第15話 人間爆弾

レジスタンスの基地はやはりというか、案の定というか地下にあった

ハルデルク国の名物に魔道列車というのがあって、クリアスエネルギーを循環させて動く乗り物があったという

馬や牛とは違い疲れない、重い荷物も運べるという利点から物流に大きな革命をもたらしたとか

そして、雨や風の影響をあまり受けないという事で「地下列車」が開発されたが魔族にインフラを破壊されたため今では線路が残っているだけだが

「露骨に秘密基地ありますよーって感じの場所なのに、発見されないもんなんだ」

「地下線路は広大だし、王族用の緊急通路は普段は使用されないというか隠されているからね」

しかし、灯りがついていないという事もありかなり不気味だ

先程から無人の打ち棄てられた駅が定期的に見えてくるが、使われない電灯やポスターなどの「賑わいの痕跡」はもの悲しさだけじゃなく「文明の死体」を見せつけられているような感覚に陥る

「どうしたんだい幸平?さっきから……クリアスライトを照らすのに疲れたのかい?」

「いえ……どうにもああいう廃墟って苦手で。最近のものだけど」

「僕は好きだけど。役目を終えて朽ち果てた工場とか打ち棄てられたデパートとか」

嶋村くんは前からスマホで「現代の遺跡」とか「軍艦島に行ってみた」みたいなサイトの写真を見せてきた事もあった

実際に自分で足を運ぶ事はない(損壊や倒壊の危険とか、誰かの所有物だった場合不法侵入になるなどのリスクがあるらしい)けど、そういった感じの場所は好きらしい

「そうなんだ……俺はなんか、出そうで嫌だなあ」

「夏樹くん、幽霊とか苦手なんだ」

「あー、うん」

「俺も幽霊は苦手だよ、なにせ物理攻撃が効きづらいし呪いだとか麻痺だとかこちらを不利にする攻撃を仕掛けてくるからね」

ラングレイさんは語る……やっぱりファンタジー系の幽霊は魔物な上に実害を及ぼしてくるんだ

出来ることから戦いたくないけど

「定期的に墓地に聖水を撒いたり、司祭さんが祈ったりしないとね。魔物に滅ぼされた村や街なんか年に一度司祭さん達の護衛をするんだけど大規模な作業だよ。何も起きなければいいけど、任務が終わった後は司祭さん達は露骨に顔がやつれるてる」

「うわぁ……」

「けど、並大抵のアンデッドは聖水や光や炎の技に弱い。嶋村くんは覚えておくといいよ」

「分かりました」


———————


随分長い事歩いたが、嶋村くんが足を止める

「B-765電灯……この辺りにある救急セットの裏に」

嶋村くんが救急セットや浄化スプレー缶が入った箱の底を漁り始める

「ああ、あったあった」

嶋村くんが鍵を取り出す、壁が回転するとかじゃないんだ……

防火扉の持ち手の裏に鍵穴があり、そこに鍵を挿すとカチッという音が鳴る


———————


扉の先には長い階段があり、それを下っていく

「地下線路は街や村と同様に魔道による防衛システムが展開されているから魔物が入って来ないようになっているんです」

「といっても防衛システムも一部の魔物には通用しないから完全では無いんだけどね……」

アーマードベアみたいな奴のことだ、例えば地球でも大概の動物が火を恐れるけれどヒグマが火を恐れないように全ての魔物が防衛システムを嫌がるわけではない

しかし、こっちでも地球でも熊ってのは厄介だな……

「魔物がここを通りづらいのは良いけど、1番の問題は知性を持った魔族に発見される事じゃない?」

「夏樹くん、殺虫スプレー使った事あるよね?」

「うん」

「随分昔、虫が苦手な主婦が窓を開けずに殺虫スプレーを使いまくって中毒症状を起こして亡くなったという事故があったみたいなんだけど……」

「防衛システムは殺虫スプレーが充満した室内みたいなものって事?」

「そう、魔族はシステム内だと身体にジワジワと蝕まれていくんだよ」

「ふーん、人間と魔族は身体構造は酷似してるって話だけど得意不得意は少し違うんだな」

「種族共通のアレルギーみたいなものだね」

階段を下り終えると重そうな鉄の扉があり、嶋村くんがノックをするを低い声が聞こえてくる

「合言葉は」

「愚かなる支配者には裁きの矢を、かけがえのない命には無償の愛を」

「入れ」


———————


「合言葉を使って仲間の確認なんて、アニメや映画みたいだ」

「地球じゃパスコードとかだもんね」

扉の先には薄汚れてはいるが、設備の整った軍事基地の雰囲気を漂わせる空間が広がっていた

しかし、駐屯所のような趣きでありカチッとした軍人然とした雰囲気ではない

どちらかというと、傭兵ギルドのような感じだ

「和也、彼らは?」

そんなカチッとした雰囲気ではない場所には不似合いなカチッとした雰囲気の男が出てきた

恐らくはハルデルクの「元」正規兵だろうか?

