第20話 流血による革命

俺、夏樹幸平は18歳になって……今の階級は曹長

地球にいれば高校3年生なんだろうけど、未だ地球に帰還できていない……というか

帰還するつもりはもう殆ど無い、だって何ヶ月も帰れていないという事は授業に出席出来ていないという事で留年は確定しているからだ

「異世界に飛ばされていたので……」なんて理由にならないし、誰も信じてもらえない

事細かに解説すればモルモットにされるか、精神病院に連行されるのがオチだ

飯島さんといえば、ユークリッド邸で職務に就いている嶋村くんに弁当持って突撃をかけては微妙な顔をされている……のだが

微妙な顔をされているのに気付いていないのか、一切気にしていないのか

一向にめげず、毎日通い妻をしている

「幸平、野菜こんなもんでいい?」

「ああ、ありがとう」

ミラちゃんは相変わらず俺の部屋に居座っていて、ミラちゃんの部屋は寝て起きる場所と化している

もうすっかり馴染んでしまい、今更出ていけという気にもならない

なんだかんだ部屋を掃除したり、料理の辛さも抑えるようになってきたし(俺の味覚が麻痺した可能性もある)

「しかし、この生ハムどうしようか……」

この世界にも生ハムの文化があったらしく、城の調理班が作った生ハムが贈られてきたのだ

「この脂身どうしよう?」

「脂身単体はラード……豚の背脂として使えるから、タッパーにいれて保存。取り敢えず今日は、調理無しで食べてみようか」

ああ、こんな時にリン少佐がいてくれたら……

実はあの戦いの後、少しでも料理の腕を磨こうと1ヶ月ほど城の調理班に所属したことがある

ラングレイさんも「うん、サバイバルは戦場で生き残るには大切だから」と後押しをしてくれた

食堂に届く食材は様々で、狩りの任務で採ってきた山菜だの魔物の肉だの木の実だの

これらを組み合わせて料理をするので、料理はほぼ即興である

なので「食べられるものと食べられないもの、食材の基礎知識」は概ね覚えた


———————


「ん〜……!!とろける〜!!」

「思ってたよりもしっかり出来てる……」

なんで俺のところに生ハムが届いたかというと、半年ほど前にチャージポークの群れが街道に向かっているという事で、危険を排するために群れを狩ったのだけど

医療、攻撃魔法によるアシスト……そして時には前線と大立ち回りを主にラングレイさんの指示でやらされて

そのお礼として昨日「保存食として作った生ハムが出来たから食べて」とラングレイさんからプレゼントされたのだ

と、生ハムをそのまま食べていたところにノック音

誰かが聞きつけたのだろうか、誰でもいいから取り敢えず食べて減らしてほしい

「幸平くん、いますか?……生ハムの原木!?」

ナルコ曹長だ、本人の言っていた通りすぐに曹長に昇格した

やはり部屋に生ハムの原木があると存在感が凄まじい

「ラードと生ハム、少し持ち帰りません?」

「後でいただくとして…実は幸平くんに用事があって」

「用事?」


———————


ナルコ曹長が生まれ育った家は教会だという事は既に周知されていると思うが

メルドニアの国教「フィレム教」の小さな教会だ

どちらかといえば孤児院に近く、小さな子供たちがワイワイと騒いでいる

で、魔物と戦う傭兵だとか怪我をした人間の診療所としても機能している

「なるほど……あれの手伝いをしてほしいと」

冒険家の一団が宝探しをしに遺跡系ダンジョンに潜ったらみんなが大怪我をして戻ってきたので、それの治療を手伝ってほしいとの事

冒険家達は大人気もなくワンワン泣いたりシスター達は薬草を煎じる、包帯で止血をするなどでバタバタしている

「報酬は軍を通じてお出しするので……よろしくお願いします」

「これは……長期戦になりそうだな」


———————


治癒魔道士の修行を始めてからはラングレイさんに命令され、病院だの魔物に襲われた街だのにすっ飛んでは治療するという任務が増えた

医療現場は戦場である、一口に怪我といっても症状は様々で

例えばどういった怪我をしているのかを理解し、それに対して適切な処置をしなければいけない

治療をするにも優先順位があり、治療をするのも順番というものがある

ベホマをかければHPが全回復!とはいかないのだ

治癒魔法は体内クリアスにエネルギーをかけて細胞を活性化、もしくは火傷の広がりを防ぐとかで

やはり薬やアフターケアなどは欠かせない

で、今回は教会に治癒魔道士が足りていないので俺が駆り出されたのだ

「それで、どうしてこんな事になったんですか?」

冒険家の人の脚に治癒魔法をかけながら聞いてみる

「俺たち冒険家のギルドは、遺跡の内部を一通り調べて歴史を象徴する物品の撮影・発掘を行い国に提出する事で生活を行なっているんだ」

「だったら、魔物に対する対策なんかもしているんじゃないですか?」

「勿論、傭兵は雇っていますし冒険家の中にも戦闘の心得がある人間もいます。ですが、基本的には傭兵ギルドや兵士達の皆さんに魔物を一通り討伐してもらってから調査をしているのです」

「……つまり、魔物が殆どいない遺跡を調査していたら大勢の魔物に襲われたと」

「はい……」

「魔物の規模はどのくらいでした?」

「30〜40……とにかく、大小種族様々ながら群れを成しているような」

「遺跡の場所は?」

「ここ、首都メルドニアから北方のヤルヴェージュ遺跡です」


———————


聞き出した情報をラングレイさんに報告をする

「と、いう訳なんですよ。なんだか気になりませんか?」

「幸平、半年前のチャージポークの群れが一斉に街道へ移動した事件を覚えているかい?」

「覚えてるも何もそのチャージポークの生ハムの処理に困ってるんですけどね」

「家には2本あるよ、原木」

「…………」

「話を戻そう、遺跡の調査前にはウチから兵団と傭兵ギルドの人間を送り込んでから冒険家ギルドに発掘を依頼している。冒険家ギルドが魔物に襲われて死傷者を出したりしたら国軍と傭兵ギルド双方の責任問題に発展しかねない」

