第7話〜バレンタイン〜

あれから日々はあっという間に過ぎてしまい、今日はバレンタインデー当日。放課後は五紀とデートの約束をしてる。その前にテストがあるんだけどね···。

そんな日の放課後。私は楓くんの彼女さんである、咲楽に呼ばれて食堂にいた。咲楽とは高校からの付き合いだけど、仲良しさんです。

「あ、いたいた!ゆずり、遅くなってごめん!友達が離してくれなくて···」

「咲楽!大丈夫、今来たところだよ!」

そう言いながら席に座った。咲楽も私もお弁当だけど、クラスが違うし、食堂でお弁当を食べてもいいから、たまにこうして待ち合わせる事があるんだよね。

「で、話ってなに?」

「あ、そうそう!ちょっと聞いて欲しい事があって···。」

そう言って咲楽は話し始めた。なんでも、バレンタインのチョコを初めて手作りしたけど自信がないらしい。しかも、そのチョコと市販のチョコを持ってきていて、その2つを私に見せてくれた。

「手作りの方はちょっと失敗しちゃって···形ぐちゃぐちゃなんだけど···。」

「ホントだね···。」

頑張ってハート型にしようとしたんだろうけど結構形が崩れていた。

「うう〜···こんなことなら作んなきゃ良かったかな〜···。」

「そ、そんなことないよ!」

「でもさ〜、こんなの喜んでもらえないよ〜···やっぱ市販の渡そうかな···。」

そう言って机に突っ伏してしまう。

「でもこれ、咲楽の思いがいっぱい詰まってるんじゃない?」

「え?」

咲楽は意外そうに頭をあげた。

「だって、楓くんのこと考えて、楓くんのために作ったんでしょ?それって、思いがいっぱい詰まってるってことだと思うよ。そんな大切なもの、貰って喜ばない人いないんじゃないかな?」

「そっか···、そうだよね!ありがとう、ゆずりちゃん!お礼に玉子焼きあげる!」

「いいのに〜。でも、せっかくだからもらうね!ありがとう!」

そう言って、玉子焼きはありがたくいただく。咲楽の玉子焼き、美味しいんだよ〜。


そして、事件は起きた。

「あ、ゆずり···。」

はなびが私の席の前で青ざめていた。よく見ると同じクラスの男子もいる。どうしたんだろう···?

「雪野さん、ごめんなさい!!」

近付くと一人が急に頭を下げた。その足元には私が持ってきた、バレンタインの箱が潰れてた。あれって、五紀に帰りに渡すはずの···カップケーキが入ってる···。

「男子たちがふざけて遊んでて、ゆずりの机に当たって踏み潰したの!酷いよ!ゆずり、前から準備してたのに!!」

はなびが怒って男子たちを睨む。私は、何が起きたよか分からなかった。

「本当にごめん!」

そう言ってるのは、いつもふざけてるグループの中心にいる男の子。

「その、俺、どうしたらいいか···。あ、もしあれなら渡す相手に謝らせてよ!」

「···え?」

そこで、ようやく声が出た。

「俺たちのせいで台無しになっちゃったし···。あ、もしかして他校?それなら、帰りに···。」

「あ、いや、そこまでしなくていいよ···。話せば分かってくれると思うし···。2人きりにさせて···。」

「あ、うん、そうだよね。ほんとごめん···。」

「じゃあ、私、彼氏が迎えに来るから···。」

そう言って、潰れてしまったカップケーキを拾うと私は教室を出た。今日は午後テストがなくて良かった···。


待ち合わせの場所で、私はぼんやりと五紀を待った。なんて言ったらいいんだろう···。誰もいない、冬の公園でのベンチで私は空を眺めていた。今日は青空が広がっていて、とてもいい天気。五紀が好きな、青空···。

「五紀···。」

じわっと涙が滲んだ。潰れたカップケーキは、粉々になり、食べられそうにない。そう思ったら余計に涙が出てきた。

「ゆずり?」

そんな時、五紀が来てしまった。まずいと思ったけど、涙は零れて止まらない。どうしようと思っていたら、五紀は横に来て、そっと肩を抱いてくれた。

「···っ!」

「何があった?」

優しいその声に、私は今日あったことを全部話した。話し終わると、五紀はカップケーキの箱を見た。

「それか?」

「うん···。もうボロボロだよ。」

そう言って開いて見せる。

「ホントだ···。楽しみに、してたんだけどな···。」

五紀は残念そうに言った。手作りだって、伝えてあったから。

「朝、変な意地張らずに貰っときゃ良かった。ごめん。」

朝···?そう言えば五紀、朝渡そうとしたら『茶化されそうでヤダ!』って貰ってくれなかったっけ。

「ううん、私も押し付けちゃえば良かったんたんだよ。ごめんね。」

「いや···まあ···うん。じゃあこれは2人のミスだな。」

「うん、そうだね。」

いつの間にか涙は止まり冷静になれた。そうだね。私たちのミスもあるね。

「とはいえ、潰した奴、許せねえな···。」

「い、五紀?」

そう言った五紀の顔は、かなり怒っていた。

「あ、あれ?2人のミスって事で終わりじゃ···。」

「いやいや!朝はそうかもしれないけど、そうは言ってもやっぱそいつらのせいだろ!ゆずり、そいつらの連絡先とか知らねえ?」

「え?いや、私は知らないけど···。ちょ、ちょっと待ってね、はなびに聞いてみる。」

「頼む。」

うわ、これマジなやつだよ〜。何も起きないといいけど···。

はなびに連絡すると、彼らはまだ学校にいるらしくすぐ来てくれるらしく、2人で待ってた。

「悪いな。デート出来ないかも···。」

「そんな怒ってるの?」

「当たり前だろ?せっかくゆずりが作ってくれたのに···。」

本当に、残念そうに肩を落とす五紀になんて言ったらいいか分からない。

「なんて、ゆずりのが悔しいよな。せっかく作ったのに···。」

「うん。ちょっと残念。五紀に食べて欲しくて、テスト期間なのに、昨日は勉強しないで作ったのに···。」

「そんな思いも、連中にぶつけてやる!」

「け、ケンカはダメだからね?」

「あ、あの···。」

心配になるくらい怒る五紀にそう言うと、例の男子たちが来た。

「あ、五紀、この人たちだよ。」

私がそう言うと五紀は立ち上がった。

「よう、お前たちか。ゆずりのケーキ台無しにしてくれたのは?」

「は、はい!雪野さんのお相手ですよね!?ほんとすいませんでした!!」

そう言って男子たちは頭を下げる。

「ちょっと文句を言わせて欲しくてな。時間、大丈夫だろ?」

「は、はい!もちろんです!」

どうしよう···。完全に脅えてる。···でも、これくらい、いいよね?私だって、怒ってるし。

そう思って五紀たちを見守っていた。

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