第2話 3章
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「新企画?」
「ああ、テレビ局の所有していたツインビルが、もう使われてなくてね。シンメトリーなのをいいことに思いついたらしい」
今から2週間前、そのような会話がなされていた。
今までの『アイドルファイト』は、リング場で戦うスタイルだった。基本はシングル戦で、たまにタッグ戦がある程度である。しかし、それではマンネリ化はさけられないということもあって、リングからの脱却を試みたのだ。
複数のカメラを設置した建物、そこで行われるのは普通のバトルではなく、敵陣地のフラッグを奪取するチーム戦である。要するに、戦うだけが能ではなく、味方の位置、敵の位置を把握して縦横無尽にフィールドを駆け巡らなければならないのだ。
「3対3のチーム戦。放送日も不明で、実験的な企画だが、この初戦を担当してほしいんだ」プロデューサーは、3人のファイターを一瞥したあと、美月を見つめた。
「こういうのには、趣味のサバゲーで慣れてるだろう? 美月くん。魅せる試合を頼むよ」
「まかせてください」美月は自信満々に言った。
「そうか。それで、対戦相手なんだが……これまた厄介な連中でね」
「十中八九、テレビ中継もされるだろうね」と、マネージャーは言った。
テレビ中継『は』ではなく、テレビ中継『も』と言ったのは、これがインターネットで放送されることが決まっていたからだ。
「対戦相手のチーム名は『あすもでうす』聞いたことは?」
「何その悪魔みたいな名前」美月が言った。
「それで悪魔とわかるお前もどうかと思うが、彼女たちは正確に言えばファイターではない。どこの事務所にも属していない一般人だ。だが、そこらのアイドルよりも強い闘波使いだと思う」
「彼女の主戦場はね」詩鶴が言った。「インターネットなの。動画投稿サイト『ニヤニヤ動画』で大ブレイクしている女性3人のネットアイドル」
「お、詩鶴さんは知ってたのか。そう。昔からテレビとネットは鎬を削っていたけど、ネット世代と呼ばれる今の40,50代が番組の舵を取るに連れて、持ちつ持たれつの関係を築こうとしている。そこで、ネット人気のある彼女たちにあやかろうと招待したわけだ。そもそも、このフラッグ戦は、ネット界隈で生まれて、ニヤニヤ動画を始めとする動画サイトで活発な競技だからね」
そもそも『ファイター』は、ネットの勢いに押されたテレビ局の最後の切り札だったのでは? と、詩鶴は疑問に思った。本末転倒かもしれないが、ネットアイドルも私たちと同じように闘波使いとなり、ファイター同等の能力を持つ以上、彼女たちの参戦は時間の問題だったのだろう。
それにフラッグ戦を行うとしたら、ネットアイドルを招待するのにも頷ける。ネット界隈で生まれた遊びを『アイドルファイト』に応用したのならば『動画サイトのパクリ』というレッテルを貼られ、テレビ局の企画力の無さが疑われてしまう。ネットアイドルを招くことで、『パクリ』ではなく『コラボレーション』であると、好意的に解釈してもらえることになるだろう。詩鶴はそう考察したが、その考えは当たっていた。
なんであれ、これはチャンスだった。普段、テレビを見ない層に対し、アピールをすることができるのだから。社長とプロデューサーのファインプレーによって、勝ち取ってくれた仕事を、台無しにするわけにはいかなかった。
「ネットアイドルって増えたよね」
「鳳もやってたらしいからね。ほら、この前、ここにきた高校生の
『あすもでうす』の3人は、元々は動画投稿者、生放送発信者であり、自分の姿を晒すことをしていなかった。いまでさえ、その姿を見せているが、それでも身元がバレないように、いつも大きなマスクをして顔を隠していた。アイドルでありながらも、しっかりと顔を見せないのは如何なものかと思われたが、それでも彼女たちが私生活にトラブルを持ち込ませないよう、細心の注意を払っていることは間違いなく、それについて好感を持つ者は多かった。
「手軽ね……いまさらだけど、プロとアマの差って、もうコネの量ぐらいじゃないかな?」美月が現役アイドルの立場から、自虐的に言った。
「わざわざ芸能界入りする必要ないってか?」
アイドルになるのは躊躇われるが、闘波という人知を超えた力は欲しい。そう考える多くの女性が目論んだことが、ネットで人気を得ることだった。そのため一時期、ネット配信を行う女性が爆発的に増えた。あまりにも増えすぎたために、多くの無個性な女性は評価されるどころか、再生すらされずに消えていった。ある者は過激な配信をして、利用規約違反でアカウントを削除された。ある者は目立つことばかりに必死になって、モラルに反した行いをした。ブログは炎上し、身元を特定され、せっかく決まっていた大学の入学を取り消される羽目になった者もいた。
