主人公になりたい人生だった(過去形)
一ノ清永遠
第1話 モブな俺と主人公、嶋村和也
もしもこの世界がギャルゲーとかラノベだとしたら、この俺「夏樹幸平」はモブキャラというところだろう
何故なら俺の家庭はごくごく普通、俺には妹がいないし毎朝起こしに来てくれる母性溢れる幼馴染の女の子とかもいない
それどころか女友達すらいないし、俺自身これといったパンチのある特徴とかもないし
別にスペックは低くもないし、高くもない
平凡、物凄く平凡なのだ
特に語るべきところはない、物語に出来るような人生を歩んでいないのが悲しい
だがなんで俺がこの世界がラノベとかギャルゲーの世界だとしたら……なんて事をこの駄文の冒頭に据えたかというとそれにはやはり理由がある
俺がこの雪平高校の2年2組、教室中央の最後方の席にいるのだがここは休み時間中非常に閑散としている……その理由はというと男子はトイレに行ったり廊下でタムロしているからだ
それにも理由があって、窓際中心あたりの席にいる自称フツメン「嶋村和也」の席にこの学校でもトップクラスの美少女達が集まってくるからだ
そう、何故か奴はモテるのだ
何故かといってもモテる理由は分かるのだが
まず嶋村和也は女子に優しく出来る
何かしらのイベントに遭遇する機会が非常に多い
空気が読める
肝が座っている
女子な対してあまりガツガツしない
やたらモテる癖に「俺、女子にモテたいとか女子を侍らせたいんだ」的な欲望が見えない
そう、余裕があるのだ!!
一介の男子高校生にはそれを出すのが不可能な「余裕」があるのだ
そして何度か話してみた事があるのだが、あいつメチャクチャいい奴だ
意外と気さくだし嫌味じゃないし他人の悪口とか絶対言わないし男子の友達とかにも誠意を持って接するし
あいつ、メチャクチャいい奴だよ!!羨ましいくらい!!
———————
「嶋村くん、今から帰り?」
「うん、今日は部活無いし」
「じゃあゲーセンにでも行かね?」
「折角だしそうしようかな」
羨ましいという感情はあるものの、俺個人としては嶋村くんの事は好きだ
勿論、変な意味じゃなく一友人としての感情だが
ラノベ、ギャルゲーの主人公よろしく嶋村和也という男には男性の友人は少ない
変に仲が良い男キャラがいると絵面が汚くなるのだから仕方がないんだけど、実際のところ嶋村和也という男は雪平高校の男子生徒からはあまり快く思われていないという事情がある
「俺、女と当たり前のようにヤレるし」とか露悪的な態度を取っておらず普通に生活しているのが逆に悪感情を招いてしまうのかもしれない
だが、さっきも言った通り嶋村和也という男は普通にいい奴なのだ
遊ぼうといったら普通に応じてくれるし、困った時には助けてくれるし、何より裏表が無いし真っ直ぐな男だ
彼女出来ない系非モテ男子……というか変に捻くれているバカな男よりはよっぽど男らしい生き方をしているかもしれない
「ピアノの達人でもやろうかな」
「嶋村くんは音ゲー好きだよね」
「アクションゲームも好きなんだけど、対戦ゲームは殺伐としてるから……」
「チンパンと当たったりしたらケンカになるもんね、とばっちり受けて出禁とか嫌だもんな」
嶋村くんは対戦ゲーを遊ぶ場合は大抵自宅でやっている、以前ロボットゲーで対戦した時何連勝もしてゴツいお兄さんに絡まれて大変な事になりかけた
そういえば、嶋村くんが殴られそうになった時に顔つきが変わったような気がしたけどあれはどうやら俺の気のせいらしい
——————
「嶋村くんってさ、よく女の子に囲まれてるじゃん」
「囲まれてるっていうか、なんかそうなっちゃうんだよ」
「嬉しくないの?」
「特定の彼女が出来たらそりゃ嬉しいけど、でも何人もの女の子に囲まれたら辛いよ」
「そういうもんか」
「生身の男なんだから何人もの女の子と同時には付き合えないでしょ?」
「そりゃまあ、そうか」
でもキャーキャー言われたりしてみたいし、仲がいい女の子とお弁当を食べたりたまにはハプニングに巻き込まれたりしてみたいけどなあ
「夏樹くんは、モテてみたい?」
「そりゃまあ人並みにはそういう願望あるよ……っていうか、いわゆる主人公になってみたい!!ゲームとかラノベとかアニメの主人公みたいな」
「僕は御免だなあ、ひっそりと大人しい人生を送ってみたい」
「隣の芝が青く見えてるだけ、非モテの人生なんて散々なだけさ!」
——————
それから夏休みに入ってから、俺は非モテらしく男友達とゲームしたり部活動に勤しんだ
夏樹くんはかなり忙しいらしく、女子達と遊んでいる姿を見かけるくらいでめっきり遊ばなくなった
