第13話 ハルデルク突入作戦

幸平「第2部開始って感じだね」

恵「アニメだったら13話から新OPが流れるような感じだよね」

ラングレイ「幸平は軍曹に昇格して治癒魔道士の修行を始めて、ミラちゃんも学校に通い始めたし……飯島さんは戦士として修行を始めた」

幸平「そして、ハルデルク国が障壁を中和してメルドニアに連絡を送ってきた」

恵「嶋村くん、無事だといいけど」

幸平「うん、助けに行かなきゃ」


———————


飛行船の上では声が飛び交っている、空の上には魔物はいない……なんて訳はなく魔物は餌がやってきたと思い襲いかかってくる

リトルワイバーン、フライハイイーグル、ナイトメアクロウ……一体一体は雑魚に過ぎないが数の暴力の威力は絶大である

「スタミナブースト、頼む!!」

「了解……動きながらだとチャージが遅いので踏ん張ってください!!」

治癒魔道士になって自力で覚えたスキルが一つある、それはアクティブスペル

詠唱(チャージタイム)に少々時間がかかるものの、戦いながら魔法の発動が可能になる

「体力増幅、スタミナブースト!!」

「少しは疲労が取れた、助かる!」

治癒魔道士兼戦士になってから、身体的疲労と精神的疲労が倍になったような気がする

敵の動き、味方の動きを見極めつつ敵を斬り味方のサポートをする

「ぐっ……あっ!!」

「ガロン曹長!!今回復します!!」

「申し訳ねえ、頼む!!」

誰かのスタミナが尽きかければスタミナブースト、誰かが負傷をしたらヒーリング

敵が襲ってくれば斬り伏せて、俺のスタミナが尽きればセルフスタミナブースト

魔物の群れが城門に近づいてくるから迎撃するって任務の時よりも数段ハードだこれ

「……クリアス切れです!お願いします!!」

常人よりも遥かに激しくクリアスの消費をしているため、あっという間に体力が尽きる

で、そんな時のためにクリアスの回復を加速させるクリアスドリンクを飲むのだ

「どうぞ!!」

「ありがとうございます!!」



「幸平の奴、頑張ってるよなぁ……いやあれ、俺には無理だわ」

「一種のワーカーホリックかねぇ」

「有難い存在だけど、過労で倒れなきゃいいなあ」

そんな声が聞こえてくるけど、黙って戦ってほしい

誰かが負傷をすれば俺の仕事が増える

「知覚増幅……ペルセプションブースト・ワイド!!」

最も得意とするブースト魔法、の全体化

「ありがてぇ、けど大丈夫か!?クリアスとかスタミナとか……」

「怪我をされて個別に回復するよりはまだマシかなって思いまして」

「なるほどな……!!野郎ども、一番の年下が命張って俺たちを支えてんだ!!足引っ張んじゃねーぞ!!」


———————


「みんな、よく持ち堪えたね!!後は俺たちに任せてくれ!!」

ラングレイさんとバトンタッチの時間だ、バフと回復を織り込んだとはいえ2時間戦いっぱなしは地獄だ

「後は頼みま……」

緊張の糸が解けたのか、疲労がピークに達したのか意識が薄らぐ

今倒れたら、もう二度と起き上がれないんじゃないかというほど身体が重い

指先に力が入らない

「お、おい!!幸平!!」

「彼を医務室へ運んでおいてくれ、治癒術に補助魔法を使いながら剣を振り続けたんだ。並大抵の人間なら2時間も保たない」

「ラングレイさん、幸平がこうなる事を分かってて……」

「当然だよ、だけど幸平が次のステップに進むためには必要な事だからね……さぁ、早く」



身体中が重い、体の中にあるものを全部捻り出したかのような感覚だ

スタミナもクリアスも、身体中の血液も内臓も全部スッカラカンになったかのような……

でも、こんなところで立ち止まる訳にはいかない

嶋村くんは今だって魔物と戦っているかもしれない、嶋村くんにリアルファイト……いや戦争なんか似合わない

だから早く、目を覚まさないと

拳を握り、開くと実感があった

動く、まだ身体は動く……うご……

「幸平!!幸平!!起きて、ねぇ起きてよ!!」痛い痛い痛い痛い、誰だ身体を揺らすのは

「だ、ダメですよ!!そんなに揺さぶったら……さっきまで魔物の大群と戦っていたんですから!!それも超高度での戦いは、見た目以上に消耗が激しいんだから!!」

聞き覚えのある声、というかなんで彼女がこんなところに……

「あ、幸平!!」

瞼が開いたので見てみると物凄い近い位置にミラちゃんの顔があった、どうしてこんなところにいるんだろう

