タイムマシン、シェルター、博士(最初と最後が同じ文)
何度読んでも同じ。それなのに、このメールを俺は何度も何度も繰り返して読み続けている。その真意が分からないまま。
『先輩には失望しました。』
散々のろけ話を聞かされて、うんざりした気分で寝ようとしていたその時に送られてきた。
今日飲んだときに何かしたか?いや、でも、別れるときは普通だった。
どう考えても分からない。いっそ、タイムマシンでもあれば今日の俺の言動を確認するんだけれども……。
いや、そこまでする必要もないか。あいつに失望されたところで問題も大してないだろうし。よし、寝よう。
……
…………
………………
いや、気になる。寝れない。
電話をかけると、すぐに出た。
『何ですか、先輩?』
不機嫌そうな声。それに怯んでしまうが、さっきのメールの意味を問いただすと、
『先輩、心の中ではわたしのこと気持ち悪い、って思ってたんですよね?』
言っている意味が分からない。俺はそんなこと思ったことは一度もない。
『先輩の、昔の知り合いに聞いたんです。わたしみたいな同性愛者のこと、気持ち悪いって思ってるんですよね?だったら、そう言ってもらった方が何倍もましです!心の中ではそう思って、なのに、ああやって普通に接するなんて最低です!』
何となく、理解できた。これは完全な誤解だ。
確かに、以前はそう思っていた。俺ら、異性愛者とは全く別の人種、生き物だと思って嫌悪していた。
けれど、今は違う。
大学院の博士課程に進学した友人のお祝いで一緒に飲んだときのこと。彼は俺に告白をして来た。気持ち悪い、そう感じて彼とは疎遠になった。
元々、彼はシェルターの様な密閉された研究室でよく分からない研究をしていた。だから、俺とは別の人種、そう余計に感じてしまったのかもしれない。
俺とは違う考え方、価値観を持っていることは知っていた。そして、そんな彼だからこそ、俺らは仲良くなったはずだった。
そして、彼女が出ていってしばらくして街で偶然、会った。鏡を見ているように俺とそっくりだった。傷ついて、憔悴しきっていた。
そこで、俺は気付いた。同性愛も異性愛も何も変わらないことに。俺と同じように恋愛で悩み、苦しみ、傷ついていることに。
それから俺は同性愛者だけではなく、性的な多様性を持つ人たちに対しての偏見がなくなった。
だから、俺はそのことを後輩へと伝えた。すると、自分の勘違いに気づいて、謝ってくれた。
それから他愛ない話をした後、電話を切った。
目が覚めてしまったら、冷蔵庫に入っていたビールを飲んで、寝ようとベッドに入った。その時、メールが届いた。
差出人は、宮本悠莉。彼女だ。恐る恐るメールを開いてみる。
『久しぶり。元気にしてるかな?久しぶりに話したいこともあるし、今度、会えないかな?』
何度読んでも同じ。それなのに、このメールを俺は何度も何度も繰り返して読み続けている。その真意が分からないまま。
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