第7話 ひきこもりの休日 そのいちっ!
「というわけで、明日はおでかけしましょうー、おー」
「はい。質問です」
「なにかね?」
「意味がよくわかりません」
姉をベッドで泣かせた(この言い方、なんかアレだな。)日の、次の日の夜。すなわち土曜日の夜。
自室で読書をしていた弟のもとへ、ノックもなしに突入してこれである。毎度毎度唐突に物事を提案しては、弟を困惑させる。
「言葉の通りよ。明日、アンタ、私、一緒に、お出かけ」
「いや何で片言なんだよ。・・・・・・んで、どこ行くの?」
なんだかんだで姉の提案を断らない弟。この家で一番姉に甘いのは、間違いなく弟がろう。
「でっかい本屋」
「おう、今のだけでどこに行くのか分かってしまった」
姉弟が『でっかい本屋』と呼んでいる書店は、日本でもトップクラスの大きさの書店で、最寄りの駅から急行で二十分、そこから徒歩で約七分と、休日のお出かけには最適の場所に位置している。
中学のときからこの書店を利用し始め、今やすっかり常連である。
「ほーん、いいじゃん、朝から行こうぜ。そのほうが時間たっぷり使えるし」
「それはいいけど・・・」
黙り込み、何か変なものを見るような目で弟を見る姉。弟はわけがわからず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「今の『ほーん』は『本』にかかってる?もしかして。うわさっぶ。」
弟のベッドに入り込み、暖をとりだす。掛け布団から顔を半分だけのぞかせ、オヤジになってしまった弟を観察する。
弟は、いつもと変わらない。
「その目をやめろっ。別にかかってない、たまたまだ」
「ま、どうでもいいけど。そんじゃ明日、九時に駅集合ね」
「はい?家から一緒に行けばいいだろ。何でわざわざそんなメンドイことを」
「はぁーーーーーーーーあ。これだからアンタはもてないのよ」
幸せが夜逃げしてしまいそうなため息をつき、余計なお世話極まりないセリフを口にしだす。
思い出せ、ひきこもり。お前の弟にもモテ期はあったぞ。
幼稚園の時だけど。ちなみに、最後にバレンタインのチョコをもらったのは年長さんのときだったりする。
「実際その通りだけど、やかましい。・・・もう一度聞くけど、なにゆえそのようなことを?」
「男と女、それがたとえ姉弟であっても、二人きりで出かけるとあらばそれはもう立派なデートよ。デートといえば、九時に駅前集合が鉄板でしょ」
ベッドをギシギシならし、唾を飛ばし、おおげさな身振り手振りで力説する。ちょっと今日のひきこもりはどうかしているようだ。何かあったのだろうか。頭のネジのぶっとび具合はいつも通りなのだが。
「偏ってるどころじゃないぞ、その意見。午後からデートするカップルも普通にいると思うけど・・・」
「はあ?なにそのバカップル」
「いや、バカップルの使いどころ違う」
本当に今日のひきこもりはテンションが高い。高いうえにめんどくさい。酔っ払いを相手にするのって、もしかしてこんな感じなのだろうか。
「まあなんでもいいわ。明日に備えてもう寝る。おやすみ~」
「・・・・・・おやすむのはいいんだけど、そこ俺のベッド」
「そうね。おやすみ~」
「あ、もしもし俺だけど。明日ヒマ?カラオケでも行か「じゃあ私は自分の部屋に戻るわね!自分の部屋に!おやすみっ」
騒々しい姉が去り、弟一人しかいない部屋は何かが足りない。その『何か』は喧噪なのか、はたまた姉なのか、それとも全く別の何かか・・・。
もったいぶってみたが、弟の中で答はすでに出ている。
「あのクソ姉貴!おいっ!!俺の枕かえせ!!!」
騒々しいのは、お互い様のようだ。
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