第18話 刻まれていく願い
「そんな、リン曹長が……!?」
頷く、飯島さんが膝をつく
魔王に次ぐ脅威だったユーグレウスを討った事、最期には剣気を習得した事
出来る限りの事を仲間達に伝える、彼の想いをみんなに伝えなければいけないだろうと思ったから
「正しく生きようとした人間が、正しく生きられる世界……ですか」
ナルコ伍長が言う
「僕が育った教会も、正しく生きた人間が幸せになれる社会を目指すという教えを説いていました。彼も、僕と志は同じだったんだ……」
「生まれや立場は違う、だけどリン曹長も俺たちもラングレイさんも……願いは変わりません」
「そうですね……」
———————
雨が降っている、そしてその雨の日に何人かの死者と共にリン・スティンバーの葬式が執り行われた
リン曹長は、前科者だったという過去から色んな人間から疎まれていた
しかし、彼はそんなもの一切気にせず任務に打ち込み……彼がいると現場が明るくなると認められるようになり
やがて、誰もが認める部隊のムードメーカーになっていった
彼を慕う人間は少なくない、俺もナルコ伍長も例外ではない
「バカヤロー!」なんて泣き叫ぶ人間もいる
「リン曹長はこの日、4階級特進で少佐になるそうです」
「4階級特進ですか」
「ええ、任務に殉ずる事は軍人としての最大の誉れであるということで2階級特進……ユーグレウスという僕たちにとっての脅威を討ち取った功績で2階級特進です」
「少佐かぁ、一気に佐官ですか」
「ええ……」
「幸平、どうして死んだ軍人が2階級特進するか知っているか?」
グランス軍曹……いや、今日付で曹長へと昇格したグランス曹長が俺に問う
「軍人として任務に殉ずる事は最大の誉れと、ナルコ伍長から」
「それだけじゃない、いや……軍人として死ぬ事が誉れだなんて、そんな事があってはいけない。殉職すれば退職金として莫大な金が家族に振り込まれる……軍人とは大切なもののために戦うからな。そして……それだけじゃない。悔しくないか?共に戦った人間が自分を追い越して上官になるってのは」
「……そうですね」
「幸平、中佐になってリン少佐を笑ってやれ。俺は生きてお前を追い越してやったぞ!!ってな」
「……はい!!」
雨だけじゃない、涙が視界をぼやけさせる
リン・スティンバーは立派に生きて戦い抜いた
俺を守り抜いてくれた、だから今度は……俺が誰かを守る番だ
そのために命を賭ける、だけど俺は死なない
生き抜いて、そして大切なものを守り抜く
「祖国のため、正義のため、仲間のために散っていった我等が戦友に……剣を捧げ!!」
ディフェンダー、俺の相棒を空高くに掲げる
リン曹長……いや、少佐。俺は戦う!!
———————
地下基地でお茶を飲んでいると、ナルコ伍長が声をかけてきた
「ナルコ伍長……」
「もう、伍長じゃありません」
「昇進されたんですか?」
「ええ、軍曹です」
「じゃあ、俺と同じ階級ですね。よろしくお願いします」
「本当は曹長にして、隊長の任務に就かせたいとか言われたんですが2階級の昇進は縁起が悪いって事で取り敢えずの軍曹です」
「じゃあ、すぐに追い抜かれますね」
「幸平くんもじきに曹長に昇格すると思いますよ」
「そうだと良いんですけどね」
———————
「残る脅威はアルタミリア、魔王に……魔族達の精鋭か」
「魔王ゼクシオン……魔族の中でも次元の違う強さを誇る魔族の王」
「魔王か……どのくらいヤバいんですか?」
「レベルに換算すると80は下らないと言われている、魔法・武術の強さは次元が違うとも……聖騎士エルヴィン様と俺が二人がかりでも勝ち目が無いだろう」
「とんでもないな!!どうやって攻略するんですか」
「魔王を討つなら、幸平と飯島さんと……出来るなら嶋村くんの力も借りたいところだが……」
「彼は魔王城へと向かっているんでしたね」
「緊急通信!!エルネーベ国軍のホワイトホーク号、メルドニア・フェニックス2号が領空に入ったそうです!!」
「こちらに誘導してくれ」
———————
ホワイトホーク号を率いていたのは、エルネーベ国軍の「リオウ・メランド」大佐
そしてメルドニア・フェニックス2号には「ユーリ・エルアーダ」少将だ
「まさか、ハルデルクから勇者を取り戻す任務が魔王討伐任務に化けるとはな……ラングレイ一等騎士様」
ユーリ少将は女性でありながら数々の武勲を立てて成り上がった、女性の憧れの的らしい
メルドニアの首都とは反対側の大都市、アランシスを任されているとか
「ああ、だけど魔王を討つチャンスなんか今しかない」
「まったく……貴方は冷静に見えて無茶をやる」
「お久しぶりです、ラングレイ一等騎士」
「リオウ大佐、お久しぶりです」
