蝋、塔、酔い(同音異義名詞も)

 家に着いて、何となく冷蔵庫から缶ビールを取り出した。帰り道に不意に彼女のことを思い出したからだろうか。分からない。けれども、無性に飲みたくなった。

 よいの時間は過ぎ、夜も更けた時間。一人で飲んでいるとどうしてだろう、人恋しくなってくる。ふと、横を見ると、彼女が置いていったとうの籠が目に入った。

 思えば、彼女が出ていってから俺の体はろうで固められたように重くなった。俺は、彼女と言う名のろうに閉じ込められているのかもしれない。

 思えば、今日だけではない。ふとした瞬間に彼女を思い出すのはよくあることだった。

 俺は今でも愛している、もしもう一度会うことができたら、ただ、そう言いたい。

 もし、彼女がとうにとらわれているなら、すぐに救いに行くのに。けれど、彼女は自分の意思で出ていった。だから、おれには……。

 ダメだ。何か、今日は酔いよいが早い。センチメンタルになってしまっている。とっとと風呂に入って寝よう。

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