第9話 純粋な願いの果て
幸平「前回までの主人公になりたい人生だった」
恵「その前に、最近出番無いんだけど」
ラングレイ「もうしばらくの我慢だよ」
リン「っていうか、お前いたら便利過ぎるというか……」
恵「何言ってるの……私、噛ませだったじゃん!!」
幸平(自分で言っちゃったよ……!!)
ラングレイ(アーマードベア戦を根に持ってるんだね)
ラングレイ「ルファード……」
幸平「貴族による平民への性的暴行、訴訟しても勝てる見込みが無いし権力で揉み消されるなんて……」
ラングレイ「それだけではない、かつて遊び半分で貴族の魔導士が人体実験と称し平民の子供を焼き殺して無罪となった事件があった」
恵「酷い……!!」
ラングレイ「結果、子供の親が貴族に復讐を果たしたが何一つ盗んでいないのに強盗殺人と認定され子供の親が有罪認定された……死刑は国王の尽力により免れたが」
リン「貧富の差なんて柔らかな言葉で言うが、実際のところ権力の差だな。選ばれた奴は選ばれなかった奴に何しても構わない……そう思ってる人間は多いんだ」
幸平「任務失敗だ、俺のせいで……」
リン「お前だけのせいじゃない、完璧なインビジブルに一切気を発さない戦法……奴の戦法が出来過ぎていた」
ラングレイ「ゴルニスははっきり言って最低の人間だ、だが彼は女好きだが結婚を嫌い世継ぎがいない……混乱が起こるな」
幸平「でも、先の事を気にしても仕方がない……今は奴を倒さないと」
———————
「閃空!!」
空間そのものを断ち切らんとする、ルファードのバトルスキル
隙は多いがその分威力は絶大で、まともに受ければ鉄製の盾も一刀両断されてしまう
斬鉄を飛ばすという無茶苦茶な技で、ナイトマスターの俺でも習得出来ていない
ルファードが行方不明になってからかれこれ5年も経つが、これほどまで強くなっているとは思いもしなかった
「それだけの技量を持ちながら、テロを起こすなど……!!」
「聖騎士エルヴィンを俺は超える、今の俺にとって貴方は踏み台でしかない!!」
「それは残念だ、だけど俺も……エルヴィン様を超えるために修行を積んでいる!!」
最大スピードで放つ瞬光斬、身体にかける負荷も大きいがルファードに勝つにはこのくらいやれなければいけない
「以前よりも疾い……だが!!」
ジリリ……と減り込む感覚を一瞬感じた
「牙断ち……!?させるわけにはいかない!!」
剣士にとって刀剣を失う事は死を意味する、牙断ちなんて達人技までマスターしているとは……つくづく惜しい
ルファードから距離を取り、守護防壁を張る
「閃空ッ!!」
御構い無し、守護防壁を張ったところを閃空で突き崩すつもりなのだろうがルファードは一気に突進してくる
「零距離で受ければ、守護防壁だろうと……貫通出来る!!」
「何ッ!?」
至近距離での閃空、隙が大きい技をこれほどまでに素速く出せるというのか
守護防壁を貫き、斬撃は俺を大きく吹き飛ばした
「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
———————
殺気と殺気のぶつかり合いが終わった、そして聞こえた悲鳴
ラングレイさんが負けたという事がはっきり分かった
「!?」
「どうした、俺はここだ」
斬撃の瞬間のほんの僅かな「気」を元に精一杯の防御をする
「リン軍曹、インビジブルってクリアスの消費が激しいはずじゃ……!!」
「あれだけの完璧なインビジブルだ、かなり消耗するはずだけど……『スキル:クリアスセーブ』持ちなのか!?」
「ああ、その通りだ」
正面、突きだ!!