リオウ大佐は剣一つで成り上がったという空気感はなく、どちらかというとインテリな雰囲気を醸し出している
「彼が、飯島恵さんと……夏樹幸平くんかな?」
「は!夏樹幸平軍曹です」
敬礼をすると、笑顔で「敬礼はいい」と言う
「君はメルドニア国軍だろう、敬礼はいいよ」
「飯島恵です」
「そういえば、異世界からやってきた者は3人だと聞いたが」
「え〜と……それは」
———————
「首都カルニンに無断で向かっているだとぉ!?」
「何という事だ……」
「だが、人間の足での移動を使った移動だからバリアを解除して仲間と合流した今のタイミングでの合流考えている」
「呑気な……!!」
ユーリ少将は呆れ返っている、軍人としてはこういうリアクションをするのが普通なんだろうな
「では、作戦会議をしようか。嶋村和也くん奪還作戦及び魔王討伐作戦を……」
———————
「魔王との戦いは少数精鋭で行きたい、無理に数の暴力で攻略しようとしても戦闘の効率が落ちて無駄な犠牲が増える」
「異世界の戦士達のスペックを教えて欲しい」
「飯島恵、近接戦では俺とそう遜色ないかパフォーマンスによっては俺以上の働きをする。格闘家と戦士の修行をマスターしておりブレイカーとして活躍している」
「なるほど、十二分に戦力になるな……短期間でここまで腕をあげるとは」
「次に夏樹幸平、素質としては尖っていてありとあらゆる能力が平凡だけど時として思わぬ能力を発揮する」
「思わぬ能力?」
「集中力の効力が、200%以上だけど数十秒しか保たない上効力発揮後にパフォーマンスが大きく落ちて肉体に負担がかかるんだ」
「使えるのか使えないのか……」
「だけど、アーマードベアの単騎撃破や夜明けの先導者の幹部……ルグニカ001を撃破している。それに、彼は剣気をマスターしており瞬光斬や閃空斬といった上級スキルもマスター済だ。それに、瞬間的とはいえ……戦士としてはユーリ、君を超える能力を発揮する」
「なんと……!!」
「彼は魔王戦の切り札だ、大事に使いたい」
俺が切り札……とんでもない話になってきたな
ラングレイさんも冗談を言っている風ではない、ヤバい……緊張してきた
「続いて、ここにはいない嶋村和也だけど……魔法に関してのスペシャリストだね。戦闘における火力が凄まじくアシストにも回れる……それに剣士としても修行を始めたらしい」
「夏樹幸平、君は魔法のエンチャントを使えるか?」
「はい」
「どれほどの経験がある?」
「えぇと、嶋村くんの全力の火球を受け止めてスライムマザーを撃破……それから地水火風一斉に受け止めて放った事があります」
「それは集中力無しか?」
「集中力ありですね」
「なるほど……」
———————
それから、しばらく会議は続き翌朝出撃するという事になった
「幸平、飯島さんは取り敢えず寝ておく事……少しでも疲れを取るんだ」
「分かりました」
「突入したら後戻りは出来ないからね」
確かに、ゲームなんかと違ってラストダンジョンに突入してからサブイベント回収……とはいかないもんな
何故かラスボスがいるエリアに突入したり、ラストダンジョンでとんでもないイベントが発生してから攻略出来るサブイベントなんかがあるけど……あれってどうなのよ
まぁ、ラスボスがいるエリアに突入してから「逃がさん……貴様だけは……」とかいって閉じ込められても困るんだけどね
「嶋村くんって、なんかヒロインみたいだね」
「確かに、勝手な事やって勝手にピンチに陥って……こっちに来てからなかなか会えなかったもんね」
「魔王を倒そう、そして嶋村くんを助けよう」
「うん!!」
———————
作戦開始直前、魔王討伐戦という事で兵士達の士気は極限まで高まっていた
世界を脅かす魔王との戦いは、歴史に残る戦いだ
それどころかこの戦いに敗北すれば、人類がどんな運命を辿るのかも分からない
魔族に隷属するだけの生物に成り下がる可能性すらあるのだ
「緊張していますか?幸平くん」
「ええ……俺が住んでいた国は、神様への信仰心ってのが薄いんですよ。東の神様のお祭りをパーティ感覚で楽しんだかと思ったら、自分の国の神様で年を越す……なんて事が当たり前で」
「嘆かわしい」
「でも、今だけは……神様に祈りたい気分です」
「幸平くん、神様は本気を出した人間に手を差し伸べますよ」
「そう、信じたいです」
メルドニア・フェニックス号内にチャイムが鳴り、ラングレイさんの声が響き渡る
「勇敢なるメルドニア国軍の兵士、並びに勇敢なる協力者達よ!!我々はこれより決戦の地に赴く!!この戦いは間違いなく厳しい戦いとなる、我々はこの戦いにおいても犠牲者を出してしまう事になるだろう。
ただし、メルドニア国軍もエルネーベ国軍の兵士達にも決して死ぬ事を許さない!