でも今はそんな事よりも……

「寝かせて」

「幸平〜〜!!死んじゃうから寝ちゃダメだよ〜〜!!」

「いや、むしろ寝てないと死んじゃうから……」

「本当ですよ!!あと4時間もしたらハルデルクに到着するんですから!!」


———————


「いや〜疲れたよ。敵の数を減らしつつ味方のアシストをするって大変なんだね幸平」

取り敢えず消化のいいものを……という事でこの世界の小麦で作ったうどんを柔らかく煮込んだものを飯島さんが作ってくれた

そして、それを食べていると戦いを終えたラングレイさんが戻ってくる

ラングレイさんはナイトマスターであり、様々な戦闘系の職業をマスターした戦いのスペシャリストなので先程までの俺と同じ戦い方が出来るのだが

「ラングレイさん、どうしていい汗かいたくらいの感じなんですか……」

「自分、鍛えてますから」

手をシュッとするラングレイさん、人が散々苦労して2時間耐えたのに倍の時間同じ事をやってもちょっと疲れたくらいなのはおかしい

なんなんだアンタ、鬼かなにかか

「美味そうだね、それ」

「私たちの世界のというか、私たちの国のうどんって食べ物です」

「へえ、小麦粉を練った……麺かな?」

この世界で粉物といえば米粉だ、時と場合に応じて小麦粉も使っているみたいだがあまりメジャーではない

味わいが若干違うし、見た目も少し異なるので地球とこっちの世界では品種が異なるみたいだが

「今、兵士さん達も食事を摂っているので残っていれば食べられますよ」

「そうか、疲れた身体に温かい麺類はありがた……なんでいるの君」

遅!リアクション遅いよラングレイさん!!

正式に国軍から仕事のオファーを受けた飯島さんや治癒魔道士達ならともかく、なんで民間人の学生であるミラちゃんが乗っているのか疑問に思うの遅いよ!!

「治癒魔道士の方々の後についていったら乗れちゃいました」

「……どうなってるんだここのセキュリティは、人間同士の戦争でスパイとか乗せたらどうなるか分かってるのか……」

ラングレイさんが思わず頭を抱えてしまう

「でもまぁ、働かざるもの食うべからずだ。ミラちゃん、治癒魔道士として怪我人の治療をお願いするよ」

「了解です!!」

「でも、治癒魔道士として対等の働きをさせるとなると報酬を支払わなきゃいけないわけで……ええと……学生にあんまり支払うと法律上の手続きが……」

管理職って大変なんだなぁ……


———————


「ハルデルク領、魔道防壁に接近しました!!魔法を扱える方々はブリッジに集まってください……あ、夏樹幸平軍曹は寝ててください」

なんて親切なアナウンスだ

もし呼ばれていたら労働環境の改善を申し出るところだ

「ミラちゃん、出番だ!行こう」

「了解!!」

ラングレイさんとミラちゃんがブリッジへと走る

「ねぇ、夏樹くん」

「どうしたの?」

「魔道防壁って並大抵の攻撃だと打ち破れないんでしょ?どうやって突破するの?」

「魔道防壁は情報魔道士達のアナライズによると、闇属性による強力なバリアだと判明してる……で、嶋村くん達がバリア発生装置の一つを抑えてくれているおかげでバリアが弱まっている」

「うんうん」

「そこで、闇属性と遂になる属性……光属性の魔法をぶつける事で中和させるんだよ」

「ほうほう……どうやって?」

「このメルドニア・フェニックス号には魔道士の魔力、クリアスをエネルギーに変換して撃ち出す魔道エネルギー砲が24門装備されていて、光属性の魔道エネルギーを一斉射して部分的に中和するんだ」

「なるほど……つまり!」

「うん、力押し」


———————


「光属性クリアスエネルギー、充填完了!!」

「魔道エネルギー砲一斉射撃!!撃てぇーー!!」

「魔道防壁に穴が開きました!!行けます!!」

「メルドニア・フェニックス、全速前進!!ハルデルク国に突っ込め!!戦えるものは甲板で対魔物戦に備えろ!!」

通信がこの部屋にまで聞こえてくる、どうやら成功したらしい

「あっ夏樹幸平軍曹他、航行中に負傷した者や航行中に防衛戦に参加した者は寝ていなさい!!」

親切な通信だこと……


———————


それから30分ほど経過した頃、目的地に到着したらしく着陸態勢を取れとかそんな感じのワードが飛び出してきたが

ズガッ!ズガガカッ!!ゴガアアァァァ!!