「よく防げるな……」
「戦闘経験だけはラングレイさんや、軍のみんなで積ませてもらってるからね!!」
「その頼みの綱のラングレイ・アルカストロフは倒されたようだがな……」
「ラングレイさんは死なないさ……そう簡単にな!!」
———————
身体がバラバラになるほどの衝撃、至近距離の閃空はこれほどまでの威力だったか
スキル:ダメージガードを発動しておいて正解だった
肉体的なダメージは防げるが、体内のクリアスを大幅に減らしてしまう……スキルを発動するには体内クリアスのやりくりが重要だが命には換えられない
「これで、終わりですね」
「それはどうかな!?」
「……何!?」
「幸平ッ!!一度だけしか見せられないぞ……剣気を使った必殺技だ!!」
———————
一度しか見せない、俺にわざわざ見せる理由……集中力、ゾーン……あれを使えという事か
だけど、発動トリガーが分からない
一体どうすればいい?確かに、奴に勝つには集中力をフルに発動するしか無いけど
それに肉体的な負荷が大きいから、戦闘中に集中力が切れてしまったら一巻の終わりだ
「大嵐の刃……!!」
「大嵐の刃、ラングレイさんの奥義か!!」
「何を、ボサッとしている?」
緑髪の男がインビジブルを解除し、攻撃してくる
「ここは俺が抑える、幸平はラングレイさんを見ていろ!!」
リン軍曹が俺に指示をする、だがその時俺は疑問に感じていた
攻撃する瞬間に姿を現す理由、術の発動時間には限りがあるのか?
攻撃する瞬間にもインビジブルが発動していたらチートなんてものじゃないが
「剣気が巻き起こす大嵐、軌道は自由自在……1発限りの超大技だ!!」
「見よ!!これが、大嵐の刃!!」
剣先から竜巻が発生し、激しい風が周囲の樹々を薙ぎ倒していく
「どこを狙って……!!」
「軌道は自由自在だと、言っただろう!?」
竜巻はルファードを追い詰めていく、分裂したり合体したりまさに自由自在な剣術だ
原理はどうか分からないが、剣気とは自分の気だから……
「剣気って、力とかエネルギーみたいなものだけどそうか……その原理は自分の心なんだ」
相手を打ち倒すという強固なる意思、初めてラングレイさんが剣気を見せてくれた時に斬られると感じたのはそれが原因だったんだ
「どこにいても、逃げられない……だがそれを超えるスピードで避け切れば!!」
竜巻が消える、ガス欠か
「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ラングレイさんがルファードへと斬りかかる
「まだ、動けるのか!?」
———————
「剣を手に取っただけじゃ、この世界は変えられない。俺みたいな平民出身が何かを変えられるとは思えない……だけど、シアが笑って生きていけるなら俺は全力で戦いたい」
「剣を執る理由なんて個人的なものでいい、ほんの些細なきっかけでいい」
「綺麗な娘だね、シアは」
「あいつに気があるんですか!?」
「ああ、ダメかな……?歳も離れているし」
「いいや、ラングレイさんならシアの事を幸せに出来るかもしれない。シアも貴方を気に入っている」
「どうして、どうしてシアがこんなに苦しまなければいけない!?シアは、シアは……正しく生きようとしたはずなのに!!」
「ルファード……」
「俺は誓ったのに、この剣に……!!シアが幸せに生きる事が出来る世界を創ると!!」
「どこへ行くんだ、ルファード」
「俺は変える、変えてみせる……シアが生きていける、シアが望んだ優しい世界を」
———————
ラングレイさんの剣、グランドスラムがルファードの心臓を刺し貫いていた
「ま、負けた……ガス欠じゃ無かったんですね」
「切り札は1つとは限らない、最後の最後まで油断をするな……教えただろう?」
「シアが死んでから、こんな世界なんかどうなっても良いと考えていた……だけど、この世界は何も変わっていない。今でも誰かのエゴで誰かが傷つけられ、誰かがそのエゴで私腹を肥やしている……許せなかったんだ」
「なら、俺やオルディウス王と共に闘えば良かったんだ!!この国の闇と!!」
「オルディウス王の頑張りは知っている、お前が騎士として国を良くしようとしている事も……でも、それでは時間がかかり過ぎる」
「でも……!!」
「シアが平和に生きられる世界を、シアが幸せになれる世界を……この世界にシアはもういないけれど……シアが優しく生きられる世界を、作ってやりたかった……」
シアの絶望を、シアの憎しみを……優しかったシアが誰かを憎んだりこの世界に絶望したりする事が許せなかった
