第19話 魔王

カルニン城は混乱している……ように見えた

突入した時点で城内は大混乱に陥っており、すでに荒らされていた

「指揮系統が混乱している……?」

「嶋村くんが命令違反した事がプラスに働いたみたいだけど、見つけ次第お説教しないと」

「ですね……!!」

とはいえ、嶋村くん一人だけでここまで数を減らせるものなのか?

突破しやすくなったのはありがたいけど

「各小隊、フロアをそれぞれ制圧!!魔王討伐部隊は俺に続いて!!」

「了解!!」


———————


聖騎士エルヴィン、剣術の腕は今まで会った誰よりも上だ

何度か戦ったローブの男よりも、遥かに強い

どんなに魔族が攻めてきても涼しい顔で躱して、確実に急所を突く

戦い方にこれといった派手さは無い、だけど確実に避けて確実に当てる

余計なクリアスも消費したりしない、この男はふざけているようだけどとんでもない実力者だ

「嶋村くん、ラングレイから聞いていたスペックと違っているけどキミ……普段舐めプしてた?」

「舐めプ出来るほど、余裕ある生き方してないですよ」

「本当は今まで、実力隠してたとかさ」

「……肯定も否定もしませんよ」

「じゃあ、肯定と受け取ろう。その理由は」

「人間はライオンとは違うんです、いちいち全力で突っ走っていたらスタミナ切れを起こしますし……もし僕の事を知ってる人間と戦うことになったら油断してくれるでしょう」

「……なるほどね〜」

「全力出す前に相手が倒れちゃうってのもありますがね」

「分かる〜」

この人の、このいちいちウザったい態度はどうにかならないのか


———————


魔王城の奥へ奥へと進んでいる時、不意に殺気を感じるとラングレイさんが「守護防壁」を発動して攻撃を無力化する

「ふぅ……危ない」

「流石ですね、ラングレイ・アルカストロフ」

「第二撃が来るぞ、備えろ!!」

第二撃というか、まるで見境の無い見えない斬撃が飛び交う

殺気を感知できない人間からしたらカマイタチが本当に現れたかのような光景に見えるだろう

恐らく閃空の乱れ撃ちだろう、集中力を発動しないとまともに閃空を撃てない俺からしたら羨ましいくらいの攻撃だ

しかし、まったく情け容赦がない、というか見境が無い

辺りの魔物、魔族達まで真っ二つに斬り裂いている

「そこだ!!」

ラングレイさんが閃空で迎撃する

「ふんっ甘い!!」

クリアスが収束、これはチャージ無しで魔法が来る

風属性の攻撃、トルネードアロー

「クリアスシールド!!」

リオウ大佐がこれまたチャージ無しでシールドを展開して無効化する

「こいつ……物凄い速度で動いている……!!」

まともに感知する事が出来ない、いくらなんでも速すぎる

「カサカサカサカサと……ゴキブリかよ!!」

「その喩えやめてよ!!」

飯島さんが拒否反応を起こす

ラングレイさんやリオウ大佐、ユーリ少将はイマイチピンと来ないところを見るとゴキブリはこの世界にはいないようだ

もっと気持ち悪い巨大な虫はいるようだけど

「飯島さん、チャージ有りのアクセルならあいつに追いつける?」

「やってみる、チャージ無しって効果時間が長いんだよね?」

「3分くらい保つ」

「じゃあ、お願い!!」

「クリアスの収束か……スペックブーストなど、させるものかい!!」

女の声、このやたらと速い女の声みたいだ

集中力を使って回避しようとすると、ラングレイさんとユーリ少将が前に飛び出し攻撃を受け止める

「集中力はまだ温存!!ここは俺と、ユーリに任せて!!幸平はチャージを!!」

「り、了解!!」


———————


「飯島さん!!多重ブースト、アクセル、ストライクフォース!!」

「来た……!!アクセルだけじゃなく、肉体活性の魔法!!これなら互角に……!!」

私はあの速い女に向かって突撃を仕掛ける

身体が思い通りに動く、今の私は誰よりも速い……追いつける!!

