第1話 エピローグ


 「あれ? 今日はマネージャーいません?」事務所にマネージャーの姿が見つからないので、美月はプロデューサーに尋ねた。

 「ああ、今日はアレだ。ほら、前言ってた新しいアイドルが移籍してくるから、迎えに言ってるんだよ」

 「そういえばそうだっけ。可愛い美少女だといいなあ……」美月はだらしない顔で呟いた。

 「なんだって?」

 「いや、なんでも。新しいファイターでしたっけ。で、いつごろ帰ってきます?」

 「隣の県だからなあ。2時間後かな」

 「隣の県?」

 「ああ、成田国際空港だよ」


 


 「あれ?」と、詩鶴は目を凝らした。

 「どうしたの?」亜子が尋ねた。

 「いや、うちのマネージャーがいたと思ったけど、こんなところにいるわけないよな」

 「ふーん。うちのマネージャーは、神出鬼没だけどな……って、そろそろいかなきゃ。5時からプロデューサーと打ち合わせだから」

 「そうか。また会えるといいね」

 「歌番組で? それともバラエティ番組で? それとも……」

 「できることならリングで」

 「そうくると思ったよ。じゃあ、あと一つ、忠告しておこう。闘波の有用性に気づいているのはアメリカだけじゃない。最近、中国でもファイター育成に力を入れてると報告があった」

 「中国も闘波使いを欲してるの?」

 「中国政府はアイドルもどきのチベット解放団に痛い目にあったんだ。しばらくは、そういう連中を敵視していたが、ここにきて手のひらを返したらしい」

 「それは怪しいね」 

 「まあ、用心しておくに越したことはないね」



 マネージャーは時計を見た。そろそろ、新しい仲間が来るころだった。大勢の利用者の中から、写真の少女を探すのは骨が折れるだろうと、彼は思った。手続きを終えた客が、次々とロビーを通過していく。一人の少女が、マネージャーに対して手を振っていた。マネージャーは確認した。写真よりも可愛く見えるが、確かに彼女だった。少女はマネージャーに駆け寄った。マネージャーは、礼儀正しくお辞儀をした。

 「お待ちしておりました。ようこそ日本へ。私、五光プロダクションのマネージャー、坂月菊と申します」マネージャーの名刺を受け取った少女は、満面の笑みで、自己紹介をした。

 「ニーハオ。はじめまして。柳小風ルゥ・シャオフォンと申します」


 新しい風が吹く。


                        第1話『欺瞞』 完

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