第16話 兵士の意地

身体がバラバラに吹き飛んだかのような感覚、虹色に煌めく衝撃波

一瞬で人の身体の形を失ったデカルト・バルヘナー

目を開き、手を伸ばすと火傷で爛れた手が見えた

「死んだ……かと思った」

「死んだよ、幸平は……2回目?」

「そうなんだ、じゃあ2回目だね」

ミラちゃんが僕の顔を覗き込むとにっこり微笑む

「蘇生も上手くいかない事があるからね、目を覚まして安心したよ」

「ミラちゃん、無事だったんだ」

「通信を傍受してた通信魔道士達がラングレイさん達に連絡してくれて、予め巨大なマジックシールドを張ってたんだ。私も手伝ったんだよ?」

「そうなんだ、お疲れ様」

「ただ、バルヘルナ村は無くなっちゃった」

「えっ?」


———————


ミラちゃんに応急処置として治癒魔法をかけてもらい、傷は一通り治してもらった

とはいっても歩くのがやっとで「本当は歩くのもダメなんだからね!」と言いながら松葉杖を貸してもらった

「ラングレイさん!」

地面には人工的に作られた大きな穴が開けられており、そこに人間のパーツを放り込んでいく

完全に焼けて骨だけになってしまっているもの、女性の遺体に、赤ん坊……老人まで

「これは……」

「葬儀だよ」

「葬儀……」

これが、葬儀なのか?

人間を葬るというにはあまりにも事務的かつ作業的なものでそれを見て泣き叫んでいる人がいた、兵士を罵倒する人間がいた

バルヘルナ村を解放した時は、喜んでくれた

だけど、バルヘルナ村を解放した途端にバルヘルナ村はこの世界から消滅した

跡形も無いわけではない、人間だって生きてはいる

だけど、これを村と呼ぶにはあまりにも原形をとどめていない

折れ曲がった黒く焼け焦げた死体が穴に放り込まれると、小さな子供が「お母さん」と泣いていた

「少し話した事がある。綺麗な女性だった」

「はい」

「彼女は爆発が起きた時に、子供を抱きかかえて爆発から守ったそうだよ」

「……はい」

「幸平、俺たちは間違っているんだろうか?俺たちが……あの美しい母親を殺してしまったんだろうか?」

ラングレイさんの声は震えていた、眼には涙を浮かべている

「間違っているだなんて思いたくありません、それに……殺したのはあのローブの漢だ!!」

「幸平……」

「デカルト・バルヘナーは魔族に取り入って自分だけが助かろうとした、でも悪辣な貴族の息子だという理由だけで玩具のように……そうだ!!デカルトだって人間なのに!!許せない……絶対に許さない……!!」