着り……いや、物凄い音鳴ったし半端なく揺れたし不時着だろこれ

うどんの残り汁を飲んでおいて正解だった

ファンタジー世界の飛空挺なら滑走路とかそんなの無しにどこでも自在に着陸出来るもんだけど、やっぱりそうもいかないのか

「着陸に成功しました!」

いやどこがだよ、食器棚から色々飛び出して割れてるよ


———————


で、不時ちゃ……着陸したのでメルドニア・フェニックス号から2000人余りの兵士達が行軍を開始した

魔物を蹴散らしつつ食材に出来そうな肉類や骨を回収しつつ進む

出来れば果樹だとかハーブや花をゲットしたいところ、ビタミンを摂取していきたいところ

「しかし、メルドニア城周辺と比べると魔物の数が多いなぁ」

戦闘の多さにぼやくリン曹長

「仕方ないですよハルデルク国は魔物狩りなんか出来ない状態なんでしょうし、俺たちが減らしていくしかないです」

「しかし、政府側の人間が魔物相手に『レジスタンス』なんて名乗らなきゃいけないとはなぁ」

ピリッとした空気を感じ、ディフェンダーを抜刀し何かを切り払う

「あっぶな……!!助かったぜ、幸平」

「今の、人間の気配でしたよ」

「何だと!?魔族の仕業じゃないのか!!」

「そこかぁー!!」

グランス・ペンゴル曹長が超小型ボウガンで『敵』気配を見切り、樹の上にいた敵を撃ち落とす

アーチャー特有のスキル、『気配探知』だ

「うぐっ……!!」

腕を撃ち抜かれ、バランスを崩し樹から落下すると大石に身体を打ち付け動かなくなる

「命までは奪わないつもりだったんだが……ダメだ、脳漿が飛び出している。助からないな」

グランス曹長は悔しそうにしているが、こちらも命を狙われた以上同情は出来ない

木陰から何者かが現れ、落下死した男に駆け寄る

「じ、ジーク!!……死んでいる……のか」

「お前達は何者だ!俺たちは魔王軍からこの国を解放するためにやってきたメルドニア国軍の者だ!」

リン曹長が名乗ると、男は声をあげる

「メルドニア国軍……だと?お前達は、これ以上事態を悪化させるつもりなのか!?俺たちハルデルク国は魔族に完全降伏したんだよ、魔族に……これ以上戦いが続けば、ハルデルクから人が消える……だから俺たちは!!」

「魔族に反抗する人間を殺せと、そう命令を受けたわけか……まだ抵抗する人間はいるってのに!!」

「抵抗すれば、女子供が殺される……」

「従えば助かるのか?魔族に魂を売れば必ず生きていける保証があるのか?」

「こうするしかないんだ!!俺には、娘がいるんだぞ!!」

男が剣を抜きこちらに向かって走ってくる

屁っ放り腰、剣の構えがなっていない、勝ち筋が見えていない……男が戦闘のプロ相手に勝てる見込みなどゼロだ

「兵士や傭兵がいれば!!みんな死ぬ事になるんだよぉ!!」

「馬鹿野郎が!!」

リン曹長が刀を抜く、前に俺は加速魔法アクセルをノーチャージで発動し男の背後を取る

鞘に納刀したまま、男の背中を思い切り斬りつけた

「アクセル瞬光斬、完成させたのかよ幸平!?」

「俺……には、娘が……!!」

「俺、この技を今朝の時点では使えませんでした……」

「な……にを……!!」

「決めたんです、親を目の前で殺されて血溜まりの中で泣いている女の子と出会った時……家族を失い憎しみに囚われた男達に出会った時……もう、誰にも悲しい思いをさせないと」

「なにが……言いたい!!」

「俺たちがこの地を……魔王ゼクシオンの手から解放します!!だから、信じてもらえませんか!?」

「馬鹿な……七武聖の筆頭2人が敵についている時点でお前達に勝ち筋は無いんだよ!!」

「俺は強くなります」

「不可能だ!!」

「俺は、ラングレイ・アルカストロフを超えます!!」

同行している兵士達がざわつき始める

ラングレイ・アルカストロフを超える……そんな事は不可能だ

しかし、切り札でありながら欠点も大きい集中力を発動しなければ使えなかった瞬光斬をマスターした幸平ならば……

だが、ラングレイの強さは底なしだというのにあの人を超えると宣言するなど身の程知らず過ぎる

様々な声が聞こえてくるが、俺はそれを振り切って叫んだ

「いつか、一等騎士にまで登りつめてみせます!!だから、俺たちを信じてください!!」

「……はぁ、これだから子供というのは……だが、あいつらに心の底から従うのももう、疲れた。やるならさっさと街の一つでも解放してくれ、俺はジークを葬ってやらなきゃならない……魔族を信じて従ってしまったこの……馬鹿な男をよ」


