第6話  ベートーヴェン:ピアノソナタ第7番・第27番

 ベートーヴェン先生のピアノソナタは、ピアノ音楽の歴史上で「新約聖書」に喩えられております。(旧約聖書は、大バッハ先生の平均律クラヴィーア曲集)


 しかしながら、「うつうつ」では、あまり辞書的なことがらには興味がございませんので、あくまで、やましんが、「ううん、癒されたなあ」、と思ってる作品のご紹介というスタンスでございます。


       🎹


 ベートーヴェン先生は、「第五交響曲」に代表される、「音楽=論理」の完璧性を徹底的に追求した音楽や、「第九交響曲」のように、ほぼ瀕死の精神状態の人間を、お尻を鉄パイプでぶん殴っても、この世に生かしてしまうような(比喩です!)強制的な音楽が、印象的には強いかと思います。


 しかし、反面、ものすごくロマンティックで、包容力がとてつもなく広く、また時に感傷的でさえある音楽も、得意でありました。


 ものすごく、多面的な方なのです。


 そこで、「うつうつ」気分が、もう最高状態の時に、「第九交響曲」を聞きますと、確かに「ううん、やはりこれはすごいなあ!」とは思うものの、反動がまた、大きく作用する可能性があります。(余計落ち込む)


 「熱情ソナタ」とか「ワルトシュタイン・ソナタ」なども、その危険性があります。「第五交響曲」は、その完璧な論理性の為に、激情的である必要性はなく、淡々と演奏し、聞くことも可能な音楽ですから、演奏によっては、必ずしも悪くはありません(個人の感想です!)


 ピアノソナタに関しては、第7番、第27番など(8番の悲愴ソナタは、けっこうべー先生的に激情的・・・)には、これはもうロマン派の音楽でしょう、といってもいいくらの、静かなロマンがあふれております。


 第7番の第3楽章は、曲全体の「オアシス」的なところですが、規模は小さいものの、いやあ、これが、いいのであります。第2楽章が、少し、つらいところのある音楽なだけに、ぱっと、目に前に小さなお花畑が広がるような印象です。その小さなお花が、なにかこっそり、ひっそりと話しかけてくれているような、そんな音楽なのです。


 第1楽章の冒頭は、いかにもベートヴェン先生!という理論的な音型ですが、すぐに「おわ、なんでしょう、これは♡」という可憐な旋律が出てまいります。


 第27番のソナタは、後期のべートーヴェン先生の境地を見せていただける傑作でありましょうけれども、2楽章形式になっていることが、まず興味深いです。最後のソナタがまたそうなのですが、これは昔、トーマス・マンさんが、その小説の中で、「何で2楽章なの?」と、問いかけていたような気がします。(うろ覚えであります)

            ⁉️   

      

 まあ、しかし、それは「うつうつ」ではパスするといたしまして、この第27番のソナタは、本当に、疲れた心に効きます。(あくまで個人の感想です!念のため。)

 第1楽章は、基本的に、とても美しいけれど、「愁い」の感情が支配的です。そこには、ある種の「後悔」や「懺悔」「怒り」の要素が織り込まれているように思います。



 その愁うる人間の心を、「強制的に」ではなく、「自然」に解きほぐしてゆくのが、第2楽章なのです。ベートーヴェン先生は、「第九」交響曲では、ある種「強制的」な、人類の「愛」や「連帯」を力強く歌い上げましたが、一方では、「そうではない解決方法」を示しているのだ。と、ぼくは思います。

 

 なにしろ、もう、たくさんの歴史的名演奏の録音があり、べー先生のピアノソナタを録音するというのは、ピアニストの方にとっては、相当な勇気と決断が必要なのでしょうけれど、聞き手にとっては、それだけ無数の提案と回答が出てきているわけです。何かと理屈っぽいイメージのベートーヴェン先生ですが、この2曲など、悲愴ソナタや、熱情ソナタ、月光ソナタなどのような人気曲ではありませんけれど、やはりぼくに、この世に命をつなげさせてくれている、ありがたーい、音楽なのであります。


          🎇



・・・・・・・うつ  🌖 ✴️ うつ ・・・・・・・・・・・・・・

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