第14話 時計は動き続ける


 時計は進む。

 電池が止まってしまえば動かなくなると人は言うかもしれない。

 でも、世界という『時計』は動き続ける。

 世界という巨大な『時計』は止まることなく進み続ける。



 彼からニュースを見てもいいという言葉をもらった。

 今までは私の病状から、見ない方が精神的によいという判断があったが、今は見てもいいと言われた。


「今の貴様なら大丈夫だろうが、まぁ無理そうならまた止めるだけだから気にするな」


 と、言われた。

 ニュースを昔はそんなに見ていなかったが、今は前より見るようになった。

 時折、『組織』の事がニュースに出る。

 最近は頻繁に出るようになった。

「……」

 新聞を見ると、『組織』が行動した結果どうなったか等、またどういう情報が漏れ出したなど、色々書かれていた。

「……人身売買、ブラック企業、国家ぐるみの犯罪……」

 色々書かれている、どうやらこの新聞は特集をやっているようだった。

 何か色々と書かれすぎて私にはさっぱり解らない。

 けど、世界は私が思っている以上に変動していることは解った。

 最近治安が悪くなったと言う人がいるけど、それは警察がいろんな場所で見かけるようになったからだと思う。


 でも、警察が増えたとしても、もうどうにもできないと思う。

 どんな国の警察でも、軍隊でも『組織』をどうにも出来なかったのだから。


 いろんな国の裏が暴かれ、いろんな企業の裏が暴かれ、隠そうとすればするほど、それは悪い方向へと進んでいった。

 こんな状態どんな国もみたことはないだろう。


 どんな暴力も通さない謎の力、自分たちでは到達できない科学力。

 人類を見下した台詞と笑い声、挑発するような態度。


 そういう態度をとっていた国に、今まで何も出来なかった国家が。

 たった『三人』の組織にぼろぼろに翻弄されているのだ、行動をとっても何一つ対応できていない。

 最初の独裁国家のような対応をすれば同じような『血の海』が広がると、どこもおそれているのだ。

 せっかく結成した、『対策組織』も後手後手に回っている。


 彼らの思うように世界は変革させられているのだ。

 今まで何もしなかったことを罰するように、世界の火種に火をつけて笑っている。

 まさしく『ヴィラン』のような行動だ。

 でも、悪い方向に変わっているわけではない、良い方向に変わっている。

 見せしめのような処刑――それで命を尽きる人はいない、ただし人生という生き方に大きな傷をつけられ、今後の人生がろくでもないものであるというのが解るような処刑方法もしている。

 酷いという人もいれば、その処刑を見て救われた人もいるのだ。

 一概に悪いこととはいえない。

 