『あすもでうす』は、闘波が世に広まるより前から――彼女たちが小学生のときから――細々と活動を続けていた。最初は低レベルな――彼女たち曰く『黒歴史』――放送で、誰も見向きもしなかったが、人気などに関わらず、好きなことをやり続けていたからこそ、最大手となったという。
爆発的に人気が出たのは、つい最近で、ここ一年は動画投稿や放送配信をするたびに、ランキング1位を確実に獲得していた。トークは下手な芸人よりも上手かくなっていたし、企画力もあった。視聴者が気になっているものを目敏くチェックしているのだ。いくつかのゲーム会社は、テレビ番組のスポンサーとなってCMを垂れ流すよりも、彼女たちにゲーム実況をしてもらったほうが宣伝になると判断するほどだった。
「すごいな。これ……」ネットアイドル『あすもでうす』の動画を見ながら、美月は息を呑んだ。
「声の可愛さが売りのミケはスケボーの達人でもある。……
「パルクール?」と、美月が食いついた。パルクールとは、身軽に壁をよじ登ったり、地形を利用して走り回るスポーツである。サバゲーにも利用できるという理由で、美月も齧っていたことがある。美月は今でもやろうと思えば、闘波の力を借りなくとも、事務所の2階の窓から出入りすることができた。
美月は、次の試合で、1階の渡り廊下から、相手のビルの窓に飛び移り、階段の踊り場に乗り移るパフォーマンスを考えていたが、相手も同じことを、いや、それ以上にすごいことをしてくるかもしれないと思った。
思わぬ伏兵を相手に、全く新しいルールで戦うことになる。しかも初めてのチーム戦だった。この3人のチームワークは、うまく発揮されるのだろうか。本番までの2週間、3人が3人とも気がかりだった。
そして時は経ち、いよいよ明日が試合の日となった。美月と詩鶴は建物の配置を眺め、作戦のチェックをした。小風は、カンフーの鍛錬を積んでいた。自分が蹴りを繰り出すたびに闘波が濃さを増していることに気づいた。闘波の増幅を実感した。
昨日は『アイドルファイト』の放送があった。自分の初陣が日本全国に放送されたのである。日本での地上波デビューは成功したようだ。試合には負けたが、知名度と好感度は格段に上がったようである。このまま闘波が増していけば、詩鶴や美月にだって負けないだろうと思った。
訓練の後、小風はネットの掲示板を覗いてみた。自分が多くの人に受け入れられていたことに、彼女は安心した。
日中の関係が良好とは言い難い中、日本人たちが自分を受け入れてくれたことが嬉しかった。「とても可愛い」という評価を見たとき、思わず笑みを浮かべた。今までの自分がほめられるときは『諜報が上手くいった』『盗みが上手くいった』『殺しが上手くいった』の何れかであり、このような評価はとても新鮮だったからだ。私が普通の学校に通っていたのならば、男子から、このような言葉をかけてもらえたのだろうかと考えずにはいられなかった。
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五光プロダクションのファイター3人は、今日の試合に向けて最終確認をした。おおまかにフラッグを守る者。サッカーに喩えるならゴールキーパーを詩鶴にし、機敏に動ける美月と小風が侵攻する。あとは相手の動き次第で、臨機応変に……というところだった。
軽いミーティングを終えたあと、マネージャーと美月は二人きりになった。
「寝不足か?」
「・・・・・・わかる?」美月は、目元にうっすらと隈を作っていた。
「メイクは念入りにしとかないとな」
「夜更かしはしてないの。ただ、寝ようと思っても眠れなくて・・・・・・」
「心配ごとがあるってのはわかってる。でも、無理に聞くつもりはないよ」
「ありがと。でも、大丈夫。ファイターやってる限り、私は大丈夫だから」
「どういう意味?」
「結局訊くの?」
「人生相談しろとは言ってないよ。美月が意味深なこと言ったから」
「眠れないのは嫌なことを思い出すから……仕事に向かっていれば、忘れられる。……大嫌いな両親のことばかり浮かんでね……」
結局、美月は自分の悩みを打ち明けてしまった。小さいころ『自分らしさ』というものがわからず悩んでいたこと。その幼少期からの悩みは、未だに尾を引いており、両親の存在が未だに重く圧し掛かっていることを語った。父の死に顔を見てから、どうも調子が悪いのだ。
「トラウマが……よみがえるの」
できれば、あまり口にしたくはなかった。これ以上のことを語ると、自分の恥部をさらけ出すことになる。ただ、彼に話したことで気持ちが少し落ち着いたので後悔はしてなかった。ただ、マネージャーには気になることを言われた。
「詩鶴さんも、小さいころ、自分の性格が両親と似てないことが苦痛だとか言ってたっけ」
「そんなこと言ってたっけ……」
「でも、詩鶴さんとは違った悩みなんだろうね。このフェードルさんは」
美月はマネージャーが何が言いたいのか、このときはまだわからなかった。
