第5話~変わらぬ幸せ~

~ゆずりの思い~

 五紀と出会ったのは中一の春、入学式の日だっけ。保育園からほぼ繰り上がりで、ずっと同じ顔しかない教室に、いきなり来た都会っ子。そりゃ、人気者だよね。それとは裏腹に私はクラスでハブられてるほうで、教室で話すことはあまりなかった。

 あの日までは。

「あれ、こんなところで何してんの?」

 その日は私が住んでる地区の夏祭りだった。そこでいきなりほかの地区の五紀がいるからびっくりした。しかも、声かけられるなんて…。

「なんでって…。私、この地区に住んでるから…。」

「あ、そう言えばそうだったな。忘れてたわ。」

 う、さすがにひどい…。

「えっと、春野くんこそ、どうして?」

「うわ、苗字呼びって…。五紀でいいよ。俺はばーちゃん家に来てたんだよ。ほら、あそこの家。」

「あ、春野さん家の孫だったんだ。」

 って、あれ?春野さんって確か春に…。そう思って顔を見ると五紀くん(まだこの時は君付け)は少し寂しそうに笑った。

「ああ、春に亡くなった。看取るためにこっちに来たんだけど、来てすぐだったんだよ。まあ、親はもう引っ越す気ないみたいだけどな。」

「そう、なんだ…。」

 しまった、すごい気まずい!って思ってたのを今でも覚えてる。春野さんはすごく仲良くしてくれたおばあちゃんで、私も悲しかったな。

 というか、春野さん同い年の孫がいるなんて言ってなかったんだけど。その孫には私の事言ってたんだ…。

「なあ、ばーちゃんの事知ってるんだろ?話聞かせてくれよ。」

「…いいよ。」

 それから花火が始まるまで話した。そんなに長く男の子と話したのは久しぶりだった。

 それから五紀は教室でよく私と話してくれるようになって、いろんなことを話した。男子が苦手なこと、お互いの夢の話、時には勉強を教え合うこともあった。五紀のおかげで五紀の友達も話しかけてくれるようになって、クラスの男子は平気になっていった。

 そして、行動的な彼に私は次第に惹かれていった。でも、『釣り合うわけがない』って勝手に決めつけて、告白する勇気もなかった。そのうち中学を卒業して学校が離れると余計に思いが大きくなった。

 そんな時、五紀から呼び出された。それを見た途端、五紀に会えるってすごい嬉しかったんだよね。

 ただ学級当番の仕事が長引いっちゃって、ちょっと五紀を待たせちゃった。 

「ごめん、五紀。お待たせ。」

「いいよ、俺も今来たところ。」

「で、話って?」

 私がそう聞くと、五紀はしっかり私を見てくれた。けど、なんだか言いにくそうにすぐ、下を向いた。

 やがて、覚悟が決まったと言わんばかりに顔を上げた。

「俺…ずっと、ゆずりが好きだったんだ!!」

 それは予想もしてなかった言葉。だって五紀ならすごいモテると思ってたから。

「その、返事はいつでもいいから…。」

 そう言って立ち去ろうとする五紀のシャツを慌てて掴んだ。

「…ゆずり?」

 そう言った五紀の顔は真っ赤だった。きっと、私も同じ顔してるんだろうな、なんて思いながら、やっとの思いで声を出せた。

「私も、五紀が好き…。」

「・・・マジ!?」

 少しの沈黙の後の五紀の言葉に、こくんと頷くと思いっきり抱きしめられた。

「え?ちょ、五紀!?」

 その時、五紀の心臓の音と私の心臓の音が重なってたような気がした。

「良かった…、勇気出して良かった…。超怖かった…。」

 小声でそんなこと言われたら、なんだか恥ずかしくて私は五紀の胸に顔を押し当てた。五紀に見られたくなかったから。

「…もしかして、ゆずり泣いてる?」

「な、泣いてなんか…。」

 はい、ほんとは嬉しくて泣いてました。だから余計、顔を見られたくなかったんです…。

「マジかよ~。ほら、このままでいてやるから泣き止めよ。」

「…うん…。」

 そう言って、五紀はずっと抱きしめててくれた。

 それから、友達にはすぐにばれて冷やかされる事もあったけど幸せだった。

 ―なんて、今さらこんな事を思い出すのは、やっぱりかなりショックだったからかな?


