第6話~招待~

 今日、五紀に呼ばれて来たのは五紀が通ってる学校。

 昨日五紀がメールで『俺の学校の校門前で待ってて』っていきなり言うからどうしたんだろうってちょっと心配。

 そう思ってると中から制服を着た男の子が出てきた。まっすぐこっちに来る。そして私を見ると駆け寄ってきた。

「あ、間違ってたらごめん。君が雪野ゆずりさん?」

「え?あ、はい。えっと…。」

「あ、ごめん。俺五紀の部活仲間の伊藤新。よろしくね。」

「は、はい…。あ、あの、私、五紀を待ってるんですけど…。」

 なんで伊藤さんが出てきたんだろう…?

「ああ、『なんで』って思うよね。五紀に『来い』って言われたんだもんね。」

「はい…。」

「五紀、今準備で忙しいから出てこれなくてね。俺が迎えに来たってわけ。」

「準備?」

「そ、じゃあ、行こうか。ついてきて。」

 そう言って伊藤さんは学校のほうへ行ってしまう。え?中入るの?

「あ、あの。私この学校の生徒じゃないんですけど…。」

「うん、知ってる。大丈夫、許可は取ってるから。」

 そう言って手招きされる。大丈夫なのか不安だけど私は学校の中に入った。


 五紀の学校は男子校。だから部活とかでいる人は皆男の子。男の人が苦手な私にいとって少し居心地が悪い。

「大丈夫?」

「え?」

「男子、苦手なんだっけ。」

「五紀から、聞いたんですか?」

「まあね。俺が迎えに行くって言ったら五紀が教えてくれた。」

「そうですか…。」

 きっと、私のことを思って、だよね。いつも守ってくれて、気を使ってくれて…。

「そんな暗い顔しないで。」

「え?」

「五紀、よく君のこと話すんだ。君の笑顔が好きって。」

 五紀…。

「もしかして、副賞のこと、誰かから聞いた?」

 ギクッとした。その反応を見て、伊藤さんは笑った。

「やっぱり。」

「あの、コンクールのこと調べた友達がいてそれで…。」

「聞いちゃったんだ。」

 コクンと頷いた。

「そっか。辛いよね。」

「でも、応援するって決めたから。」

 私がそう言うと伊藤さんは複雑そうに頷いた。

「さあ、じゃあ五紀のところに案内するよ。」

「はい。」


 案内されたのは『映像部室』という看板のついた教室。

「ここ、俺たちの部室なんだ。」

 そう言って伊藤さんは扉を開けた。

「雪野さん、連れてきたよ。」

「おお!君が雪野さん!?」

 そう言って駆け寄ってきたのは茶髪のちょっとチャラそうな人。びっくりして半歩引いてしまった。

「俺、斎藤陽太。よろしく。」

「は、はい…。」

「あ~、びっくりしちゃってかぁわいい。」

「陽太。」

 低い声で五紀が近づいてきた。そのまま斎藤さんの首根っこをつかんだ。

「ああ、五紀。ごめんごめん。お前の可愛い彼女だってわかってるよ。」

「そう思うならあんま近づくな。」

「ええ?ひっでぇ!」

「ごめんね。見た目通りのやつなんだ。」

「新まで!!まあいいけどさあ…。」

 男子校のノリについていけない…。

「っと、ゆずり、大丈夫か?」

「あ、うん。ついていけないだけ…。」

 五紀にそう声をかけられて頷くと五紀はなんだか安心したようにうなずいた。

「そっか。…さて、準備できたし、先生呼んできてくれるか?」

「ほーい。ほら、陽太、行くよ。」

「はいよ。じゃあまたあとでね、雪野さん。」

 そう手を振って二人は出て行った。

「部活って、三人だけ?」

「ああ、冬休み前まで三年生がいたんだけどな。引退して、一年生も何人かいるけど、今日は休み。」

「そうなんだ。…ねえ、なんでここに呼んだの?」

「ん?見てほしいものがあってな。」

「見てほしいもの?それって…。」

「呼んできたよ。」

 『何?』って聞こうとしたら、二人が帰ってきた。近くにいたのかな?

「あなたが雪野さん?」

 美人な先生にそう聞かれた。今日、何回目だろう?

「はい、雪野ゆずりです。」

「初めまして。映像部顧問の中川です。よろしくね。」

 そう言って微笑みかけられる。大人の女性って感じ…。

「で?準備OK?」

「はい。」

「じゃあ、早速見ましょう。」

「ゆずり、ここ座れよ。」

 五紀に言われて、スクリーンの前に座る。その隣に五紀と先生、一番端に伊藤さんと斎藤さんが座った。

「あ、あの、五紀。」

「ん?」

「私が真ん中でいいの?」

「ああ、大丈夫だよ。」

「そ、そう…。」

「それより、これから流すのが見せたいもの。だからちゃんと見ろよ?」

「う。うん。」

 なんか真剣な顔。これから何流すんだろう…。

「それじゃ、始めるね。」

 伊藤さんの一言で映像は始まった。


 映像が終わると私はぼろぼろと泣いていた。

 タイトルは【俺の大切なもの】

 そのテロップの後に流れたのは、私の写真。しかもたくさん。きっと五紀が撮りためたもの。ほとんどが笑ってた。

「どう、だった?」

「うん…うん。」

 これしか言えなかった。

「これが、五紀君の大切なもの?」

 先生はそう聞く。きっと課題だったのかな?

「はい、そうです。」

 きっぱりと五紀はそう言った。それが嬉しかった。

「そう、じゃあ、大事にしなさい。じゃあ今日は解散ね。気を付けて帰りなさい。」

 そう言って先生は出て行った。

「ゆずり、話があるんだ。」

「うん。いいよ。」

 私が泣き終わると五紀はそう言った。私もあるよ話したい事。


 学校を出て私たちが向かったのは駅前のファーストフード店。伊藤さんと斎藤さんもいる。私の向かいに五紀、隣に伊藤さん、その向かいに斎藤さんが座った。

「ゆずり、この間の、コンクールの副賞なんだけど…。」

「楓くんから聞いたよ。海外の、大学の招待状、だったんでしょ?」

「ああ、楓から話したことは聞いた。」

 楓くん、話したんだ。まあ、隠し事できない人だからな…。

「行くんだろ?」

 そう言ったのは斎藤さんだった。

「いや、行かない。」

「…え?」

「い、行かない、の?」

 『行く』と言われるのを覚悟でいたのに、まさかの返答に私たちは固まった。

「ああ。というか行けない。」

「な、なんで…。だってお前、優勝したら絶対行くって…。」

 伊藤さんがそう言うと残念そうに五紀は言った。

「飛び級は認められないんだって。」

「え?飛び級?」

「うん。『入学は来年度生のみ、現在高校二年生の人は無効。』って書いてあった。自分で調べて翻訳したから間違いないだろ。英語の先生にも確認した。」

「そう、なんだ…。」

 ホッとしてそのまま椅子の背もたれにもたれかかった。

「よかったね、雪野さん。」

 そんな私を見て伊藤さんがそう言った。

「ったく、ハラハラさせやがって~。」

「うわ、陽太やめろ!」

 そう言って斎藤さんと五紀はじゃれあってる。何だかんだここに集まった人たちは心配してたんだ。

「五紀。」

「なんだ、ゆずり。」

 まだ、こんな日常が続くんだと思ってうれしい。

「大好き!」

 そう言うと五紀は照れたように笑った。

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