第4話 役立たずの意地

第4話 役立たずの意地


前回までの主人公になりたい人生だった


夏樹幸平


職業:学生

レベル1


主人公、現状役立たず

あらゆる職業に適性があるものの、得意な適性が無い上にスキルもしょぼい

平々凡々な自分に飽き飽きしてるのに、この世界では役立たずという有様で自分に失望する


飯島恵


職業:学生

レベル1


嶋村和也に恋する女の子、しかし傍にいるのはパッとしない男

目下の目標は和也を探しに行く事だが、戦闘経験値が足りないため修行をしなきゃいけない


嶋村和也


職業:学生

レベル:?


装備品:?


幸平の友達で女の子にモテモテなハイスペック男子

好きな女の子のタイプは大人しくて優しい女の子、頑張れ飯島さん


ラングレイ・アルカストロフ


職業:ナイトマスター

レベル45


HP524

MP398


装備品

グランドスラム(剣)

リフレックス(鎧)

マスターガード(盾)

破邪の聖刻(アクセサリー)


スキル

守護防壁

天雷絶剣

大嵐の刃

瞬光斬



王国の一等騎士のマスター

占い師のイライザとは知り合いだがウマが合わないらしいが、放っておけないらしい



オルディウス・グラン・メルドニア


職業:国王

レベル20


HP155

MP50


装備品

王家の剣

王家の鎧

王家の盾

王家の兜


スキル

アークストライク

アークシールド


メルドニア王家の現国王、プリングルスの人

そろそろ世継ぎが欲しいがお見合いしてきた人に魅力を感じないらしい

ステータスを見れば分かるが武術は割と得意


イライザ・エルテミシャ


職業:占い師

レベル34


装備品

プリズムダガー(短刀)

占い師の服(衣服)

マジックブースター(アクセサリ)


スキル

未来予知

スペルアクセル

マジックシールド


実力派の占い師らしいが、予知能力のスキルがあるだけで割と適当だがたまにすごい正確に当てることもある

スタイルも良く顔立ちも綺麗だが、間延びした喋り方やズバズバ何でも言っちゃう性格のためモテないらしい

ラングレイとは腐れ縁で、気さくだが爽やかイケメンなところが気にくわないらしく嫌味を言っては怒られている

ラングレイは女性に免疫が無く真っ赤になって照れるところが可愛いため、よく色仕掛けをやっている

年齢は幸平たちより一学年上


——————


メルドニア王国、首都エルベルク城の中庭は静かな場所だが今日は様子がまるで違った

一等騎士筆頭のラングレイ・アルカストロフが、黒い髪にダークブラウンの瞳の少年に剣の稽古をつけている

ロクに剣を握った事も無い素人を木刀でボコボコにしている、異様な光景だ

兵士達もその稽古の様子を見ているし、一般の観客も噂を聞きつけたのかここ毎日色んな人が幸平フルボッコショーを鑑賞しに来ている

幸平達がメルドニアに転移してから一週間が経過して、城の兵士たちや兵士長ザルバック・ドルトネンに稽古をつけてもらっていて腕前は上達してきているが腕前は末端の兵士にも及ばない