だから、シアが浮かばれるためにルファードという男は兄として闘ってきたんだ
「憎しみによる俺の革命はここで終わり……です。ラングレイさん、貴方は優しいやり方でこの世界を変えてください……俺は手を汚した、シアのところには逝けない……地獄から、見守っている……」
「ルファード……!!」
———————
「ルファードは、死んだか……だが、結果は変わらない。ラングレイは動けない、お前達の負けだ」
「何も感じないのか、アンタは!?」
「何も……?ルファードが死んだ事か、我々は未来を持たない……我々は生きている意味など無い」
「何を言っている?お前達は、未来を変えるために生きているんだろう!!」
「ルファードは妹という生き甲斐を失い、生きている意味を失ったように……俺にも生きる意味など無い」
合点があった、殺気の無さといいどこか達観したの感じ……奴は目的のためにただ働いているというだけ
生気をまるで感じないんだ
少なくともルファードからは執念を感じたが、この男からは何も感じない
「分かっているのか!?命を奪うという行為は、相手の可能性を奪うという事だ!!」
「だが、我々が始末したエルオーサ家の人間もまた数々の可能性を奪ってきた。商売のために悪質な地上げや強引な吸収合併を繰り返し利益を独占してきた」
「何を……エルオーサ家は貧富の格差を無くすために」
「そういった市民の声が高まってきたから、国王に便乗しただけ……革命が起きた際に勝ち馬に乗れば生き残れるだけ。奴に、人の心は無い」
「だから殺したのか!?」
「計画のためだ」
「お前にだって、人の心は無い!!」
「その通りだ」
剣と剣のぶつかり合い、不意に男は剣を下げてディフェンダーが腹部に突き刺さる
「な、何を……!?」
バチバチと火花が腹部から噴出する、人の身体からは有り得ないものが露出している
鉄板、エネルギーチューブ、メモリやCPUなどが見えた……彼は人間ではなく機械の身体を持った存在
「な、何だそれは!?金属の……なんだそりゃ」
「アンドロイド、いやサイボーグ!?」
「アンド……なんだぁ!?」
「俺は、ルグニカ001……5年前に俺は死んだが、蘇生させられたのだ。地球からやってきたという科学者の手によってな」
「地球から……!?」
「ああ、俺は貴族による平民狩りに遭って命を落とした。娘と嫁も陵辱の果てに殺された……その時に蘇生させられたのだ、その時に感情が一切欠落してしまった」
———————
サイボーグ、そしてクリアスによる永久稼働機関を積まれた戦闘兵器
ルグニカ001は人を殺すためだけの存在だという
「俺の目的はただ一つだけ、貴族の支配からの脱却……そして権力という概念の排除だ」
「そして、その目的のためにエルオーサ家はミラちゃんを残して……」
「必要な事だ、奴は保身と欲だけの怪物……生かしておけば全てを食い潰す」
「だが!!それでも、ミラちゃんの家族だ!!」
「それがどうした」
「娘を喪ったなら、分かるんじゃないのか!!痛みが!!」
「娘と、嫁を失った時……CPUには嫁と娘が死んだという情報だけが出力された」
機械だから、もう分からないのか
機械だから、痛みもなにも無いのか
何故彼は生きているんだ、本当は悲しいはずなのに……苦しいはずなのに
「俺にはもう心が無い、分かるのは貴族による支配などあってはならないという『事実』だけだ」
止めなければいけない、終わらせなければいけない
なにも感じないこの男を……娘と嫁を喪っても悲しめないこの男は……終わらせて、元の父親に戻さなければいけない
「アンタを終わらせる……!!終わらせて、人間として死なせる!!」
———————
集中力、レベル10
通常の集中力とは段違いの、人間としてのスペックを最大限に発揮する能力
たった一度きり発動した俺の、唯一のスキル
それが再度発動した
「相手を斬る」という確固たる意志、誰も死なせないという信念
それが発動のトリガーだと今、ようやく分かった
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
「スピードが上がったが獣のような剥き出しのその闘志、愚かだな……そちらの方が捉えやすい」
「……!!」
攻撃が読める、今まで積み重ねた経験による勘
この男は、正確な攻撃しかしてこない
腕を斬り落とす、例え鋼鉄で出来ていようと今の俺ならば斬れる
「斬鉄、先程までは使えなかったはずだ」
「すっげぇ、あれがアーマードベアをやったっていう集中力か!!」
