことはできません!!」

「駄目だ!君では逆立ちしてもエルヴィンには勝てない!!それに……貴族街が魔物に襲われている!!」

「貴族街……!!」

下民庶民が立ち入る事が許されない場所だ、やはり即刻貴族達の処刑をするつもりなのか

「クソ!!」

「それから幸平、君は隊を率いて医療部隊の護衛に回るんだ」

「……何故です!?」

「ミラちゃんの生まれを忘れたのか」

「エルオーサの……まさか、でも彼女は財産放棄をしてるはずじゃ」

「貴族街に現れた一部の魔物が奇妙な行動をしていると報告を受けた、恐らく医療部隊に向かっていると思われる。ミラちゃんだけじゃない、戦う力を持たない医療部隊が襲われれば……我々メルドニア国軍の敗北だ」

「……わかり、ました」


———————


「イライザ。夏樹幸平、飯島恵、ラングレイのクリアスを探知して定期的に僕に報告」

「了解〜」

「戦いにおいて辛い状況っていうのは終わりが見えない事、味方が減っても撤退出来ないこと。そして、戦闘中予想外のハプニングが起こり、精神が揺さぶられた時……戦いってのはノリがいい方が勝つって言い放った有名な戦士がいるけど、案外的を得ているよね」

「独り言ですか?エルヴィンさん」

「君に話しかけてるんだよ、和也」

「そうですか、壁にでも話していれば良いじゃないですか」

「和也、君は能力は高いけど場数はそんなに踏んでいないだろ?僕の言うことはほんのり覚えておくと、生き残る確率が上がるかもよ」

「程々に取捨選択して聞かせてもらいます」

嶋村和也、彼は僕によく似ている

面白い子だなあ、この僕に正々堂々と真っ向から嫌味をぶつけてくれる

彼といると楽しい、心が踊る


———————


走る事約15分、医療部隊の配置場所に着いた

やっぱり転移の魔法はあった方が良さげだ

「医療部隊の皆さん!」

「幸平……」

ミラちゃんもやはりここにいた、不安そうな表情をしている

「ここは狙われている可能性が高い、俺たちがここに向かってくる魔物を足止めするので移動を開始してください!」

「幸平、私は幸平と一緒に行動する!」

ミラちゃんがそう申し出る、攻撃力防御力皆無の医療部隊にいるよりは安心だろう

「分かった、アシストお願い。部隊を分割します、ダリル伍長、ウェッジ伍長は医療部隊の護衛に。残りのメンバーは魔物の迎撃を!」


———————


「ん、ミラちゃんと幸平が合流したね。ただの魔物だと力不足は否めないなぁ」

ここは、和也の覚悟ってのを見せてもらおうかな

彼が面白そうだから夜明けの先導者に加えたけど、かつての親友に引っ張られるようだと僕たちの足枷になりかねない

「……和也、君たしか転移使えたよね」

「はい」

「君に任務を与えよう、夏樹幸平を殺害するんだ」

「……了解」

和也は転移魔法を使い、姿を消した後に戦場全体をモニターしているイライザが毒づく

「おやおや、酷い命令を出しますねぇ〜」

「何言ってるんだいイライザ、僕は極めて簡単な任務を与えたつもりだよ」


———————


魔物が出てくるペースもかなり落ち着いてきた、とはいえこの戦いが終わるまでミラちゃんから目を離す事は出来ないな

この戦いが終わるまで……?それっていつを指すんだ?

エルヴィンは魔物を操れるし、嶋村くんだってエルヴィンについている

騎士達だってこういう時に使える人材なのかも分からないし

「クソッ!!どうすれば……」

「もうどうにもならないよ、夏樹くん」

「嶋……村……くん」

冷たく、一切温もりのない……しかしナイフのように鈍くも鋭い光を宿した瞳

再会した時のようにも彼には違和感を覚えたけど

「変わってしまったね、随分」

「いつかこうなるとは思っていたけど、案外早かったね」

「どうして……どうしてなんだ!?どうして、テロリストに加担する!?」

「好きな人ができた。だけど彼女はもう、どこにもいない」

「それって、地球で……」

「病気だったんだ、また会おうって約束したのに……彼女は、僕を置いて逝ってしまった。どうしてなんだろう、夏樹くん。貧富の差だとか親の生まれとかだけじゃなくて、病気でも人は死ぬ」

「それと、今の行動になんの繋がりが……まさか」

「魔王ゼクシオンのコア、それは命を司る至宝。夜明けの先導者は、巨大なクリアス結晶体を元に魔王ゼクシオンを生み出した。その生命体はみるみるうちに成長していき……目論見通り命を生み出すまで成長していった」

