第14話 異世界の勇者たち

恵「いよいよ魔族との戦いに突入だね!!バルヘルナ村を解放しよう!!」

幸平「飯島さん、戦闘シーン久々だね」

ナルコ「そういえば、近頃手配魔物を次々に倒しているみたいですね。とんでもない強さで魔物を圧倒しているとか」

幸平「確か、格闘家から戦士に切り替えたらしいけどレベルは……?」

イライザ「どうも〜〜久々登場と思ったらおまけコーナーのアナライズ屋ですぅ〜」

ラングレイ「そういえば本当に久々だな」

イライザ「戦闘系スキルの数、身体能力、実戦経験と一流の戦士さながらですね〜〜レベルは累計40というところでしょうか〜」

ナルコ「ラングレイさんは確か45……」

幸平「信じられない……肉薄してる」

ラングレイ「いや、ルファードとの戦いや鍛錬で48まで上がったけど近々追い抜かれそうだね」

イライザ「ちなみに幸平さんは26、何していたんですかぁ?今まで」

幸平「治癒魔道士の勉強だよ……」

イライザ「何していたんですかぁ?今まで」

幸平「勉強だよッ!!」

ナルコ「比較される対象がいるって嫌ですね……」

リン「煽られないように気をつけようぜ……」

イライザ「レベル10代のそこのお方〜」

リン「あ?」

イライザ「前回登場したグランス軍曹はレベル20くらいでしたのでぇ、近々曹長に昇格するらしいですよ〜」

リン「……!!いや、比較対象はやっぱりいた方がいいかも」

ナルコ「彼のボウガンは百発百中ですからね、貴重な飛び道具使いだから精進してほしいです」

リン「アンタはさっさと昇進しろ!!また昇進断りやがって!!」



———————

陽が上がる前、作戦会議はテント内で行われた

情報系魔道士達が複数人がかりでインビジブルをかけてくれている

インビジブルは消費クリアスが大きい大技だが、動かないものを対象とすれば実は負担はそう大きくないからだ

「バルヘルナ村は隠密部隊の情報によれば、現在は魔族達の食料調達基地として使用されているらしい。しかし、元々は人間が作り上げてきた村だ、出来るだけ破壊行為は避けたい」

「農家の人間が大切に育て上げた場所というのもあるが、バルヘルナ村を解放すれば人間達に食料を届けやすくなる。その肉体的・精神的アドバンテージはこの国の人間にとって非常に大きい」

ナルコ伍長がフォローを入れると、グランス軍曹が立ち上がる

「大きな戦いにしないためには、速攻で大ボスを倒すのが必要不可欠になってくるわけですね」

「狙撃屋の出番という事か?」

「いや、そうしたいところだが村長宅は完全に閉じられているんだ。グランス軍曹の腕ならば樹の上から狙撃できるチャンスがあるかと思ったんだが」

「飯島恵さん、高野幸平軍曹……君達2人に村長宅で思いきり暴れてもらおうかと思う」

「えっ」


———————


「俺たち今、ロールプレイングゲームやってるって感じだね」

「まさかとは思ったけど、本当に下水道を通るなんて」

腐敗臭のする下水道、使用者が思念を送る事で灯りがつくクリアスライトを片手にずんずんと進んでいく

「こういう場所って、普通魔物がうようよしてるもんだけど……いないみたいだね」

一応あちこち見渡すがいないらしい、有難いけどゲームだったら肩透かしというところだ

餌が無いからとか、環境が悪すぎるとかそんなところだろうか?

