そろばん、コインパーキング、帽子

 突然の強風に帽子が飛ばされてしまった。最近買ったお気に入りの帽子だから、変なところに落ちて、汚れていないといいな、そんなことを考えていた。

 飛んでいった先を探してみると、帽子は地面には落ちず、木に引っ掛かっていた。そして、その木は一軒の民家の庭に生えているものだった。

 家の人、優しい人だといいな、そう思いながらチャイムを鳴らすと出てきたのは優しそうな老人だった。事情を説明すると、庭へと入れてくれた。そればかりか、家の中へと案内され、お茶までごちそうになってしまった。

 そこでご老人がお話になったことはわたしを切なくさせた。


「久しぶりのお客さんで嬉しいよ。息子も全然会いに来てはくれんし。それどころか、この家を売って、コインパーキングにしろ、だなんて言ってきてねぇ。あの子が小さいときはそろばん教室をやっててねぇ、子供たちの溜まり場になっとったんだよ。それなのに最近は……。最近の子供はそろばんなんてやらないもんなのかねぇ……」

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