 新聞を閉じて、ソファーに横になる。

 少し前まで仕事をしていて、ちょっとだけ疲れていた。

「……まだかなぁ」

「もう帰って来てるぞ」

 少しだけ不機嫌そうな彼が、私の顔をのぞき込む。

「どうしたの、失敗したの?」

「失敗はしたがしてない! ああ、くそもう少し残っていれば良かった!」

「何があったの?」

「貴様の元上司と、元恋人を同時に地獄に叩き落とすチャンスを逃した!! 当初の目的は達成したが、こちらの方を失念していた、阿呆か私は!!」

 彼の言葉に少し固まる。

 だが、それだけだった。

 すぐに、彼の腕をつかみ首を振る。

「いいんです、あんな汚れた連中触ったら、ただでさえ汚れ役なのにますます汚れてしまいます」

 はっきりと言った。

 いや、少しだけ、体が震えている、情けないことに。

 そんな私を見て、彼は溜飲を下げたように、呆れたように笑った。

「そんな事を私に言うのは貴様位だ」

 私の頭を撫でる。

「だが、奴らは地獄を見せると決まっていたのでな……しかし、今考えると貴様がマスコミなんかの標的になるのではないかと恐ろしいな」

「それくらいは覚悟――できるかなぁ……でも、名誉毀損とかになるのは困るからそこは四条院先生に対応してもらおうかな……一応警察に相談した奴とか結構残ってるし……」

「それがいいだろう」

 私が起き上がると、彼はどかっと空いた隣に座った。

「やれやれ、Dr.は相変わらずだし、カオルも相変わらずで私の苦労が増える」

「お疲れさまです」

「そうやって言うのも貴様位だ」

 満足げにいうと、私の頬を撫でる。

 そして、口づけをする。

 未だに口と口を合わせるのはちょっとだけ恥ずかしい、そんな自分が乙女みたいでなんか年を考えろと若干ツッコミを入れたくなって悲しくなる。

「そういう初なところ、嫌いではないぞ」

 彼に思考を読まれて、ニヤニヤした表情でいわれてしまった。

 ちょっと恥ずかしい。

「うー……慣れないんですもの、仕方ないじゃないですか……」

「なら、慣れるまでしてやろうか?」

 意地悪い顔で言われた。

「む、無理――!!」

 無理なものは無理だ、恥ずかしくて死ねる位恥ずかしい。

 私の隣で、意地の悪い笑顔ニヤニヤしているであろう彼がこっちをみていることを想像できた。

 私は顔を真っ赤にして見ないようにしている、そう直接言われたら恥ずかしいからだ。

 優しいところもあるけど、意地悪なところもわりと目立つ彼だから色々恥ずかしくなったりすることもある。


 『組織』としての彼しか知らない人がみたら、びっくりするどころじゃないだろう状態に私はいる。

 でも、この状態を理解しているのは全員組織側で、そうじゃない方面には誰1人もいない。

 彼がどこにいるかも知らないのがほとんどの人。

 ニュースなどで登場する彼しかしらない人が大多数の中の世界で、私だけが彼とこういうやりとりをしている。

 優越感がないわけではないが、ただただ嬉しかった。


「貴様のそういうところが、私は可愛くてしょうがない」

 また、思考を読んだのか、いつの間にか私の向いている方にいた彼に、驚いてソファーに倒れ込む。

 彼はニヤニヤと笑っている。

 私を押さえ込むような格好になり、私の頬を撫でる。

「それを自慢することなく、秘匿にしつづけているのが貴様のよくできているところだ。いつか私だけのものだということが誇っていえるように

してやる」

「……はい、お待ちしますね」

 彼の言葉に、不思議と笑みがこぼれる。


 ああ、幸せとはこういうものなのだな、と理解できた。




 ダークは機嫌がよさそうな雰囲気をまといつつ、Dr.の部屋に来ていた。

「おい、Dr.。 仕事はすんでいるか?」

「ああ、あの件ですねェ。もうバッチリですよォ」

「よし、次あった時に奴らを地獄行きにしてやる」

「ダーク様、嬉しそうですねェ。さっきまであんなに不機嫌だったのにィ」

「何かいったか?!」

 やや不機嫌そうな声色と、表情をDr.に向ければ、彼は青ざめた表情首をふった。

「い、いぃえェ?! 何でもありませんよォ?!」

「嘘を抜かすな阿呆」

 ダークが取り出した杖で頭をはたけば、Dr.の首がぽろりともげた。

「あんぎゃああ?!」

「整備不良だな、お前の首脆くなったのではないか?」

「そういえばこっち来てからほとんどやってなくてダーク様に絞められる以外ないからいいかーと思ったからァ!!」

「私の所為にするなたわけめ」

 椅子から立ち上がり、Dr.の胴体が慌てて首を拾い上げ、首を元の位置に戻す。

「今日はしっかり整備しておけ」

「はぁい……ダーク様は、こっち来てから姿とかごまかすのとかずっとやってますが疲れませんかァ?」

「あの世界と比較したらよほど楽だ」

「でしょうねェ」

 Dr.は機械を使って首を縫いつけ、頭がはずれないようにしながら言う。

「Dr.はこの世界はどうだ。貴様にとってはあの世界と比べたら退屈なのではないか?」

「まぁー退屈でないといえば嘘になりますが、やりがいはありますよォ。あのお嬢さんのアイディア形にするのは楽しいですし、こっちで使う兵器とか、カオルのバトルスーツの改良とか楽しみはありますよ――あと、お嬢さんのつくるお菓子おいしい」