「地走烈破!!」

地面に斬撃を走らせるスキル、地面を巻き上げながら斬撃が飛んでいく

「遅い!!」

ビュンッ!!と風を切り、私の目の前に速い女が飛びかかって来るが私はそれを感じ取り剣で止める

「思っていたより、不細工だね……!!異世界人!!」

「……アンタよりはマシっ!!」

あの女、私のハートに火をつけてしまった


———————


「飯島さん!!ブーストが切れる前に魔法をかけるから、覚えておいて!!」

「分かった!!」

夏樹くん、すっかりアシスト担当になってしまったけどアクセル無しじゃ私はあの速い女に勝てない

本体は一体だけのはずだけど四方八方から攻撃が来るから、感覚を研ぎ澄ませなければいけない

「異世界人!!名前は!!」

「飯島恵」

「そうか、墓に名前を刻むくらいはしてあげるよ!!」

「そういうアンタは!?」

「アルタミリア・メルニック」

「アンタがアルタミリア……頭の片隅に置いといてあげる!!」

身体を加速させるのはいいけど、摩擦がキツい

ビリビリと日焼けのようにジワジワと身体が痛む

お互い、長期戦は出来そうにない

アルタミリアも高速機動をするために殆ど防御を捨てた格好をしており、露出が高い

しかし、アルタミリアは随分とスレンダーなボディをしている

「胸のサイズは私が勝ってるみたい……!!」

「何言ってるの、サイズよりも形でしょうが!!恵、アンタだって言うほど大きくはない!!」

「まだ、17歳、発育途上!!」


———————


「飯島さんとアルタミリア……凄い低レベルの言い争いしてない?」

「全く、顔の美醜や胸の大小で言い争いをするなど……」

ユーリ少将は少し呆れているようだが、ユーリ少将はかなりスタイルが良くルックスも凛とした顔立ちな上に目鼻立ちもくっきりしている美人だ

彼女があの言い争いに言及したら、白熱してしまうような気がする


———————


2分30秒経過、夏樹くんがブーストの準備をしてくれている

「チィッ!!」

「夏樹くん!!」

リオウ大佐が火球を拡散させて飛ばす上級魔法、フレイムビットバーストを撃つとアルタミリアは被弾しバランスを崩すけど機動性は落ちていない

「フレイムビットバースト!!」

「おのれ……」

「今だ!!トリプルブースト!!」

「トリプル……!?」

「幸平、チャージ時間を長く使ったのは……」

「三重チャージのためです、こんな事もあろうかと練習していたんです。加速力、肉体活性、感覚強化のトリプルブースト……上手く使ってね」

「ありがとう、夏樹くん!」

夏樹くんは生き残るために見切りを練習して、剣術を極めて、もっと強くなるために治癒魔法を覚えはじめて……ここまで来た

戦闘のの専門家である私が、こんなところで負けるわけにはいかない

「何をボサッとしている……恵ィ!!」

「見切った!!」

最高速度でアルタミリアの背後を取り、斬撃を叩き込む!!

「瞬光……」

「遅えよ!!」

反応してきた、それも折り込み済み

「更に、瞬光……!!」

カウンターの攻撃を回避し、更に後ろに回り込む

「クッソォー!!」

それでも反応してきたけど、今のやり取りの間に剣気を溜めてある……これで決める!!

「アルタミリア、アンタにもう勝ち目は無い!!」

「瞬光閃空破!!」

受け止めた剣ごと、アルタミリアを斬り裂く!!