「狩り損ねたり調べ損ねた場所があったとか」

「幸平、種族間の魔物が群れを成しているところを見た事があるかい?それに30〜40も」

「あまりに不自然だと?」

「うん、幸平……今回は俺も行こう。飯島さんと嶋村くんにもコンタクトを取ってくれるかな?」

「分かりました」


———————


ユークリッド邸、魔王を討った聖騎士エルヴィンの自宅だ

こういう時、先に飯島さんに声をかけておかないとムッとされるので予め先に声をかけた

「しかし、嶋村くんは凄いね。聖騎士エルヴィン様に気に入られるなんて」

「魔法のエキスパートで、イライザさんが言うにはありとあらゆる職に対する適性がズバ抜けてるんでしょ?なんていうか、夏樹くんの完全上位互換って感じ」

「俺は嶋村くんの下位互換か……」

彼女の言葉を否定が出来ないのが悲しい

「では、こちらの部屋でお待ちください」

エルヴィン様に仕えるメイドが小さな部屋に案内してくれた……小さな部屋といっても十二分に大きく俺とミラちゃんの部屋を合わせてもまだ届かないくらいには広い

何気なく置かれているテーブルや小物入れも、かなりの高級素材で作られていて

天井のクリアス灯も金銀細工で作られた豪華なものだ

「実家のダイニングキッチンより広いや」

「やっぱり貴族となるとスケールが違うなあ」

思わずキョロキョロと見渡してしまうあたり、俺たちは側からみたら御上りさんというか貧乏感丸出しだ

メルドニア王国……というか国家連合の共通通貨のGを円に換算すると1Gにつきおよそ15円

薬草が10G、つまり150円

一般的な宿屋が200G、3000円

ノーマルソードが1000G、15000円

ってなところで、俺がオルバックさんに作ってもらったディフェンダーは6500G、97500円ほどらしい

ちなみに、俺の月給(日払いだけど)は20000Gで円に換算すると30万だ

ラングレイさんが酔っ払った時に教えてくれたが月に45000Gほど貰っているそうな……そりゃディフェンダー代をポンと出してくれるわけだ

で、趣味で習得した「鑑定」のスキルを使って色々調べたが客間のベッドは30000G

小物入れは12000Gでクリアス灯は75000G

ちなみに俺が普段使っているベッドは500Gだ

およそ60倍の値段がするという訳だ

「うひゃあ〜……貴族凄いね」

「まぁ、素材とかから換算してるから直輸入して安く仕入れてる可能性はあるよ」

「うぅむ……私だったら落ち着かないなあ」

「高級旅館とかで萎縮しちゃうタイプだね」


———————


それから2〜30分ほど経ってようやく嶋村くんがようやく来た

「お待たせ」

「嶋村くん!」

飯島さん、嬉しそうだな……

「ごめん、道場で魔法の事を生徒に教えてて」

「そういえば、騎士養成のスクールの講師をやってるんだっけ」

「うん、こっちの世界に来て1年と少しだからまだ早いと思ったんだけど。教える事で成長する事もあるなんてエルヴィンさんに押し切られて」

「そうなんだ、凄いな……」

「それで、僕に話って?」


———————


「魔物の大量発生と、奇妙な行動……か」

「うん、俺と飯島さん、そして嶋村くんに依頼したいとラングレイさんが言ってて」

「確かに僕も気になっていたんだ、魔物というのは本来自然界では有り得ない発生の仕方をした生物だろう?生みの親である魔王が討たれた後でこうした行動を起こすのには何か理由があるかもしれない」