諸君らは国の宝である、どれだけ高い金を出しても買う事のできないかけがいのない命なのである!!
私は人の命を軽んじ弄ぶ魔王に見せてやるつもりである!!人の命の炎、人の命の価値、人の無限大の可能性を!!
今こそ立ち上がる時だ、これより人類による最大の反抗作戦を開始する!!」
———————
「エンジン点火、確認!」
「全フローター起動確認!」
「反重力クリアスジェネレーター、出力良好!!」
「安全装置、解除確認!!」
「メルドニア・フェニックス、発進!!」
———————
どれほど歩いただろうか、恐らく目的地はそう遠くないはずだ
「魔王のコアを手にしろ、そうすれば君の大切な恋人は助かるぞ」
僕は一刻も早く、魔王のコア・クリアスを手にしなければいけない。悠里の命を救う為に……
「君は、こんなところで何をしているんだ?」
「あなたは……?」
「俺かい?俺は……エルヴィン・ユークリッド」
「エルヴィン……聖騎士エルヴィン!?」
「そういう君は黒髪……異世界の人間だね?夏樹幸平……はラングレイと行動を共にしているはずだから?君は嶋村和也だね」
「貴方はどうしてここに?」
「諸国漫遊の旅……じゃ答えにならないかな?」
「絶対に嘘ですね」
「話を戻すけど、どうして君はこんなところにいるんだい?まさか、一人で魔王を倒すなんて言わないよね?」
「僕にはやるべき事があります、そのために魔王を倒す必要がある」
「偶然だね、僕も魔王を倒したいと思っていたんだ」
エルヴィンはあっけらかんと笑いながら話す、なんかこの人胡散臭いな……
「魔王に用がある……の間違いではないですか?」
「そういう君こそ、魔王に用があるんじゃないのかな?魔王のコア……の間違いかな?」
「……何を企んでいるんですか?」
「そういう君こそ、何を企んでいるのかな?」
「はぁ……素直に話しますから。エルヴィンさんも素直に話してもらえます?」
———————
焚き火で狩りたての野生の魔物、ウィングキャットを焼く
割と可愛い外見なので気が引けたが、ウィングキャットの肉は柔らかく癖が無いので高級食品として取り引きされている
エルヴィンはそれを串焼きにしており、焚き火にあたりながらムシャムシャと食べ進める
なんていうか、高貴な雰囲気で整った顔立ちなので似合わない
「恋人を生き返らせたい、その目的を果たすために魔王のコアが必要と」
「それで、エルヴィンさんはどうして魔王のコアを狙っているんですか?」
「あれ、危険だからね〜。人間の命を無限に再生したり産み出したりできる代物だから、管理しないと」
「エルヴィンさんみたいなよく分からない人が管理する方が危険なんじゃないですか?」
「言うねえ〜」
「……本当の目的は?」
「君はさ、この世界をどう思う?」
「どうって……」
「力ある人間が力の無い人間を蹂躙する、才能があってもその力を存分に発揮出来ないでいる」
「僕の世界もそう変わらないですよ」
「僕は容姿端麗、文武両道、剣も魔法も芸術の分野においても優秀な成績を残している」
「……」
「和也、そう露骨にこいつうっぜぇ〜って顔するのやめてよ」
ってか何でもう呼び捨てにしてるんだこの人
「和也、協力しないかい?一緒に魔王を倒そうよ、そうすれば君の恋人を生き返らせてあげよう」
「……いいですよ」
「契約成立だ」
———————
ズガッ!!ズガガガガッ!!ズサァー!!
安定の不時着、このメルドニア・フェニックス号は改善の余地があるな……
「よし、カルニン城に突撃だ!!行こう!!」
「待ってください、何か様子がおかしい……」
城門はすでに開かれている、誰かが既に突入した跡がある
「まさか……!!」
嶋村くんは既に魔王を倒すために奥へと向かったというのか……
続く
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