可愛いは正義。企業理念is大義名分。①
……。
ハッとする。覚醒する。
夜勤明けの昼下がり。店内が暗くなると、どうしても眠くなってしまう。
夢うつつで転生経緯について回想していて、気付くと口の中が渇ききっていた。
すっかり冷め切ったクソ苦いコーヒーで口の中を湿らせる。
どうやら15分ほどのショータイムも佳境といった様子で、恵まれないご主人様たちのボルテージも最高潮のようで、熱気がむさ苦しいことこの上ない。
その光景をずっと見ていると余計暑くなっているような気がしたので、目を背ける。
すると、入国してから未だお目にかかれてないキャワイイケモミミ美少女が視界に入ってくる。
「え……?」
目を疑うとはこのことである。すっかりハードルを下げきってしまっていた俺は、そのケモミミ美少女が実在しているのか、現実を、自分の目を疑わずにはいられなくなる。
瞬きを繰り返し、瞳を気持ち1.5倍くらいに大きくして、目を凝らす。
間違いない。
彼女は実在するのだ。
いや段落替えてまで強調することではないけど。なんだか急にドキドキしてきた。
暗がりの中、客の一人が自分を見ていることには気付いてない様子のケモミミ美少女は、さながら周囲を警戒する小動物のように辺りをキョロキョロ見回しており、またその仕草の可愛さたるや。
……たまらんな。
なんだろうな? この、庇護よくをそそられるとでも言うのか、守ってあげたくなるような感じ。
雨に濡れた子犬を想起するような、つぶらな瞳、低身長、艶と張りがある赤毛、それに加えてピンと屹立したケモミミ。
ふいに彼女がこちらに視線を投げかける。俺は咄嗟に視線をわずかにずらす。
……間一髪誤魔化せたようで、彼女のことをそれとなく視界の端で捕らえ続ける。
頭部をひっきりなしに動かしてやっと周囲の警戒を解いたのか、大袈裟に安堵の溜息を吐くのが分かった。
なんだかこちらまで安心してしまって、はじめてのお○かいを見るような気持ちで引き続き彼女の動向を見守る。
すると次の瞬間。
ケモミミ美少女は座席に置きっ放しになっていた客の鞄を漁り始めた。
……。
目を疑うとはこのことである。
俺はすぐさま、他人が見ていたらギョッとするだろう勢いでそちらを振り向きガン見する。それこそ赤く光った双眸が軌跡を描くレベル。
ケモミミ美少女はすっかり安心しきっていて、俺がガン見していることにも気付かないようで、財布やら貴金属らしきサムシングやらを取り出しエプロンのポッケに収納していく。鼻歌でも歌い出しそうな感じで、腰を突き出しおっ立てた尻尾をふりふり揺らしながらパンチラしている。白く柔らかそうな――
パンチラしている。
大事な部分だけを、胸の中で復唱する。
ちょうどケモミミ美少女のサイドから見ている格好だったので、是非とも背面に回り込んで拝みたいという欲求が脳内を席巻する。
気付くと下半身は既に言うことを効かなくなっていたらしく、反射の勢いでガバッと立ち上がってしまう。
ギッ。
喧噪の最中だったので聞こえなくもない程度ではあったが、確かに椅子を引く音がその辺に響く。
ヤベッと思った俺は反射的に眉間にしわ寄せ、ガンをつけてしまう。見渡す限り畑だらけで大量の不良を栽培する田舎で育ったために身についた習慣が出てきてしまう。
ケモミミをピクリと動かした彼女が音の発生源である俺の方に視線を向ける。
さっきまでの安心しきった様子はどこへやら、すっかり怯えきった様子で、思いっきりブルブル震えながらこちらを見る。
ガンをつける俺と震える彼女の目が合う。
「ヒッ!!」
悲鳴をあげかけそうになる口を慌てて手で塞ごうとして、持っていたチェーンのような鎖(いや鎖とチェ、以下略)を落としてしまう。
ジャラララッ!
曲のアクセントとは到底言えなさそうな音が店内に響き渡り、ステージに夢中になっていた観客の数名が「何事か?」と怪訝そうに振り返る。
ケモミミ美少女は慌ててその場を退散していく。まさに脱兎の如く。
俺はすぐさま彼女を追いかける。
その理由?
逃げるヤツには追い打ちを掛けろという習性かもしれないし、小動物を追いかけずにはいられない習性かもしれない。
つまり鬼ごっこの鬼としては、逃げるヤツを追いかけずにはいられないのだ。
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