可愛いは正義。企業理念is大義名分。②

さすがケモミミを生やしているだけはあって、ケモミミ美少女の逃げ足は速い。

がしかし、鬼ごっこの鬼も負けてはいない。

ケモミミ美少女は従業員用らしき通用口を出て、非常階段をカンコンカンコン音を立てて降りていく。

俺は俺で、ダンダンッてな感じで二段と言わず三段飛ばしで階段を降りていく。

さながら雪野先生が如く。だが途中ですっころんだりはしない。

二階分降りたところで手摺りに手をかけ柵を跳び越え一気に地上へとッ――

ちょうど真下に階段のゴールがある。



そのとき、俺は確かに感じたんだ。


そう、後の俺はこういう文句で今から始まる体験を語り出すことになるような予感がした。

時が、止まったような、そんな気がした。

実際にはゆっくりと時間が流れていくような感じがしただけだが。

脳内で勝手にスイッチが押されたのか、懐かしいような柔らかい気持ちになりながらビフォーとアフターを見比べられそうなBGMが流れ出す。

……なんということでしょう。

なんていう、タイミングでしょう。

俺が上から階段のゴールに着地するタイミングに合わせて、ケモミミ美少女がそこに飛び込んでくるではありませんか。

気持ち到着が速いケモミミ美少女の悲愴な、見ているとこちらが切なくなるような顔面が、空から降りてくる俺の股間に勢いよくめり込んで――

「ギャムチッ!!」

「あいたっ!!」


ぐるんぐるんぐるっズザザザザァッー……。

ドッキングした顔面と股間を軸にして、俺たちは縦回転で二回転半くらい転がる。

さながらその軸は陰と陽を表現した太極図を描くようで。

ウロボロス。円環。輪廻。フェ○チオ。

……なんとでも言うがいい。

そのとき、俺は確かに感じたんだ。

言葉にすると、うまく言えないけれど、美少女と自分の存在がこう、混ざり合ってひとつになるような感覚、みたいな、そんなものを。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁゲボフォッ!?」

痛みは遅れてやってくる。断末魔は添えるだけ。

三半規管と股間を同時に攻められて、俺は抵抗する間もなくリバースする。

こう、なんていうかな、こう、きゅーんてする感じ。きゅーんて。分かる? この感じ? 下に引っ張られるような――

「いったー……ゲボフォッ!?」

三半規管の震盪と顔面に男○器を思い切り押しつけられる生理的嫌悪のダブルコンビネーションで、美少女(仮)は嘔吐する。

俺と同じように語尾に!?がついちゃうのはきっと、その嘔吐が予期せぬもので、いきなり起こる現象で、不可抗力だからに違いない。

そう、俺と彼女はその時、間違いなく同じ感覚を共有していたんだ。

後に俺はそんな風に述懐するのかもしれないと、涙目になりながら思う。

仰向けに倒れて横を向いて吐いた俺は、眼前に控える吐いたものがこう、自然の引力に従って自分に寄ってきているような気がしたので、口の中の苦みと酸味なんかを感じつつ、半身を無理矢理引き起こす。

すると眼前に白く柔らかそうな――御開帳である。

大事なことは大見出しに書くという定石を失念していた。改めて。

御開帳である。

出会い=MEET. その頭文字であるMを象るように、開脚し開陳された秘境が見える。

これは幻か? 一瞬、我が目を疑う。

そして一旦周囲を見回す。

建物に挟まれた薄暗い路地裏に、自分がいることが分かる。

視線を元に戻す。

昼下がりの陽光が、奇跡的にそのビルの狭間からこちらを覗き、その秘境の存在を照らし出す。

俺は泣きながら手を擦り合わせ、その光景に心から感謝の念を抱き、拝んでいた。

涙に滲んだ目を再び開くと、その光景は既に失われていて、代わりに口元に白濁した汚れをつけた美少女(仮)が恐怖に戦く眼で俺を見ていた。(昼にいったい、何を食べたのか?)

何か言おうと、とりあえず俺は口を開きかけるが――

「会社の方針なんですっ!!」

という彼女の叫びに唇を巻き込んで黙る羽目になる。

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