鉈、病院、逃(七五調を使う)

 結局俺は、本人かどうかを訊くこと、できないで、一人家に辿り着き、ベッドへ倒れ、彼女との思い出寂しく振り返る。



 大学で同じサークルだった彼女。俺は彼女に何度も何度もアタックをした。けれども、いい返事は全くもらえなかった。そして、いつの頃からか、彼女は俺から逃げるようになっていた。

 それも仕方ないことだと今なら思う。あのときの俺はストーカーの一歩手前だったから。

 その事に気づいた訳じゃない。ただ、彼女の笑顔が見られなくなることに耐えられなかった。ただそれだけで、俺は彼女を諦めようと決意した。

 けれど、その数週間後、彼女から突然食事に誘われた。そして、その日、俺たちは付き合うことになった。

 どうしてそうなったのかは今でも分からない。けれど、その日から俺の生活は彼女中心になった。


 二度目の夏。初めて泊まりで旅行に行った。

 一年以上経って初めて身体を重ねた。そういうチャンスがなかったわけではないけれど、何故か、ずっとプラトニックな恋愛を続けていた。

 あの時の恥ずかしそうな表情、俺が触れる度にこぼれ落ちる吐息、彼女の温もり。全て、覚えている。

 そして、その翌日、現地ガイドと一緒に秘境と呼ばれる山奥へ行った。

 そのガイドはまさに山賊のようだった。腰には鉈、顎には無精髭、魅せるためではない、実用的な筋肉。あまりにもそのものすぎて、俺は彼女を守ろうと必死だった。

 けれど、秘境に着いて、ようやく二人きりになったとき、


「今日の和くん、空回りしててすっごいおかしかった」


 と、言われたとき、恥ずかしくなった。けれど、


「でも、かっこよかったよ」


 なんて言われて、すごい嬉しかったのを覚えている。

 彼女は俺が表情をコロコロ変えるのを面白がっていたけれど。



 そして、俺たちが半同棲をするようになったきっかけ。

 大学からの帰り道、俺は交通事故にあって、入院した。

 病気らしい病気も、大怪我も運よく今までしてこなかったから、病院とは無縁だった。だから、だろうか。無機質な病室は俺をすごい孤独感を味わっていた。

 けれども、それも初日だけだった。二日目以降、彼女は毎日俺の病室に見舞いに来た。それは退院の日まで続いた。そして、それはその後も続いて、半同棲生活が始まった。



 どれだけ過去を、思っても、彼女がレズとは思えない。ならばどうして彼女らは、付き合っていると言うのだろう。それとも俺の気のせいか。他人の空似と思いたい。そうすりゃきっと傷つかず、綺麗な思い出、色褪せない。

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