「許さないのはお前達もだよ!!」

頭にレンガを投げつけられ、血が地面に流れ落ちる

きっと投げつけたのは生き残った住人だろう

「幸平!!大丈夫か!?」

「ラングレイ・アルカストロフ!!それにメルドニア王国群!!お前達のせいで、俺たちの家族は殺されたんだ!!お前達のせいで!!」

「やめるんだ!!彼は君たちを助けようと!!」

「助けようと?いいや、俺たちはむしろ魔王『様』に感謝しているくらいだ!!貴族共にいじめられなくなったからな」


———————


ミラちゃんに頭の治療をしてもらう、幸い頭の淵を軽く切ったくらいで脳へのダメージは無いみたいだ

「全く、傷を消してあげたのにいきなり頭に怪我をするなんて……」

「ごめん……」

「ラングレイさん」

救助活動や食料の配布をし終えた飯島さんが戻ってくる

「もう、帰りましょうよ。こんなところにいたって、みんな傷つくだけです」

「陛下と相談してみよう……流石に、疲れたよ俺も」

ラングレイさんがそうボヤくと、魔道通信が入る

「幸平、リンド大尉だ」

「リンド大尉……どうされました?」

「そっちに和也はいないか?」

「嶋村くん……?」

そういえば、目を覚ましてから姿を見ていない

基地の手伝いをしているかと思ったんだけど、違うのかな

「嶋村くんなら基地にいるんじゃないのか?」

「いいや、それがいないんだ。魔道通信も使えない」


———————


「駄目です、繋がらない」

「嶋村くんは一体何をしているんだ……」

嶋村くんはわりとマイペースなところはあるけれど、こんな状況で連絡も取れないなんて状態はあまりにもおかしい

「嶋村くんのクリアス反応は?」

「それが、薄ぼんやりとしていて……おおよその位置は分かるのですが」

「では、そのおおよその位置は?」

「首都、カルニンの方向かと……」

「し、首都ォ!?」


———————


「ラングレイさん、和也の野郎は首都に向かっているそうじゃないですか」

「そのようだ」

「首都に殴り込みをかけませんか?そこには魔王がいるんでしょう……俺たちはもう我慢なりませんよ!!」

リン曹長はかなり苛立った様子だ

どこかに怒りをぶつけないとやっていられない、ハルデルクの人間の在り方を変えてしまった元凶

それを討ちたいという気持ちは俺も同じだ

「リン曹長、お言葉ですが今の人数で首都を落とすのは自殺行為です」

「ナルコ伍長……でも!」

「いずれは首都を落とすつもりだ、だがそうするには増援を呼ぶ必要がある上に首都カルニンのハルデルク城には強力なバリアがある」

「またバリアかよ!!」

「増援は既に要請してあるよ、だけど時間が必要だ」

「あの、ラングレイさん。増援を呼んだら首都の守りが薄くなっちゃうんじゃ……その、夜明けの先導者とか来たらマズイんじゃ」

「問題ないよ、要請したのはメルドニア国王だけじゃない……エルネーベ国軍にさ」


———————


エルネーベ国軍の到着は早くて3日後だ

現在、エルネーベ国を治めているのはオルディウス国王の弟であるテリウスさんだ

オルディウス国王が要請したところ、快く増援要請を承諾してくれたらしい

その間に俺たちはバリア発生装置の攻略にかかる

勿論、レジスタンスとの共同作戦だ

「幸平、次に鞘を使った不殺だとか峰打ちだとかを見かけ次第ぶん殴るからな……もう、あいつらは容赦するなよ……!!あいつらを人間だと思うな!!」

「……はい」

「あのローブの男は恐らく種族的には人間だ……その癖に人間の命を、爆弾なんかに変えて……!!もう、ガキの真っ黒焦げの死体だとか親を失ったガキなんて見たくねえ……だから、敵は見つけ次第全て叩き斬れ!!分かったか、隊長命令だ!!白旗を上げない奴は全員敵だ!!」

「俺も、もうあいつらを許しません……!!全員、斬り殺します!!」

そして、空が少しずつ明るくなり始めた

「野郎ども!!作戦開始だー!!俺に続けー!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


———————


バリア発生装置は全部で4箇所、リン曹長をはじめとした曹長以上の人間達が隊長として選抜された

俺はリン曹長と、飯島さんは別の部隊に配属された

「貴様ら!!反乱軍だな!!」

「はいはい、野ばら野ばら!!」

魔族が俺たちの思わぬ襲撃に戸惑っている、こういう時襲撃される側が大概アウェイだ

拠点を一つ潰されたのに襲いかかってるだなんて思いもしなかったのだろう

一瞬で斬り伏せる、俺もリン曹長も随分強くなった……この程度の敵などもはや相手にならない

「幸平、なんだその……野ばらってのは?」

「俺の世界の有名な物語の一節というか……まぁ、どうでもいいです」


———————


「しかし、数が多過ぎる……!!」

バリア発生装置は装置という名の巨大な軍事基地だ、大量の魔物に大量の魔族……質は低いが数が多いのは厄介だ

戦いは数だよ兄貴!という有名なセリフがあるがその通りだ

メルドニア王国の総人口は200万人ほどらしいが、兵士はそのうち5万ほどだという

派遣されてきたのは3000人くらいで、今は1000人ほど減ってしまった

俺が攻略中のバリア発生装置に駆り出されたのは300人くらい……敵の方が圧倒的に多いというのは目に見える

「くそ……!!」

だんだん疲れてきた、どれだけ湧いて出てくるんだ

「すいません、どなたかエンチャントをお願い出来ますか!!」

「エンチャントって……使えるのか!?幸平!!」

「はい、一回使ったきりですけど」

「よし!!魔法を使える奴!!幸平に魔法を撃て!!」

「了解!!」

待った、何人か返事しなかった?魔法を使える奴は一斉に俺に魔法を撃てみたいな言い回しじゃなかった?

まぁ、いいや……魔法なんて受けちまえばなんだって同じだ!!