「じゃあ、協力してくれるんだ!」

「ああ、勿論」


———————


遺跡の調査は10人程度の人数で編成された

ラングレイさんをリーダーとして俺、嶋村くんに飯島さんにナルコ曹長を隊長とした小隊だ

本来はナルコ隊の一員ではないが飛び道具を扱えるグランス軍曹も編成された

「馬車での移動となるけど、恐らく到着は翌朝となる。調査をするにはちょうどいい時間だろう」

「情報魔道士に転移して貰えばいいんじゃ」

「RPGのワープ機能なんかと同じでね、転移魔法はその場所を正確に把握してある必要があるんだよ。それに転移者もその場所をよく知らないと、酔ってしまうんだ」

「へぇ……不便なんだね」

「いや、習得してしまえば便利なんだろうけど。例えば、任務中に道具が尽きてしまった場合は買いに走る事が出来るし」

「ふむふむ」

「習得すれば?」

ラングレイさんが気楽に言う、しかし情報魔道士は少々ハードルが高いし上級職なので俺には荷が重い

適性が低いからといって一切の能力を習得が出来ない訳ではないけど、成長が遅い上に成長の天井も低い

「ま、まぁ……気が向いたら」

「幸平がワープを覚えてくれたら楽チンなんだけどなぁ〜」

「ですね……」

これはいつかラングレイさんに修行させられる事になりそうだな

「ラングレイさん、資格給制度作りません?あのスキルを持っているから基本給が+1000G!みたいな」

「それ考えたんだけど、オルディウス陛下が『あんまり軍事関係に予算を回すと他国に睨まれる』と仰られて……」

「えぇ〜……」

ファッキン!!国家公務員!!


———————


馬車の移動は寝心地が悪い

嶋村くんは体調のことを考えてか無理矢理にでも寝ていて、飯島さんはガタガタ揺れる馬車だろうと構わず寝ている

……けど、どうにも寝る事が出来ない

寝れずに困っている俺を察してか、ラングレイさんが話しかけてきた

「幸平、今の情勢をどう見る?」

「情勢っていうと……俺、まだあんまりこの世界の事も知らないのでなんとも」

「エルオーサ一家惨殺、ゴルニス・アルダインの暗殺……幹部であろうルファードにルグニカ001を失ったとはいえ、これまでの作戦は全て成功している」

「……ですね、実質あのゴルニスの護衛任務は失敗です」

「なあ幸平、夜明けの先導者はあまりに大人しすぎると思わないか?」

「ルファードとルグニカ001を失った事が大きいとはいえ、あまりに大人しいしルファードがリーダーとは思えないんだ」

「そうですね」

「こじつけ過ぎとは思うが、魔王がやった事は夜明けの先導者にとって都合がいいとも思うんだ」

「……どういう事です?」

「ハルデルク王国はかつてのメルドニア王国並に貧富の差が激しく、貴族たちの権力が強かった……それが、魔王という強烈なイレギュラーによって崩壊した。その結果、どうなった?」

「ハルデルクは確か、体制側と反体制側の紛争が勃発して今でも」

「ああ、エルネーベ国の仲介により、何とか沈静化をしようと頑張っているが今でも勢いは止まらない」

「俺は以前、国家間の軍事演習で七武聖のユーグレウスとアルタミリアと手合わせをした後の飲み会で話した事があるんだが……愛国心も強く、仲間想いの武人だと認識した。あの二人が何故魔族サイドに墜ちたのか、どうにも腑に落ちない」

