第7話 憎しみの銀の刃
前回までの主人公になりたい人生だった
幸平「ちょっと待った」
恵「どうしたの?」
幸平「キャラ設定とか長々と書くの、どうかと思ってたんだけどさ……普通にあらすじ書かない?」
恵「あぁ……確かに、面白いかなあとか思っていたんだけどダメかな?」
幸平「っていうか、普通に読みづらくない?」
恵「まぁ、確かに……」
という、訳で……
幸平「前回までの、主人公になりたい人生だった!!」
恵「1つ目、夏樹くんがメルドニア国軍の兵士になっていた!!」
幸平「そもそも、国のために何かをするっていう約束で部屋を借りているワケだしね。働かざる者食うべからずって事で」
恵「階級は伍長って言ったっけ、偉いの?」
幸平「メルドニア国軍では一番の下っ端だよ……ガン◯ムのアム◯だって少尉(劇場版では)からキャリア始めてるのに」
恵「ちなみに私は国立のボランティア組織で働いているよ、仕事を請け負って依頼者の元に向かってお手伝いをしてるんだ」
幸平「でも前回、街道にいた魔物をやっつけていたよね?リン軍曹が飯島さんに感謝してたよ」
恵「あれは街道のゴミ拾いの途中だったの」
恵「2つ目、街道でバラバラ殺人が起きた!」
幸平「女の子の泣き声が聞こえたから何事かと思ったらまさか……」
恵「泣き声の主の、ミラちゃんの家族だったんだよね」
幸平「あまりに凄惨だったから魔物の仕業かと思ったけど、魔物は捕食目的以外では人間を殺さないからね……剣術ではともかく軍人としての冷静さ、まだまだリン軍曹には及ばないなぁ俺」
恵「ところで、下腹部や腕や脚を持っていくとかラングレイさんが言っていたけど頭とか胸は持っていかないの?」
ラングレイ「魔物の種族によるけれど、脳や心臓はクリアスが最も集まる部分だから中毒症状を起こす危険性がある……だから残す事が多いんだよ」
恵「ラングレイさん、いたんだ!?」
ラングレイ「解説役だよ」
幸平「ん?でもアーマードベアは……」
ラングレイ「種族にもよる、だよ」
幸平(ご、御都合主義感……)
恵「3つ目、ミラちゃんに復讐を依頼される」
幸平「ミラちゃんって、まだ10歳くらいだよね……」
ラングレイ「11歳、もうじき12歳になる」
恵「そんな女の子が、誰かに復讐を依頼するなんて……」
ラングレイ「この世界では、法的な手続きを取れば仇討ちは合法になるんだ。目の前で家族を惨殺されたんだから、手続きは問題なく通るだろうね」
幸平「……家族を殺されたら犯人を許せない気持ちは分かるけど、でも何だか上手く呑み込めないな」
ラングレイ「大いに悩むといい、だけど戦場では悩むんじゃないよ?迷えば死ぬだけ、死んだら何もかも終わりなんだ」
———————
もう休めとラングレイさんに言われたが、ベッドで横になっても眠気なんか全く来ない
スマホなんてもうとっくに電池が切れているし充電出来る環境なんか当たり前だが全くない、こんな時スマホとかあったらどれだけ有り難いか
ベッドで横になれば思い出すのが涙を浮かべたミラちゃんと「殺して」という言葉、まるで全く脳裏を離れない
どうしてあんな小さな女の子が誰かに殺意を抱かなければならないのか、犯人を許すなとは言えないしあんな事をした犯人を俺も許す事なんか出来ない
バラバラに切断された遺体を思い出し、胃の内容物がこみ上げてきて思わず吐き出す
現場にいた時はリン軍曹がいたから我慢出来たが、しばらく夢でうなされそうだ
———————
今日も魔物狩りの仕事があるので、準備を整える
ヒールポーション、解毒剤、弁当を忘れずにアイテムサックに入れる
ゲームと違って、体力というのは戦闘以外でも使うのだから戦闘で魔物をやっつけても大怪我をしてその場から動けなくなったら終わりだ
だから、ヒールポーションは多めに持ち歩く必要がある