「取引したのか……」

「ハルデルクは地獄だったよ、一見すれば平和な国だったかもしれない、だけどそれは格差社会によって成り立っていた。魔王という存在によってそれは露見された……地球もこの世界も、一度滅ぼされるべきなんだ」

「……本気で言っているのか!?」

「一度滅ぼされた後、命は管理される。徹底的に吟味し、選ばれた人間によって世界は導かれる……」

「ふざけるな!!」

「ふざけてなどいない、今のままでは世界は間違ったまま進んでいく」

「……話し合いはもう終わりだ、残念だけど嶋村くん……いいや、嶋村和也!!俺は君を止める!!」

「分かってくれないなら、お別れだ」

お互いに剣を抜き、向き合い……剣気を剥き出しにすると、空間が張りさけんばかりにビリビリと振動した


———————


「飯島さん、こっちはいい!フリーで動ける人間は多い方がいい!」

「分かりました!」

フリーで動ける、という事はこの状況を打破しろ……つまりエルヴィン達を止めに行けという事だ

一先ず城に走る事にした、私ではエルヴィンを止める事は出来ないけれど一矢を報いるくらいは出来るかもしれない

それに、嶋村くんの真意を確かめなきゃいけない

きっと何か事情があるに違いない、誰かを一方的に殺すなんて嶋村くんがするはずない

だから、説得しなきゃ……話せばきっと分かってくれる

嶋村くんは優しい人だから


———————


剣も魔法も俺よりも数段上だった

剣術は俺の方がキャリアは長いはずだが、和也は絶対的な天才だ

何をやらせても、どんな事をやっても本人にやる気なんかなくたって上手くいってしまう

「この程度か……」

和也はどこか退屈そうにしている、それもそうだ。こっちが命懸けだろうと、どれだけ本気だろうと和也よりも数段踊る相手なのだから

「でも……」

高く飛び上がり、空中でノーチャージアクセルを発動し閃空を飛ばす

「疾風閃空!!」

通常の閃空よりも高速で斬撃を飛ばすと、嶋村くんはそれを切りはらう

が、その隙にノーチャージで魔法を顔面に叩き込む

「サンダーダガー!!」

威力の低い魔法だけど、ノーチャージだと高速で放つ事が可能だ

しかし、サンダーダガーの矛先には誰もいない

「君が、剣の修行でよく見せてくれた技だよ」

「そうだ、だけど俺はその技をよく知っている!!」

瞬光斬、俺は自分で使いながらもその破り方をずっと模索してきた……そして、その技を破るために俺は

「今ここで、完成させる!!」

牙絶ち、剣術における奥義の一つ

あいての武器を破壊する、斬鉄を極めたものだけが辿り着く最後の技

「集中力を解放した……ようやく本気を出したね!!」

和也が使う剣もまた、オルバックさん謹製の武器なのだろう

ならば互角、破壊する事は可能だ!!