地・水・火・風……四大属性纏めて俺の剣に宿る

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

纏めて受け止めて、纏めて全ての敵を叩き斬る

クリアスエネルギーを前方に向かって飛ばすと、魔物が一斉に消滅した

「凄いな幸平……!!」

「流石に今みたいな無茶は集中力を使わないと、無理ですけど」


———————


敵を蹴散らしながら奥へ奥へと進んでいく、重要なものほど奥に設置されているものだ

「もうすぐです、受け取った情報によるとバリア発生装置はこの扉の先に……」

リン曹長にそう告げるとニヤリと笑う

「お前ら!!もうすぐで目的地だ、ただし油断するな!!戦場では気を抜いた奴から死んでいく!!」

「了解!!」

もうすぐで扉……というところで不気味な声が聞こえてきた

この世界は「お約束」が好きらしい

「どうやら、俺は当たりを引いたらしい」

「その声……!!」

ローブの男だ、間違いない

男はインビジブルを解いて、姿を現すと赤く全体的にトゲトゲしたデザインの鎧を着ている

髪は金髪で瞳の色は真っ赤で、炎を思わせる色をしている

「バルヘルナ村を破壊した男だな……!!」

「戦争では拠点を破壊するのが基本だ」

「大勢の民間人がいた!!」

「それがどうした、戦争では民間人は絶対に死なないのか?」

「何だと!?」

「バルヘルナ村は食糧生産地だ、敵にとっての重要な拠点になり……村民は食料を生産できる。十分脅威になる」

「敵になら何をしてもいいのか!?」

「民間人を無意味に殺してはいけません、食糧生産地を破壊してはいけません、村を一つこの世界の地図から消してはいけません……俺たちの戦争にそんなルールがあったか?」

「……本気で言っているのか!?」

「本気でなければ……戦争などするものか」

「貴様ぁ!!」


———————


「フレイムアロー」

「アクセル!」

「グランドスピア」

「翔斬破!!」

スキルとスキルのぶつかり合い、詠唱はノーチャージ、リン曹長と俺のタッグで他の兵は呆然と見ている事しかできない

このローブの男は魔法による攻撃がメインで、剣はあくまで防御のために使っている

「アクセル・瞬光斬!!」

「……!!守護防壁」

攻撃は防がれてしまうが、反応が少しだけ遅れた

「幸平……!!」

リン曹長のハンドサイン、俺にアクセルをかけろ

俺は小さく頷くとリン曹長にアクセルをかける

「連牙槍撃ッ!!十連!!」

リン曹長のスキル、鋭い突き攻撃を十連続で叩き込む荒技だがアクセルをかけたおかげでそのスピードは増した

「ぐぅ……!!」

男は思わず怯む……その隙は見逃すわけにはいかない

集中力解放……!!

「ラングレイさんの見様見真似……!!天雷絶剣!!」

平たい話が天高く飛び上がり、雷の如く斬撃を敵に向かって叩き込む

つまり、物凄い兜割りである

これで決まりだ……と思ったのだけどそうはいかなかった

男は剣を納刀し、もう片方から真っ赤な刀身の剣を取り出し俺の天雷絶剣を受け止めた

「集中力、解放」

男の闘気をビリビリと感じ、思わず距離を取る

闘気、いやそれだけじゃない……あの剣から物凄い熱気を感じる

あの剣には最初から火属性のクリアスエネルギーが封じ込められているんだ

「閃空爆炎斬……」

男は閃空の構えを取る、あの威力の技に火属性がエンチャントされるとなると

「幸平!!」

「くそっ!!」

集中力を解放、これをすればもう1度しか全力での集中力を解放できなくなってしまう

その上、一度使えば10分くらいは再度の発動が難しくなってしまう

しかし、迷っている暇は無い

「マジックシールド、レベル10!!」

嶋村くんのやった事をイメージして、マジックシールドを張る

あれも治癒魔法の一種だ、使えないはずがない!!

凄まじい熱と斬撃が襲いかかるが、何とか耐え凌ぐ……しかし、身体がフラフラする

「なるほど、耐えたか……だが2度目は無いな」

「幸平、よくやってくれた……!!しばらく休んでいろ……何分時間を稼げばいい!?」

「リン曹長!!無茶です!!」

「無茶だと……!?自惚れんな!!俺はお前より階級が上なんだぞ!!上官の命令は絶対だ!!そこで休んでろ!!」

「リン曹長……!!」

「幸平……軍人の仕事ってのは何なのか分かるか……?任務を遂行する事だ、だけどな……それだけじゃねえぞ……軍人の仕事ってのはな、民間人と部下と後輩……みんなの命を護ることだ!!」

「軍人、リン曹長と言ったか……才能も実力も平凡……お前の命に、価値はないな」

「分かってねえな……人間の想いってのはな、時には才能や実力を凌駕する!!あんたが何者だろうと、俺はお前を超えてやる!!」

「俺が七武聖のユーグレウスと知ってもか?」

ユーグレウス……確か、アルタミリアと共にハルデルクを裏切った七武聖最強の男……!!

「リン曹長……!!」

「面白い……!!だったらこの俺があんたを相手にジャイアントキリングを成し遂げてやろうじゃないか!!」

「不可能だ……だが、大口を叩く人間は嫌いじゃない」

「いくぜ!!ユーグレウス!!」


続く

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