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闘波を纏うファイターは、身体が強靭になってるとはいえ、万が一のために、ステージの安全対策はしっかりとしなければならなかった。試合に使われるツインビルは、著しく改装されていた。窓ガラスは全て取り払われて、角や辺には新素材の衝撃吸収カバーが取り付けられていた。地面はトランポリンになっており、常人が最上階から飛び降りても命の危険はなかった。あたり一面はカラフルなアスレチックパークのようになっており、ファイターだけでなく、テレビ関係者のまだ失なわれていない子供心を刺激した。五光プロダクションチームの付き添いで来たマネージャーも、後で遊ばせてくれないものだろうかと思ったほどだった。
「では、全体の流れを説明します」番組ディレクターが全員を集め、解説した。詩鶴たち3人は、今一度、今日の対戦相手を一瞥した。先ほど、挨拶をしたときは外していたのだが、ネットで見るのと同じく、3人とも顔を隠すための大きな白いマスクをしていた。目立ちはしたいが、素性は知られたくないというジレンマが、この可笑しさを生んでいると思った。
番組ディレクターは、できれば『テレビ受けのいい展開を……』と望んでたが、とても口には出せなかった。圧倒的な戦力差で相手を蹂躙するようなバトルは、何の面白さも生まない。通常の『アイドルファイト』でも、そのような試合は、テレビでカットされやすかった。しかし、今、彼の目の前にいる『あすもでうす』は、いわばネット勢からの刺客である。
ネット勢がテレビに信を置いていない理由のひとつが『ヤラセ』であり、それが客離れの原因なのだ。彼女たちを前にして、捏造、ヤラセを仄めかすようなことはテレビ番組の品位を落とすことに他ならなかった。詩鶴たちは、テレビ側の人間であり、プロのアイドルでもあるのだから、そのディレクターの本意を汲んでやることにした。わざと手を抜いてやる気はないが、観客を楽しませるような試合をしてやろうと思ったのだ。
ツインビルは3階建てであり、屋上にそれぞれのフラッグがあった。地上から敵陣地のビルに入るか、それとも2階、3階の渡り廊下を通るかが頭の使いどころだ。3階の渡り廊下はバリケードによって封鎖されていた。対戦相手同士が鉢合わせしやすいようルートを制限しているのだ。こんなバリケードぐらいどうってことはないが、美月たちは、テレビ局のお望みどおり、3階渡り廊下を通るのはやめることにした。
勝負前のインタビューを終え、二つのチームは互いに握手をした。詩鶴たちの相手はファイターとして修羅場をくぐってきたことはないが、大衆を惹きつける能力はプロ顔負けだし、その分野においては天才だった。チーム『五光』の三人は、この相手と戦えることが楽しみでならなかった。対戦相手も同じ気持ちであってほしいと願った。
「はい! カット」番組開始の数分を取り終えたところで、お互いの陣地に移動した。
「では、カウントダウンいきますよ! 3・2・1……スタート!」
試合開始してからすぐに、詩鶴は危険を感じた。彼女は、まっさきに自分のビルの屋上を目指した。その悪い予感は的中した。対戦相手の遊里が、パルクールで2階の渡り廊下を走っていたのだ。開始5秒で、この機動力である。そのまま、相手のビルに侵入し、屋上を目指すつもりのようだ。駆け足で階段を上った詩鶴は彼女と鉢合わせ、相手の侵入を阻止することができた。詩鶴は一戦交える気でいたが、遊里は一旦退いた。そのまま、踵を返してしまった。
「なんだ……逃げるのか」緊張が解けた詩鶴であったが、階段を上ってきた小風が叫んだ。
「急いで! 3階からくる」詩鶴はまさかと思ったが、とりあえず屋上へ急いだ。
小風は2階の渡り廊下の縁に立ったかと思うと、背を伸ばして3階の渡り廊下の鉄骨に飛びついた。鉄骨が衝撃吸収マットで覆われていたのは好都合だった。これなら登りやすい。彼女は腕の力だけで軽々と3階に飛び移った。フェンスを越えると、3階渡り廊下に設置してあったバリケードを飛び越えたミケと鉢合わせした。思わぬところからの敵の登場にミケは驚いたが、戦闘は避けられないと知り、ファイティングポーズを取った。
開始1分で、勝負をつけようとする戦術。テレビ局が用意したバリケードを無視して、飛び越える行為。彼女たちネットアイドルは、テレビ的な『お約束』など、どこ吹く風だった。
建物の出っ張りを足がかりに、地上から、相手のビルの窓から入り込んだ美月は、階段の踊り場に着地し、そのまま屋上を目指した。しかし、2階にて妨害を受けた。敵の奇襲である。美月は敵の勢いある回し蹴りを右手で防ぐ。強烈な闘波を感じた美月は、只者じゃない相手を見据えた。
「フラッグは取らせませんよ。芒崎美月さん」
「それはどうかな。遊里ちゃん」