「どうした!?もう終わりかな!?」

慣れない胸当てや盾、木刀の重さに翻弄されながらも必死に戦っているが息が上がり身体も熱く力が入らない

どんなに先読みをしようとしても、どんなに動きを見切ろうとしても敵わない

敵ってしまっては筆頭騎士の名折れかもしれないが、このラングレイという男の底が見えない

『まだ本気の10%も出していませんよ』という余裕が透けて見えるのだ

「く、くそッ!!」

防戦一方、まるで攻勢に回れない

それに木刀同士の戦いとはいえ、剣圧が強くて腕が痺れてくる

「それじゃあ、そろそろフィニッシュブローだ!」

陽炎のようにラングレイの姿が揺らめき、消えると内臓が抉られるような激しい痛みが胸から腹部にかけて走る

「おお……!!あれが筆頭騎士ラングレイの瞬光斬だ!!」

瞬光斬、ほんの一瞬眼で見えないほどのスピードで相手の背中を取り斬撃を浴びせる技だ

木刀だからこそ俺は生きているらしいけど、刃のついた真剣でこれを受けたら俺は今頃胴体と下半身が泣き別れをしているらしい

「大丈夫かい?幸平」

口をパクパク動かしているつもりだが声が出ない、なんか骨と骨の間に刀身が入ったような気がする

っていうかこれ、肋骨折れてるんじゃないか

「治癒魔導士を呼んでくるよ、ちょうど幸平の体力も限界でしょ」

「有り難いです」

うん、有り難いです。そう言ったけど多分伝わってない

声が出ないんだこれが


——————


「幸平さんレベル5、飯島さんレベル13って感じですね〜」

「何故そんなにレベル差が」

「適性の差ですね〜」

1週間毎にイライザさんがやってきてはアナライズをしてもらう、俺は戦士としてレベル5で飯島さんは格闘家としてレベル13

「幸平さんはまだまだ雑兵ってレベルじゃねーので頑張って稽古に励んでください、飯島さんはそこいらの末端の兵士よりは強いでしょうね」


———————


「それじゃあ、夏樹くん。私は部屋に戻って寝るから」

あれからも俺は基礎トレーニングに素振り、自動人形を相手に勝負を挑んでは負けてを繰り返す

自動人形相手に負けるとか、本当に雑兵ってレベルじゃねーぞ

「もっと!!もっと!!もっとだ!!」

負けたくない、誰に?飯島さんに?

自動人形なんかじゃない、もっと誰かに勝てるようになりたい

誰かって誰に?どうして負けたくない?

誰かに必要とされたいから?俺は他人とは違うぞって言いたいから?

役立たずは嫌だ、そうだ、役立たずは嫌なんだ!


———————


「そういやさぁ、最近大型の魔物が出るらしいじゃん」

「大型の魔物?」

「そうそう、物騒だよねえ……筆頭騎士様も素人に剣術教えるんじゃなくてもっと強い奴らが本気出してここいらの魔物を一掃してほしいよねえ」

俺の悪口か……髪染めようかな

あんまりこの世界だと黒髪っていないみたいだし、悪目立ちするよな

「このままじゃ被害者出るかもしれないし」

被害者ってなんだ?なんか出るのか?