「メルドニア国軍の代表、ラングレイ・アルカストロフ一等騎士です」

ラングレイさんが挨拶をすると、その軍人然とした男は頭を下げ名乗った

「ハルデルク国軍、リンド・バスカード大尉です。魔族によって軍を解体された今は経歴には『元』がついてしまいますが」

「私は夏樹幸平軍曹です」

俺が名前を名乗るとリンド大尉は瞳を輝かせる

嶋村くんは色々と規格外なので同じにされてしまうのは困るんだけど

「ナツキ・コウヘイ……黒髪にダークブラウンの瞳、彼が和也と同じ世界からやってきたという異世界の戦士か!!」

「といっても嶋村くんほどの実力者ではないんですが……」

「いや、こちらに転移してから半年ほどの期間の間に素人からここまで成長する時点で常識を逸脱しているんだけどね」


———————


ラングレイさんとリンド大尉が地図にあれこれとメモをしながら作戦会議を行っており、俺たちも「後学のためにこういった作戦会議に参加した方がいい」との事で参加している

「現在はメルドニア国軍有志がバルヘルナ村を解放し、5〜600名ほどで守りを固めています。といってもバルヘルナ村だけがこの国で孤立してしまっているという状況なので、メルドニアから増援を要請しています」

「しばらくはバルヘルナを拠点とするべきか」

「B-346地区に地下基地を作ってみるのはどうですか?」

「ああ、そうしてみよう」

B-346にB-765……電灯の位置で地区を表示しているようだけど、どのくらいの規模なのだろう

「そういえば、地下基地って何箇所くらいあるんですか?」

「今のところ全部で27、俺のような敗残兵が各主要施設を奪還しようと戦っているが戦果を挙げては押し戻されがやっとだ。何より、魔族に隷属している人間も多い」

「魔族に隷属している人間は少数派なのかと思っていたが……」

「抵抗すれば根絶やしにされる、大切な人の命が奪われる。魔族について成果を挙げれば、それ相応の地位を得る事が出来る」

「それ相応の地位?」

ラングレイさんが眉間に皺を寄せる、まさか魔族につくメリットのためだけに人類を裏切るような人間がいるというのか

「領地を与えられ、大きな収入が彫られ、人々を支配する事が出来る。それは生まれが下民だろうと、奴隷だって平等にチャンスは与えられる」

「失礼ですが、リンド大尉の生まれは……」

「ラングレイ一等騎士、君よりも若い年齢で尉官の最高位に就いている時点で察してくれ」

レジスタンスは、それなりにいい生活をしていた人間達で構成されているのか?

それとも、暴力でこの国を手に入れた魔族など許せないという正義感から?

「……だが、理不尽な暴力によって地位を手に入れるなどそれではテロリストと変わりがない」

人間だけで社会を築いていた時代に明るい未来を描けなかったが、魔族による支配を受けてからはそれが変わった

社会が破壊され、インフラを破壊された事でその状況の一切が変わった

「まるで、無実の罪で牢屋に閉じ込められていたところを爆弾で刑務所が破壊されたような状態だ」

思わず言葉が漏れ出ると、リンド大尉が俺の方を見て言った

「愚かに見えるか?この世界のあり方が」

「い、いえ……俺の世界もそう大差ありませんから。偏見とかジェンダー差別とか貧富の差だってありますしイジメで自殺する人間も沢山います」

「いや、責めるつもりは無い。この国がこんな惨状なのも俺たち貴族がやってきた事の報いだ……だけど、人の誇りを棄てた生き方は正しくないと証明しなければいけない。後の世のためにも」