ヤベエ! 超楽しい! 美月は強敵を前に、逸る気持ちを抑え切れなかった。
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「さあ、始まって2分経ちました」ナレーターが近況報告をした。「フラッグを守っているのは『チーム五光』松野詩鶴、『あすもでうす』種っち。そして、3階では、柳小風とミケ、2階廊下では、芒崎美月と遊里。どちらも一歩も譲らない闘いだ!」
詩鶴は屋上から3階の渡り廊下で行われている闘いを見つめた。自分も加勢に行きたかったが、その隙にフラッグを取られる可能性もある。チーム戦というのは、見守ることしかできない状況があるのだ。サッカーのゴールキーパーも、こんな気持ちなのだろうと思った。彼女は小学生のときも中学生のときも、体育のサッカーでは好戦的なアタッカーだった。
中国で学んだ一流のカンフーに、彼女は対等に渡り合っている。普通では考えられないことだが、このミケという女は只者ではないと小風は思った。足場の悪さを持ち前のバランス感覚で軽々と移動する。一歩間違えれば地面へ真っ逆さまに落ちてしまうにも関わらず、手すりを足場にして軽快に飛び回り、攻撃をしかけてくる。
このようなとき、どうすればいいのだろうか。闘波がどれだけ増幅しようとも向上されることのない平衡感覚というものを、敵は天賦の才として持ち合わせているのだ。それに闘波の量も馬鹿にならない。大きな一撃をくらえば、戦闘不能になってしまうだろう。
自分にカンフーを教えた師匠の言葉が、ふと思い出された。彼は老人だったがカンフーの達人で、恐ろしいほど強かった。彼は「ジャッキー・チェンならばこうしただろう」「ブルース・リーならこうしただろう」と言っていた。「それは誰?」と訊くと、俳優だと答えた。
「俳優……演技……」小風は思い出した。この番組の本質はリアルファイトでも格闘技でもなく、ショーである。そして、ショーならば、それに見合った闘いが必要であると気がついた。四方八方から襲い掛かる敵を、アクション俳優はいかにして倒したのか。それは『機転』によってである。あるときは椅子を、あるときはテープルを使い、あるときは相手の服すら利用する。見るものを圧倒させ、感心すらさせる戦闘だ。小風はカメラの位置を確認した。襲いかかるミケの蹴りをかわすと、派手に前転をして――とくにそうする必要はなかったが――バリケードとなっていたひとつ、脚立を持ち上げた。
ディレクターは頭を抱えた。まさか、あのバリケードの道具を使用するとは思わなかった。ルール上、武器の使用は禁止されておらず、建物全体を利用するのがコンセプトである以上、バリケードを利用するのも理に適っていた。ここはリングではないのだ。ディレクターは、小風が凶器を持って極悪非道なことをしないことと、ファイターたちが自分たちが思っている以上に丈夫であることを願うことしかできなかった。
小風が脚立を持ち出したことに、ミケは少なからず動揺した。闘波を纏えば大丈夫だとわかっていても、大きな鉄の塊を持ち上げて、こちらを睨んでくる人がいれば、本能的に警戒せざるを得ない。
小風は、脚立の脚を広げて固定させることをせず、脚を閉じたままに、ミケの右隣の位置に倒れるよう傾けた。ゆっくりと倒れていく脚立の足場に飛び乗って、颯爽に駆け上がると小風は高く跳躍した。そのまま、体を翻し、脚に白い闘波を宿しながら回し蹴りを放った。空中より放たれる、大きな弧を描いた、見事な回し蹴りである。
ミケは逃げるか受け止めるかの選択をしなければならなかった。逃げる先には脚立が倒れてくる。痛いか痛くないかは関係なく、条件反射的に逃げようとする足にブレーキがかかる。そうなると彼女は攻撃を受け止めるしかなかった。ミケの拳と小風は脚がぶつかり、互いの闘波がぶつかりあった。お互い痛みわけだった。小風はすかさず立ち上がり、倒れたばかりの脚立をくるりと回して持ち上げた。ミケはあることに気づいた。この対戦相手は、私と脚立がぶつかることないよう注意を払っていると。
小風は道具を鈍器として使うことはしなかった。あくまでも、自分が戦いやすい環境を作り出そうとして利用しているに過ぎなかった。
フェンスに立てかけられた脚立は、いい感じに渡り廊下の障害物となった。小風がこの障害物を、どのように使ってくるかは未知数だった。小風は、昔、アクション映画で、主人公のカンフー使いが、梯子にしがみつき、逆さまになりながらも敵と戦っていたのを思い出した。あれをできるかどうか、試したくて仕方がなかった。
2階廊下。美月は遊里と鎬を削っていた。美月が近接格闘術の使い手であっても、パルクールを得意とする遊里の俊敏さと強大な闘波に攻めあぐねていた。テレビに全く顔を出さないのに、思わぬ伏兵ファイターがいたものだと、美月は思った。彼女はインターネットという、テレビとは違う環境において、何千、何万のファンを獲得し、闘波を集めていた。4年目の芸能アイドルであっても、特にテレビに出演しているわけではない美月にとって、この闘波の差は痛手だった。