「まさか、ラングレイさんは魔族や魔王の存在が夜明けの先導者と繋がりがあるって考えてるんですか?」

「……考え過ぎかもしれないけどな」


———————


空が明るくなりはじめる、どうやらもう朝らしい

結局なんだかんだで寝てしまった

「幸平、着いたよ」

「みたいですね」

ヤルヴェージュ遺跡、古代文明における住宅地らしい

詳しい事情は知らないけれど、古代文明の人達は地下で生活していたそうだ

確かに、ヤルヴェージュ遺跡はあちこちに浴槽らしきものだとかキッチンらしきものだとかそういったものが見受けられるためどことなく生活感がある

「……出来れば任務抜きで来たかったな」

嶋村くんはゆっくり見られないのを残念そうにしている、そういえば彼は廃墟マニアだった

「魔物を討伐して、冒険家の方々が調査を終えれば一般公開されると思うよ」

奥へ奥へと進んでいく、しかしあまりにも遺跡は静かだ

「……まさか、もうどっか行ってしまったんじゃ」

「魔物にはテリトリーがある、縄張りが……基本的にはそこから移動しない」

「例外はあるけど、魔物って基本的に肉食だよね?こんなエサが無さそうなところにどうして……」

俺は思わず言葉を遮断し、俺たち全員は辺りを見渡す

殺気を感じた、野生特有の剥き出しのビリビリとした殺気を

「油断するところを狙っていたな……!!」


———————


それぞれ背中を合わせての迎撃を行う、人間にとっての弱点といえば下腹部、みぞおち、心臓、顎、脳etcだが戦いにおける死角は背中だ

少人数対複数の相手で背中を見せることは死角を作るに等しい行為だ、背中から攻撃されたのではたまったものではない

だから、信頼出来る相手には背中を任せるのだ

「夏樹くん、エンチャント!」

「了解、セルフエンチャントするから同時に頼むよ!!」

「OK!!」

俺は炎を剣に宿し、嶋村くんは剣に向かって雷を放つ

「必殺!!魔法剣……」

「エーテルちゃぶ台返しィ!!」

「何なのその技名」

ラングレイさんは静かにツッコミを入れる

飯島さんはスピードを活かし、一気に敵陣を突破しラングレイさんは魔法で確実に敵を減らしていく


———————


「ふぅ……取り敢えずこんなものかな」

「一応、見て回りましょうか」

しかし、戦闘が終わったタイミングでラングレイさんに魔道通信が入る

「た、大変です!!首都メルドニアに向かって大量の魔物が接近中です!!」

「な、何だって!?こんなタイミングで……」

「嶋村くん、転移魔法だ!!」

「分かった、急ごう!!」


———————


慣れていないと転移魔法はやっぱり酔うけど、よく知っている場所だから少しはマシだ

「嶋村くんがいて助かった、状況は」

城門の警備兵に話を聞くラングレイさん

「飯島さん、戦闘へ合流する前に民間人の避難を最優先!グランス軍曹、防壁に上がって魔物の数を狙撃で減らしてください!!お願いします」

「了解、夏樹曹長。隊長っぷりが板についてきましたね」

「後輩に敬語はよしてください、グランス軍曹。ご武運を!」


———————


「魔物の群、数およそ1000!距離500、到着時間までおよそ3分!」

「街へは一匹たりとも通すなあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うおおおおおおおおおお!!」

力の限り声を張り上げる、こういう時は声が士気を左右するもの

「フル・トリプルフォース!!」

かけられる範囲でブースト魔法、体力が少々持っていかれるが集中力を解放するよりは遥かにマシだ

メルドニアには門が6つあり、それぞれに魔物の群が向かっていると通信が入った

最も数が多いのは俺が担当する北門なんだけど、他の隊は無事なのだろうか

しかし、門ごとに隊を編成するなどやはりおかしい

まるで人間が指揮を執っているような……

「魔王がやった事は夜明けの先導者にとっても都合がいいんだ」

ラングレイさんの言葉を思い出す……まさか

いや、でも……魔族や魔物と夜明けの先導者が繋がっている?