「手配書は出されてるみたいだけど、魔物に喰われて死ぬなんて嫌だよなあ……絶対痛いし苦しいよ」

ああ、うん。首を速攻でボキッといかれるなら楽だけどそうじゃない場合は半端なく痛いね

全身の関節ねじ曲げられた時は気が狂うかと思ったよ……しかし……

「手配書が出された魔物か」


———————


「ぐぅ……!!」

腹部に鋭い突き、木刀とはいえ達人の技を受けると痛いどころの騒ぎじゃない

内臓からこみあげてきて、喀血する

「ま……だ、まだ!!」

「良いガッツだ、だけどその状態じゃ試合続行不可能」

「死んでも蘇生屋がある……!!」

「はぁ……」

ラングレイがボソボソと何かをつぶやきはじめると、ラングレイの元に青い波動?が集まり俺の頭に流水が降ってきた

「うわっ!!冷たッー!!」

「蘇生屋は無料じゃないし、蘇生にも限界があるの」


———————


休憩室、ラングレイさんがお茶を淹れてくれた

この世界独特のお茶らしく、砂糖とか調味料を入れていないのにほんのりと甘いのにクドさが無い

「さっきはすいません」

「強くなりたいのも分かるけど、焦り過ぎだよ。君は君のペースで強くなれば良いんだから」

「でも俺、強くなれないんでしょう?せめて足を引っ張りたくはないです」

「強くなれないなんて誰が決めたんだよ」

「えっ?」

「上級職は上級職、確かに上級職になって得られるスキルは強力なものが多いけどだからって強くなれないとは決まってない」

「でも、イライザさんの口ぶりだと……」

「ダンサーを極めた格闘家がいたとしよう、軽やかなステップ捌きで敵を躱しながら圧倒出来る。職業をマスターして転職をすると、その職業の性質を引き継ぐ事が出来るんだ」

「えっ!?」

「上級職は強力だ、だけど一つ一つ極めていったらどうなると思う?世の中には未だ発見されていない複合スキルなんてのもある……君は君の強さを磨けばいい」

「そういえば……」

「どうしたんだい?」

「蘇生には限界があると言っていましたよね?どういう事なんですか?」

「君たちが生き返る事が出来たのは、心臓と脳が原型をとどめていたのと発見が早かったからだよ」

「脳と心臓ですか」

「うん、ただし心臓と脳が無事でも腐敗が始まれば蘇生は不可能だし生命力を使い果たしたり呪いを受けた場合も不可能。以外と制約が多いんだ」

「気をつけます」

「君は最近過労気味だし、死んでも生命力が足りなくて蘇生出来ませんでした〜なんて事になりかねないから気をつけるんだよ」


———————


「ま、参りました!!」

中庭に響く声、兵士達は1日に1度木刀を使った試合をやっている

剣術を学び始めて10日目、俺はようやく剣術試合で人に勝った

ナルコ・アルネン伍長、入隊2年目の兵士だ

「はぁ、はぁ……勝った……!?」

「ええ、貴方の勝ちです。僕も精進しなければいけませんね」

「勝ったーーーーー!!」

俺はいつぶりか、勝利の雄叫びというやつをあげた

「まじかよ!?あいつ強くなったんだな!!」

「いやいやマグレだろ、アルネン伍長も階級は低いけど弱くはないぜ!!」

ガヤガヤと騒いでいる人もいるが、誰かが拍手を送り始めてから道場にいる全員が拍手を送り始める

いつの頃からだったか、俺は本気で何かに取り組むというのをやらなくなった

ゲームだって、勉強だって、スポーツだって

才能が無いんだから意味がない、俺には何も得意なものなんか無い

だから、何かで評価されるなんて事は一切無くなって俺は更にひねくれ始めた

だけど、強くなりたいの一心でガムシャラにラングレイさんに喰らい付いて稽古をやった

「朝から晩まで剣術剣術、練習が終わっても居残り稽古……取り憑かれたみたいにやってるなぁと思ったらアルネン伍長に勝ってしまったか」

ラングレイさんが俺に呆れたかのように言う

「けど、そこの無粋な男が言うように今回はマグレ勝ちだ。次はこうはいかないだろう、精進するんだ幸平」


———————


「大型の魔物?」

「はい」

昨日の夜聞いたことを報告すると、ラングレイは知らないようだった

「討伐命令というのは主に傭兵ギルドが片付けているからね」

「傭兵ギルド、ですか?」

「まず、組織っていうのは国立組織と民間組織に分かれていてね。主に民間組織はギルドっていう名前がついているのが特徴で、特権が無いぶん身軽に動けるんだ」

「なるほど」

「君がここ最近通い詰めだったのは国立の軍事組織、メルドニア国軍でここの運営は俺が任されている。他には国立魔導研究所や国立郵便局に国立エネルギー管理局なんかがあるね」

「主に国立って名前がつくんですね」

「そうそう、これからザックリ覚えておけばいいよ」

ラングレイさんはなんていうか、真面目なんだか適当なんだかよく分からないなあ

どうでもいい事はどうでもいいって放り投げてる時がある

「傭兵ギルドに問い合わせてみるかな……」


———————


それから2日後、未だに大型の魔物とやらは討伐されていないらしい

傭兵の死体が発見されたとか、未だにどんな姿なのか分からないとかで街の雰囲気は悪くなっていく印象を受けた

しかし、最近無理をし過ぎだとかで俺は休息を命じられた

「夏樹くん、最近強くなってきたみたいだね!」

「うん、だんだん兵士の人に勝てるようになってきたよ」

「レベルどのくらい?」

「レベル9くらいだってイライザさんに言われたよ、飯島さんは?」

「うーん、レベル20くらいかな?結構実戦経験も積んできたから場慣れもしてきたよ!!」

シュッシュッとシャドーボクシングのように拳を振るう飯島さん、こんな人だったけどこんな人じゃ無かったのに……

というか更に差がついている……もっと頑張らないと

「た、助け……助けて……」

不気味な声がした、うめき声のような、断末魔の悲鳴のような

俺と飯島さんが振り返る、周囲の人もそれに気付いたのかザワザワとし始め若い女性は悲鳴をあげる

下半身を食われたのか、内臓をボトボトとこぼしながら男は地面を血塗れ……いや、ハラワタ塗れにして這っている

尋常では無い光景だ、尋常では無い光景なのだがそれは普通では見ない光景なので異常である事を認識するのに時間がかかった

「……救急車、呼ばなきゃ!!飯島さん!!」

「救急車は無いよ!!この世界に!!病院に通信を!!」

そう飯島さんに言われて魔導通信機を取り出し、治療院に通信を送る

「西門の前に下半身を魔物に喰われた男性が……」

キャああぁぁぁぁぁぁー!!

女性の悲鳴、前を見ると街の中に大型の魔物が……エッジライガーよりも更に大きな魔物が街の中に入ってきていた

「あ……あ……!!」

通信機の向こうで、どうしましたか!?なんて叫んでいる

「やめてください、助けて……それ以上食べられたら俺、生き返れなくなっちゃうだろ……!!」

下半身を失った男が、恐怖に震える声で叫んでいる

「やめてくれ!!やめて、やめ……!!」

ガリッ!!ボリッ!!バリッ!!バキッ!!