遊里が美月の膝蹴りを受け止め、カウンターとして右ストレートを彼女の腹にぶち込んだ。美月の体は大きく吹き飛び、2階渡り廊下まで飛ばされた。遊里は、勝利を確信した。このまま、華麗に敵地屋上まで歩を進めようとしたが、そう簡単にはいかせてくれそうにはなかった。
「……驚いた。まだ、戦えるのね」遊里は、渡り廊下で仁王立ちしている美月を見つめた。美月は、不敵な笑みを浮かべ、彼女を待ち構えていた。
「まだ……これからだよ」本職のファイターを舐めてもらっては困る。美月は再び、戦闘ポーズをとった。
格闘においては私に利がある。美月はそう確信していた。相手はニンジャみたいに俊敏であるものの、一通り近接格闘術を学んだ自分ならばなんとかなるはずだ。お互いが身構えたそのとき、何かが落ちる音がした。二人は一旦戦うことをやめた。かすかに見えた、大きな落下物。先ほどのはなんだろうか? 3階の渡り廊下から何かが落ちたのだろうか? しばらくすると、小風が落ちてきた。小風は落下しながらも腕を伸ばして2階渡り廊下のフェンスにつかまった。続いてミケが3階渡り廊下から、するりと2階の渡り廊下に降り立った。
「小風ちゃん! どうしたの?」
「やあ美月! 苦戦してる? お互い様だね」
「ミケ! フラッグは?」
「この人を片付けてから。2対1じゃ分が悪いでしょ? 加勢するよ遊里」
「おっと! ここで4名が終結した!」ナレーターが熱く叫んだ。
3階の渡り廊下で戦闘をしていた小風とミケ。小風は、障害物であった脚立を、己の足場にしたり、あるときは壁にして自由自在に操っていた。彼女に翻弄され攻めあぐねたミケは、斜めに立てかけてある脚立を掴むと、その上に立っていた小風もろとも落としてしまったのだ。脚立は地上のマットに落ちたが、小風は間一髪、2階渡り廊下のフェンスを掴み、そのまま2階へ移動できた。普通なら死者が出るかもしれないと躊躇するところを、難なくやってしまうのがファイター同士の戦いの恐ろしいところだった。あのまま、小風が3階から落下し、脚立の角に後頭部をぶつけたとしても死にはしなかっただろうが、責任を負う立場にある番組のプロデューサーとディレクターは、気が気でなかった。スリルある戦いは大歓迎だが、大怪我されたらたまったものではない。
2階渡り廊下は、2対2の戦闘の場になった。団体戦ならば、美月にも経験がある。美月は先週のサバゲーを思い出した。
小風とミケが戦う一方で、三月と遊里が戦う。かと思ったら、すぐに小風と遊里が戦い、ミケと美月が戦っている。今までにない見ごたえのある試合だった。
美月は、小風と目があった。美月は頷き、目線を遊里に向けた。そのあと、ガクッと膝をついた。遊里は美月が膝着いたのを見逃さなかった。遊里は美月が動けなくなったのを好機とばかりに渾身の一撃を食らわそうと大きく振りかぶった。
渾身の一撃が炸裂した。小風の蹴りが遊里の顔に当たり、遊里は2階渡り廊下のフェンスを飛び越えて吹き飛んだ。そのまま地上のマットに落下した遊里は、既に自分は戦える状態でないのを悟った。
「おおっと、ここで遊里脱落か!」ナレーターが声を荒げた。
美月の狙い通りだった。自分が無防備となり隙を見せれば、相手の標的は間違いなく自分になる。そして、目配せで「遊里を攻撃してほしい」と小風に伝え、それが通じたのだ。前もって計画していたわけではない。伝わっていなかったり、タイミングが合わなければそれは仕方ないというつもりで行った賭けだった。
ミケは、相棒が吹き飛ばされたのを見ると、怒りのボルテージが上がった。彼女は立ち上がろうとしている美月を、背後から襲おうとした。
「美月!」小風は、殴りかかろうとしているミケの前に立ちふさがった。ミケのナックルをモロにくらった小風はよろけながらも、彼女の腕をしっかりと受け止めた。
「早く!」
状況を把握した美月は、ミケの膝間接を折って、彼女の身体のバランスを崩させた。そして肘を彼女の鳩尾に叩き込んだ。
ミケは、その場に膝を落とし、倒れて動かなくなった。そのあと、ミケの技を受けた小風も同じようにその場に倒れた。美月もよろけたかと思うと膝を突いて動けなくなった。闘波による攻撃を受けすぎていたのだ。4人が間髪要れずに、しかもそのうち3人が同じ場所で戦闘不能になる壮絶な戦いに、ナレーターすら息を呑んで言葉が詰まった。
「動ける?」と小風は美月に尋ねた。
「無理」と、這い寄りながら美月は答えた。もう戦う気は起きない。4人は大量の闘波による攻撃を受け、戦闘意欲を削がれていた。残るは、お互いフラッグを守っている詩鶴と種っちの2人だけだ。
美月は、最後の力を振り絞って、小風の体に覆いかぶさった。