魔道通信を送らないと、ラングレイさんが余計な事を言うから気になっちゃうじゃないか

「ユン近衛隊長、聞こえますか!?」

「君は召喚されたとかいう……一体どうした!?」

「無事でしたか、オルディウス陛下はそこにいますか」

「ああ、これから万が一に備え地下シェルターに……だがどうしたというのだ?」

「これは自分の直感でしか無いのですが、戦っている魔物達に違和感を覚えたので……誰かに指揮されているような、囮と戦っているような」

「そういうことか、よく報告してくれた!!夏樹曹長、何人か兵士をこちらに……おや、聖騎士エルヴィン様」

エルヴィン様がオルディウス陛下につくのか、だったら心配する事は無いな

「ユン近衛隊長、夏樹幸平くんから通信かい?僕が来たからには何も心配する事はない」

「では、戦闘が続いているので通信はこれにて終了いたします」

「ああ、私も陛下を護れるよう全力を尽くそう」


———————


魔物は次々に湧いて出てくる、一体どうなっているんだ

魔物一体一体の質はそれほど高くない、けどRPGと違って何気ない魔物の一撃を喰らえば痛いじゃすまない

疲労感がハンパない、一体いつまで続くんだこの戦闘は

「諸君に降伏を命じる、直ちに戦闘を中断せよ」

聖騎士、エルヴィン様?聖騎士エルヴィン様の顔が通信魔法による映像で映し出されている

空には無数のエルヴィン様の顔が浮かびあがっており、かなり威圧的というか異様というか……空がエルヴィン様に支配されているかのような雰囲気だ

「エルヴィン様、誰に向かって降伏を命じているのか分かりませんよ」

嶋村くんの声、嶋村くんはエルヴィン様の元へ言っていたのか

まさか、人間が支配しているからといって魔物相手に降伏を促すなんてそんな事やるような馬鹿じゃないよなあの人

「おっと、そうだった。メルドニア国軍並びにメルドニア騎士、そして全国民に告ぐ。即刻戦闘を中断し、降伏せよ」

「な……!!」

何を言っているんだあの人、まるで自分の国に宣戦布告でもするつもりなのか

「君達の主君は既に倒れた、愚かな五大貴族の連中に愚かな議会の連中もね」

「……!!」

そういえば、魔物達が動きを止めている。斬っても抵抗してこない……やはり、彼が操っているのか

っていうか、主君が倒れた!?

「オルディウス・グラン・メルドニア……彼は優しい男だった。国王としては立派だったし人間としても嫌いじゃない……だけど、王族である事が彼の最大の罪だった」

エルヴィンが胴体と切り離されたオルディウス王の首を鷲掴みにして晒す

「へ、陛下!?」

「陛下が、死んだ!?」

「本当に、聖騎士エルヴィン様が……」

「エルヴィン様が……王殺しを……!?」

「それから、五大貴族の当主やら家族やら……取り敢えず世を腐らせてきた貴族どもは全員ギルティ!!後から見つけ出して、全員ギロチン!!」

手で首を切る、あのポーズをふざけた態度でとるエルヴィン

「というわけで、今日から俺が王様だから。助かりたい人間は俺のところへおいで、下民とか庶民とか大歓迎!!能力次第では官僚にしてあげよう!!……というわけで、ラングレイ・アルカストロフに夏樹幸平くんに飯島恵さん……君たちの負けだよ。散々俺たち『夜明けの先導者』を邪魔してくれた君達は、俺の国に入れてあーげない!!」

「エルヴィン様、あんまりそういう態度は国民の反感を招くのでやめてください」

エルヴィンを嗜める嶋村くん、どうしてだ?

どうして君が、そんなところにいるんだ?

俺と君は友達のはずなのに、どうしてテロリストの味方みたいな事をしてるんだ?

「和也、長年の計画がようやく叶ったんだよ?少しは楽しませてよ〜」

駄々っ子みたいにごねるエルヴィンに、それに呆れる嶋村くん

「夜明けの……先導者?嶋村くんと、エルヴィン様が……?」

そういえば、どうして嶋村くんとエルヴィン様が急いで魔王を倒したんだ?

魔王は、魔物が作り出した存在だった……

エルヴィン様はどうして、首都を離れてあれこれ好き勝手やっていたんだ?この国のために働く事を理由に……

言葉が出ない、裏切られた

力が抜けて膝をついてしまう、まさか嶋村くんまでが

ラングレイさんが魔族と夜明けの先導者の繋がりとか考察していて、魔物の不審な動きにまで気付いておきながら……!!

この人なら大丈夫だと、聖騎士だから安心だと……俺が、オルディウス王を殺してしまったようなものだ

嶋村くんまで、誑かして!!

「エエェェェェルヴイイィィィィィィィンッ!!」

怒りの叫び、夜明けの先導者……エルヴィン・ユークリッド

ミラちゃんの家族を殺し、心優しいオルディウス王を殺し、ハルデルクを蹂躙した男

「絶対に許さない……殺してやる!!」


続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る