「幸平、これを見てくれ」
ラングレイさんに唐突に声をかけられる
「手紙……ですか?」
「ああ、それを読めば分かるが先日起きたバラバラ殺人事件……これは殺人事件ではない。テロだ」
「テロ……!?」
テロ、国家打倒や法案の改正などを求め目的を果たすために暴力を働く行為
要するに、社会を思い通りにするために誰かに血を流させるという「力に任せて他人を思い通りに動かす」というものだ
「でも、何でテロなんです?」
「読んでみてくれ」
『我々、夜明けの先導者は一つの巨悪を討った。未だ三等制を引きずり富を持たぬ我々を穢れた種などと見下すメルドニア貴族のエルオーサを討ち取ったのだ
これはメルドニアを平等なる社会へと導く大いなる一歩となるだろう
愚鈍なる権力者共よ、見ているがいい!!我々が世界を新たなる時代へと導くのだ!!』
「エルオーサ……ミラちゃんの苗字ですね」
「ああ、馬鹿者共め……エルオーサ氏はオルディウス王の市民格差廃止という思想に賛同したお前達の仲間だというのに……!!」
「市民格差ですか?」
「ああ、かつてこの国は下民、中流、貴族に分かれていた。努力すればするほど階級は上がっていき努力を怠れば階級は下がっていくという『競争社会』のシステムを作り上げた……そんな事をすればどうなると思う?」
「え?えぇと……弱い奴は弱い奴のままで、上の連中が権力を貪るとか、ですか?ありがちですけど」
「その通りだよ、そしてオルディウス王はその状況を良くは思わなかった……一部の者だけが利を得るのではいずれは国は破綻する。それだけではなく貧困に苦しむ下民達を救いたいと願ったんだ」
「優しい王様ですね、俺みたいな異世界から来たよく分からない奴を受け入れるために色々してくれましたし」
「ああ、だけど長く続いた三等制が完全に破綻するには時間がかかるし、下民や平民に力を与えれば秩序……いや自分達を恨む者達の手によって貴族達に危害が及ぶかもしれないと、貴族達は当然反対した。奴らは努力など何一つしていないのに、何が競争社会だ」
そういえば、ラングレイさんは確か『庶民』の出身だと言っていたな
きっと今でも尾を引く三等制というシステムに思うところがあるのだろう
———————
今日の獲物は空を飛ぶウィングラビット、ツノを回転させるドリルライノス、頭が大きくてバランスが悪いビッグヘッドドッグその他諸々
「それでは、肉を切り分けて骨を外して……毛皮は別の袋に」
「あの、ナルコ伍長……思ったことがあるんですけど」
「どうしました?」
「この任務、魔物討伐という名の晩飯の用意なのでは!?」
「え、そうだけど」
手際良く骨と肉を切り分けるリン軍曹が答える
この人、慣れてるな……
「良いじゃないですか、ただ迷惑だとか恨めしいだとかでそんな理由で殺すだけで殺してそのまま放置するなんかよりは……生きる為に栄養になった方が数倍マシですよ。踊り食いされるのは勘弁ですけど」
「そうですね、じゃあさっさと持ち帰って栄養にしちゃいましょう」
「骨と毛皮はお金にしちゃいましょう」
「そう……ですね」
国立軍、ホワイト企業だが低賃金
———————
「全く、我々貴族を襲うなど!!」
という訳で、テロだと判明した以上特に危険が多いであろう五大貴族には警備がつけられる事になった
五大貴族は三等制以前から存在する巨大な財閥で、議会でもかなりの発言力を有する
メルドニア王国はその名の通り君主制だが、かつて邪王と呼ばれたほどの国王が色々やらかした事で国王に全権を持たせるのは禁止にしたらしく
国王にも決定権はあるが、議会を通さないと意見がまず通らない
どちらかといえば、日本でいうところの総理大臣とかに近いかも
で、俺たちが護衛をしているゴルニス・アルダインは五大貴族アルダイン家の当主