「1分間だけの、幸平の切り札だよ」
ラングレイさんが立ち上がり、リン軍曹に語りかける
「大丈夫なんですか?ラングレイさん」
「頑丈なのが取り柄だからね」
トップスピードでルグニカに接近する
「甘いな、どんなに速くても俺のCPUが動きを分析している……居合斬りを仕掛けてくる」
「それはどうかな!?」
一気に駆け抜け、ルグニカの背後を取る
「瞬光斬!!」
鋼鉄を斬り裂く感覚、剣ではなく自分の意思で斬り裂く……これが剣気か
「馬鹿……な……それは、ラングレイ・アルカストロフが編み出した必殺の剣……何故だ、データには……」
———————
「起きて!!ねぇ、起きてよお父さん!!」
「ん……今日は休みなんだからもう少し寝かせてくれよ」
「もう!!今日は私の進学記念に遊園地に連れて行ってくれるって約束だったじゃない!!」
ゆっくりと眼を開けると、そこにはおめかしをした娘のマリーが頬を膨らませていた
「そういえば、そうだったな」
「全く、普段傭兵なんて危険な仕事をしているからって休みの日にダラダラして……このままじゃダメ親父になるわよ」
妻のミルフィが眉間にシワを寄せている
全く、昔はそのギャップが好きだなんて言っていたのに
———————
ルグニカ遊園地はどの身分でも入園が出来る遊園地で、平民から貴族まで幅広い様々な身分の人間がいる
オルディウス陛下が直々に指導をして建てられた遊園地だ
マリーは今年で13歳にもなるというのに、次はこの遊園地に行きたいと騒いで聞かなかった
「あんなにはしゃいで、マリーはいつまでも子供だな」
「あら、そんな事ないわよ?」
「どういう事だ?」
「あの子、ボーイフレンドが出来たみたいなの」
「何だと!?初耳だ……」
そうか、マリーももう13歳だという事はそういう事が起きてもおかしくない年齢か
俺もミルフィと出会ったのは今のマリーと同じくらいの年齢だったか
「あら、怒ったりしないの?」
「いや……どちらかというと嬉しいんだ。好きな人が出来るというのは、マリーに幸せのきっかけが訪れるという事だからな」
「貴方って……物分かりが良すぎてつまらないわ」
「ミルフィは嬉しくないのか?」
「嬉しくないわけ無いじゃない……貴方と私の子供が恋を覚えたんだから」
———————
ルグニカ遊園地の人気アトラクションにはクリアスの最新技術が使われたホラーハウスがあるらしく、そこに向かう事になったが
……が、正直言って俺はあまり乗り気ではなかった
というのも、ある都市伝説がまことしやかに囁かれているからだ
1000人に1人、誰も帰ってこない事があるだの
ルグニカ遊園地は入場者と退場者が合わない日があるだの
その合わない時というのがホラーハウスに入った客だけだの
この手の噂は所詮噂に過ぎない、ホラーハウスといっても魔導仕掛けで怨念による賜物ではないと分かっているが
どうしても俺は苦手だったんだ
「貴方って戦場にいるんでしょう?戦場に幽霊が出ないならこんなところに幽霊がいるわけないのに」
「悪かったな……俺はこういう空気が苦手なんだ」
「パパってよくわからないなあ」
かすれていてよく読めないが、この先出口と書いてある
家族の前でヘタなところを見せる前にさっさと抜けてしまおう……と思った瞬間だった
マリーとミルフィの姿が見えなくなった
「お、おい……マリー!ミルフィ!脅かしているのか?」
ドンッ!!
身体を貫く激しい衝撃が走る
「スタンロッド……!!」
戦場で特定の誰かを殺害するのではなく、拘束するための魔導器具
それがスタンロッドだ
だが、いくらアトラクションとはいえ使い方を誤れば命を奪いかねないものを使うはずがない
異常事態だ……だがスタンロッドによる電流を受けた今、身体を動かせるわけがない
意識は深い闇へと落ちていった
———————
「パパ!!パパ!!助けて!!」
2度目の目覚めもまた、マリーの声だった
マリーは俺の見知らぬ男に、いやらしく愛撫をされていた
「遠くから見たら結構な上玉かと思ったんだけど、まだ子供だったなんてなぁ」
「まぁいいじゃん、俺はこういう子供を無理矢理大人にするのも嫌いじゃないぜ」
「こっちのおばさんも結構美人じゃん、やっぱ鷹は鷹を産むねぇ」
聞くからに下品な言葉だ、状況は大体察した
都市伝説なんかではなく、来場者はここを根城にする犯罪者達に監禁されていたのだ
少し考えればわかる事だ、ホラーハウスの裏側にアジトを作って女を弄ぶという犯罪集団が存在したんだ