「ちょ! ちょっと! 何して……」こんなときまで、何を考えているのだろうか、この色ボケは! そこにも、あそこにもカメラが設置されて、全国放送されるってのに……
美月は、いい枕を見つけたかのように、口元を緩ませていた。彼女の顔は、小風の胸元のすぐ前にあったし、汗をかきまくっている状態で、このように覆いかぶされるのは、さすがに恥ずかしかった。
「小風ちゃん。ネットではね。こういうのが人気あるらしいよ」美月は小声でささやいた。
「え?」
「『百合営業』って言ってね。女の子同士が仲良くしているのが好きな層がいるらしいよ」美月は「ほんの一握りだけど」という台詞を、あえて言わなかった。
小風は困惑したが、人気を得るために演者になりきるのは、ポリシーとして自分が行ってきたことだったので、とりあえず美月の策略に従うことにした。美月の手つきが、どことなくいやらしいので、どこか騙されてるような気がしないでもなかったが。気づいたら小風は美月の頭を撫でていた。なんともいえぬ感情が彼女を襲った。私は、こんな感情を知らない。なぜか、涙が出そうだった。
「さっきのコンビネーション。ほんと最高だったね」と美月が言った。
「……うん。私もそう思う」小風は小さな震える声で答えた。
美月は、さらに体を移動させ、小風に覆いかぶさりつつ、フェンスの隙間から腕を出した。小風は美月の体とフェンスに挟まれ、息苦しくなった。耳元に美月の吐息が掛かる。この怪しげな雰囲気に飲まれてしまいそうだったので、気を紛らわそうと日本の美少年アイドルを頭の中で思い浮かべる作業に入った。美月は自分のチームの屋上を見上げた。詩鶴は、心配そうにこちらを見ていた。屋上からは、2階渡り廊下の様子がよく見えない。だから、詩鶴は4人が一気に戦闘不能になったということが分からないだろうと、美月は推測したのだ。
だったら私が教えてやろう。美月は自分の腕に力を込めた。腕に闘波を宿らせ、すぐに鎮め……それを繰り返した。ナレーターは、彼女は闘波を放出しては、それを消して……を繰り返しているので、何を考えているのかわからなかった。しかし、詩鶴には美月の意図していることがわかった。
「モールス信号か!」詩鶴は、美月が闘波を光や音の代わりにして、何かを伝えようとしていることに気づいた。
「けど、私には読めん!」
詩鶴は、私にはわからないとジェスチャーを送った。美月は、ため息をついた。モールス信号は諦めて『4人とも戦えないから、アンタが直接、フラッグを取りに行け!』とジェスチャーで返した。これはなんとか、通じたようだ。
「はじめから、ジェスチャーにすればよかったのに」と、小風は呟いた。
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両手で、大きな丸を作った詩鶴は、意気揚々と屋上からダイブして、3階廊下に降り立つと、バリケードを軽々と飛び越え、そのまま敵陣地の屋上に飛び立った。
「あら? ミケちゃんも遊里ちゃんも、負けちゃったようですね」フラッグを守っていた敵の大将、種っちは余裕綽々だった。
「そのようだね。あいにく、うちの仲間もだ」
「改めまして、自己紹介を。わたくし、『あすもでうす』リーダー、種ちゃんこと種っち。ネットアイドル兼ニヤニヤ動画のゲーム実況投稿者です」
「私は松野詩鶴。五光プロ所属のファイターだ」
両者は、闘波を纏った。種っちの闘波は、恐ろしいほどに強大だった。特に運動をしているようには見えなかったから、詩鶴は身体能力と運動センスで立ち回る必要があった。
詩鶴は二つの選択肢があった。ひとつは相手を倒す。もうひとつは、相手のスキをついて、フラッグを取り、それを自分の陣地に持っていく。後者は、どことなく小賢しいように思えたので、詩鶴は全力で相手と戦うことにした。
詩鶴は、構えながらじりじりと敵に近づいた。
「いまだ!」
詩鶴は拳を固め、相手の顎に狙いを定めたが、それよりも早く、種っちが左手の親指を詩鶴の喉に突きつけていた。詩鶴は膝をついた。そこを間髪いれずに、重い蹴りを入れられた。
「格闘ゲームの代名詞『ストロングファイター』シリーズ、実況者大会優勝者による、一秒間32連打の指技はいかがですか? もっと苦しませてあげましょう」
「ファイター、松野詩鶴。戦闘不能か!?」ナレーターが叫んだ。「いや、まだ立ち上がる。ただ、種っちの闘波は強力だ!」
詩鶴は、今の攻撃で、かなりの痛手を負ったと感じた。指による一転集中攻撃は、強烈だった。あと数発くらえば戦闘不能になるだろう。早く決着をつけなければならない。
詩鶴は、空手家としての経験から、こういうときは冷静になったほうがよいということを知っていた。相手が強いほど焦ってしまう。しかし、それではよくない。そんなときこそ、相手をじっくり観察するのだ。
要するに……相手は1フレームを見逃さない動体視力と、優れた瞬発力を持つ。この戦いも格闘ゲームのように捉えているのではないだろうか?