 終業式の日、私は中学からの友達の楓くんと廊下で話し込んでた。

「五紀、海外のコンクールで最優秀賞取ったんだってな!」

「あ、楓くんも聞いた?すごいよね!私、通知書見せてもらっちゃった!」

「えー!マジかよ!どんなのだった?」

「ぜーんぶ英語で何が何だかさっぱり!でも、なんかすごいことは分かったよ!」

「おいおい…。」

 終業式も終わり、足早に帰って行く生徒たちを横目に、私たちは笑い合った。

「そうだ!今度皆でお祝いしない?呼べる人は呼んで、盛大に!」

「お、いいね!俺、声かけとくな!」

「お願い!」

 そうやって、携帯でお店を調べたりして一通りめぼしも付いて、誰を呼ぼうか悩んでいる時だった。

「でもさ、俺、調べたんだけど、あのコンクールの副賞、お前かなり辛いんじゃないの?愚痴くらい聞こうと思って声かけたんだけど。」

 楓くんはいきなりそう言った。しかも、かなり優しい声で。

「え?副賞って、何?」

 でも、私は副賞の存在を知らなかった。

「…え?お前、聞いてねーの?」

「う、うん、副賞があるなんて初めて知ったけど。」

「マジか!」

 あからさまに『やってしまった!』みたいな顔をされて不安になる。

「副賞って、何なの?」

 それでも、冷静な振りをして楓くんに聞いてみた。

「…海外の、有名映像大学への、招待状。」

「…っ!」

「それ持ってれば、入試なし、学費免除でその大学に入れるって言うやつ、だった。」

「そ、そう、なんだ…。」

 さすがに、冷静じゃいられなくなる。

「卒業したら、五紀、留学するのかな…?」

 私は楓くんに聞いてしまった。そんな事、五紀以外、誰も分かんないのに…。

「多分…。で、でも、行かない可能性だってあるじゃん!それに、心配しなくても五紀なら自分から話してくれるさ。」

「うん…。」

 そう言われても、心配だよ。怖いよ。

「そんな顔すんなよ!ほら、今日も一緒に帰るんだろ?笑ってなきゃ五紀、心配するぞ?」

「うん、そうだよね。今すぐってわけじゃないもんね。遠い未来より目先の問題、お祝いパーティの事考えなきゃね!」

「おう、そうだよ!」

 そう言っているうちに五紀から連絡が来た。

「あ、先生との話、終わったみたい。そろそろ私行かなきゃ!ってか、楓くんも彼女待たせてるんじゃ…。」

「あ、やべ!殺される!じゃ、ゆずり、夜にでもメールするな!」

「うん、よろしく、またね!」

「ああ、また!」

 そう言って、楓くんは走って行ってしまった。

 『落ち込んでる場合じゃない』それは自分のためにも、楓くんためにも、五紀のためにもそうだよね。

 きっと、五紀は自分でたくさん考えて、自分で決めた道を進む。その時には、絶対私に話してくれる。だから、それまでは何も聞かないし、何も言わないよ。

 それが、『支える』って事だといいな。


~はなびの思い~

 柳と出会ったのは、高校の入学式だった。ドキドキの中、隣に座って来たなんだかチャラそうで、ツンツンしてそうな見た目の男の子が柳だった。それが私たちの出会い。そのころから私は小さかったから隣の威圧感が強かったのを、今でも覚えてる。『よりによって、緊張してるときに何だこの人。同じクラスみたいだけど、仲良くできるかな…?』なんて思いながら、動揺してたのを今でも覚えてる。

 そんなことを思っていても、入学式は終わり、高校生活最初の1日が終わったところで、私は大切な『校章バッジ』がないことに気づいて探していた。

「これ、落ちてたよ。」

 後ろからそう声を掛けられて振り向くと、さっきの威圧感すごい人が笑顔で私の校章バッジを持っていた。

「あ、ありがとう!探してたの、見つかって良かった!」

「マジ?足元に落ちてたよ。気付かなかったの?」

 そう言いながら笑った顔を見て、胸がドキッとした。その時はまだ『気のせい』にしていた。

「え、ウソ!?気付かなかった!!ほんとありがとう!」

「いいよ、気にしないで。あ、それより、色々話してみたいから連絡先、交換しない?」

「うん、いいよ!!」

「やった!これ、俺の連絡先。よろしくね。」

 そう言って渡してくれた連絡先メモを、今でも大切に保管してる。

「ありがとう!」

「じゃあ、また連絡するから。」

「うん、よろしく!!」

 そうして学校を出て車に乗った瞬間疲れがドッと襲ってきて、家まで熟睡していて柳からの連絡に気づかなかった。家に帰ってから、めちゃくちゃ慌てて、あの時変な返信しちゃったんだよな~。うう~、今となってはすごく恥ずかしい…。

 それからというもの、柳とは学校やL〇NEで毎日話した。

 2年生になって、クラスが離れてもそれは続いて、私はこっそり柳のことが好きになっていた。でも、柳は格好いいから絶対彼女がいると思って、告白なんて出来なかった。

 そんな気持ちを抱えながら、気付けば2年生の研修旅行も目前に迫ったある日、帰りのHRが終わった後、L〇NEを送っても全然返信が帰ってこなかった。

そわそわしながら、スマホをいじってると急に通話がかかって来た。

「びっくりしたな~!なんで返信くれないの!?」

『悪い悪い、返信すんのめんどくてさ~。』

「ひっどー!」

 そんな話をしている時だった。

『あ、そんな事より、聞いて欲しい話があって…。』

「えー?なになに?」

『俺…はなびのことが好きだ。』

「は!?え!?」

 それを聞いた途端、私はプチパニックになった。どいうこと?

「そりゃ、驚くよな…。でも、こんな話てて楽しいの、お前だけなんだ。」

 いつもふざけてるくせに、すごい真剣な声で話してくれた。

「すごく嬉しい…!でも、私でいいの?」

「うん!ってかお前がいいからこうして話してるんだろ?それも分かんないのかよ、バカだなー!」

 そう言われると、ちょっと悔しいな~。

「うるさいなー!そんなこと言うなら付き合わないよ?」

「え?それはヤダ!!ごめんって、冗談だから!」

「よろしい!」

「で、付き合ってくれるの?」

 控えめにそう言われて、なんだか可愛いって思っちゃった。

「もちろんだよ!」

「やった!!」

 電話越しでも、すごく喜んでるのが分かった。

「よろしくな!」

「こちらこそ!!」

 こうして付き合うことになったんだよね。

 まあ、いろんな人に茶化されたんだけど…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る