馬車に乗って移動をしているのだが愚痴が絶えない
馬車が狭いだの、もてなしが無いだの、美女がついていないだの……色々とうるさい
「大体、お前達がテロリストを殲滅しておかないからこの様な危機に陥るのだ!!無能共め!!」
「隊長、テロリストに襲われたって体にしてこいつ斬り殺していいですか?」
同行しているのは、殺人事件に出くわした俺とリン軍曹に隊長に選ばれたのはユング大尉に筆頭騎士のラングレイさん
「気持ちは痛いほど分かるが、そんな事になれば軍法会議で俺もお前も斬首刑だ。堪えろ」
「飯島さん、大丈夫かな……貴族の人殴ったりしてなきゃいいけど」
飯島さんは本来軍人ではないけど、事件への協力を申し出たため各貴族への護衛をしている
で、飯島さんはどんな人間でも気にいらなければ食ってかかるような性格のためぶっちゃけ心配だ
———————
「ほひぃ、ほひぃ……疲れたわい。休憩にしよう」
なんで馬車に乗ってるだけのお前が疲れるんだ
とかツッコミを入れれば斬首刑になりかねないので黙っておく
「じゃあ、昨日のうちに燻製しておいたウィングラビットの肉とドリルライノスの煮込みを……」
「燻製の技術ってこっちにもあるんですね」
「火で直接焼かずに煙を当てて長期保存が出来る、不思議と発見してしまうんだな」
「安っぽい魔物肉など食べて……下民は卑しいな」
こういうのは無視をするに限る、いちいち反論などしていたら疲れるだけだ
「ドリルライノスって膂力があってかなり筋っぽいけど弱火でじっくりと煮込めば柔らかくトロトロになるんだ」
「へぇ」
「うん、ウィングラビットの燻製もなかなかイケる」
「ところで、ラングレイさんって身分の割には舌が庶民的ですよね。以前、食堂でご飯に肉を乗せて上からダシ汁かけて食べていましたし」
「あぁ、そういうのが好きなんだよ……それに貯蓄が趣味でね、何が買えるかとか考えるのが好きで」
「ふん、其奴は所詮は剣と勉強だけで成り上がった金メッキのようなもの……偽物の血統だ。我々とは違うのだ、我々は血によって選ばれた者!下民とは違うのだ」
殺気———
ゴルニスの言葉の後一瞬、殺気を感じた
ピンと空気が張り詰めたのを感じた、ラングレイさんが見せてくれた「剣気」を見たときのようなあの感覚
ラングレイさんも感じたのか俺と同時にサバイバルナイフを投げると、鋼鉄で出来た矢が落ちる
「ほひぃ!?そ、そんな言葉一つで怒らんでも……」
嫌味のつもりで言ったんかい!!とは思ったが、それどころではない
(よく気付いたな幸平、剣気を見せた甲斐があった……)
(しかし、鋼鉄の矢か……発見した死体は剣による傷のものだった、同一犯では無いのか?)
(油断をしてはいけないよ、リン。仕留め損なったんだ、第2撃が来る!!)
クリアスが収束していくのを感じた、樹の上……炎属性!!
「守護防壁!!」
ラングレイさんが剣気を拡散させ、炎を弾く
「剣気、あんな事まで出来るのか!!」
「いや、あんな事が出来るのはラングレイさんぐらいだよ!!」
「お前ら、お喋りしてないで私を守れ!!私が死んだら、この国はグチャグチャになるんだぞ!!」
国がグチャグチャになる前に俺たちが終わるけどね
「この国を腐らせておいて、何を言う」
冷たい声、憎しみに満ちた男の声
強過ぎる殺気だ、分かりやすい
俺はゴルニスの前に立ち、男の剣をディフェンダーで受け止める
だが、その剣圧はあまりにも強く思わず腕が痺れる
長く美しい銀髪に青い瞳、イライザさんよりは明るい髪色で整った顔立ち
「その声、その顔立ち……ルファード・エルスター!!」
ラングレイさんが叫ぶ、この銀髪の名前だろうか
「お久しぶりです、ラングレイさん」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます