第8話~雨の日~
朝は晴れてたのに、お昼過ぎには雨が降り始めた。その雨はどんどん強くなり、放課後には土砂降りに。傘、持っててよかったな…。五紀、持ってるかな?そう思って電話した。
「あ、もしもし、五紀?」
『ああ、ゆずりどうした?』
「いや、五紀傘持ってるかなって思って…。」
『ああ、持ってない…。どーしようか悩んでたんだ。』
「よかった、私持ってるから、迎えに行くよ。今日部活は?」
『悪い、助かるわ。部活もないし、呼び出しも食らってない。じゃあ、待ってる。』
「はーい。」
そう言って電話を切る。すぐさま咲楽と楓くんが寄ってきた。四月のクラス替えではなびとはクラスが離れて、代わりに二人が同じクラスになった。
「なになに?五紀くん?」
咲楽はにやにやしながらそう聞いた。
「うん、そうだよ。五紀、傘持ってないんだって。だからこれから迎えに行くの。」
「五紀、天気予報見なかったのかよ…。」
楓くんは呆れ気味にそう言った。
「なんか、五紀たち、部活の最後の作品、三人の意見がかみ合わなくて、難航してるんだって。最近疲れてるみたいにボーっとしてるから、多めに見てあげて。」
「卒業制作って感じか?間に合うのか?」
もう六月の終わり。楓くんが心配するのも当然だよね。
「う~んどうなんだろ…。って、いけない!もう行かなきゃ!じゃあ二人ともまた明日ね!」
「気を付けてね!」
そう言って私は学校を出た。
五紀の学校に行くと、校門の前で新くんの傘に入って待っていた。よく見ると陽太くんもいる。三人で話し合ってるみたい。
「だから、まだどんな話にするか決めてないのに、撮影は出来ないだろ?しかも、もう出演者を決めるなんて…。」
「でも、そろそろ決めないと!」
「まずは脚本書いてくれる人がいなきゃ始まらないし…。」
「だー!もうこの話何回目だよ!他校の人でもいいっつっても誰に頼むか…。」
三人とも結構大きい声で話してるのに周りが見えてない。
「あ、あの、五紀?」
私が声をかけると五紀は私を見た。
「…!」
驚いたような、なんだかひらめいたような顔をして私の肩をつかむ。強い力でびっくりした。ほかの二人も驚いてる。
「ゆずり、確か前に物語を作ってみたいって言ってたよな?」
「え?う、うん…。今もちょこちょこ書いてるよ…。」
その言葉に五紀たちは顔を見合わせた。
「ゆずり、そのちょこちょこ書いてるやつ、見せてもらうことできるか?」
「え?う、うん、スマホの中に入ってるよ。あ、でもここじゃなくてほかの所で見たほうが良いと思う。」
そろそろ周りの目が気になってそう言うと三人は「あっ」って言って周りに頭を下げた。
結局五紀の家で見ることになった。適当にお菓子と飲み物を買って急いで行った。
「…。」
五紀の部屋の隅っこで私の小説を読む三人を見守った。なんだか緊張する。なんか変だったりするかな…?
どれくらい時間がたっただろうか。そわそわしてると三人は私を見てそれから頷いた。
「ゆずり。」
「は、はい!」
真剣な五紀の顔。何かと思ってると三人は私に向かって頭を下げた。
「俺たちに力を貸してくれ!」
「へ?」
何を言われてるのか分からず、首を傾げた。
「卒業制作の、脚本を書いてほしいんだ!」
え…?
「えええええええええ!」
驚いて大きい声が出た。良かった、五紀の家族がいなくて。
「そ、そんな、脚本なんて、無理だよ!」
「そんなことない!こんな良い物語が書けるんだ!俺たちも手伝う!だから、この通り!」
三人は頭を下げたまま動かない。
「…い、いつまでに完成すればいいの?」
何回か同じやり取りをして、根負けした私がそう言うと、三人はパッと顔を上げた。
「ありがとう、ゆずり!スケジュールは新が担当だ。」
「えっと、そうだな…。今月中~来月の始めにはお願いしたいんだけど、いいかな?」
「うん、分かった。頑張ってみる。どんなお話がいいの?」
「ズバリ!恋愛系!」
陽太くんはどや顔で言った。
「じゃあ、今見せたお話をちょっといじる感じでもいい?」
「その辺は任せる。何かあったら言ってくれ。」
「分かった。じゃあ、頑張ってみます。」
そう言って私の挑戦は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます