第6話 舞台は幕を開ける
大きな舞台の幕が上がる。
私はその場にいなかったけれども、その舞台がどれほどのものかは人づてに聞いた。
私はその舞台を見ることはできなかったけど、見なくてよかったと思う。
だって、その時の私にはきっと耐えられないだろうから。
「――さて、そろそろヴィランらしく国の一つでも滅ぼそうと思うのだが」
カオル先生を呼び出したと思ったら、彼はとんでもない発言をした。
「く、国をひとつほろぼすなんて……!!」
「どこの国滅ぼすのー?」
カオル先生はのんきそうにいつもの調子で質問している。
彼はにんまりとわらって「ここだ」と指さした箇所は私でも、どういう国かしっているだった。
――独裁国家――
――恐怖政治――
そんな国と戦って無事でいられるのかと不安になる。
「なに、滅びるのはあっという間だ。まぁそれをテレビでジャックして流すが――」
彼は私を見る。
「貴様は見るな、いいな?」
「え……?」
「グロ注意報で即座加工はするが、貴様にはきつい。わかったら見るな」
「みないなら、念のためみないための監督者必要じゃない?」
「そうだな、それをお前に――」
「え――私参加した――い、いいでしょう?」
カオル先生の言葉に、彼は頭を痛めるような仕草をする。
「……心当たりはあるのか?」
「無かったら言わないよー」
先生のいう、「心当たり」基「あて」は多分あの人だ。
「もしかして、四条院先生?」
「正解、彼奴なら監視してくれるわよー」
四条院蔵人、四条院先生は弁護士の人。
寧ろ何かしたらまずいんじゃないかな?
「大丈夫大丈夫、あ、ヴィランらしく変装、お願いねー?」
先生がDr.のアンテナをいじりながら、変装道具などを用意希望している、Dr.は先生が苦手らしくわたわたしてる。
「あの、大丈夫なんでしょうかね……?」
「トラウマできてもしらんぞ私は」
なにもいえず、ただ内心「えええー」という状態になった。
当日、カオル先生から事情をぼかされてきいた黒髪の短髪長身の男性――四条院先生がやってきた。
「し、四条院先生、ご迷惑、おかけい、いたします、すみ、すみません」
「いや、気にするな。というかこういう無茶ぶりは慣れている」
四条院先生はそういうと私の薬の確認をして、睡眠薬等を取り出した。
「今日は付いたら早めに寝かせてやれと言われた。すまないが食事等はすませただろうか?」
「は、はい!」
「では、どうぞ」
用意されてある薬を服用する、すぐ効果はでないがその間のんびり白湯をのんで、体を暖めてから布団に入る。
「では、お休み」
「は、はい……おやすみ、なさい」
睡眠薬がよく聞いたのか私の意識はまどろみ、あっという間に眠りの中に落ちていった。
元依頼主の護衛とは弁護士がやるべきことかと、蔵人は悩んでいたが、どうあがいてもいろんな意味でも、カオルに勝てないのは見えていたのであきらめた。
「……」
熟睡し、安眠しているのを確認すると、帰宅までの間まで暇だなとテレビをつける。
いつも通りのニュースが始まったと思った矢先に画面が真っ赤になる。
「?!」
出現する「Dark R.Inc」の文字。
PCを開くがどの回線をつかってもでるのは同じ画面。
そして――
『初めまして、下等な人類諸君!』
真っ黒な紳士服をきた、どうみても人間らしからぬ風貌の存在と、フランケンシュタインの怪物のようなつぎはぎの科学者風の男、そして、まだよく見えないが女性の下半身らしきものが見える。
見覚えがあるものと感じたが、ないなと断じて引き続き画面に視線を向ける。
『君ら人類の愚かな様に、私ダークレインは呆れた! なぜここまで愚かなのかと!!』
うるさいほっとけと内心言いたくなったが、なぜか黙っておくことを選択した。
『ということで手本を見せてやろう、今私たちは××国の首都というか、お偉方がいる場所にいる』
「?!」
気分を落ち着けようとして飲み込んだお茶をふきだしかけた。
必死に飲み込み画面に食い入る。
画面の中では、国のトップなどが全員縄で縛られ転がされている光景が広がっていた。
なんどもテレビで見ているから見覚えがあるのはちらほらいる。
『昔からこういうではないか! ガンは切除しなければ広がると! ならばガンは――』
『切除、しないとねぇ?』
男達とは違う妖艶さを残したコスチュームだが、顔は隠れてみえないが――今度こそ、蔵人はお茶を吹いた。
声も変えてある、服装の雰囲気だって違う。
だが、こいつは彼奴だ!
なんで彼奴があそこにいるというかどうやってあそこまで行った!?
