ボタン、山、新人(複数の使い方で)

「先輩、誰か可愛い人紹介してくださいよ」


 仕事帰り、何故か新人の後輩と二人で飲むことになった。そして、乾杯したあとの第一声がこれだった。


「紹介って、俺が、お前に?」


「そうですよ。もう、たてば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、って感じの」


「それ、可愛いじゃなくて、美人の形容だからな?」


「あれ?そうでした?そんな細かいことはどっちでもよくて、とにかく、紹介してください」


 その後も適当にあしらっていても何度も言ってくる。

 中途採用で、一番忙しい時期に入社してきて、それも今日までだった。仕事の山も越え、明日からはもう少し落ち着く予定。だから、なのかもしれない。こうして気が緩んでしまっているのは、俺もこいつも。


「あ、先輩、コートのボタン、取れてますよ 」


 突然、そんなことを言うと、バッグから裁縫道具を取り出し、手際よく縫い始めた。そして、あっという間に完璧に仕上げた。


「じゃ、付けてあげたお返しに紹介してください」


「それとこれとは話は別。でも、ま、ありがとな」


 しつこく言ってくるのを適当にかわし、でも、お礼だけはしっかりと伝えた。

 それにしても、こいつにこんな趣味があるだなんて誰が想像できるんだろう。

 毎日、自分で作ってきているらしい弁当。それもかなり手が込んでいる。そして、今初めて知ったことだけれど、裁縫もうまい。来ているスーツも毎日ビシッとアイロンがかけられていて、皺一つない。これも自分でやっているとしたら、かなりの女子力の高さだ。

 さらに、その容姿。濡れ羽色の髪、と形容するにふさわしい綺麗な髪。顔は……まぁ、中の上くらいだけれど、スタイルがかなりいい。山のように自らの存在感を主張している胸。けれども、ウエストはきゅっと締まっている。

 同僚も何人かは狙っている、そんな話を聞いたことがある。それなのに、なんでこいつは……。


「どうしました、先輩?」


「いや、お前が男を紹介してくれ、って言うなら紹介したんだけどな。でも、女に女を紹介する意味が分からん、って思ってな……」


 そう言った瞬間、落胆したように感じた。いや、きっと、気のせいだろう。

 にしても、本当、もったいない。恋愛対象が男だったら、選び放題だったろうに。

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