———————


嶋村くんとのランデブーポイントである第3バリア発生装置へ向かう前に拠点を得ようとバルヘルナ村の解放をしようという話になったが時間はもう夜だ

長旅の疲れもあり、キャンプを開く事にしたのだが

「俺は、ラングレイ・アルカストロフを超えます!!だぜ!?いくらあいつを逃がすためのハッタリとはいえ、あんなでかい事言えねえよ!!」

「やめてくださいよリン曹長、俺だって超えられるとは思ってないんですから」

「でも、幸平君は本当に強くなりましたよ。初めて会った時はまるで素人だったのに、僕に勝った事を皮切りにどんどん強くなっていく」

ナルコ伍長がフォローを入れてくれる

とはいえ、ナルコ伍長も最近は色んなスキルを身につけて今は剣気の習得に挑戦しているらしい

ナルコ伍長だって、どんどん強くなっていく

「お!俺を超える男!!ここにいたか!!」

ここで今一番会いたくない人が来てしまった

ラングレイさんは一番先頭で指揮をとっていたはずなのに、噂が届くの早すぎだろ

「だから、あれはあの人を助けるために……魔族に従ったままで剣を抜いていたら斬らなきゃならないでしょう」

「分かってる分かってる!!で、幸平……頼みがあるんだけど」

「何ですか?」

「ヘトヘトなんで、スタミナ回復魔法かけてくれない?明日も作戦があるだろう?」

「はーい……」


———————


スタミナヒールは単純な傷を回復する魔法とは違い、全身のクリアスを活性化させる必要があるので時間がかかる

いわゆる、マッサージみたいなものだ

確実に効果があるのでスタミナヒール一本だけで店が開けるらしいが、店を開くには相応の技術が必要

帰れる目処も立っていないので、いざという時はこれを極めて店を開こうかなとか考えている

……本当にいざという時だが

「どうせだったら、聖騎士エルヴィン様を超えるとか言えばいいのに」

「手合わせした事無いんで強さが分からないんですよ」

「あー、そうだったそうだった!来年の春に御前試合で戦わせてみるかな」

「一般兵には荷が重過ぎるんでやめてください」

「異世界からやってきた兵士って事なら誰でも納得するよ」

「なんかコネみたいで嫌ですよそれ」

「何言ってるの、聖騎士エルヴィン様と手合わせ出来るなんて兵士冥利に尽きるとかで毎年申込者が出るんだよ?」

「聖騎士エルヴィン様って16歳でしたよね?何年前から騎士やってるんですか?」

「12歳、ちょうどミラちゃんと同じ歳で騎士になった」

「えぇ……とんでもないなぁ」

「幸平、はっきり言って君は兵士としては良い線まで行くかもしれないが俺や聖騎士エルヴィン様に勝つなんて恐らく一生叶わないだろう」

「はっきり言いますね、ムカついたんですか?」

「いいや、むしろ嬉しいよ。俺を超えるなんて言い放った奴はルファード以来だからね」

「君に治癒魔道士としての修行を勧めたのは戦士としてのさらなる飛躍だけじゃない」

「こき使いたかったんじゃないですか?」

「勿論それもある、実際助かってる」

「でしょうね」

「幸平、君は優し過ぎるんだ。剣の技量云々以前に君に兵士なんか向いていない、強くなったのは確かだし俺の思う以上に幸平は強くなった……幸平、君にはこれ以上人殺しなんかしてほしくない」

沈黙、確かに誰にも死んでほしくないというだけなら治癒魔道士に専念してしまった方がいい

魔王軍の脅威、反国王派の動き、この世界から決して消えるの事のない戦火

治癒魔道士の存在は確かに需要が高いだろう

「…………」

「俺はもうやめようよー!とか言って急所だけを外すとか、討ちたくないんだ!とか言って武器だけ壊すなんて芸当はしません」

「何の話だい?」

「俺の剣には、色んな人の願いが込められています。アルバートさんにジャック、ミラちゃんにオルバックさん……剣を振るえば振るうほど強くなれるという実感があった。人殺しは嫌です、でも俺には剣を手放す事は出来ません」

「そうか、分かったよ幸平。さっきの話は忘れていい」

「でも完全に平和な時代が来たら、俺は剣を捨てて平和を堪能します」

「ああ、楽しみにしててくれ」


続く

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