「ッ!!」

「甘い!!」

ディフェンダーが、急に軽くなった

いいや違う、ディフェンダーが軽くなったんじゃなくて刀身がボロボロになって形を失っていくんだ

「牙絶ちなら、ずっと前にマスターしていた」

「そんな……!?」

「もっとも、僕の剣も無事じゃないけどね」

和也の剣も真っ二つに折れ、ボロボロに崩れ落ちる

「けど……僕には魔法がある!!」

「俺だって、まだ終わりじゃない!!」

集中力は持続している、けど今だったら全ての属性を束ねた攻撃魔法。オメガ・エレメントが撃てるはず

「オメガ……!!」

「エレメントオオォォ!!」

オメガエレメント同士のぶつかり合い、出し惜しみなしでクリアスを込める

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

この時、テロリストに加担した和也を止めたいとか

一方的な暴力で世界を捻じ曲げ、命の管理は人間がやってはいけないとか

死んだ恋人だってそんな事は望んでいないはずだとか

和也に対する想いなんか一ミリも胸の中には無くて、ただ……

「絶対に負けない!!」

「それが、夏樹くんの底にあるものか……下らないな」

「……!!」

本音が、心から漏れ出ていたみたいだ

「僕だって、深雪に会いたい。この世界に納得いかないだけなんだ。深雪はこんなこと望んでいないなんて知ってる」

「嶋村……くん……」

「雪のように真っ白な、純粋で心が綺麗な女の子だったんだよ。夏樹くんにも、会ってもらいたかったなあ」

全ての光を混ぜたような光と光がぶつかり合う中、少しだけ見えた和也の顔は、地球で一緒に遊んでいる時のような優しい笑顔だった

「く……うぅ……!!」

オメガエレメント同士がぶつかり合い、暴発する

キラキラとクリアスが散り、虹のような結晶が辺りに雪のように散らばる

「な、夏樹くん!!嶋村くん!!」

飯島さんの声が聞こえてきた、これだけ激しい戦いをしたんだから無理もない

けれど、体力はもう限界だ。これだけ集中力を持続させるのは初めて

身体が張り裂けるような痛みが走る、こんな状態じゃもう戦えない

「飯島……さん」

「嶋村くん!!嘘だよね!?夜明けの先導者の仲間だなんて嘘だよね!?」

飯島さんが嶋村くんに詰め寄る、やはりパニック状態に陥っている

無理もない、ずっと憧れてきた片想いの相手が重大な犯罪を犯すなんて信じたくないはずだ

「い……いいじ……ま、さん!」

俺は立ち上がり、止めようとする

「飯島さん、僕はね。好きな人がいたんだ、もう死んじゃったけど」

「え……?」

「2つ年下でね、中学3年生だったんだよ。父さんの友達の娘さんで、受験勉強を教えてたんだ」

「……」

どうして、今こんな話をしているんだろう?

好きな人がいたの?嶋村くんに?

嶋村くんがテロリストになっちゃった理由?

そんな感情が渦巻いているのか、飯島さんは困ったような悲しいようなそんな顔をしている

「病気がちだったけど、どうしても僕と同じ高校に入りたいって一生懸命頑張って勉強していたんだ。そうしている間に、僕は彼女を……深雪を好きになったんだよ」

「そう……なの」

「購買のパンは安くて美味しいよ。ウチの学校はしっかりした柵があるから屋上に行けるよ。部活動は盛んで学校にはイベントが多いよ。顔も勉強も運動もまぁまぁだけど、優しい友達がいるからきっと深雪も仲良くなれるよ……僕の話を、目をキラキラさせながら聞いてくれたんだ」

「勉強をいっぱい頑張ったから、夏休みになったら夏祭りに行こう……そう、約束していたんだけど家で発作を起こして深雪は階段で転んで……死んじゃった」

言葉が出なかった。

嶋村くんの言葉のひとつひとつは優しくて、彼女……深雪さんへの想いが感じられて……

「病院に搬送されて、その時は元気だったんだけど。階段でコケて入院したって聞いた時は笑ったんだけど、僕が病院に着いた時容体が急変して死んじゃったんだ……深雪の最期はね、自分が死ぬって分かったせいなのかな……もっと、和也と色んな景色を見てみたかったって」



「どうして、正しく生きようとしている人間が、正しく生きられない?そんなの、間違ってるだろ?」



リン少佐の言葉がフラッシュバックする

そうだ、間違っている。深雪さんはきっと、生きるべき人間だったんだと思う

もしも神様が目の前にいるなら、俺は直談判をしているだろう

だけど、だからこそ……

「嶋村和也!!間違っている!!」

「そうだよ、僕は間違っている……さっきも言ったと思うけど、僕はそれでも……」

「それでも、他人の命を踏み躙ってはいけない!!」

「それでも、僕は深雪に会いたい!!」

「だから僕は……」

「だから俺は……」

「嶋村和也!!俺は君を止める!!」

「夏樹幸平!!僕は君を殺してでも……願いを果たす!!」

「駄目だよッ!!」

飯島さんが和也に駆け寄る

和也が誰かを殺すというのが耐えられないのか、友達同士で殺しあうというのが耐えられないのか……僕たちの元へ走った

「飯島さん!!迂闊だ!!」

俺は叫ぶ、このままでは飯島さんが殺されてしまう

和也の顔が暗く濁る、殺人者の顔へと変わっていく

「これで、僕たちはもう……元に戻れないね」

「しま……むら……く……ん……」

和也の右掌の先から風系魔法「サンダーソード」が展開されていて、それは飯島さんの腹部……大動脈を的確に刺し貫いていた

飯島さんの腹部から血液が噴水のように溢れ出し、うつ伏せに倒れこむと飯島さんの血液は血溜まりを作っていく

「嶋村くん……アンタ、何をしたか分かってるのか」

「僕は君たちとの関係を断つ、それがエルヴィンとの契約だから」

「飯島さんは、嶋村くんの事が好きだったんだよ!?それが、どうして!!」

「分かってくれよ夏樹くん、僕は深雪に生きてほしいんだ」

「それ以上、深雪さんを穢すなあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ごめんよ、夏樹くん……君が、もう少し強かったら僕は罪を犯さずに済んだかもしれないのに」

その言葉が耳に届いた時には、あるはずのものが無いことに気付く

胴体と、脚が切り離されている

身体の奥底から身体中の血液が込み上がってくるような感覚を覚えると、大量の血が吐き出される

言葉が出ない、和也にもっと言わなきゃいけない事があるはずなのに

「かず……や……!!」

「さようなら、夏樹くん」

「か…………ず…………」



続く

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