「アンチインパクト……!!」

本能的にか、瞬時の判断でアンチインパクト……衝撃を緩和する魔法だ

しかし、それでも腹部から大量に出血している、きっと致命傷のはず

「ごふっ……!!」

アルタミリアは吐血し、地面に倒れこむ


———————


「アルタミリア、私の……ううん、私たちの勝ちだよ」

「ああ、そうだ……さっさと先に進め……いや、異世界人の男!ユーの、ユーグレウスの……最期は……どうだった?」

突然話を振られる、そうか……アルタミリアとユーグレウスはそういう関係だったのか

「魔王を倒す事は出来ないと、言っていた」

「私のことは、なにか言っていなかったか?」

「いいや、なんとも……」

「そう、か……あれだけ尽くしたのに、冷たい……じゃ……ないか、ユー……」

アルタミリアが視線を見失い、瞳孔が開く

どうやらアルタミリアは事切れたらしい

「先を急ごう」

ラングレイさんは歩き始める

恋愛経験なんかまともにない、だけどアルタミリアは可哀想な女の人に思えた

最期くらい、アルタミリアの事を思い出してやれば良かったのに

「幸平、本当はユーグレウスはなんと言っていた?」

突然ユーリ少将が話しかけてきた、思いきり武人といった雰囲気なのでどうにもこの人と話すのは緊張する

「ええと……世界の正しい姿のために」と、言っていました

「理想に殉じた、といったところか……男としては正しい、が……そんな男に惚れた女は、寂しいものだな」

「……なんか、ちょっと考えちゃいますね」

「好きな人が出来たら、出来るだけその子の事を大事にしてやるんだぞ」

「はい」


———————


カルニン城は人間が治めていた頃の名残が大きく、思っていたよりも構造が単純で助かる

そんな時、激しい揺れを感じる

「クリアス反応!!」

「まさか、嶋村くんが!?」

「急ぐぞ!いくらなんでも無謀だ!!」


———————


「グガアアアァァァァァァァァ!!」

巨大なドラゴンの咆哮が玉座の間で轟く、魔王ゼクシオンこそがその巨大なドラゴンだった

魔王というからにはさぞ知的なのかと思いきや、まさかの知能ゼロとは

「エルヴィンさん、魔王って言葉を話せないんですか?」

「みたいだね、魔族ってこんなのに尽くしていたって事になる」

「まあ、それじゃ容赦無く叩き伏せようか」

「了解です」

地水火風、全ての属性を秘めたブレス……とんでもないクリアスのエネルギーだけどチャージがある分躱しやすい

「グラビティプレス!!」

地属性魔法、まずは空を飛べないようにしてやる必要がある

人間は空を飛べるようには出来ていない、なので重力を強めてゼクシオンを落とす

「OK、和也……重力を解除して」

「了解」

「剛・烈破刃!」

力任せに剣圧を叩きつける攻撃、ゼクシオンは見たところ硬い甲殻に覆われている

なので、それを叩き割る必要があったんだろう

ゼクシオンの降格にヒビが入った、ところにゼクシオンに剣を突き刺す

「和也、多分こいつ今からオーラを解放するだろうからそれを封じて」

「はい、フリーズボディ・バインド!」

ゼクシオンは魔王というだけあって、凄まじい抵抗だけど本気を出せばなんとか抑えこめるくらいだ

「地走烈破!!」

裂け目で地走烈破……つまり地面を走る斬撃を走らせる事で甲殻を一気に破壊していく

「こんなもんかな……じゃあ、和也、内側から一気に焼いちゃおう」

「ギガブレイズ……!!」

超極大火炎魔法、これならゼクシオンの巨大な身体を一気に焼き払う事が出来るだろう

「もうそんな魔法使えるんだ、すっげぇ」

「はいはい……じゃあ、どいてください」

ゼクシオンへ火炎をぶつけると、ゼクシオンの身体全体を焼き尽くす

「ゴガアアァァァ!!」

ゼクシオン、決死の反撃を試みる

先ほどとは桁違いの威力のブレスを吐こうとするが、それをエルヴィンさんが許さなかった

ゼクシオンの頭部へジャンプし、剣で斬り裂いた

「天翔斬!」

ゼクシオンの頭部が爆発し、身体の機能が詰まった頭部を失ったゼクシオンは動かなくなった

「さてと、ゼクシオンのコアをいただこうか

心臓部にあるコアをエルヴィンさんが引き抜く、虹色に光る巨大なクリアスのようにも見えるが

よく確認をしてからエルヴィンさんは懐にしまい込む

「これで僕の目的は果たしたよ、さっさと帰ろうか」

「はい」


———————


玉座の間に辿り着くと、そこにはあり得ない光景があった

嶋村くんと、金髪の美少年が立っており

頭を失った巨大なドラゴンが焼け爛れ、絶命していたのだ

「嶋村くん……と」

「エルヴィン様!?」

ユーリ少将が声を上げ、ラングレイさんが顔に手を当てる

「やあ、遅かったねラングレイ」

「ま、まさか……たった2人で?」

「そう、僕と和也の剣と魔法のコンビネーションで……ね?」

「はい、そうですね」

何やら嶋村くんは面倒くさそうにしているが、エルヴィン様は苦手なタイプなんだろうか?