蔵人は頭を抱えつつも、テレビを再度見やる。
「しかし、あれに、気づくのは多分私だけだろうが、なんでこうなってる?!」
テレビの中では、兵士達に囲まれているが、兵士達は銃を構えたとたん動けなくなり、そのまま引き金をひくこともできずにいる。
『このように、私どもに銃を向けた人物はみなうごけなくなりまぁす』
『これからなにをするかってそれはもちろん』
『これからの活動方針の提示に決まっている』
画面が真っ赤に染まる。
そう、血の色で。
吹き出した血の色で世界が染まる。
なにが起こったか解らない、だが惨劇がおこったというのは理解できた。
『あ、血のせいで汚れてる~ふかないと』
女の声にあわせて、画面がきれいに吹き上げられる。
『心臓の弱い人のためにちゃーんと加工しておりまーす』
モザイク処理がされているが、あちこちがモザイク処理されすぎていて、なにがなんだか解らない。
『モザイクが無いバージョンは下記URLにアクセスしてね、アップしてるから!』
楽しそうな声に、蔵人の背中から嫌な汗がとまらない。
パソコンを開いてアクセスすると、モザイクの内容が詳細に表示されていた。
「う……」
すぐさま画面を閉じて、目を背ける。
『これから世界の変革を行う、貴様ら下等な人類諸君の変革は遅すぎて飽き飽きだ! では、短いが今回はこの辺にしておこう』
『私たちに興味があるかたはがんばってコンタクトをとってみてね~、あ潰したいとか考えてるなら~』
『容赦なく潰してやろう』
そういって画面は暗転し、本来入るべき画面に戻った。
実際に、某国に侵入したフリーのライター達によって、これは真実の映像であり、彼らはまぎれもなく本物であることが発覚した。
大量殺人、国の崩壊、彼らは、見えないところでも動き、そしてたった一夜で成し遂げたのだ。
「……」
その情報が来る前に、蔵人はとある人物が戻ってくることを待っていた。
「ただいまー、じゃないやおじゃましますー」
蔵人はその声を聞くなり、玄関へとゆっくり歩いていった。
「いやぁ、蔵人ごめんねー……ってちょ、顔こわいよー?」
待ち人――基カオルの顔を見るなり、蔵人は鬼のような形相になった。
「貴様テレビでなにをやってやがるこの大阿呆女」
「え」
家中に響かんばかりの怒号がカオルに落ちた。
目をさますと、リビングでカオル先生が四条院先生に正座させられていた。
彼は、なんともいえない表情で二人を見ている。
なにをやってきたのかは知らない、とりあえず国が一つ滅んだとしか解らない。
滅んだというのも、どういう意味かも解らない。
「お前、私に様子見を頼んだのはこういうことか! おかげで彼女は見ずにすんだがな、お前の家族にもうまくごまかせただろうが、私にはめちゃくちゃバレてたぞ! いい加減にしろこの阿呆! なにを考えているんだ!!」
「え、え、えーー!?」
とりあえず、四条院先生に、カオル先生が何かしていたのかバレてしまった。
「……」
困り果てて彼の顔をみるが、彼もなんとなく解せない顔をしている。
「おい、カオル。それと四条院といったか」
「ん?」
「すまない部外者――は?」
四条院先生の顔色がさっと変わる。
まさか、視覚の操作をといたの?
どうして?
「人間にしては一部に関しては慧眼だが、やはりただの人間ということか。 いはやは、面白い!」
「な、な、な?! おい、カオル! どういうことだ!!」
「ダーク様およびですかー?」
「ああ、呼んだぞ」
部屋の奥からDr.さんも出てきたのであわてて、彼の後ろに隠れる。
「おい、カオル! 説明しろ」
「あー……説明していいの?」
「構わん、寧ろしろ。場合によっては記憶操作するがな」
「な……!?」
「はーい」
そして、四条院先生に対して、カオル先生の説明が少し長く行われた。
説明が終わると、四条院先生は信じられないものをみたような目でこちらを見ている。
暫く、目元を押さえて悩んでいるような仕草をしたからため息をついた。
「どうせ、誰にもいえないだろう、言おうとした瞬間記憶操作しか目に見えない」
「ふむ、物わかりがいい」
「――カオル。お前正気か?」
「正気よ、だって。『弱者ばかりが搾取されつづけて、強者に踏みにじられる』世の中なんて、もうまっぴらよ。思いこみだけで、大事なものを奪われるのももうたくさん」
「――そうか、そう、だったな」
カオル先生の言葉に、四条院先生はつらそうな顔をする。
何かあったのかな?
彼の顔がやけに真面目だけど、なにも答えない。
「――わかった、何かあれば相談にのろう。協力することはできないが、普通の企業としての活動なら協力は多少できる。会計士の資格ももっているんでな」
「それは助かる」
彼はにやっと笑った。
「だが、カオル。家族がいるんだから無茶は、するなよ。幼なじみからの忠告だ」
「――うん、ありがと蔵人。無茶はしないよ」
四条院先生はそういって、帰って行ってしまった。
「うーん、バレないと思ったんだけどなぁ」
「寧ろあそこまで声質やらいろいろ調整したのになんでバレた」
「わたしも気になりますねぇ」
「あ――蔵人は、私のことよく知ってるからねー。家族よりも、誰よりも」
「だから、結婚する気は全く起きなかったんだよね、私も彼も」
カオル先生の、意味深な言葉に私は首を傾げたが、彼は「なるほど」とだけ呟いた。
彼にだけわかったことがあるのだろうか。
「じゃあ、私もそろそろ帰るね。マイちゃん、ダークさんに、博士さん、またね」
「また…」
カオル先生はいつものように明るい笑顔で帰って行った。
「あの……」
「――彼奴も、傷もちだということだ。貴様は気にするな、自分のことだけに集中しろ」
「う、うん……」
彼のいう通り、私が知るのは多分もう少し病状がよくなってからじゃないときついのかもしれない。
それでも、やはり気になるのだ。
あんな先生みたことないから。
舞台の幕はあがった。
予想外の出来事も多々あった。
でも、この幕開けが同時に、私の過去と向き合う為の幕開けであることに私はなにも、気づいていなかった。
いや、向き合うんじゃない。
傷つけられた過去に向き合うんじゃない、今と向き合うため、未来と向き合うための幕開けでもあると、私は知らなかったのだ。
でも、それでよかったと今でも思う。
だって、傷つけられ続ける過去を思い出して、傷つくのは、いやなことだから。
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