「しかし、鼻がもげそう……」

「この世界は空気が綺麗だからね、そのギャップがあるのかも」

俺たちは地球の人間で、住めないほどの汚染……とかそこまではいかないがそこまで綺麗じゃない空気で育ってきた

だけど改めてこの世界の空気の綺麗さを思い知る、科学ではなくクリアス魔法による文明が発達しているおかげで空気の汚染が殆どない

惑星自体の自浄作用で自然の美しさが保たれているのだろう

「飯島さん、幸平。もうすぐで出口だ、真っ直ぐ進んでくれ」

ラングレイさんから通信が入る、だけど……

「魔物がいない理由が分かったよ……考えてみれば魔物って汚い環境だろうと生きていけるんだよな……」

「そして魔物は魔物も捕食する生物だと」

丁度出口を番人のように見張る大型の魔物、そして下水道のボスはこいつと決まっている

スライムマザー、名前の通りゲル状の大型の魔物

「王道展開過ぎて惚れ惚れする!!」

「下水道といえばスライム系のボス、そうこなくちゃいけない」

スライムマザーはボコボコと歪に形を変え、小型のスライムを俺たちに向かって放出する

「スライムは粘度が高くてまともに斬れない、剣気は使えるよね!?」

「勿論!!」

体内のエネルギーを剣気に集中させ、スライムの群れを切り払う

「スライムは単細胞生物、故にコアが弱点!」

「知ってるよ!!」

ほんの10秒で全てを叩き落とすと、スライムマザーは本体(?)が触手のように伸ばし俺たちに突きつけようとするが回避をする

どんなに強大な魔物だろうと動きは単純、相手を殺そうとしかしないからだ

それ故に厄介という一面もあるけれど、逆に言えば動きを読みやすい

「スライムマザーも、コアが弱点……!!ならば!!」

閃空……ではない、というか閃空は俺にはまだ使えないので剣気を乗せてそれを叩きつける

名付けて、閃空斬!!

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

スライムの身体を一気に斬り裂こうと突貫するが、通らない

スライムのボディが身体の一部を硬化させ、弾力を強め剣圧を弱めてしまった

「ちっ……!!」

スライムの身体に呑まれれば一貫の終わり、急いで距離を取り事なきを得る

「あのスライムマザー、意外と厄介だ。コアを破壊しないと倒す事が出来ない」

「コアを破壊しようと突撃すれば、身体を硬化させて邪魔をしてくる。そして迂闊に飛び込めばスライムに呑まれちゃう」

「飯島さん、貫通力の高いスキルは何か無い?」

「烈破波動撃、格闘家のスキルなんだけど……確実に抜けるとは言い切れないかな」

「援護するよ、試してみて」

「分かった!!」


———————


高速化魔法、アクセルを俺に発動させて陽動

コアを狙いつつ斬撃を与えては修復され、反撃を躱していく

俺はラングレイさんに「回避」の特訓を出会った頃からひたすらさせられてきた

回避をすればダメージを受けない、どんな攻撃だろうと当たらなければ死にはしない

そして、生き延びるという事は戦力を維持できるという事で……回避し続けるという事は囮になるという事だ

「あんまり得意じゃない魔法だけど……!!フリーズボディ!」

これは特定の生物、もしくは肉体の一部を対象に生体機能の一切を停止させるというもの

勘違いされがちだけど水属性ではない、そして治癒魔法だ

「やっぱり範囲は狭いか、だけど足?は止めた!!」

「動きだけでも止めてくれてありがとう、夏樹くん!!烈破!!波動撃!!」

拳を突き立て、闘気をパイルバンカーのように撃ち出す格闘家の高度なスキルだ

コアに響いたようだ……が

「ダメだ、威力をかなり殺されてる!!」

「えぇ〜〜!?どうしよう!!」

これは流石に詰んだ、一度引き返すか……

「スライムマザーに物理攻撃はナンセンスだよ、夏樹くん!飯島さん!」

懐かしい声が、そして聞こえるはずのない声が辺りに響いた

「嶋村……くん?」

魔道士が身につける紋章が刻まれた黒いマントを靡かせ、ここにいないはずの男……嶋村和也が下水道の出口から降り立った

「既に魔族のリーダー・ノルフェンドは僕が討った、ラングレイさんが魔族達に投降を呼びかけている。ミッションコンプリートだ」

「えぇ!?でも、入り口は警備が……」

「インビジブルを使って侵入したんだ……と、話は後だね。こんな魔物がいたら、村の人達は安心して夜も眠れない」

なんか、嶋村くんノリノリだな……こんなキャラだっけ

「夏樹くん、フリーズボディを使えるというは魔法を使えるよね?エンチャントは出来る?」

「やった事は無いけど、魔法力を受け止めてそれを剣や槍に纏わせるスキルだよね?」

「こいつを倒すには炎をエンチャントさせた攻撃が一番有効、やってみよう」

「あの、話聞いてた?やった事ないけど」

「やれるよ、夏樹くんと僕なら」

やっぱり嶋村くん、ノリノリだな

ゲームっぽい世界に来て、俺と共闘出来て舞い上がってる……

「じゃあ、チャージするから少し時間稼いで」

「了解……!!」

フリーズボディも時間切れ、スライムマザーも怒っているのか攻撃が執拗だ

「チャージ完了、行くよ!!」

嶋村くんは片腕を天高く上げ、指先に巨大な炎の球体を掲げている……デスボールかよ

「そんな巨大な炎の球を受け止めろと」

「行きますよ、夏樹さん!」

口調までフリー◯様になってるじゃねえか!!

「来い!!嶋村くん!!うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

集中力を発動し、肉体のリミッターを解除する

閃空斬ではなく、閃空を撃ち込む構え……そして炎の球を受け止めて剣気と炎を融合させる

「必殺!!魔法剣……」

嶋村くんが必殺技の名前を途中まで叫んでから俺に丸投げをする、こういうの本当に面倒くさいからやめてほしい

「魔法剣!!えー……えーと……エーテルちゃぶ台返し!!」

炎の魔法のお陰がスライムマザーの身体が激しく燃え上がり、コアを切り裂く事ができた

スライムマザーはおぞましい断末魔の叫び声をあげながら溶けていく

「そんな技無いよ!!」

嶋村くんから抗議の声

虚空斬破とかの方が良かったのかな


———————


「なるほど、鞄で張り倒されて2人とも階段から落ちて気が付いたらこの世界にいたんだ」

「うん、クリアスクリスタルが不足していてしばらくは帰れないみたい」

「まぁ、今更だよ。帰ったところで留年確定だし下手したら死亡扱いされてるよ」

「だよね、俺ももう諦めてる」

3人で梯子を上っていく、飯島さんはスカートなので一番下だ……見たくもないけれど

「でも嶋村くんは俺たちみたいに事故じゃなく、正式に勇者として召喚された訳だよね?」

「うん、だけど結果はこの有様……召喚されたと思ったら魔王軍の襲撃でバリアを張られてなす術なく一瞬でハルデルクは制圧された。生き残った兵士のみんなと魔族相手にドンパチ」

「ずっと戦っていたんだね」

「うん……沢山人が死んでいったよ。勇者様を守れー!希望の芽を潰させるなー!ってね、肉の壁っていうのかな……気が付いたら僕の周りには死体の山」

出口の蓋をあけると、光が漏れてきた

やっと一息つけるところだ

「全く……シャワー浴びたい気分だよ」

「私も」

「僕も」


———————



「最後の1人になるまで、誰1人捕虜になろうとはしないか……」

「当然だ、人間の捕虜になるくらいなら……!!」

「残念だ」

ザシュッ!ボトッ!

魔族の血も赤い、首を刎ね落とすと血が噴き出してラングレイさんの顔を血が濡らす

しばしの苦悶の後、ぐったりと魔族の身体から力が抜け落ちる

「君も、捕虜になるのを拒むか?」

「ああ、いっそここの捕虜は全員斬り殺せ!!それが魔族としてのプライドだ!!」

ザシュッ!ボトッ!


———————


「やれやれ……戦争だとか異種族間抗争だとか、こういう時が一番嫌だ」

「ラングレイさん」

「嶋村くんと合流出来たみたいだね、おめでとう飯島さん」

「その……お疲れ様です」

ラングレイさんはいつも以上に疲れた顔をしていた、昨日の夜、ラングレイさんは俺に戦士として不向きだと言った

優しすぎるから、戦いに向いていないと

俺はラングレイさんもそうなのだと思う、ラングレイさんもまた優し過ぎる人間だ

「いつもの事さ、俺は出来るだけ兵士にこんな真似をさせたくないからやっている。気にしないでいい」

「……はい」

「嶋村くん、良ければレジスタンスと合流して首都グランドデルクへと侵攻したい。案内を頼めるかな?」

「ええ、歓迎します」

「嶋村くん、何となくだけど……目つきが変わったね」

「そうかな、そういう夏樹くんも変わったと思う。夏樹くん、君は人を殺したね?」

「えっ……それは、その……」

「僕も同じだよ、僕のせいで大勢の人間が死んだのだから……僕だって人殺しだ」

今まで絡んできて嶋村くんのこんな表情をしたのは初めてな気がする

そういえば嶋村くんの瞳は、こんなに深かっただろうか?

嶋村くんは、こんな事を言う人間だっただろうか?

戦いの時はいつものノリだったけれど……

嶋村くん、俺たちと会ってから笑ったっけ?

「飯島さん、なんか俺……いつもの嶋村くんが思い出せないや」

一緒にゲーセンに行って、一緒にハンバーガーを食べて、2人で何気ない話をした

俺たちは親友と呼べるかは微妙な関係だけど、いつも2人で笑っていたような気がするのに

「夏樹くん、どうかした?」

「何でもない……シャワー浴びてくる」

「うん……?」


続く

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