第7話 煙草は嫌いなの

「パパ」、貴方の息子、感じいいわね。

勉強をね、とても頑張ってくれてるわよ。宿題出しても忘れたことがないの。


「パパ」の息子の家庭教師を始めたのは、偶然のことだった。

貴方に出会ったようにね。

それとも、偶然が重なることは「必然」なのかしら。

親子だわね。奥様にも似てるけれど、目元は貴方にソックリだわ。


「あっ。う・・・ん。」

私は「パパ」に自分の表情がわからないように、少しだけ目線と体をずらした。


息子は貴方にまぁまぁ似てる。貴方は私のパパに似てる。

面白すぎて・・・ふふふ・・・混乱してしまうわ。


気がつくと膝が立てられて「パパ」の身体が押しつけられていた。

彼の膨らんで温かいモノが私の体に接触し、それが大きくなっていくのを感じた。


「ん。もう、私・・・。」

「私?」

「はぁぁ・・・おかしくなりそうで。」

「おかしくなって。私の目を見て・・・そう、そう。」

「ダメよ、もう・・・あっ。」

冷静さを保てないようで彼の息づかいも荒くなっていく。彼は私の右腕をのばさせると、脇から胸に向ってキスをしてくる。秘所には彼のモノを挿入したまま。

脇に性感帯があったなんて。


「ね、もう私・・・ああぁ。」

「・・・終わるかい?」

「うぅん。あっ。も、もっと・・・。」

「そう。いい子だ。」

彼はゆっくりと、奥までとどかせるよう体を私の上で揺らす。額にわいてきた汗が私の胸に落ち、私は彼の体を両足で挟んだり膝を広げてみたり・・・

感じすぎて声も出ない位になり呼吸が苦しい。頭の中に光がついたり消されたりするよう。

彼も私も同時に昇ってしまった。


2人とも「はぁ、はぁ・・・。」と肩で息をするよう。

彼が私から体を離すと、横に仰向けになり「ふぅ。」と言いながら、私の方を見た。

「体は感じてるようだ。心はどう?」

「えっ?」

「心も感じてるのかな?」

「ど、どういう意味よ。」

「私の向こうに『誰か』を見ているような気がしてね。」

「貴方しか見てないわ。」

「好きってことかい?」

「あ、当たり前じゃない。」


・・・・・・・


パパ?

私の頭の中で蝉の鳴き声がこだまする。

メガネを外したら・・・起きてしまうから・・・パパは眠ってるでしょ、ダメ。


誰かを見てるって・・・いつからそう思っていたのかしら。

パパと「パパ」。

違うわ。違うわ、私。

ううん、わからない。

体だけじゃなくて心も・・・だなんて。何よ!

貴方だって、遊びのくせに。そうでしょう?


・・・・・・・


パパがいなくなった後、私は軽井沢に行くことも少なくなっていた。


あの日は10月というのに、山の紅葉も美しさもまだ初期段階で、パパと歩いた道では親しい知り合いに会うこともなしに、ただ、何人かの人達とは「こんにちは。」って挨拶を交わすだけだった。

パパは私が幼い頃に言っていたわね。

「軽井沢で、ここの山のエリアで知らない家の人から、お茶に誘われたら、遠慮なくご馳走になるんだよ。」

もっとも、その頃には既にそんな慣習もすたれていたようだったが。


1人で山道を散歩した後、玄関のドアは開いていた。

「ただいま。」と言っても、ママの返事はなくて。

下に居る気配がした。

私は音をたててはいけないような気がして静かに階段をおりると、ママはドレッサーに向って口紅を塗っていた。


「ああぁ。上手く塗れないわっ。」

そう言いながら拭いて、何度も繰り返す。唇から口紅の色がはみ出してるというのに。

私はそこを離れ、外に出るとつまづいて転んでしまった。

ママの笑い声が聞こえる。

私はドキドキして、胸の鼓動がおさまらず、暫く動くことが出来なかった。


怖いのに・・・ママがとても綺麗に見えていたから。


初めてかしら、あんな綺麗なママを見るのは?

昔、ママの細く途切れ途切れの声がして目が覚めたことがあったわ。

あれは・・・パパとsexしていたんでしょう。

愛人のような声の大きさや出し方じゃなくて、でも、生々しくて。

私、耳をふさいで少しだけ覗き見をしたのよ。


ママの白い脚が「くの字」に広げれて、間にパパがのっかっていた。

顎を浮ういていたり、パパが動くたびにママの顔が左右に動き、眉間に皺をよせている。

頬が紅潮して、いつもと違う女のママの声。

パパを脚で挟んだり広げたり体をうねらせたりして。

そうね、あの時も・・・綺麗だと思ったかもしれない。


・・・・・・・


好きかって・・・気まぐれのように私に近づいたくせに。

私が冷めてるから何度か逢ってるだけなくせに、何よ、「心も感じてるかい?」って。

「好きだから・・・つき合ってるんでしょ。」

「そう?」

「どうして、そんなこと言うの?」

「言ったろ、私の向こう側に誰かを見てる気がしてたんだ。」

「・・・。」


私が何も言わないでいると、「パパ」は苦笑しながらシャワーを浴びに行き、服を着て、「おやすみ」とだけ言って出て行った。

ムスクの香りを残して。


私はパジャマの上だけを着て、彼が残していった煙草に火をつけて煙をボーと見ていた。

ダメね。私、やっぱり・・・煙草の匂いは嫌いよ。

ブラインドの隙間から覗いてみたが「パパ」はいなかった。

そんなこと、とっくにわかっていたのに。



ねぇ、ユラユラ揺れてるでしょう?

煙じゃないわよ、違うわ。そうじゃなくて、私が、よ。

水に浮かんだlotus。

蛙さん、笑わないでよ。

それからお願い・・・アナタも向こうに行ってちょうだいな。

どうしてかって?

”It is none of your business ! ” アナタには関係ないの。


Just leave me alone...

静かに飛んでね,

金魚が気がつかないように。

私がまた揺れてしまわうから。

そっと飛んでくれたらね、そうね、何かご褒美あげるわ。

いいわ、約束よ。


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