根付、城、火消し
あれからしばらく経った休日。いきなり後輩から連絡が来た。
『先輩、今日、デートしましょうよ』
何言ってんだ、こいつ、と思って断ってはいたけれど、その後もしつこいから、俺が折れてしまった。
指定された待ち合わせ場所。それは普段全く行かない駅で、降りてみるとすぐ近くに小さいながらも城があった。こんなところにもあるんだ、と思っていたら、
「先輩、お待たせしました」
と、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、明らかに手を抜いた服装の、絶対にデートとは思ってはいないだろう後輩がいた。
「それで、今日は何で俺を呼び出したわけ?」
「え?言ったじゃないですか、デートって」
「男には興味ないのに?」
そう言った瞬間、二人の間に沈黙が流れた。その沈黙を破ることなく、俺は手を取られ、そのまま連行されるように移動し始めた。
無言のまま、しばらく歩いていると、急に足を止めた。そこは、さっき見つけた城だった。そして、
『カップル記念、コスプレ撮影会』
そんなことが書いてある看板が目に入った。
「これが、目的?」
「……あぁ、やっぱ、バレました?」
そんなことを言いながらも、さっさと受付を済ませてしまった。
「さ、先輩は向こうで着替えてきてくださいね」
それだけ言って立ち去ってしまった。俺は言われるままに更衣室へ向かった。そして、用意されていた服へと着替えた。
外へ出ると、周りには同様にコスプレをしている人たちがいた。そんな中でも俺は浮いているような気がした。何で、俺はこんな、火消しの格好なんだろう。他のやつらは……。
そんな状況で待っていると、町娘に扮した後輩がやって来た。
「ははは、先輩のその格好、本当、ウケます」
俺の姿を見た瞬間、腹を抱えて笑い出したから、イラッとしてとっとと写真を撮影をしてもらった。
そして、それだけで、その後何をするわけでもなく、駅まで戻り、別れた。
「先輩、今日はありがとうございました。おかげで彼女へのプレゼントも無事、手に入れることができました」
そして、別れ際のその言葉。それで全てを悟った。このイベントの参加記念の根付、それを彼女にプレゼントしたいがために俺を誘っただけだと。
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