骨を噛み砕く音、溢れ出る血液

命乞いをしていようがそれは魔物には届かない

「どうしたんですか!?応答してください!!」

叫ぶ通信士に俺は震える声で答えた

「魔物が、男性を喰い殺しました……」

「えっ目の前でですか!?今どこに、街の中ですか!?まさか、防衛システムはどうなって……」

「街の中にいるんです、魔物が……!!」

そんな風に話している時、飯島さんはまっすぐに魔物に向かって飛び出していく

「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!出て行けえええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


———————


魔物は鈍重で、全身に鎧を纏っているような外見の熊だ

鋭い牙、鋭い爪、そして暑い装甲を持つ

見ただけで分かる、エッジライガー以上に強力なモンスターだ

「剛・波動掌!!」

体内の気を掌に集中させ、それを敵にぶつける格闘家の必殺技の一つだ

格闘家は運動性が高く、身のこなしが軽い

しかし、火力が低いのが欠点だ

剛・波動掌は敵の体内に気を送り込む性質もあるが、あまり効果は見えない

「俺ももう、素人じゃない!!」

腰に下げた剣を抜き、俺も熊に向かう

ガキィン!!

「硬ッ……!!」

分かってた、メチャクチャ硬い

攻撃直後、バックステップで下がる

こんな馬鹿でかい魔物の一撃なんて食らうワケにはいかない、一撃で致命傷を受けそうだ

「夏樹くん!?無理だよ!!」

「無理かもしれないけど、今戦えるのは俺達だけだよ!!」

周りに兵士はいない、警備員は戦えるだけの技量はあるが住民の避難が最優先だ

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

戦いとは、いかに気迫で相手を蹴押すかだ byラングレイ

雄叫びをあげて、思い切り剣を振るう

敵の攻撃に最大限注意しながら、思い切り行く

「夏樹くん、下がって!!」

強力な「気」を察知して、俺は後方へ下がる

「烈風脚ゥ!!」

空中へ飛びながらの回転三連蹴り、どこか既視感のある技だ

しかし、この技のお陰で熊は大きく怯み倒れこむ

「トドメだー!!」

熊の頭にジャンプ下突きで剣を突き立てる

熊はギャァアアァァァァァ!!という悲鳴をあげると、激しく暴れ回る

「なんだよ……確実に致命傷を与えただろ……」

しかも弱るどころか強暴性が増している、怒りのあまりパワーアップする敵役のようだ

クマの攻撃は俺に向けられているが、素早く回避していく

鈍重さのせいで動きが単調だから避けやすいのが救いだ

だけど、俺は剣を持っていない

回避は出来ても攻撃が出来ないのだから意味がない

「ハート……ブレイクウウゥゥゥゥ!!」

クマの攻撃が俺に向いているのを利用して、飯島さんは背後から心臓に向けて全力の攻撃を仕掛ける

ハートブレイクは文字通り、相手の心臓にダメージを与える技だ

しかし、やはり格闘家の技では装甲を抜く事が出来ない

「くぅ……!!」

しかし、クマの意識はやはり飯島さんに向いた

そしてその拳は飯島さんを殴りつけようとする

「ですよね〜……!!」

だが、クマの拳が飯島さんに届くその直前に俺は無意識にクマの頭に突き刺さった剣を思い切り引き抜き、クマの心臓を剣で刺し貫いていた

「ぐがああアァァァァァァッ!!」

クマの悲鳴、苦痛の咆哮

その瞬間の事はよく覚えていない

だけど、やたらと身体が軽くて力が漲って

敵の動きはよく見えて、剣と身体がまるで一体になったかのような感覚

「幸平、剣と身体が一体になったかのような感覚を身につけるんだ……それが出来たら俺も苦労はしないんだけど」

ラングレイの言葉だ、剣と身体が一体になったかのような瞬間があってその時だけは誰にも負ける気がしないそうだ

何となく、ラングレイの言葉の意味が分かった

クマは俺に応戦するが、そのクマよりも速くクマの立派な装甲を刺し貫き切り落とす

気がつけば、クマの身体はバラバラになり首は切り落とされていた

「ハァ……ハァ……」

「凄い、凄いよ!!夏樹くん!!私が勝てない敵に勝っちゃった!!

戦闘終了後、身体が鉛のように重くなり姿勢が維持出来ず倒れこむ

「夏樹くん……?」

身体がまるで言うことを聞かない、声も出ない

ヤバい、これは本当にヤバい

いよいよ死ぬのかもしれない、過労で



続く!!




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