「貴様ら!!ミルフィとマリーを離せ!!」
「スタンロッドってのも大した事ねぇな、もう目ぇ覚ましてるじゃん」
「いやいや、あれ特注品だぞ!!20万Gくらいするっての」
「あのオッサンバケモンかよ」
しかし、鉄鎖で拘束されている以上簡単には解けない
「まぁ、どの道動けないし万が一鎖を解かれてもスタンロッドあるし……でもさぁオッサン。抵抗しない方が面白いもんが見られるぜ?」
「なんだと?」
「普通に生きていたら、嫁と娘が薬漬けにされてマワされる様なんか拝めないしな」
「や、やめろ!!」
「助けて、パパ!!」
「あなた!!あなたー!!」
———————
やめてくれ、やめてくれ……俺の家族を傷つけないでくれ……
ミルフィは口は悪いが料理上手で、友達思いで、優しい女なんだ
マリーはまだ子供だ、最近ようやく好きな人が出来たんだ、きっとまだキスすらした事がないんだ
「ほーらパパ、マリーちゃんが『大人の女』になる瞬間を……見届けてやってね!!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
娘の、マリーの悲痛な叫び声
耳を塞ぎたいが、手脚は縛られていて雄叫びをあげるしか出来ない
まだ純潔を散らすには早過ぎる、まだ彼女は幼過ぎる
お願いだ、頼むから彼女から夢を奪わないでくれ
ミルフィは涙を流し、マリーは泣き叫びながら名も知らぬ男達に犯され続けた
薬の影響か抵抗や拒絶の叫びから、やがては嬌声へと変わり彼女達は快楽へと堕ちていく
———————
愛液や精液の匂いでむせ返るような空間で、男達の体力も尽きてきたらしい
「あー、そろそろ飽きてきたな。帰るかね」
「おい待て!!鎖を解け!!」
「は?何言ってんの、お前達を解放したら俺たち捕まるじゃん。流石に前科者には誰もなりたくねえよ」
「貴様ぁ!!」
マリーもミルフィもぐったりとしており、目を覚ましそうに無い
どうやら薬というのは一時的に精神を高め、身体に大きな負担をかけるようなようなものだったらしい
「おい、マリーとミルフィはどうなる!!」
「知らねーよ、お前ら家族が死んだところで誰が迷惑するの?俺たちみたいな未来を担う一等市民ならともかくさぁ」
———————
スキル:バイタリティ スキル:ライフセーブ
戦場で生き残るために身につける『力』は俺に残酷な結末を見せた
先に命が尽きたのはマリーの方だった、うわ言のように俺の名前と「ジャック」という好きな男の子の名前とミルフィの名前を呼んだ
死期を悟ったのか、俺に向かって手を振り「バイバイ、パパ……ママと2人きりじゃ寂しいからすぐに来てね」と言葉を発したのを最期にぴくりとも動かなくなった
それを皮切りにミルフィは意味不明な言葉を羅列し、発狂してしまったが体力が尽きた頃に
「あなた、愛しているわ」と発して力尽きた
———————
飲まず食わずで監禁され、5日が過ぎた頃に俺もとうとう限界を迎える
マリーとミルフィの身体は腐敗をはじめ、異臭を放っており美しかった容姿も無残だ
下品な笑い声、悲鳴、泣き声が頭の中で反芻される
愛する者の朽ち果てた姿
愛する者が放つ腐敗臭
「誰か、俺の耳を切り落としてくれ……もう何も聞きたくない」
「誰か、俺の眼を潰してくれ……もう愛する者の変わり果てた姿を見たくない」
「誰か、俺の鼻を削ぎ落としてくれ……愛する者が放つ腐敗臭など嗅ぎたくない」
「誰か、誰か、誰か……頼む……」
———————
「マリー……は……まだ……子供……ミルフィ……は……やさ……しく……て……えが……お……が……」
メインCPUが破損した事で封印されていた記憶が蘇ったのだろう
だが、何より許せないのが彼のような優しい父親が一つの家族を破壊した事だ
「マ……リー……俺……の……かわ……いい……マリー……」
「駄目だよ、やっぱり。優しいお父さんに戻らないと、マリーさんもミルフィさんも悲しむよ……優しい誰かが優しい誰かを傷つけるなんてダメなんだ……」
「やってやれ、幸平」
リン軍曹が言う、覚悟を決めろっていう顔をしているように見えた
「うおおおおおおおおおおおお!!」
破壊する、破壊して彼の魂を解放する
機械仕掛けの悲しい殺人は終わりにする
そう念じて、俺は刃を彼の頭部に突き立てると
「あり……がと……う……」
ありがとう……そうはっきり聞こえた
彼は最期に優しい父親に戻れた、そう……信じたかった
続く
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