第2話 見知らぬ天j……空?
前回までの「主人公になりたい人生だった」
夏樹幸平
レベル1
職業:学生
HP15
MP0
装備無し
飯島恵
レベル1
職業:学生
HP15
MP0
装備無し
嶋村和也
レベル1
行方不明
現在位置
学校の廊下、階段前
——————
夏休み中、俺の友達の嶋村和也が行方不明になったら変な噂を立てられてそれにキレた飯島さんが馬鹿を煽ったら俺と飯島さんは階段の踊り場から突き落とされた
……はずなんだけど
あるはずの天井が無いし、俺と飯島さんが背中を向けているのは柔らかな草むら
学校の校舎内なのに風が吹いていて、それが頬を撫でる
階段の踊り場から突き飛ばされたのははっきり覚えている、そしていきなりこの見覚えのない場所にいる
日曜朝に放送しているヒーロー番組もびっくりのワープっぷりだ、学校の校門前からスーパーアリーナまで吹っ飛ばされたりするレベルの
「死んだ……のか?」
あの態勢から突き落とされたのだから、打ち所が悪くてポックリなんて普通に考えられる
「それか、異世界転生?なんてね」
「異世界転生?そんな近年のラノベじゃあるまいし……」
「でも、だとしたらアレ……変じゃない?」
飯島さんは空を指を指すと、あるはずのものが無いことに気付いた
「太陽が……無い」
周囲をはっきり視認できるくらいに明るく、周囲の景色があざやかに見えるような天気
多分、空を見ないで周りだけを見たら快晴と言えるほどの天気の良さだ
空は青い、雲は殆ど無い、しかし太陽が無い
——————
呼吸が出来る、寒くも暑くも無い……つまり人間が生きられるだけの環境は整っている
しかし見た事の無い植物が生えている上に、太陽が無い
腕も脚もあるし、俺と飯島さんはお互いに触る事が出来る……死んだというよりは異世界に飛ばされてしまった可能性が一番高そうだ
「お腹空いたなぁ」
飯島さんがボヤく
「お腹空いたって事は」
「生きてるって事だよね」
また一つ情報が手に入った……が
辺りを見渡すと果てしない地平線が広がっている
いわゆるランドマークが無い、これといった目立つものが無いのだ
ワールドマップを歩いている勇者ってこんな感じなんだろうか、歩いても歩いても平原でなかなか街が見当たらない
「これで魔物がいたら完全にRPGだな」
グォルルルルルル……
血に飢えた獣が発するような、敵対生物や捕食対象を視認した生き物が威嚇する声
そんな感じの音が聞こえた、空気があって植物があるんだから存在して当たり前なんだから獣がいてもなんら不思議はない
「左右、正面……いないって事は後ろだな?」
足元に落ちている乾いた木の棒を手に取る
「夏樹くん……」
「いっせーので振り返ろう」
いっせーの
「せっ!!」
意を決して振り返ると、そこには虎とライオンの合いの子のような獣がいた
生き物が威嚇をするのに効果的なのは、いかに相手にハッタリをかけられるかだと思う
ヤンキーがメンチを切るのと同じで怖い顔で相手を怯ませる、相手が怯めばそれだけでケンカが有利になる
その虎?いや、ライオン?の容姿ったらそりゃ半端ない、白眼を剥いて大口を開けると必要以上なまでに尖った牙にギザギザの白い歯
そして漫画みたいに唾液が糸を引いていて、一突きされたら内臓を持っていかれそうなほどの筋骨隆々としたボディに鋭い爪
「だけど、獣なら……」
木の棒を見せびらかし、それを獣の後方を目指し遠くに投げる
上手い具合に飛んでくれたが、一切目で追ってくれない
「詰んだ」
「夏樹くん!!」
「詰んだわ……」
一度死んだ命、一瞬だけでも異世界転生というものを体験出来ただけでもラッキーというものさ……
——————
「いやぁ、ラッキーだったなぁ諸君!!」
「……そうでしょうか」
あの後、俺たちは死んだ
まずは腹部を貫かれ、関節が有り得ないほどに曲げられて引き千切られた
その後に首をへし折られて絶命……出来れば最初に首をへし折って欲しかったです。死ぬほど痛かった、死んだけど
ムシャムシャと捕食されているところを騎士様に見つけられ、蘇生屋まで連れてきてくれて無事に生き返る事が出来た……らしい
あの獣、エッジライガーは並大抵の戦士では太刀打ち出来ないレベルらしく騎士クラスの実力が無いとまず勝てない
そして、骨ごとバリバリと食べてしまうため捕食完了後は死んでも生き返れないのだという
「はぁ……」
「はぁ……って、生き返りたくなかったの?しかし変わった格好だね」
俺たちを救助?してくれた騎士様は軽いノリで喋っているが、臨死体験……というか死と蘇生を初めて経験したしこの世界のことが分かっていない
「いや、生き返る事が初めてというか死ぬのも初めてなので」
「死ぬのが初めてなのか、なるほど……民間人かな?民間人が街の外を歩く時は傭兵を雇うか城の正規兵に依頼しなきゃダメだよ?」
というか、この騎士様は俺たちをこの世界の人間だと思い込んでいるらしい
それもそうだ、俺たちが『別の世界にいる』というこの状況だって俺たちがいた地球にとっても常識の範囲外にある
きっとこの世界にとっても、別の世界があるなんて有り得ないことなのかもしれない
「あ、いや……その」
「どうした?」
「ここって、どこですか?」
「記憶喪失?」
そりゃ、そんな聞き方をしたらそう受け止められるか
——————
見た事も聞いた事も無い文字なのに不思議と読める、俺の頭が日本語に変換してくれるみたいな感じだ
