第824話 『ピアノ協奏曲ヘ短調』 ラロ
ラロ先生(1823~1892 )は、『スペイン交響曲』(事実上は、ヴァイオリン協奏曲)一曲で、永く後世に残る資格を得てしまっていて、そこになにか付け足す理由があるのかしら、みたいな雰囲気があります。
それは、ご本人には、たぶん、本意ではないでしょう。
歌劇『イスの王様』は、わりに部分的に、名前は出てきますが、全曲聞いたことはありません。
『ピアノ協奏曲』は、1889年に初演とのことですから、ラロ先生晩年の作品。
しかし、人生晩年のはかなさとか、もののあわれさ、とか、そうした雰囲気は感じさせません。
と言っても、軽い作品でもありません。
3楽章形式なのは伝統的な協奏曲のスタイルですが、これが、なかなか、個性的な構造になっているようで、全体がある種の変奏曲みたいな感じもありますが、はっきり、そうだと言える感じでもありません。
なかなか、これは、噛みごたえがあります。
第1楽章冒頭の主題が出てくる前が、つまり、序奏部分ですが、なかなか、じゅわじゅわなんですが、じゅわじゅわになりきらないところが、なんだか、じらされてる感じもします。
前半は、比較的ゆったりとした雰囲気ですが、途中から、ピアノと管弦楽の掛け合いが、たいへん面白くなり、最後は、びし、と決めます。
ときどき、なんだか、スペイン風なパッセージが聞こえるのが、さすが、フランス生まれ、フランス育ちではありますが、スペインの血をひくラロ先生。
自然に、出てくるんでしょう。
第2楽章は、『幻想曲』と、レコードの解説にも書いてありますが、つかみどころがないところが、まさに、幻想曲なんだと思います。
第3楽章も、ソナタ形式とされていますが、
ことさら、そこに重きが置かれているような感じはしません。
全体を、主題的に変奏曲風な要素をからめながら、統一してゆくのは、例えば、ノルウェーの、クリスチャン・シンディング先生が書いたピアノ協奏曲変ニ長調がありますが、シンディング先生は、かなり、あさらさまに分かりやすいけれど、ラロ先生は、フランス風なのかどうかわからないですが、フランスの作曲家さま得意の『循環形式』と言われる形に、伝統的な協奏曲の要素をひとさじ入れて、さらに、独自の秘伝のたれで、味付けしたような感じです。
サン=サーンス先生の第4番や、第5番とも、あまり、似ているわけでもありません。
つまり、表現しにくいのですが、ここからここまでが、なに!
という、割り切り方が、ちょっとしにくい気がいたしますが、それは、アホのやましんだからかもしれません。
いずれ、なかなか、こちらから近づいてゆかないと、聞く機会が少ない作品です。
やましんの手元にあるのは、VOX原盤の国内盤LPレコードと、比較的最近でた、同じ音源の、ブリリアントのCD(ただし、これは、CD20枚組の、わりと珍しいピアノ協奏曲がてんこもりになってるもの。)
ピアノは、マリレーヌ・ドッスさま。
このかたには、サン=サーンス先生のピアノ協奏曲全集があるそうです。(これも、録音はVOX。)
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