第61話 『交響曲第1番』 シベリウス

 と、いうわけでございまして、シベ先生最初の交響曲であります。(『クレルヴォ』は、ちょっと外しております。念のため。)


 言うまでもなく(と、あえて言うのはおかしいですが・・・)19世紀の最後を飾る傑作交響曲のひとつである。と、まあ言って良いのだと思います。


 交響曲の伝統がほとんどなかったフィンランドで、突如、こうした傑作が現れたのは、かなりショッキングなことで、中央ヨーロッパで、なかなかシベ先生が受け入れられなかった要因のひとつには、そうした裏事情があったとも考えられます。


 どちらかと言うと、人気作『第2交響曲』の先駆け、という感じで見られていた側面もあろうかとは思いますが、どうしてどうして、まったく違う個性を持った兄妹作品(親は同じシベ先生ですからね。)と思った方が良いと思うのです。


 確かに、民族の独自性という観点からしたら、この『第1交響曲』の方が、よりナショナリズム的要素が強いと言う事は、言えそうですが、しかし、そこはシベ先生の事で、目標は世界に通ずる音楽であって、狭い枠に閉じこもる考えはないと、見るべきでしょう。


 と、いいますのも、出世作『クレルヴォ』は、民族叙事詩『カレワラ』の中でも人気のある、『クレルヴォの悲劇』のくだりに直接歌詞を求めていたのですが、この行き方について、初演後、自ら否定して、その演奏自体を、第3楽章を除いては、生涯禁止していた事から言っても、すでに『第1交響曲』の意図は、ナショナリズム・オンリーではなかったと見て良いと思うのです。


 もちろん、大変フィンランド的な音楽ですし、ロシア製の交響曲の影響も強いと見る識者の方も多いようですが、これは地理的にも政治的にも音楽的にも影響が強い土地柄であり、しかし交響曲という性格上も(表題音楽ではないので)シベ先生の場合は、あまりそこに重要な意図をあえて見る必要はない(まあ、勝手な想像ですが・・)ようには思います。見て悪い事は、ないですけれど。

 

 まあ、第4楽章には、何とな~く、ロシア的なパッセージも出てきますし。


 しかし、行き詰まると言うのですが、ここは『うつうつ』でございまして、やましんの悩める魂を、慰めてくれる音楽である、と言うことが、まず重要なのです。


 そうした意味で言えば、たとえば、『第1楽章』の、第2主題が素晴らしいです。


 なんだかんだ言っても、シベ先生の旋律を創る才能は素晴らしいもので、ここもまた、実に心に染み入る名旋律です。


 このあたりは、ミエルクさまは、前項のように若死にしたので、もうどうにも仕方がないとしても、シベ先生の最有力な先輩のカヤヌスさまでさえも、ちょっと対抗しにくかった点のようです。


 玄人筋はともかく、やはり一般の多くの音楽愛好家にとっては、この『分かりやすい、よい旋律を作り出す才能』というものは、かけがえのない、愛しどころなのだと思います。(最近は、ラップもいくらかはそうですが、ちょっと人の感覚に変化がみられるのです。《ラップ自体、決して新しい物でもない、というご意見もありますが・・・確かに、いささか先祖返りしているような風情はありますよね。19世紀中心に創られてきた、ホモフォニー・・・旋律を和声で支える音楽・・・ではなく、またさらにその前のポリフォニー・・・各声部が平等に平行に動く多声音楽でもなく、さらにその前の単旋律音楽のさらに前からすでにあったであろう、リズムだけの音楽に、なにかむしろ近いような。実際には、誰も聞いたことないぞ・・・》現在お若い方は、こうした原始的ともいえそうな、リズム中心の激しい音楽を聞くと、精神的に興奮するよりは、むしろ安定する傾向がみられる、と、音楽の専門家の方から聞いたことがあります。やましんは、この種の大きな音を聞くと、崩壊しそうになるので、すぐ逃げますけれど。しかし、これは先祖返りではなくて、むしろ、未来志向であるのかもしれません。)


 そこにおいて、シベ先生が抜きんでていたことは間違いのないところです。


 『第4楽章』も、そうです。


 『第2交響曲』と、確かに形式的には似ているように、『第2主題』がフィナーレを盛り上げるのですが、どうも、『第1交響曲』のほうが、音は少し薄いけれど、より内面性が強い感じがします。


 ”じゅわじゅわ”っと、魂に迫って来るのですね。


 もう、まるで自動的に、涙がアニメのように浮き上がるのです。はい。


 そうそう、やましんは、戦争シーンのない、人が死なない、でも、ちょっとシュールなアニメが好きです。

 


 

 

 


 




 


 


 




 

 

 

 

 





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