『トイレはこの先』
『挨拶はしっかりと!』
『生水は飲まない!!井戸水を飲もう!』
やはり人間というだけあって、注意書きのノリそのものは俺たちの世界とそう変わらない気がする
「見た事が無い服を着てるとは思ったけど、別の世界から来たなんてなぁ」
騎士様こと、ラングレイ・アルカストロフは呑気に言う
異世界から来たなんていう人間をあっさり信用して王様の元へと連れて行くなんてお人好しというか、大丈夫なのだろうか騎士として
「ラングレイさんは俺たちの言ってる事、信用出来るんですか?」
「信用出来るも何も、その不思議な板やら読んだ事の無い文字やら証拠は沢山あるだろう」
どうやらスマホや雑誌、教科書なんかをその根拠にしているようだ
この世界の文明レベルは俺たちの世界よりも大幅に遅れているみたいだけど、エッジライガーのような化け物を瞬殺出来てしまう騎士や俺たちの世界には存在しない魔法があるようなので下手に出て方が良いだろう
異なる文明と接触する時は友好的に接するに越した事は無い、問答無用で攻撃されたらまた話は別だけど
「ラングレイ・アルカストロフ一等騎士だ、国王陛下に謁見願いたい」
「アルカストロフ様、そちらの少年少女は……?」
「我が国の運命を左右しかねない大切な客人だ、彼等も国王陛下と謁見させたい」
「我が国の運命を……ですか?」
「ああ、火急を要する」
「了解いたしました、お通り下さい」
——————
騎士というのはファンタジー世界だとプレートアーマーとレイピアで武装した位の高い兵士だけど、地球では国王に土地を譲り受けそれを治める貴族だったと記憶しているけど
この世界ではどのような地位なのだろうか?
一般的なファンタジーのように位の高い兵士みたいなものなのだろうか?
「ラングレイさん、一等騎士って何ですか?」
考えめいた矢先に飯島さんが質問をラングレイさんにぶつける
「まず、騎士というのはある程度の自由を許された兵士の事だよ。騎士には三等から一等までがあって一等が最も位の高い騎士なんだ」
「じゃあ、ラングレイさんって実はエリート?」
「血統的には庶民だけどね、でも騎士になればある程度の自由とお金が貰えるしやり甲斐はあるよ」
「へえ……」
「勉学、武術、精神性……それら全てが陛下や聖騎士エルヴィン様に認められなければ騎士はおろか准騎士にすらなれないから狭き門だけどね」
このラングレイという人、実は結構凄い人なのかもしれない
「ところでだが……その格好、向こうでは騎士学校とか士官学校とかそういった教育機関の制服とお見受けするが」
「えっ」
これには思わず驚いた
俺は学ランで飯島さんはセーラー服を着用している、制服といった概念が無ければこれが私服だと思うところなのに制服だと言い当てた
そういえば学ランは軍服のアレンジで、セーラー服は海兵の制服を女性向けにしたとか聞いた事がある
直感的にそれを言い当てたのだろうか?
「軍事的な学校ではなく、純粋に学問を学ぶ学校の制服なんですよ。体を動かす体育の授業はあっても武術までは学びません」
「ほう……それじゃあ、軍事的な教育を学ぶ義務は無いのかな?」
「俺たちの住んでいる国は戦争を禁じているんです、自衛的な軍事力は持っていても侵略のための軍備は無いので」
「戦争行為を禁じている……か、面白い国だね」
戦争を禁じているという考えは面白いか、この世界は戦争が日常的に行われている世界なのだろうか
——————
「さて、着いたよ。ここが玉座の間だ、オルディウス王は気さくで温厚なお方だが……くれぐれも粗相の無いようにね」
ラングレイさんがそう言うと、いよいよ緊張してきた
「は、はい!」
きっと、社会科の授業で言うところの絶対君主制の国でありその国家の最高権力者という事だから無礼な真似は絶対に出来ない
何せ自分の知らない世界、知らない国に来ていきなりその国の最高権力者に会うというアウェイ具合だ
下手な事をしたら速攻で処刑される可能性がある上に、こっちは丸腰だ
「失礼いたします!」
「うむ」
思っていたよりも、温和な声が聞こえてきた
玉座に向かって俺と飯島さんは真っ直ぐに歩き出すと、通路の脇の甲冑らしきもので身を固めた兵士達が俺たちに視線を向ける
「な、夏樹くん……」
「大丈夫、下手な事をしなきゃ武器は向けないはずだから」
飯島さんは不良にも食ってかかるほどに気丈な女の子だ、しかし流石にこの状態は怖いらしい
俺だって怖いし逃げ出したい、けど逃げ出せないからここにいるし何かしらの手掛かりを掴めるかもしれないからここにいる
大丈夫、俺は処刑なんかされない
玉座の前に立つと、俺は日本流の土下座をして飯島さんがそれに続いた
「それが異世界の礼なのかね?随分と固いな……構わないよ、楽にしなさい」
俺は頭を上げて正座をする
「お、おう……それでは足が痺れるだろう、もっと楽にしていい」
正座で足が痺れるのを知っているという事は、この世界にも正座が存在するのだろうか
「失礼いたします」
顔を上げると国王はどこかで見たような顔をしていた
小太りで髪にウェーブがかかっていて、鼻の下には立派なヒゲを蓄えていて瞳はつぶら
ああ、そうだ
(プリング◯スだ、この人……)
続く!!
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