「だとすれば!」
詩鶴は、先ほどと同じように相手の顎に視線を定めた。そして拳を固めた。狙い通りだった。彼女は型に嵌りすぎている。優れた動体視力が些細な動きを察知して、最善手を条件反射的に行うのだ。つまり、私が先ほどと同じ攻撃をすれば……
詩鶴は拳を強く握ったが、正拳突きをするつもりはなかった。それはフェイントだった。詩鶴は敵の動きを予測して自分の体をそらした。
「予想通り!」
種っちの指突きは、空しく空振りした。同じ初動から変化をつけられるところが、格闘ゲームキャラと人間の違いだ。詩鶴は反らした上体を起こし、相手の懐に入り込んだ。そして種っちの顎を目がけてパンチを突きだした。クリティカルヒット! 種っちの身体が3メートルほど上空に吹き飛んだ。
「やばい!」
ふっとばされた種っちの体は、屋上フェンスを飛び越えていた。地上にはマットが置いてあるとはいえ、万が一怪我でもしたら……落下途中、壁の出っ張りに頭をぶつけるかもしれない。詩鶴は一目散に宙を舞う彼女を追った。フェンス越しに手を伸ばす。詩鶴の手が、急降下する種っちの手を掴んだ。
「……松野……さん?」
「落ち着いて。……下を見ないで」
「下? え! 何これ!」種っちは、自分の足場がないこと、手を離されれば地面に落下してしまうことを悟った。
「私……高いの苦手で……」種っちの顔が青ざめた。
「今、引き上げるからね」
詩鶴は、持てるだけの力で種っちの腕を引っ張った。自分で場外に吹っ飛ばしておいて、その上、場外から引き上げてりゃ世話はないが、怪我されるよりはマシだった。
引っ張りあげられた種っちは、へなへなと腰が抜けてしまった。
「はあ。なんとか助かった」詩鶴は安心して言った。「まあ、あんたほどの闘波なら無傷だったかもしれないけどね」
「いえ、助けてくれてありがとうございます」種っちは礼を言った。
二人は、既に戦う気にはなれなかった。ナレーターやディレクターは困惑し、何も言えなかったが、種っちが、その静寂を打ち破った。
「これは私の負けですね。降伏します」
「いいの?」
「あのまま地面に落ちたとしたら、私はフラッグを奪われてたでしょう。それに、こうやって助けられた上で貴方と戦おうと思うのは、粋じゃありません」
「粋ね……素敵な心がけだ」
勝敗が決まった。
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「……放送は、一週間後、夜8時からになります。ニヤニヤ動画運営さんも、同時に公開することになっております。いうまでもないと思いますが、皆さん、今日の試合の詳細は放送後まで秘密でお願いします。もちろん、このこと以外なら、普段どおり放送しても構いませんが……」
最後の通達を終えるころには、辺りは暗くなっていた。
「テレビって、本当に時間かかるよねー」と、ミケが呟いた。
「仕方ないよ」遊里が言った。「その分、色々と修正ができる」
『旬』が命のネット界隈で確固たる地位を獲得した彼女たちにとって、テレビ業界は異質なものに映るのだろう。詩鶴はそう思った。詩鶴からしてみれば、素顔を隠したアイドルこそ異質に見えるのだが。彼女はあくまでも、自分たちを一般的な素人であると思っているようだった。マスクを外した彼女たちは、いたって普通の普通の少女たちだった。道ですれ違っても気にならないような彼女たちも、ある界隈においては頂点に立つ存在なのだから、世の中は面白いと思った。
「この後、6人で食事でもどうかな?」と美月は提案した。
「おいおい」とマネージャーが口を挟んだ。「お前たち三人を事務所に返して、さっさと寝たいのに……」
「タクシー呼ぶよ。マネージャーは先に帰っていいじゃん。ね?」
「ところで、三人は何処住み?」詩鶴が言った。
「皆、東京です。三人とも中学が同じで……」
「お誘いはありがたいのですが、私は早く帰らないと親が……」とミケが言った。