———————


新たな基地を作るのはレジスタンス達がやるとの事なので、しばらく俺たちはバルヘルナ村の警備をやる事になった

警備の任務というのは兵士の仕事の中で最も退屈かつ、つまらない仕事だと俺は考えている

しかし、今のこの状況だと何が起こってもおかしくない

他国との戦争中とかならともかく、この国は魔族に支配されていて魔物への警戒と魔族による再侵攻への警戒

それから、魔族側についた人間への警戒が必要となる

「幸平、そろそろ晩飯の仕込みを始めるから手伝ってくれ」

「了解です」

だけど、入隊早々魔物狩りだとかで調理に慣れてしまった俺とリン曹長は調理担当との兼任である

「いやー、ここは野菜とかが豊富なのもあって腕がなるよ」

そして、リン曹長はノリノリである

兵士よりもレストランで料理人やってる方が向いてるんじゃないかな


———————


「通信魔法による通信を探知!クリアス信号解析……バルヘルナ村からです!!」

「……裏切り者か!?」

「解析します、各員戦闘配態勢へ……!!」

調理場へと響く通信、まったく今からスープに具材を入れるところだというのに

「クリアス通信、人物特定完了!!北方の森の中へと逃げ込みました!!」

「チッ……!!ややこしいところへ逃げやがって!!」


———————


「夏樹軍曹……クリアスの探知は……」

「クリアスの波形を探知しながらって感じなんで、対象は常に動いているし他の生物や物質も当然情報としね入ってくるから途切れたり邪魔が入ったりするんでちょっと難しいんすよ。ここを、左です」

