第5話  ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」

 日本の童謡でも、雨に関する歌なら、すぐにふたつくらいは思い浮かぶのではないかと思います。

         ☔


 ブラームスさんは、ヴァイオリン・ソナタを、第1番から第3番まで、みっつ書いていらっしゃいますが(他にF.A.E.ソナタという、ちょっと変わった曲が、もうひとつあるのですが、ここでは省略)、ぼくは、もう少し(かなり)若いころから、第1番が、大好きでございました。


 この曲は、ブラームスさんが、ご自分の歌曲のメロディーを取り入れた関係で「雨の歌」と呼ばれております。


 ぼくが大好きなのには理由がありまして、大変お気に入りの演奏のCDが、ひとつあって、その影響がかなり大きいのです。


 アーロン・ローザンドさんが録音なさったCDです。

 社会の中で、様々な事情で疲れ切ってしまった人たちを、なんだか、いっしょうけんめい、慰めてくださるような気がする演奏だったからです。


 比較的、細めの音で、過激な音は出さず、表情も見た目はとても穏やかなのですが、じっくり聞いていると、ずいぶんいろんなことを、やっていらっしゃるのです。軽いポルタメントを、気が付かないくらいに、ふっと入れてあったり、音のつながり方が、とても繊細に作り上げられています。

         🤒


 体調ががたがたになる前は、なんとなくそうしたことが聞き取れていたのでしょう。いつも、うっすらとですが、涙を出しながら聞いておりました。


 ところが、精神状態が最低状態だった間は、この演奏が、なんだかさっぱり面白く感じられずにいました。


 これは不思議な事ですが、かぜをひいて熱が出たりしていますと、大好きな美味しいご飯を食べても、さっぱり美味しく感じられないことがあるかと思いますが、たぶんそんな感じで、聞いていても、ぼくの感覚自体が、この繊細な演奏を、うまく感じ取れないという状況だったのでしょう。


 でも、このところは、逆に、「ああ、そんなこともしてたのかあ」、とか以前よりも、よく聞こえるようになった気がします。

                👂


 でも聴覚的には、これは明らかに間違いで、このところ、耳の老化現象の為に、高い音が聞こえにくくなってきているのは明らかです。

 それでも、なんとなく以前よりも、いろんな音楽が、心に沁み込んでくるような感じがしてきているのです。単なる妄想かもしれませんが、病気が薬になったのかもしれないのです。

 そういうふうに、肯定的に考えると、まあ、悪い気はしないですよね。


 モーツアルトさんを聞いても、そんな気がしています。

 まあ、気がしているだけならば、他人様にご迷惑も掛からないので、よいことだろうと思います。


 それはともかくも、この曲を聞いても、ブラームス先生は、晩年の写真から想像するよりも、はるかに繊細な方だったのだろうな、と思います。

 

 ところで、音楽家のドイツ三大B、というと、一般的にはどなたでしょうか?

 これは、J,S,バッハさん、L.V.ベートヴェンさん、そうして、このJ.ブラームスさんですね。

 このうち、前の二人には、まだ社会の技術が追い付いていなくて、録音というものがないのですが、ブラームスさんだけは、ぎりぎり間に合ったのです。


 そこで、エジソンさんの円筒型蓄音機による、ブラームスさんの録音と言われるものが、ひとつだけ残っています。


 まずどなたかの声がちょっと入った後で、「エジソンさん、私はブラームスだ、ヨハネス・ブラームスだ」という声が入り、そのあと、なにやら、騒音が聞こえてきます。うむむ、なんだこりゃ? と思ってよく聞くと、これはピアノの音で、その音楽は、ブラームスさんのハンガリー舞曲の第1番なのです。


 つまりこれは、地球上にただ一つ残された、ブラームスさんの肉声と、ピアノ演奏の録音というわけです。声の方は、まだ聞き取れるのですが、音楽は、すさまじい騒音の中から聞こえてくるピアノの音なので、演奏がどうのこうのとかいうものではありませんが、まず、人類の宝物と言ってよいものです。


         ⏳


 もし、タイムマシンとか、他所の世界を経由するとか、とにかく何かの方法で、過去に行けるようになったらば(物理学者さんたちによれば、まだ未来にはゆける可能性があるが、過去に行くことは不可能、ということのようですが。)、大バッハさんやモーツアルトさんや、ベートーヴェンさんなどの演奏録音を行う、一大プロジェクトを敢行するべきです。そうしたら、音楽の演奏や解釈に、革命が起こる可能性だって、ないことはないと思いますね。まあ、莫大な費用も、きっとかかることでしょうけれどね。


 ・・・・うつ ☂️🌂☔ うつ・・・・・

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