「そっか。でも、せっかく、あちらから誘ってくれてるんだから、いい機会じゃないですか。私はファイターとお話したいなーって思ってたんですけど」種っちが、詩鶴を見つめた。詩鶴は熱い視線を送られ困惑した。
「まあ、決まったら教えてくれよ」そっけない態度で、マネージャーは言った。
18
「おはようございます」小風が入社したとき、マネージャーとプロデューサーは書類の整理をしていた。
「おはよう。小風さん」
「昨日の闘波は抜けた?」マネージャーは尋ねた。まるで飲みすぎた人に「アルコールは抜けた?」と訊くような感じで。
「ええ。戦闘意欲は戻ってきましたよ。彼女たちの闘波攻撃は、ほんと強烈でした」
「そうか、それはよかった。今日の仕事は地域の……」
そのとき、勢いよくドアが開いた。
「おはよう!」と、美月がやけにうるさい挨拶をした。
「お、おはよう」
「美月、アルコールは抜けたか? っていうか、相手に飲ませてないよな?」
「っていうか聞いてよ! マネージャー! あの遊里って子、いつもネットで『可愛い女の子が好きだ』とか『大人のお姉さんに魅了される』って発言してるのね! だから私、誘ったの!」
「誘ったの!? 誘っちゃったの!?」ナチュラルにとんでもない発言する美月に、マネージャーは呆然とした。
「そしたらね! なんて言ったと思う? 『止めてください。私、そういうの苦手で……それに彼氏もいますから』だって! ふざけんなよ! 百合営業する奴、マジで死ね!」
「アンタがそれを言う?」小風は思わず突っ込んだ。
「まあいいわ。私には小風ちゃんがいるから」美月は小風を背後から抱きしめ、髪の匂いを嗅いだ。
そうだった。美月はこういう奴だった。驚くほど軽い性格。実の父の通夜に出席し、その帰りに喪服姿でネットで知り合った女をホテルに連れ込むような奴だ。
昨日の戦いで、美月と息があったとき、とても充されたような気がした。彼女が覆いかぶさってきたとき、心がドキドキし、それでいて、何か落ち着いたような気がした。だけど……今、こうして後ろから抱きしめられても、昨日と同じ気持ちにはなれなかった。
彼女は人間として軽蔑すべき点がある。理屈としては、嫌いになる要素を持ち合わせている。しかし、ときどき変な感情を抱いていしまうのだ。やはり、自分と似ているからだろう。彼女を本当に嫌いにはなれない。むしろ、理解し合いたいと、確かに思うのだ。
小風は肘で美月を小突いて、その場を離れた。
「詩鶴は?」小風は、気を紛らわすように話題を変えた。
「詩鶴ちゃんは、大学だってさ。今日は仕事ないし」美月が答えた。
「そう……」
小風は悲しげな顔をした。美月だけじゃない。詩鶴のことだって……
彼女は、裏で要注意人物である亜子・クリンゲルと関わりを持ち、過去の事件を調べている。立場上、ほぼ敵同士と言っていいだろう。しかし、何故だろうか? 私は詩鶴が敵であることを否定したくて仕方がないのだ。彼女とも分かり合いたいと思うのだ。
結局、私たちは立場も違い、分かり合えない存在だ。そう思うと、とたんに悲しくなった。
小風は、自分たちのアイドル活動や、本来の目的である闘波の調査、ひいては祖国、中国に利益を齎すことなど、どうでもいいことに思えた。小風の中で、あやふやとなっていた思いは、いつしか鮮明になっていた。とにかく、二人を理解したいのだ。詩鶴と美月を愛し、愛されたいのだ。
美月はクズ人間にしか見えないが、私が彼女を詳しく知らないだけではないのか?詩鶴は敵組織の人間かもしれないが、何か特別な理由があるからじゃないのか?
彼女たちと仲良くなりたい。そして、家族のようになりたい。任務でも損得でもなく、心の底から分かり合いたい。小風は、強くそれを望んでいた。
私が持つことのできなかった家族のような付き合いを、彼女たちとできたのなら……そう思いつつも、小風は悲しい顔をした。
しかし、それは不可能である。許されないことなのだ。何故ならば、私は普通の少女ではないのだから。
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