「そうかって、何ぃ!?」

 信じられないことを聞いたような顔になり、ダークはDr.に近寄る。

「リハビリとして作ってみたのでどうぞって深い意味ないと思いますぅうう!!」

「私は一度も口にしたことないぞ!!」

「ダーク様は料理上手だから出すのが気が引けるとかいってましたしィ!! 出すとしてももう少しうまくなってから出したいって言ってましたァ!!」

「――そうか、ならいい」

 鬼の形相から一転し、機嫌の良さげな表情に戻ったダークに、Dr.はほっと息を付いた。

「今のダーク様しゃれならない程怖かった……」

「何か言ったか?」

「何でもありません!!」

 普段の口調が吹っ飛ぶほどの勢いで首を振り、否定するDr.をみて、ダークは呆れたようなため息をついた。

「大丈夫か貴様」

「ダーク様に言われたくありませんよゥ……」

「はっきりいわんか馬鹿もの」

「言えませんってばァ!!」

「何故だ!!」

 逃げるDr.をダークが追い始める。

「――いや、見てて面白いなぁ、恋愛って周囲も巻き込むことあるからねぇ」

 と、いつの間にかDr.の部屋にいたカオルが煎餅を片手に二人の様子を眺めていた。


「カオルさん、いつから、いたんですかァ」

「追いかけっこ始まった少し前からー」

「じゃあ助けてくださいよォ!!」

「いやぁ、楽しそうだったしー」

「楽しくなんてありませんでしたよォ!!」

 追いかけっこが漸く終わり、息を切らしたDr.が傍観していたカオルを非難する。

「カオル来ていたのは解ったが、今日は会議等はないぞ」

「いや、マイちゃんの顔見るついでに来ただけだから」

「ついでと言い切るのが貴様位なものだ」

「あざーっす」

「貴様の肝の据わり具合には常々呆れる」

 カオルの言葉に、ダークはため息をついた。

「ところでお子さんは大丈夫なんですかァ」

「うん、今日は蔵人に見てもらってる。うちの子たち、なんだかんだで蔵人にはなついてるからねー」

「そうか」

「あの弁護士の先生ですかァ。大丈夫なんですかァ?」

「私たちに事を言おうとしたら記憶が消えるか、その言葉が別の内容に変換されるように処置はとってる、そこは心配いらん」

「なるほどー」

「大丈夫そうですねェ。お嬢ちゃんのほうはどうなんですかァ」

「言わないと思うが、万が一ぽろっとこぼれた場合も危惧して別の内容に変換されるようにはしている、彼奴には悪いがな」

「あるある、人ならぽろっと言っちゃいかねないしー!! ところで私は?」

「マイと同様の処置だ、悪いがな」

「だよねーいいのいいのー」

 カオルはカラカラと笑う。

「しかし、昨日はもう少し待機してればよかったかなー、あの連中を後悔処刑できたのに」

「私もそうしたかったが、できなかったのだから仕方ない。次回以降に持ち越しだ、処刑準備はできてるしな」

「ですねェ」

 ダークは空いている椅子にどかっと座る。

「どっちにしろ、向こうが後手後手なのは変わりない、ゆっくりといこうじゃないか、世界は間違いなく変革している私たちの手によって」

「だねー……大きなことなら地球レベル、小さい事なら1人単位と、こつこつやって来た甲斐があるねー」

「そうだ、さてこのまま気を引き締めて――変革を続けようか諸君」

 ダークの邪悪な笑みに、他二人もつられて邪悪に笑った――



 時計は進み続ける。

 時計は動き続ける。

 なら、『変革』という時計を止める理由はどこにも、ない。



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