「だがまさか、魔王をたった二人で倒すなど……」

「ああ、流石聖騎士エルヴィン様と嶋村くんだ」


———————


魔王ゼクシオンは討ち倒され、魔族達に投降を促すと魔族達は次々に抵抗をやめていく

どうやら魔族達は魔王がいないとエネルギーが枯渇して、生命活動が出来なくなるらしい

魔王という生命の源が討ち倒されたので、そう遠くない未来に魔族は絶滅してしまうのだ

少し残酷なように思えたが、これでこの世界の人間は人間らしく生きていけるのだろうか?

一方、魔物という存在は人間や他の生物を食料としているので減ることはないらしい

「と、いうわけで嶋村くん。君は軍人ではないし魔王を討った功績から不問とするけど、今後軍と行動する場合は勝手な行動は慎むこと!いいね」

「分かりました」

嶋村くんはメルドニア王国に行く事を望んでいるらしい

リンド大尉とエルネーベ国軍の一部はハルデルクの再建を目指して行くらしい

ハルデルクは政治体制さえも破壊されてしまい、下民達からは「アンチ貴族」の機運が高まっているらしく内紛が避けられない状態だが

エルネーベのテリウス王は崩壊した元独裁国家を建て直した実績があるので、きっと大丈夫だろう


———————


ユークリッド邸の地下に僕は通される、薄暗くあまり掃除が行き届いていない印象を受けたが

普段は使われない、つまり機密性の高い通路なのだろう

しかし、意味深に様々な人物の肖像画がかけられている

「エルヴィンさん、この肖像画は?」

「歴史に埋もれていった偉人達さ」

「……へぇ」

「興味なさそうだねー、まぁしっかり働いてくれたらいいよ」

ケラケラと笑うエルヴィンさん、彼も信念だとか正義だとかそんな事はあまり考えていないだろあに

そうこうしている間に通路再奥の扉に辿り着く

「それじゃ、入って」

「失礼します」

中はは会議室のようだった、大きな円状のテーブルに個性豊かな人間達が座っている

「……エルヴィン、彼は?」

「僕たちの新たなる同志となる嶋村和也だ、魔法が強い」

説明がなんか頭悪い

「ユーグレウスにアルタミリア、彼らはラングレイ達に討たれてしまったか……本来ならば、彼等も計画に参加する手筈だったのだが」

ユーグレウス、アルタミリア……魔王に従った人間達だが貴族に支配されている社会を破壊し

そして、魔王を打ち倒すことでハルデルクを解放し新たなる秩序を作り上げるつもりだったのだ

「でもまぁ、手筈通りコアが手に入ったんだから問題無いよ」

「黒髪……?」

「ああ、彼女も数年前に転移してきたんだ。地球の科学力で我々に協力してくれている……そして、彼女が生体兵器のゼクシオンを作り上げたんだ」

「ま、まさか……あれを!?」

「嶋村和也って言ったっけ?私は城戸桜、よろしくー」

「ああ、よろしく」

「桜ちゃんって呼んでいいよ」

「……よろしく、城戸さん」

椅子が1つ空いている、誰かが欠席しているのか?

「そこは……あんまり気にしないでいいよ、彼女も忙しい身だから」


———————


「んー、そろそろ治癒魔道士としても頭打ちですね〜」

「幸平、攻撃魔法を習得してみるのはどうだ?」

思えば、戦士として戦ってきた人間の中には攻撃魔法を織り交ぜながら戦っていた人間が多いような気がする

それから、魔法剣のエンチャントも全部自己完結出来れば単騎での火力も期待出来る

「そうですね」

「よし、手続きしておくよ」

「ありがとうございます」

ハルデルクでの戦いも一先ず終わりを迎えた、夏樹幸平は軍曹から曹長へと昇格

飯島さんも、何でも屋を立ち上げるらしくこれから忙しいとかなんとか

それから時は流れ、俺たちは取り敢えずの平穏を享受していたが

ある日、メルドニア王国の平和は突如として崩れ去る

だが、そんな事も知らない俺たちは代わり映えの無い日々を送ることしかしなかった


続く

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