「頼むぞ〜……俺の部隊で魔法使えるのお前だけなんだから」

クリアスの探知、通信のやり取り、情報分析……それらを極めるのが情報系魔道士

クリアスの探知や情報分析は治癒魔道士をやる上で必須なのである程度学習したが、クリアスの探知や探し物は俺の専門外

そして、繰り返すがメルドニア国軍は戦士兼魔道士はなかなかいないので俺みたいなのがこういう時に引っ張り出される

「ん……なんだ?大勢の人間がターゲットの近くに……!?」

「どうかしたのか?」

「ターゲットの周りに大勢の人間と、魔族がいるようです」

「急ぐぞ!!仲間が合流したって事だ!!」


———————


「わ、私も魔王軍にお加えください!!」

「デカルト・バルヘナー、バルヘナー家の御曹司か」

「バルヘナーといえば、強引な地上げや企業の買収などをやってきた家柄です。この村を治めてきた一族でもありますね」

「そ、それは父の所業です!!父は先日の襲撃で既に……」

話し声が聞こえてくる、距離は近い

「総員抜刀!!攻撃準備だ!!」

「了解!!」

一斉に抜刀し、現場へ突入する

「全員、武器を棄て手を上げろ!!抵抗するな!!」

リン曹長が叫ぶと、その場にいた魔王軍の人間達は戸惑った様子もなくバルヘナーとかいう男を見据える

「魔王に仕えたい、魔王軍に加わりたいと言ったな?デカルト・バルヘナー」

「は、はい!」

「ではたった今からお前は魔王軍の一員だ、しかし……我々が探知されたのはお前のあまりにも迂闊な通信の結果だな」

「えっ……?」

「責任を取れ」

「私が彼奴等を撃てば認めてくださるという事ですね!!」

「馬鹿な真似はよせ!!デカルト・バルヘナー!!」

リン曹長が叫ぶと、デカルトはクリアスを収束しチャージタイムに入る

本当に迂闊だ、無防備な体勢で魔法の準備に入るなど殺してくれと言っているようなものである

「アクセル……!!」

俺がチャージ無しで自身にアクセルをかけ、デカルトの背後を取る

「うかつ……」

その瞬間に納刀し、デカルトに鞘に収まった剣で思いきり斬撃を加える

「なんだよ!!」

瞬光斬、伐倒したまま使えばデカルトを殺してしまう

不殺を心がけているから……というよりは、デカルトには事情を聞く必要性がある

魔族にコンタクトを取ったという事は、魔族の通信コードを知っているという事になる

「いつの間に……背後にィ!?」

デカルトが思いきり吹き飛ばされる

「本当に、迂闊だな……」

地味な赤いローブを着た男がチャージ無しで魔法を発動する、チャージ無しで発動する場合クリアスの収束が通常よりも速い

こういう場合、感覚的に判断するしか無いのだがチャージ無しの魔法と踏んだ

攻撃魔法が来る、だけどまだアクセルの効果は残っている……躱せるはずだ

サンダースピア、槍の如く雷で敵を貫く風属性の魔法

「疾い……思っているよりはやるな」

「だが、せっかく愚かな漢を助けたにも関わらずその行為は無駄になるな」

ギラリと赤いローブの男の瞳が光った……ように感じた

「黒髪の少年、君は治癒魔道士としての修行も積んでいるな……治癒魔法は文字通りの治癒に、仲間の潜在能力を引き出すアシスト系がある事は知っているな?」

「それがどうした!?俺は敵だぞ」

「治癒魔法は、攻撃にも転用出来る事を知っておくといい」

赤いローブの男の指先が光る、光属性のクリアスの収束だが……攻撃に転用出来るという言葉

その対象は、デカルト・バルヘナーだ

「攻撃、治癒魔法……これは、デカルト・バルヘナーの細胞が異常に活性化している」

「あ……あが……何を!?く、苦し……!!」

デカルトがもがき苦しみはじめる

これは、まさか……

「リン曹長、逃げましょう……!!」

「何言ってるんだ幸平、敵前逃亡しろって言うのかよ!!」

「ヤバイんですよ!!このままじゃ、俺たち死にます!!」

「嘘は言ってねえな、幸平……!!総員、緊急退避だ!!」

「ぎ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



———————


「それで、何が起こるんだ幸平!!」

「治癒魔法って、一時的に細胞を活性化させて傷の治りを早くしたり血液の循環を良くしたりして特殊な効果を与える医療行為です」

「それがどうして危ねえ!?どうやって攻撃に転用する!!」

「スキルだとか、特殊能力は体内のクリアスと大気中のクリアスの結びつき……あのローブの男はデカルトに大気中のクリアスを目一杯送っていました。そして、体内のクリアスを操作して細胞を異常なまでに活性化させた」

「つまりなんだ?」

「過剰な回復をやったんです、肉体が耐えきれないほどに」

「肉体が耐えきれないほどの回復!?」

「細胞を限界まで活性化させると、肉体が崩壊して作用していたクリアスは行き場を無くす。魔法に使われるクリアスは精神的な感応波を受けてエネルギーに変換される……すると、エネルギー変換されていたクリアスは肉体から一気に放出されます、肉体を支えていたクリアスのエネルギーと共に……すると」

「爆発するって事か!?」

「多分、火属性のエクスプロードなんかとは比べものになりません!!脳や心臓を支えるクリアスが一気にオーバーロードして辺りを……」

膨大なクリアスエネルギーを感知し、思わず振り返る

「が、あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お、おごご……!!ぎゃああああああ!!」

男性の呻き声、いや……断末魔の悲鳴

デカルトは空中で魔道の力場に固定されている、そしてその魔道の力場を発生させているのはローブの男だ

「どうして、ここに……!!」

「すぐにこの男を爆弾にするという判断が出来たのは褒めてやろう、いや……しかし、ヒントを与えすぎたかな」

力場を使い、ローブの男は投げつけるようにデカルトをぶつけてきた

「こ、幸平ッ!!」

万事休す、こんなに近くで爆発されてはひとたまりもない

「夏樹くん!!」

嶋村くんだ、騒動を聞いて駆けつけたのだろうか

「嶋村くん、来るな!!」

「いいや、爆発をなんとか出来るのは僕だけだ!!クリアスシールドッ!!」

虹色に輝くクリアスが傘状に展開するが、同時にデカルトの身体がシールドにぶつかり人間の形を失い衝撃が360度全方位へと拡散していく

爆発が起きたのだ、しかし嶋村くんの全力の防壁魔法でも衝撃を打ち消すには至らない

いや、例えどんな偉大な魔道士だろうと完全に無力化させるのは不可能だろう

「嶋村くん……ッ!!うわあああああぁぁぁぁぁ!!」

「幸平!!」

身体が爆風に飲まれ、吹き飛ばされる

リン曹長が手を伸ばしてくれたが届かない

「ご、ごめんなさい……シールドが、保たない!!」

「全員、今のうちに伏せろおおおおぉぉぉぉ!!」

「ごめん、夏樹くん……!!」


その日、バルヘルナ村はこの世界の地図上から消滅した

後世の歴史では、愚かな支配者の息子が人類を裏切りその命がバルヘルナ村を破壊したと記録されたという


続く

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