たまにメッセンジャーでやり取りをするけど、その時に色々と近況を聞かせてくれた
そして夏休み中旬、夏樹くんと全く連絡が取れなくなってしまった
「僕、好きな女の子が出来たみたいだ」というメッセを受け取ってそれの返信をするとそれから一向に既読マークがつかない
「とうとう誰かに刺されたのか?」なんて冗談半分に考えていたら、夏樹くんが行方不明になったというニュースが流れた
——————
「女を寝取ってその彼氏にバラバラにされて埋められたんだって!!嶋村ならあり得るだろ!!」
夏樹和也という男はクラスの中心にいる男じゃない、だけどその名前は良くも悪くも有名で学園中の美少女を侍らせているという事で無駄に知名度が高かった
無論、この俺夏樹幸平や彼をよく知る生徒は女子を傷つけるような男じゃないという事は知っている
というか、この状況をよく思っていない
ハーレムを築いて調子乗ったから殺されたんだとか、人の彼女を奪ったから酷い目に遭わされただの好き勝手を言ってくれる
そのあれこれ好き勝手噂している奴は階段の踊り場に便所座りしている男子は3組の生徒二人組、クラスの中心にいるタイプの不良生徒だ
よく知りもしないのにやたらモテるという情報だけで嶋村くんの適当な噂を流している典型的な馬鹿共
で、嶋村くんに友情以上の感情を抱いている女子生徒が一人立ち上がった
「私、黙らせてくる!!」
いわゆる嶋村くんを囲っていた我がクラスのマドンナ、飯島恵は特に嶋村くんと仲が良くてよくモーションをかけていた記憶がある
……残念ながら上手い感じにかわされていたけど
その飯島さんがキレた、好きな男を好き勝手に言われたのだから仕方ないが
黙らせてくるって物騒な……2度と喋れなくなるくらいボコボコにするつもりなのでしょうか
「そんな風に本人のいないところで好き勝手言うの良くないよ!!嶋村くんは確かに女の子によく囲まれていたかもしれないけど、やましい事なんかする人じゃないよ!!」
「あぁ!?誰かと思ったら2組の飯島かよ」
「なんでそんな風に知りもしない人を悪く言えるの?そんなのおかしいでしょ」
「俺が他人をどう思おうが自由だろうがよ!!今いねえ奴の事なんざどうだっていいだろ」
「どうだっていいなら余計にやめなさいよ!!」
「お前、ゴチャゴチャうるせえよ!!何様なんだよ!!」
この手の馬鹿の感情を逆撫でするのは危険だ、女子相手だろうが何をしでかすか分かったもんじゃない
仮にこの馬鹿が飯島さんの顔をブン殴ったとしても、顔に傷が残りでもしない限りこの馬鹿が停学処分になる程度のリスクしか負わないし下手すればお咎めなしで終わる
「飯島さん、ダメだよ!!」
「何がダメなの!?止めないで!!」
これは無理矢理引き剝がさなきゃダメだ、というか飯島さんがこの馬鹿をブン殴りそうだ
というか、片方の馬鹿は「いいぞいいぞー」とか野次を飛ばしているし馬鹿さ加減を遺憾なく発揮している
「そいつ、馬鹿だから何しでかすか分からないよ!!」
あ、やべぇ失言だ。
なんて思ったのも束の間、キレてる方の馬鹿が怒りの矛先を俺に向ける
「なんだテメェ馬鹿だとぉ!?」
そうだよバーカバーカ!!なんて煽りたいところだが、俺は腕っ節は強くない
パンチングマシーンでも平均的なパンチ力しか出せないし、ケンカ慣れしていないから多分タイマンでも勝てっこない
俺は主人公補正なんてものと縁がない、引きこもりのくせに魔物と戦える〜なんて意味不明な設定は持ってないんだ
「いや、今のは言葉の弾みで……」
「今更謝っても許してやらねーぞ!!ぶっ殺してやるーー!!」
なんだ、その一昔前の台詞回しは
ビームでも出すのかお前、俺は赤毛の冒険者じゃないぞ
そういえば、あの赤毛の冒険者ってその作品だと結婚して子供を残したって設定だったな
しかし、その馬鹿が何をするのかと思ったらサブバッグ振り回し攻撃だった
そこは鉄拳が飛んでくるもんでしょーが普通は
だが、予想していなかっただけに受け身を取るのは難しい
俺の視線は上を向いていて、身体が落ちていく感覚
多分、階段の踊り場から真っ逆さまに落ちたのだ
「夏樹くん!?」
飯島さんが叫んだのが聞こえ、反射的に飯島さんが俺に手を伸ばすが届くはずもない
本当は一瞬で落ちているはずなのに、随分とこの一瞬だけはスローモーションに感じる
「てめぇも死ねや!!死んで嶋村のとこに行け!!」
飯島さんが尻を蹴飛ばされ、体勢を崩す
流石にそれはウソだろ?なんて思考が回る前に俺の身体は地面に叩きつけられたらしい
続く
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